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花やぐ愛は大正ロマン!  作者: 青星明良
三章 恋は乙女の一大事
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17 恋愛をしたら不良!?

 翌日、柊子は冬木教頭に職員室に呼び出された。


 運の悪いことに、冬木教頭もあの時、図書館にいて、男性と手をつないで歩いている柊子を見かけていたのだ。

 ただし、柊子が桜子たちを男子学生から助けているところは見ていなかったようである。


「ねえ、男の人とランデブーをしていた三年生の先輩が教頭先生に叱られているそうよ」


 と、クラスメイトたちのウワサで聞いた桜子、菜々子、桔梗、蓮華は、おどろいて職員室にかけつけた。


「外で男性と手をつないで歩くなんて、はしたない! いいですか、風花かざはなさん! 恋愛なんて、堕落だらくした女学生と不良の男子学生がすることです! あなたみたいな優等生が恋愛にうつつをぬかすとは、何事ですか!」


 桜子たちが職員室に入ると、顔がタコみたいに真っ赤になった冬木教頭が、ちょびヒゲをいじりながら、柊子にお説教をしていた。

 柊子が何か言おうとしても、大声でガミガミとまくしたてて、言いわけのひとつもさせてもらえない。


 それを見かねたデイジー先生が、冬木教頭に食ってかかった。


「教頭先生の考えは古臭いですヨ。Love is wonderful! 愛は素晴らしい! 教頭先生みたいな頭の固い大人たちがいるから、日本の若い子たちが自由に恋愛できないのです。日本の少年少女たちも恋愛小説を読んで、素敵な恋にあこがれているというのに!」


「小説は小説です! 第一、恋愛小説なんて教育に悪い本、学生が読むのを禁止すべきだ!」


「ふっるーーーい! 古臭すぎて、耳にカビが生えそうです!」


「で、デイジー先生! 教頭のわたしに対して無礼ですぞ!」


 冬木教頭とデイジー先生は、柊子を放置してケンカを始めてしまった。


「二人とも、落ち着いてくださーい!!」


 全国大声選手権があったら優勝できそうなほど声がでかい桜子が思いきり声をはり上げてさけぶと、二人はビックリして、口ゲンカはようやく止まった。


「お、朧月夜おぼろづくよさん。ここは職員室ですよ。大声を出してはいけません!」


 冬木教頭が耳を両手でふさいで、まゆをしかめながら桜子を注意した。さっきまで自分が大声で口ゲンカをしていたことはたなに上げている。


「教頭先生、聞いてください。柊子さんが男性と手をつないで歩いていたのには、わけがあるのです」


 ずっとガミガミと怒っていた冬木教頭が桜子の大声にひるんだ瞬間を逃さず、桔梗がそう言った。桔梗は、運動神経は鈍いけれど、頭の回転は速いのである。


 柊子がランデブーをしていたという事実だけは伏せて、桔梗は事情を説明した。


「昨日、わたしたちも図書館にいました。わたしたちは、借りようとしていた本を男子中学生たちに横取りされそうになって、柊子さんがわたしたちを助けてくれたのです。

 でも、柊子さんは男の人と言い争ったせいで足がふるえて動けなくなってしまいました。そこに、たまたま図書館に来ていた柊子さんの許嫁の千鳥ちどり柚希ゆずきさんがあらわれて、足が震えている柊子さんが転ばないように手をつないでくれたのです。だから、柊子さんは悪くありません! はぁはぁ……ぜえぜえ……」


 どうやら、体力切れらしい。全身全霊ぜんしんぜんれいの力をこめてしゃべった桔梗は貧血を起こし、体をふらつかせた。

 蓮華があわてて桔梗の細い体を支え、「貧血にたえてよくがんばった! 感動したよ!」と桔梗をほめたたえた。


「む、むぅ~……。そういう事情があったのですか。風花さん、それならそうと、なぜ早く言わなかったのです」


 事情を理解した冬木教頭がちょびヒゲをいじりながら言った。


「自分がガミガミ言って、柊子さんが言いわけするヒマをあたえなかったくせに……」


 菜々子が、桜子の小さな背中に隠れながらボソボソとそうつぶやいたけれど、冬木教頭には聞こえなかった。


「勇気を出して後輩たちを守ったのは立派です。ばつとして考えていた、反省文五十枚を書くことは免除めんじょしてあげましょう。ですが、世間の目があるのだから、たとえ許嫁でも外で男性と親しげにしてはいけません。ランデブーなどという不良がすることをしていると誤解されてしまいますからね。男女は結婚するまでは、接吻キスはおろか手をつなぐこともダメです!」


「Oh, no! なんて古臭い! 耳にカビが生えますっ! 耳にカビが……!」


「デイジー先生! 耳元でさけばないでください!」


 冬木教頭とデイジー先生は、またケンカを始めた。


 そのすきに、桜子たちは、柊子を守るようにして、職員室からこっそり出て行くのであった……。

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