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私は異世界で百合の花園(ハーレム)を創ることにした。  作者: 虹蓮華
第1章「異世界生活を始めよう」
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本編1-19「クスハ、内見の予定を取り付ける」

 この前、エマちゃんが朝食用に紹介しようとしていたお店に行って見ようという話になり、そこまで来た道を引き返す。


 幸いと言うか、そのお店は既に営業していた。

 開店したばかりなのか、誰も居ない店内へと入ると、外が一番見易い出入り口横の席に腰を落ち着ける。


 通りを挿んだ対岸にも飲食店があったが、そちらは見る限りかなり雑多だ。

 こちらは、小さな個人経営の喫茶店、の表現が思い浮かぶ。

 注文を取りに来たお婆さんといい、対面席の向こうで調理をするお爺さんといい、何でこう、郷愁心を煽る要素満載なのか……。


 一人二人と現われたお客も女性ばかりで、大小差はあれど、みんな表情に余裕がある。

 お勧めを訊いて頼んだ朝食は、どれも期待通りの上品な味で、予期せぬ優雅なひと時を過ごしてしまった。


 余りにも居心地が良すぎて、何杯目かのお茶を注文した頃、だいぶ外が騒がしくなってきたのに気付く。

 何時の間にか、路上に写る影は等身大の長さになっていた。


 必要以上に長居してしまったので、届いた一杯を味わって飲み干すと、本来の目的へと戻る事にした。


 今度はちゃんと扉が開いていた。よかったよかった。

 建物内は、役所の出張所らしく大して広くなく、訪れている人も私達以外居なかった。


 そんな施設の中の職員さんの一人に、エマちゃんが駆け寄って声を掛ける。


「おじさん、おはようございます!」


 元気良い声に呼ばれた男性は、


「おお、エマちゃんじゃないか。おはよう。こんな所に来るなんて珍しいじゃないか。アイツから何か伝言でも預かって来たのかい?」


「ううん。そうじゃなくて、今日はおじさんにお願いがあって来ました。クスハさん達に、お家を案内して欲しいんです」


 両手を使った大きな身振りで紹介されてしまう私達。

 エマちゃんの横から身を乗り出すようにして、後ろを確認した男性は、


「ほう。君達が例の、アドルさんとエマちゃんを助けてくれたと云う、お二方ですか。その節はお世話になりました。私からもお礼を言わせて下さい。有難う御座います」


「いえ、当然の事をしたまでです。それで、家を買うか借りたいと考えているのですが……」


 一瞬、思案するような仕草をした後、


「買うのはともかく、借りるにせよ、どちらにしても領都では相応の金額が必要になる。失礼だが、君達には、その、定期的に支払える手立てがあるのかい?」


 ま、こんな年端も行かない美少女二人が相手では、気にして当然ではあるね。


「私達はこう見えても冒険者をやってまして、これでは不足でしょうか?」


 ワザと見え易い様に、机の上に冒険者証を置く。

 その色と星の数を確認した職員のおじさんは、


「トルプの冒険者証をお持ちとは失礼致しました。支払い能力については、問題御座いません」


 律儀にも、頭を下げられてしまった。


「それで、どの様な物件をお探しでしょうか?」


 商談が始まった。


「私達は余りこう云った事に詳しく無くて、逆にお聞きしたいのですが、どの様なのが有るんですか?」


「そうですね……。トルプの冒険者様ですと、宿屋を利用されるのが一般的では御座いますが、それでも、安定した居住を望まれる方も中にはいらっしゃいます。そうした方々が良く選ばれるのは、賃貸専用の長屋ですね。一軒家の貸し出し物件と比べ、半額以下で借りる事が可能です」


 話しながら、手元の引き出しから一枚の羊皮紙を取り出す。


 そこには、部屋の間取りが描いてあった。

 見取図だ。と言っても、その中にはキッチンも無ければお風呂も無い、玄関と窓とトイレだけが描かれた、実に鉄格子の向こ……簡素な物となっていた。


 広さは、凡そ【270×360】。要するに、六畳一間だ。

 食事は外で取る以外に無く、お風呂も外部の公衆浴場。


 まるで、月単位の定額制になった安宿のようだ。

 いや、実際その通りなのだろう。宿と違うのは、良くも悪くも全部自分持ちな点か。

 こっちの世界ではこれが当たり前なのかも知れないが、前生の生活をさも当然の様に享受していた身としては、余りにも受け入れ難いモノがあった。


 借~り~ま~……せん!


 一分も悩む隙無く却下なのだが、念のために金額を聞いて置く。


「すみません。この物件が、一般的と言いますか、普通なのでしょうか?」


「ええ、そうです。平均的な間取りの、賃貸長屋となります」


「因みに、月お幾らですか?」


「銀貨で5枚です」


 銀貨5枚かー。5万円なのかー。……無いな!


「となると、一軒家の場合、銀貨10枚位ですか?」


「一軒家となりますと、一気に条件が厳しくなります。賃貸向けの個宅は非常に数が少なく、最低であれば銀貨10枚程度で借りられるのですが、正直お勧めしません」


「それは?」


「立地が最悪なんです。領都は非常に治安が良い街ですが、それでも闇は存在します。お二方の前で口にするのは憚られるのですが……」


 数瞬の間を置き、


「色町の外れにあるんです。管理状態も非常に悪く、住むにしても相当な手入れが必要です」


 ですので……と、前置きを置いてから、


「現実的な範囲での物件となりますと、どんなに安くても金貨二枚は下りません。この金額を毎月支払われるのは、トルプの冒険者様ではかなりの御負担になるかと思われます。実際、借りられている方は全て、スクアの冒険者様となります」


 戸建は金貨2枚以上! 最低20万円は普通に考えたら無理だよね。


 最安値の間取りや立地も教えて貰ったところ、目の前に城壁が聳える街の端っこ。

 一階に一部屋と二階に一部屋の、民家の中でも一番小さい構造の住宅だった。


 これで金貨2枚なのだから、それ以上だと幾らになってしまうんだろうか。

 もういっそう、最後まで聞いてしまおう。


「一応、参考程度にお聞きしたいのですが、売りに出されている住宅もこう云った物件なのでしょうか? それと、若しこれと同じ位のを購入する場合、お幾らほど必要になったりしますか?」


 私の質問もある程度予想していたのか、「少々お待ち下さい」と言いつつも、無駄の無い動きで数枚の羊皮紙を別の引き出しから取り出す。


「販売物件に関しましては、数種類御座います。一階二階共に住居専用の物、二階が住居専用で一階が商店や工房として利用出来る物、完全に商用利用の物……こちらは今回は除外致しますが、先程の物件と同形の物で、最も安いので金貨……」


 そこで一旦説明が止まり、


「あ、そう云えばお聞きし忘れていた事が御座いました。失礼ですが、市民権はお持ちですか?」


 全く考えていなかった言葉が出て来た。


「いいえ、持ってません」と取り敢えず返事すると、


「そうですか。そうなりますと、購入金額にかなりの差が発生致します。最安値の物件で、市民権をお持ちで金貨250枚、市民権が無いと金貨500枚となります。この違いに付いては、納税の義務の有無とお考え下さい」


 これで、不動産の基礎知識編は終了だった。

 大抵の家だったら買えるけど、基本的に土地、たっかいな!


 でも、ま、仕方ないか。


「大体の事は理解出来ました。それで、賃貸か購入かを最終的に決める為に、これらの建物の外見や中身を見せて貰う事は可能でしょうか?」


「はい、問題ありません」


 出来るみたいだった。


「それは良かったです。でしたらもう一つ。急な話で申し訳無いのですが、なるべく早く見つけたいと思って居まして、今日この後、見に行く事は出来たりしますか?」


「今日これから、ですか……」


 今度は少し長めに考え込み、「少々お待ち下さい」と言い置いて奥へと向かう。


 待っている間、私達は机の上の羊皮紙を数枚手に取っては、ティアの家と比べて見劣りする物件の数々に好き放題に感想を言い合った。

 段々と熱が篭り始めたところで、エマちゃんの義伯父さんが戻ってきた。


「お待たせ致しました。本日の御案内であれば、陽が天頂を過ぎて以降でしたら少々可能です」


「急なお願いにも関わらず、無理を聞いて頂き有難う御座います。では、その頃になりましたらもう一度伺わせて頂きます」


「はい。お待ちしております」


 お互いに一礼しつつ挨拶を交わし、私達は、ええと……分りやすい名前を勝手に付けちゃえばいいか、公営不動産屋を後にした。


 外に出たところで、エマちゃんがずっと一緒だった事に気付く。

 お店を二時間分近くも放置してた彼女はバツが悪そうな表情を浮かべると、大げさにお辞儀してから慌てて手伝いに戻って行った。


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