終わりから始まる出会い
今日を持って俺、横路健太もついに高校生。親しい友人は専門学校に行ったり受験をしなかったりとそれぞれ別の方角へ進んだ。つまりこれから完全に0からのスタートだ。漫画のような高校生活に期待に胸を膨らませて入学式へ向かった。
入学式は本当に入学式だけで他に何もなかったため、ぼっちで電車で帰宅をする。今日は入学初日だしこんなもんさ……そう言い聞かせながら窓から外を眺める。
「健太くん、ちょっといいかしら?」
唐突に名前を呼ばれ振り返る。そこには俺と同じ制服を着た女子がいる。こいつは……
「誰だこいつって顔してるわね…。同じ中学校を卒業したのに……。」
「いや〜その〜……あ、お前も同じ高校なんだな!」
目の前にいる女子自体は知っている。ただ本名がわからない……。といのも皆彼女を「モブ子」と呼んでいたからだ。メガネとマスクをして教室の隅でずっと本を読んでいる。喋っている姿を見た人はいない、まるで漫画のモブのような存在だからそう呼ばれていた。俺も喋った記憶はないが……。
「自己紹介してあげるわ。私は美山千鶴。少し大切な話をしたいから何処かでお茶をしない?」
うんん!?こ れ は !ついに俺にも春がきたようだ!高校入学初日から彼女持ちのリア充の仲間入りだ!俺の未来は約束された!
「はい!喜んで!」
ん?こいつってこんな喋るのか?……まいっか!
「アイスカフェラテとオレンジジュースを1つずつお願いします。」
ドキドキしながら待ち続ける。さてさて……彼女は一体いつどんなふうに告白するのだろうか?恥じらいながら?大胆に?クールに?もしくは………
「単刀直入にいいかしら?」
「はい!」
「私は中学校を卒業してから高校入学までの期間に……」
「うん!……ん?」
「異世界転生をしたの。」
………は?何を言ってるんだこの女は?
「私はその世界で魔王を倒し平和を取り戻した。」
あーこいつあれか……ラノベ読みすぎて頭がぶっ壊れたやつか。
「そして魔王を倒した私は正真正銘最強の英雄になってこの世界に帰ってきた。」
「そうかそうか………。おっともうこんな時間!早くお家へ帰らないと!」
会話してちゃいけない。それに高校でこんなやつと絡んでいたら俺まで白い目で見られる。
「悪いけどお金置いとくから払っといてくれ!」
「ま、当たり前の反応ね。とりあえず今日の22:00に中学校の西門前に来てちょうだい。信じさせてあげるから。」
「それじゃ!」
全く……俺の高校生活は始まったばかりで詰みはじめてるのか?
家に帰ってゲームをしたりテレビを見たりしていたら以外とすんなり忘れられた。まぁ気にしても仕方ないし関わらないようにすればいいか。
「健ちゃ〜んお風呂湧いてるわよ〜?」
「うい」
さて、明日あの変人が絡んできたらどうしようか……無視するか……それともこれ以上関わらないでくださいって頼むか…。
「もういいや…。明日のことは明日考えよう。」
「いや今日考えろよ。」
…………え?声のした方を見ると窓から青い顔をした人のようなものがいた。
「………覗きだぁ!!!け、警察ゥ!!」
…………おかしい。叫んだのにおふくろが何の反応もしない。
「人を呼ぼうとしても無駄だ。防音の結界を張っている。」
「は?」
「まぁこい。」
「ちょちょちょちょっと待って!待ってください!せめてーぎゃぁぁぁぁ!!」
裸のまま空へ連れ去られる。……何故かお姫様抱っこで。
「やだ!降ろして!無理ほんと!ごめんなさい!」
「すこし黙ってろ。落とすぞ。」
「いやーーー!」
しばらく飛んだ後近くの山にある廃墟に連れ込まれる。
「ウゥ……誰なんですかあなた一体……なんのためにこんな……まさか俺に乱暴するつもりじゃ!?」
「するわけないだろ。」
「じゃあ服を返してください!お願いします!」
「持ってない。というかなんでそんな服を……あーそういう……。」
青い顔のやつが俺の股間を見ながら何かを納得したよう顔をする。
「確かにパンツはあったほうがいいな。」
「余計なお世話じゃい!!!」
この野郎バカにしやがって!というかパンツねえのかよ!
「はぁ……なんで一体こんな目に……。」
「なんだ?何も聞いてないのか?」
……聞いてない……?………思い当たることといえば………
「……異世界転生?」
「よかった。ちゃんと聞いていたのか。そうだ。あの女が魔王様を倒したことによってー」
「見つけたわよ。」
この声は……モブ子!頼みの綱のモブ子が来てくれた!喜びとともに振り返るとそこには……西洋の甲冑を着たフルフェイスの騎士がいた。
「えっと……」
「現れたか!魔王を倒せし者よ!」
「西門に来るように言ったでしょう?なんで無視したの?」
「それは……というかまずあなたはモブ……美山さんなんですか?」
その鎧騎士は少し呆れたように頭を下げると……鎧が一気に弾け飛んだ。そこには昼に電車で俺に話しかけたであろう女子がいた。
「くっ!俺を相手に鎧なんて不要というのか!なめるな!」
「ねぇなんで無視したの?」
「無視しないで!」
……どうやら答えないと話は進まないようだ……。言いたくはないけど……この現実を受け入れるしか……
「………頭おかしい奴に付き合ってられないって思いました………。」
「………それだけ?」
「………はい……。」
「そう……。」
モブ……美山さんは少し俯いてしまった。いくらなんでも正直に言いすぎたか?それとも怒っているんじゃ………?
「話は終わりましたか……?」
「あっ」
完全に忘れられてた青い顔の人が申し訳なさそうに聞いて来る。対する美山さんの反応も完全に忘れていたみたい……。
「えーでは、コホン。俺は魔王様の遺言を遂行するために派遣された手下!名前をそう!ベルフェー」
青い顔の人が自己紹介を始めたかと思うとー
「さよなら。」
「ギャァァ!!」
美山の手からビームが出て青い顔の人が跡形もなく消えた。あまりにも現実離れしたことに完全に思考が追いついていない。
「怪我はない……ってその姿なら傷がすぐわかるわね。」
「……キャッ!」
「ほら、服をあげる。」
美山がどこからともなく取り出したのは……もんぺとアロハシャツだった。
「パンツはないから許してちょうだい。」
「いやもんぺとシャツもどっから取り出したんだよ!?」
「あ、着替え終わったかしら?」
「はい…。」
アロハシャツにもんぺというわけのわからない服装になったがまぁ全裸よりはマシだ……。
「それじゃまず一番聞きたいことがあるのだけど……喫茶店での話信じてくれた?」
「はい…。」
信じるしかない。急に青い顔の人が現れて空飛んで連れ去られたら美山さんが手からビームだして助けてくれたなんてわけのわからないがとりあえず現実なのだろう。
「そう。じゃああなたが今おかれている状況を説明するわね。まず私が異世界転生をしたことを教えたから魔王の元手下があなたの命を狙っている。そしてー」
「おい待て!なんで俺が狙われている!?」
「………私が魔王を倒した時に魔王が、このこと誰かに教えたらそいつ絶対ぶっ殺すって遺言残したから元手下である悪魔たちがそれを実行しようとしてるの。」
「は?じゃなんで俺に教えた!?というかそれ誰にも言わなかったら平和だったんじゃねぇの!?」
「それは……やっぱり戦うのは楽しいから誰かに言いたくなって……それでもってあなたに言った理由は知り合いだから。」
「は?」
知り合いだから?何言ってんだこの女?
「赤の他人を巻き込むわけにはいかないし……かといって大事な人に教えて守れなかったら嫌だし……ということであなたを選んだわけ。」
「俺もほぼ赤の他人じゃないのか!?」
「…………………。」
「てか俺は四六時中その魔王の手下に狙われるわけか!?」
「…………………。」
「………おいっ!」
「えっ?あ、ああそうね。えーとなんの話だったかしら?」
「俺が四六時中その手下に狙われるのかってことだよ!」
「それについては心配ないわ。あなたが狙われるのは一貫して22:30頃よ。」
「え?その時間以外は安全なの?」
「ええ。」
「本当に?信用していいのか?」
「ええ。魔王の元手下たちの始業時間は22:30だから。」
「は?始業時間?いや待て。仮に始業時間でもそれを守らない奴が……。」
「魔王の手下だった奴らは魔王の命令逆らえないという概念があるの。だから安心して。22:00頃に毎日私に会いましょう?そうすれば今回と違って誘拐される前に守って上げられるから。」
つまり俺は夜の10時にこの女に会いに行って守らわなきゃいけないということか……。
「じゃ、この服はどっから出したんだ……?」
「空気中にある原子を再構成して生み出したのよ。」
「えあはい……。え?それならパンツ作れない?」
「明確なイメージがないとできないのよ。」
「イメージできないのか……。」
さて、ここまでの話を聞いててずっと不満に思ってたことを言ってやるか。
「お前なんでそんな偉そうなの?」
「私が真の英雄だからよ。」
「…………………………………。」
それ以上俺は何も言い返せなかった。
目覚めの朝。顔に光が差し込んだような感覚がして眼を覚ます。するとそこには……美山がいた。
「………………………。」
「あっ……えと……お、おはよう?」
「なんでここにいるんだ!!!???」
「ン、コホン。えと……この方があなたも安心するでしょう?」
「いや待て。お前夜以外は安全って言ってたよな?」
「…………言ったけど……ほ、ほら?な、何があるかわからないから……。そ、それよりも朝ごはんを早く食べて学校に…学校に…………学校へ行く準備をなさい?遅刻するわよ?」
「……色々言いたいことがあるがとりあえず部屋から出てけ……。」
美山は素直に出ていった。………俺の部屋にいることに驚いていたがそもそもなんておふくろはあんな眼鏡とマスクでほぼ顔隠れてるようなやつを家にあげたんだ?はぁ……………そういや寝れないだろうと思っていたがちゃんと寝ていたんだな。
制服に着替えて一階に降りる。降りると朝ごはんが用意されていた………何故か3人分。
「………なんで2人分あんだよ」
「あら健ちゃん起きたの?美山さんと一緒に早く済ませてちょうだい。」
「いただきます。」
「おい待て!いろいツッコミたいところがある!なんでまずー」
「もう私は行くから後片付けお願いしてもいいかしら?美山さん。」
「はい、任せてください。」
「俺の話を聞け!」
おふくろはそのまま俺を無視して仕事へ行ってしまった。
「………なんでお前何食わぬ顔で馴染んでんだよ…。」
「………あなたの母親に少し催眠術をかけたわ。」
「人の母親に何やってんだよ!」
「大丈夫。生活に何も影響はないわ。」
「すでに影響出てるだろ!」
結局俺が何をいっても意味のないまま登校するハメになった……。全くもって不愉快だが、夢じゃない限りこいつがそばにいた方が安全安心なのは事実だ。
電車を降りて学校まで歩く10分程度の時間。何もない。何もなさすぎる。2人で歩いているのにお互い何も喋らないまま歩くのは正直気まずい。美山も下を俯いたまま歩いている。仕方ない……こっちから話題を振るか……。
「昨日のアレ………あー事実なんだよな?」
「……ええ。」
「……………………………………。」
「……………………………………。」
……………ダメだ!こいつと喋らないし!というか女子と喋らないから何言えばいいかわかんね!何か…何かないか!こう!なんでもいい異世界転生のこととか!………転生?
「………なぁ?お前異世界転生したってことはさ…一度死んだの?」
「……………ええ。」
「……なんで死んだの?」
「……………………言わなきゃダメかしら?」
「い、いや!言いたくないなら別にいい……。」
いかん!これは聞いちゃいけないやつだった!余計に気まずい!
「………………………………………。」
「………………………………………。」
結局何も話せないまま学校へ到着してしまった……。昨日発表されたクラスだと俺はC組か……。まぁ教室にいる間は特に気にせずにいよう……。というかせめて学校では普通の高校生活を送るぞ!
「あら?同じクラスだっのね。」
俺の平穏で夢見る高校生活は遥か遠くへ消えていった。