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花やぐ愛は大正ロマン!  作者: 青星明良
二章 手と手を取り合って
13/34

13 一人ぼっちの誕生日?

 それから五日後の四月十六日、日曜日。


 菜々子は、一人でさびしい誕生日をすごしていた。


「あのちびっ子は、朝早くからどこへ出かけたのかしら? スミレまでいないし……。きっと、あの子も今日は誕生日だから、仲のいい十六夜いざよいさんや夕立ゆうだちさんと誕生日パーティーでもしているのでしょうね。スミレもそのパーティーに呼んでもらっているんだわ。ふーんだ、どうせわたしは嫌われ者だから、だれにも誕生日を祝ってもらえないですよ~!」


 そうブツブツ言いながら菜々子が家の縁側でゴロゴロしていると、仙造がやって来た。


「菜々子。何をそんなにふてくされているのですか?」


「別にふてくされてなんかいません」


「あなたがほっぺたを風船みたいにふくらませているのは、怒っている時か、ふてくされている時だから丸わかりですよ。誕生日なのに、桜子さんがいなくてさびしいのでしょう?」


「な、何を急におかしなことを言っているのですか、お父様! あんなさわがしいちびっ子、家にいなくてせいせいしています!」


 菜々子はあわてて体を起こし、仙造に食ってかかった。


 仙造は「やれやれ、素直じゃない子ですね」と言って、おだやかに笑う。


「本当は、桜子さんに意地悪なことを言ったり、冷たくしたりして、後悔しているのでしょう? 桜子さんが優しくていい子だと知っていても、頑固がんこなあなたは意地をはってしまって、態度を改めることができない……。そういう不器用なところは、兄妹でそっくりですね」


「……お、お父様にわたしの気持ちなんて……」


「わかりますよ。あなたの父親なのですから。そして、あなたが人一倍さびしがり屋で、母親の愛情にえていることも……。

 菜々子、ごめんね。カスミが……お母さんが亡くなった時、わたしは悲しみのあまり、母親と死に別れた柳一や菜々子の心の傷に気づいてあげることができなかった。長い時間をかけて自分が立ち直るだけで精いっぱいだった。そのせいで、大切な子供である二人を愛情不足のまま成長させてしまった……」


「お、お父様……。やめてください。わたしは、お父様にあやまってほしくなんか……」


 カスミの死は、仙造にとってもショックなできごとだった。愛する妻を失ってぼうぜんとしてしまうのは仕方がない。

 父が悪いわけではないとわかっている菜々子は、泣きそうな声でそう言った。


「……桜子さんに冷たくしたのは、わたしも反省しています。でも、今さら『ごめんなさい』なんて、恥ずかしくて言えないし……」


「菜々子。桜子さんは、たしかにあなたよりも幼いですが、わたしたち花守はなもり家の人間や学校の友達など、縁あってめぐり会った人たちを一生懸命に愛して大切にしようとする天使のような子です。菜々子が素直になって心を開いたら、桜子さんはあなたのことをきっと喜んで受け入れてくれるはずですよ」


「そ、そうかしら……」


 菜々子が不安げに顔をうつむかせると、仙造は菜々子に一通の手紙を手渡した。


「この手紙は……招待状? 『菜々子さん。学校の寮にてお待ちしておりますので、午後三時に学生寮がくせいりょうまでお越しください。なるべく、お腹を空かせて来てください。桜子より』……。あの子、学生寮でいったい何をしているの?」


「行ってみたら、わかるでしょう。そして、勇気を出して、桜子さんと素直な気持ちで話しなさい」


 仙造は、菜々子の頭を優しくなでながら、そう言うのであった。






 学校に行くので、菜々子は袴姿はかますがたに着がえてから家を出た。


「いったい、何の用なのかしら? も……もしかして、さんざんわたしに意地悪されたことをうらみに思って、わたしをおびきよせて恐ろしい仕返しをする気……? 桜子に手なずけられたスミレや、あの子と仲のいい十六夜さんと夕立さんもその復讐ふくしゅうに加わって、ひどい目にあわされるんじゃ……」


 無駄に想像力が豊かすぎる菜々子は、イスに縄でしばられて、大嫌いな梅干しを桜子たちに次々と口の中にほうりこまれる自分を想像し、ぶるるっと身震いした。


「や、やめて~! わたし、すっぱいのは苦手なのぉ~!」


「フハハハ! お腹を空かせて来いと言ったやろ? 誕生日プレゼントや! た~っぷりと梅干しを食べさてやる~!」


「うぎゃーーーっ! すっぱーーーい!! すっぱすぎて、すっぱいにするぅ~!!」


 そんな妄想をして顔が真っ青な菜々子は、重い足取りで暗闇坂くらやみざかを歩き、やがてメイデン友愛女学校に着いた。


「どんな仕返しをされるのかわからないけれど、ここまで来てしまったら、もう覚悟を決めるしかないわ。こうなったら…………土下座して許してもらおう!」


 根性がない菜々子は「うん、そうしよう!」と言ってうなずき、学生寮へと向かった。


 学生寮の前では、桜子が、菜々子が来るのを待っていて、菜々子がおどおどしながらやって来ると、「菜々子さん、お待ちしていました!」と元気よく笑いかけた。


「さ、桜子さん。梅干しだけはご勘弁かんべんを……」


「さあ、こっちです! いっしょに来てください!」


「え? え? ……ええ!?」


 菜々子は桜子に手を引っぱられ、学生寮の中に入った。


「桜子さん! 菜々子さん! 誕生日、おめでとう!」


 手をつなぎ合った二人が寮の談話室だんわしつに入ると、クラスメイトたちが全員そろっていて、桜子と菜々子をいっせいに拍手して迎えてくれたのである。その中にはスミレまでまざっていた。


「こ、これはどういうことなの!?」


 ビックリ仰天した菜々子は、頭の整理ができず、そうさけぶのだった。

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