精霊剣士の物語 〜Adasutoria〜其の七
毎度毎度遅れてしまっている。どうも作者の伊藤睡蓮です。今回は春香視点が多いです。結構文法等間違っている事が多いので、不自然な点ありましたら報告してもらえると助かります(。>人<)
11,〜冷えた心に暖かく吹く風・前〜
目が覚めてカーテンを開くと暖かい太陽が俺を照らしてきた。
「おはよう、シュウ。」大きな欠伸をしながら話しかけてきたのはイグニだった。
「おう。おはよ、イグニ。昨日は寝不足だとか言ってたけど大丈夫か?」
「今日は元気だぜ。まぁ寝たい時は適当に寝るから心配しなくても大丈夫だ。」精霊にも寝不足があるのかと思っていたが実際にイグニが寝不足だったのは確かなんだろうと1人で納得してリビングへ向かった。
リビングに着くと夏音と春香は既に起きていて、朝ご飯を作り終わった頃だった。
「あ、しゅう。おはよう。ちゃんと起きれたみたいだね。」
「おはよう、夏音。ちゃんとは余計だったろ。春香もおはよう。」
「おはようございます。もう出来てますから食べちゃっていいですよ。」椅子に座るとテーブルにはフレンチトーストとコンソメスープが置いてあった。夏音と春香も椅子にそれぞれ座った。
「いただきます。と言うか毎回言ってるけど、毎朝作ってもらわなくても俺が作るから別にいいんだけどな。」と言うと夏音が、
「泊まらせてもらってるんだからこのぐらいしないといけないと思うし、それにしゅう、起きるのが遅いんだもん。」と最後だけ強めに言ってきた。
「絶対最後の理由が一番言いたかった事だよな。最初の理由いらなかったよな。」まぁ夏音が正論と言えばそうなるのだが。
「わ、私はお礼も兼ねてやってますよ。」春香は俺をフォローしたつもりの様だったが、お礼も兼ねての時点で俺が原因で作らせているんだなと痛感させられるだけだった。
すると春香が「そ、そうでした。しゅう先輩、夏音先輩、今日は私TFTを使って真冬先輩と一緒に町を歩きたいんですけど……いいですか?」と言ってきた。
「あぁ、いいんじゃねぇか。あいつと話せそうなのはこのチームの中でお前だけだろうし、それに真冬の事はお前に任せるって言ったからな。」
「そうね、テスト前に外に行けるとしたら今日ぐらいだし、私達も出来る限り協力するから困った事があったら気にしないで相談してね。」
「ありがとうございます。それじゃあ今日は帰ったら昨日の倍は勉強しないといけませんね。」と微笑みながら言った。
「まずは真冬に会うためにもそろそろ学園に行くか。2人とも準備できてるか?」と聞くと、
「しゅうと違って準備バッチリよ。アクアもいるし。」と魔導書を鞄から少しだけ見せた。
「しゅう先輩が準備出来てるならもう行けますけど。」どうやら春香も準備は終わっているらしい。
「2人とも、5分待ってくれ。」そう言葉を残して全速力で2階を駆け上がり部屋に入った。
ーーーアルファ学園に着くとすぐに2年1組、真冬のクラスへと向かった。しかし教室にはどこを見ても真冬の姿は見えなかった。楽しそうに会話している生徒が何人かいるだけだった。どうやら真冬はまだ来ていないようだ。
「少し待ってみるか。」と2人に聞くと、
「そうだね。」
「そうしましょう。」と笑顔で頷いてくれた。
教室の前で3人で話をしていると、「お、もしかして秋翔か?」、「本当だ、そういえば2年になってから会えてなかったな。」と後ろから声をかけられた。振り返ってみるとそこには茶髪でツンツン頭、黒髪でメガネをかけた男子が2人立っていた。
「拓人、それに俊也も。久しぶりだな。」
すると拓人が近づいてきて俺の耳元で、
「おい秋翔、いつの間に女子とイチャイチャ話すようになったんだよ。俺たちに分かりやすく説明しろよ。」と言ってきた。
「別にイチャイチャしてねぇだろ……ったく、こいつらは俺とチームを組んでるんだよ。こっちの黒い髪の方が俺と同じクラスで幼馴染の葉月 夏音、そしてその隣にいる桜色の髪の子が1年の弥生 春香だ。」
「なるほどな、チーム組んでたのか。俺は1年の頃に秋翔と同じクラスだった今井 拓人、そんでこっちのメガネが小田 俊也こいつも1年の頃に同じクラスだったんだ。よろしくな。」
「よろしくね。」、「よろしくお願いします。」
「そうか、お前ら2人とも1組だったんだな。……って事は真冬の事も知ってるよな?あいつ毎日何時くらいに学園に来てるんだ?」すると2人は顔を見合わせると、
「8時45分ぐらいかな、あと少しすれば来るはずだぜ。……もしかして真冬とチーム組んだのってお前らか。」と拓人が言った。すると夏音は怒った表情で、
「そうよ、私たちは真冬さんと一緒に大会に出て優勝するんだから!」と強めの口調で言った。
そんな夏音を見て俊也が
「そっか……よかった。あいつをそんな風に思ってくれてる奴が他にもいて。」と言った。
「え?お2人は真冬先輩の事を嫌ってないんですか?」春香がそう言うと、
「1組の中で真冬を嫌ってる奴もいるけど、少なくとも俺たちは真冬の味方だぜ。まぁ、真冬本人が俺たちを避けてるって事もあるから嫌われてる風に見えるかもな。」と拓人が言った。
「そうだったんだ、ごめんね。勘違いしてた。」と夏音が申し訳なさそうに謝った。
「気にしなくていいよ。真冬の事、よろしく頼むよ。拓人、そろそろ教室に戻ろう。秋翔、夏音さんに春香さん、またね。」俊也はそう言って拓人と教室に戻っていった。
「いい人たちだったね。生徒会長が真冬さんがクラスで孤立してるとか言ってたから、真冬さんを心配してくれる人がいないと思ってたけど、しゅうの友達なら信頼できるね。」
「あぁ、あいつらは1年の頃からあんな感じでいい奴らだぜ。」と得意げに言うと、
「しゅう、私たちもそろそろ教室に戻ろ。それに私たちが近くにいたら真冬さんもはるちゃんの誘いに乗らないかもしれないし。」そうだった。真冬があと少しで来るんだった。
「そうか、それじゃあ春香。朝も言ったけど何かあったらすぐに連絡してくれ。」
「分かりました。お2人も勉強頑張ってくださいね。」と春香はにっこりと笑って言った。
ーーー教室に入るとすぐに夏音は教室の入り口付近で廊下を見ていた。その意図はなんとなく分かったが、
「なあ夏音、恥ずかしくないのか?結構見てる人いるんだが。」と聞くと、
「しょうがないじゃない、しゅうだって気になるでしょ?真冬さんがそもそもはるちゃんの誘いに乗るかわからないんだから。」顔を赤くしながら答えていた。
「まぁでもそうだよな、誘いに乗る前提で話してたから気づかなかったけど、断られたらそこで終わっちまうからな。」ということで2人で見守ることにした。すると夏音が
「来たわよ、真冬さん。」と呟いた。
廊下の奥から真冬が歩いて来るのが見えた。春香も気付いたらしく窓に寄りかかっていた体を真冬の方へ向けた。
「ま、真冬先輩、おはようございます。き、今日は天気がいいですねー。そうだ、2人で散歩でもしません?」
遠くでその光景を見ていた俺と夏音は、
「なぁ夏音。お前の言う通り見といてよかったかもしれない。あいつから何らかのヘルプサインがとんでくるかもな。」
「わ、私もあそこまで緊張するなんて予想外だったわ。やっぱりもっと計画を練るべきだったわね。」
すると真冬は春香をじっと見つめ、「………いいわよ。」とただ一言だけ言った。
「え、いいんですか⁉︎あ、ありがとうございます!それでは早速行きましょう。」春香はそう言って昇降口へと向かった。
「夏音、俺に分かりやすく今起きたことを説明してくれ。」
「誘い方はちょっと怪しかったけど結果的に上手くいったならいいんじゃない。そういうことにしよ。余計な事を考えるより勉強勉強。」
「そうだよな、勉強しなきゃな。」俺と夏音はそう言って自分たちの席に向かった。
ーーー真冬先輩が私の隣にいる。一緒に歩いてくれている。そう考えただけで少し仲良くなったような気がした。昇降口へ着くと私たちと同じく生徒が何人か外出する様で、校門へと向かっていた。
「さて、どこ行きましょうか?」ただ誘うことだけを考えていたのでどこに行くかは決めていなかった。
「…………。」真冬先輩は何も答えなかった。
「そ、それじゃあこの街のショッピングモールにでも行きましょう。いいですか?」
「…………。」真冬先輩はやっぱり喋らなかった。けれど私が歩くと付いてきてくれたのでこのままショッピングモールに向かうことにした。
ーーー校庭を見ると春香と真冬が少し距離は開いているものの、2人で校門に向かっているのが見えた。すると、隣の席の夏音が
「しゅう、確かに2人も気になるけど今は授業に集中、ね?」と言ってきた。
「へいへい、分かりましたよっと。」と正面を向いた。
「X=3であるから・・・。」先生は訳のわからない記号やら数式を使うので一瞬で勉強のやる気をなくした。
「無理だ、分からん。」と呟くと、後ろから背中を指でツンツンと突かれた。後ろの席はたしか香織の席だったはずだ。振り返るとやっぱり香織がこちらを何か言いたげな目で見ていた。
「香織、どうした?」と聞くと、
「秋翔くん、今の中学校のおさらいみたいな問題だよ?」
「……………。」
香織はそれだけ言うと《言えた!》みたいな満足気な顔をしてこちらを見ていた。一言だけだったが自分の学力のなさが突きつけられた。
隣からクスクスと笑っている声がする。
「香織ちゃん、それは言わない方がよかった。笑いが止まらないもん。」と涙を流しながら笑って言った。
「夏音、お前は笑い過ぎなんだよ。」
「あんたは学力なさ過ぎなのよ。」
「だから昨日から一生懸命勉強してんだろ!これからだこれから!」
すると香織がまた俺をツンツンと突いてきた。今度は怯えた顔をしながらこちらを見ていた。
「今度はなんだよ。」
「秋翔くん、夏音さん、前……。」
『前?』と2人で口を揃えて前を向くと、目の前にはさっきまで教卓の所にいた先生が俺と夏音の机の間で睨みつけていた。
「お前ら2人、今日は放課後職員室の俺の席の隣でみっちり勉強教えてやっから、覚悟しておけよ。」
終わった……。俺と夏音は顔を見合わせてそう心の中で思った。
ーーー結局目的地であるショッピングモールに着くまで真冬先輩とは一言も話さずに来てしまった。
「ま、真冬先輩はどこ見てみたいですか?」すると真冬先輩は溜息を吐くと、元来た方向へと戻って行こうとしたので慌てて引き止めた。
「ま、待ってください。どこ行くんですか?」
「どこって帰るに決まってるでしょ。あなたといたって意味がないし。それに……、学園からこれぐらい離れれば教師の目も気にしなくていいからね。」
淡々とした口調で言われ、暫くの間その場に棒立ちになってしまっていた。
ふと我に返り帰ろうとする真冬先輩の腕を掴んで止めた。
「わ、私真冬先輩と一緒に見たい所があるんです。一ヶ所だけでいいので付いてきてくれませんか?」
真冬先輩は顔だけ振り返って私を見ると
「さっきも言ったけど、あなたと話す事は何もないんだけど。」と言って掴まれている腕を振りほどこうとした。
「話さなくてもいいです。ただ付いてきてくれるだけでもいいんです!」より一層腕をしっかりと掴んだ。
すると急に真冬先輩の腕の力が抜け、大きく溜息を吐くと、「馬鹿ね……、一ヶ所だけよ。」と諦めたような声で言った。
「はい!一ヶ所だけです!……何で馬鹿なんですか⁉︎」私は戸惑いながら聞いたが答えてはくれなかった。
ーーー「やっと3時限目おわったー。さすがに真面目に勉強すると疲れるな。」そう言うと隣の席にいた夏音が、
「あんた集中力なさすぎ、それに私たち放課後も残って勉強しなきゃいけないのよ。誰かさんが大きな声で話すから。」
「確かに俺の声も大きかったけど、お前の声も大きかったけどな。」2人で口喧嘩をしていると、
「2人とも、さっきはごめんね、私が余計な事言ったから……。」と香織が謝ってきた。
「別に香織のせいじゃねぇよ。それに放課後勉強とかキツイけど好都合でもあるからな。」
「確かに、しゅうが尚更集中して勉強出来る場が増えただけプラスと考えればまだ楽かも。」と夏音が言った。
「ありがとう。あ、そう言えばさっき春香ちゃんが校門から出て行ったよね?」
「あぁ、真冬と2人で外に行かせたんだよ。真冬、俺たちじゃ会話すら出来なかったら春香と仲良くなってもらえれば少しは話しやすくなると思ってな。」そう言い終わると、
「やっぱり……。」と不安そうに香織が言った。
「それがどうかしたの?」と夏音が聞いた。
「うん。勘違いならいいんですけど、春香ちゃん達が校門を出たと同時に真冬さんと同じ1組の女子が3人、後を付けるように出て行ったのが気になって……。」
「1組の子もTFT使って外出することもあるだろうし、付けてるって確証はどこにもないけど……、香織の言う通り付けていたとしたら……、どうする夏音?」
腕を組んで考え込んでいる夏音は、
「う〜ん。どうしよっか?ちなみに香織ちゃん、その3人ってチーム組んでるか分かる?」
香織は首を横に振った。
「そこまでは分からなかったけど、TFTを使って行くならチームじゃないかな。それにあの3人の内1人に、あんまり学園ではよくない噂が出てる人がいてね。荒川 咲って言って教師も注意してる人がいたの。」
その名前を聞くと夏音は、
「その名前、聞いたことある。精霊も危なっかしい精霊だって聞いたことあるわ。……しゅう、放課後学校に戻ってみっちり勉強、家に帰っても勉強、それでもいい?」
「もちろんだ!香織、ありがとな!」急いで俺と夏音は学校を出た。
ーーー「着きました、ここです。」そう言って真冬先輩と来たのは、ショッピングモールの中心、天井がなく青空が広がり、真ん中には大きな噴水のある広場だ。
噴水が見えるベンチに真冬先輩を座らせ、自分も座った。
「どうですか、ここ?なかなか癒される場所だと思いませんか?」
「…………。」何も話してはくれなかった。相槌もなかった。
「どうして1人でいようとするんですか?」
「…………。」
「みんなで一緒にいた方が楽しいと思うんですけど。」
「…………。」
「……私、中学生の頃、2年生になって話せる友達が別のクラスになってしまって、中々友達作れなかった頃があるんです。その時はとっても辛くて悲しくて……だから、真冬先輩を放っておけなくて。」
「………放っておけない?あなたに同情なんてしてもらいたくない!あなたは私とは違う!私はずっと1人でいたかったのに、あなた達が私の邪魔をしたから………。私は1人が嫌いなわけじゃない。仲良しごっこをするのが嫌いなの。あなた達もどうせ私の事を嫌いになるわ。学園長の娘として私が強いと思ったから私をチーに引き入れただけなんでしょうけど、とんだ思い違いね。私は強くなんかない。精霊がいないとまともに戦えないなんて……。」
真冬先輩の本音を聞いた。真冬先輩はきっと私よりも嫌な過去があるんだろう、そう思った。
私はバッグから鞘に収まっている双剣を取り出した。
「私、まだ武器に精霊を宿せていないんです。まだまだ弱くて、強くなりたいと思ったことも何度もあります。今だって強くなりたいと思ってますしね。だから、精霊を宿してる真冬先輩が羨ましいですし、その力を見たらきっと尊敬しちゃいます。」
「もう精霊とは一緒に戦う事はないわ。」
「え?どういう事ですか。」
真冬先輩の言葉に私は一瞬戸惑った。
「私はもっと強くないといけない、精霊の力を使わずに戦えるお母さんみたいに……。だから、精霊の力は借りない。」
「それは……。」反論しようとした所で目の前に人が立っていることに気づいた。
真冬先輩が少し動揺した様に見えたがすぐに冷静を取り戻し、こう言った。
「やっぱり私たちを付けていたのね、荒川 咲。」
12,〜冷えた心に暖かく吹く風・後〜
ーーーショッピングモールを出て廃ビルの様なところに連れてこられた。3人、おそらく真冬先輩と同じ2年生だろう。
あの後、残りの2人が私たちを挟んで逃げられなくなった。すると荒川 咲、と呼ばれた人は、
「ちょっと真冬、ついて来なよ。」
と言って真冬の腕を掴んだ。
「私はいいけど、この子は関係ないからおいてってもいいわよね?」
真冬先輩がそう言うと、
「悪いけど、こいつも一緒に来てもらって見てもらうよ。」
真冬が小さく舌打ちをした。
助けを呼ぼうとしたがさっきまで周りを歩いていた人たちの姿が全くなかった。不自然すぎるほど誰もいなかった。
そしてここに来るまでも誰とも人に会わなかった。
「こんな所に連れて来てどうするつもりですか?」
私が聞くと、
「お前はただ見てるだけなら痛くないから安心しろ。今からこいつと私の1対1が始まるだけだからな。」
周りにいる2人はクスクスと笑っていた。
真冬先輩は何も言わずにバッグの中から氷の結晶のストラップを取り出すと、片手でストラップを握った。
すると、手の中から少しずつ霧の様なものが出て、刀を作りあげた。あれが真冬先輩の……。
真冬先輩が刀を構えると、3人組のリーダーであろう咲が手を高く上にかざした。
「おいで、ウィル。今日もあいつを切れるよ。勝負内容はこれまでどうり、相手を一回でも斬れたら勝ち。」
手につけていた指輪が光り、手の上に風が起こり、小型ナイフ、いや、短剣が形創られた。
「今日は勝つ。」真冬先輩はそう言うと一気に咲の元へと走り寄ろうとした。
「風切。」咲がそう言いうと短剣を振りかざした。床が切り裂かれていく方には真冬先輩がいる。
「氷影。」真冬先輩が何か唱えた途端に体が真っ二つに裂けた。が、血は一切出ておらず、代わりに氷の結晶が辺りに散らばった。
真冬先輩はどこに?
「どこ行った。出てこいよ、真冬。」
咲は挑発する様に言った。
その瞬間、真冬先輩が咲の後ろから飛び出てきた。
咲は焦りの色を浮かべている。
「終わりよ、氷突。」
真冬先輩の刀が咲の体に当たる直前で、左の脇腹に何かが当たったのが見えた。あれは……鉄球?ピンポン球ぐらいの小さな鉄球の様なものが真冬先輩の脇腹に当たっていた。
私の横で見ていた残りの2人のうちの1人が手を真冬先輩の方へかざしていた。
「ごめんごめん、無意識で発動しちゃったみたい。」と、わざとらしく言った。
バランスを崩して床に倒れた真冬先輩に咲は躊躇うことなく、
「風Ⅱ(ウィンド)。」いくつものかまいたちが真冬先輩の体を切った。
真冬先輩は苦痛に歪んだ顔で叫んだ。
「もうやめてください!真冬先輩はもう戦えません!こんな事したら、学園の先生たちに知られたらどうなるか分かってるんですか?退学になりますよ。」
「興味ねぇし、私はこいつの苦しむ顔を見れればそれでいいんだよ。退学?知るかよ。学園長なんざ私ならいつでも殺せる自身があるけどね。」この人たちは本気でやばい。今すぐ逃げたい。けど、真冬先輩を置いてはいけない。
バッグから剣を取り出した。
「お、あんたも私とやりたいの?でも残念。あんたの相手はそいつらに任せてんだよな。」
2人の先輩、2対1。私が勝てるわけがない。けど、あの時の、電車ジャックの時のあれがまた起きれば……。
「千里、恵。手加減しなよ。あはははっ。」
1人は魔道書を持ち、もう1人は私と同じくらいの大きさの剣を1本持っている。
剣を握る手が震えた。今にも落としてしまいそうだ。
「おいこいつ、ビビってるぜ。それなら逃げればいいのにな、まぁ逃がさないけど。」
真冬先輩の上に咲が座っているのが見えた。その瞬間、心の底から湧き上がる怒りを止めることが出来なくなった。
「真冬先輩から離れろーー!」前に立ち塞がる2人に突進して行った。
「戦い方を知らないから何も考えず来ちゃうだなんて……遅水槍。」
水で創られた槍がこちらに向かって来たがそのスピードは遅く、左へ避けるだけで充分だった。が、槍を放った相手とは別の女がいつの間にか私の目の前に立っていた。
「速度上昇。魔法で怪我したら大変だものね?だから物理的に攻撃する隙を作らせてもらったわ。」
そう言われた次の瞬間、腹に衝撃が走った。あまりの痛みに顔を歪ませ、その場に倒れこんだ。
「ぐっ……うあっ……。」
「ちょっとちょっと、このぐらいで倒れないでよ。真冬はもうちょっと頑張ったよ。」
自分の力の無さをこれほど後悔したのは何度目だろう。奥で倒れている真冬先輩を見ると、私を心配するような顔でこちらを見ていた。真冬先輩のあんな顔を見るのは初めてだ。
「ど………いて。」ゆっくりと立ち上がった。
「は?なんて言った?」
「どいて、って言ったんです。真冬先輩にはこれ以上触れさせません!」次の瞬間、世界が止まった。いや、遅くなった。
「これって……あの時の!」急いで真冬先輩の背中に座っている咲に一直進で向かって渾身のグーパンチをお見舞いして2人のほうに蹴り飛ばした。
その瞬間、世界がまた元通りに動き出した様な感じがした。
「いたっ……何が起きたの?」
「咲!大丈夫?」
「くそっ!あいつ、いつの間にあんな所に⁉︎」
これならいけるかも、そう思った途端、身体に力が入らなくなった。さっきの強烈な一撃が相当応えたらしく、立ち上がることが出来なかった。
「ははっ!今ので体力全部使っちゃったみたいだね。私に傷をつけたんだからただじゃ済まないわよ。恵、回復お願い。」
「分かってるって。回復光。」咲の身体の周りが光り、咲に与えたダメージはすぐに回復してしまった。
「そんな……。」こんな所で終われない。もう一度立ち上がろうとしたが、ダメだった。
「いいセン行ってたわね。これからもそうやって遊んでくれると私もやりがいあって楽しいわ。」だんだんと私との距離が縮まっていくのが音でわかる。
その時、私の前に影ができた。誰が私の前に立っている。ゆっくりと顔を上げると、そこには身体中傷ついていて、今にも倒れてしまいそうな真冬先輩だった。
「あんたまだ立てたの?大人しく寝てればよかったのに。」
真冬先輩は咲を睨みつけた。咲たちは一瞬動揺したがすぐに冷静を取り戻した。
「真冬先輩……どうして?」私が聞くと、
「どうして?それはこっちの台詞よ。あなたはどうしてそこまで私を助けようとするの?私はあなたと仲間でもないし友達でもない。ここに来る前に走って逃げればよかったのに。」
「走って逃げるなんて、目の前で人が助けてほしい顔をしてるのにそんな事、出来ませんよ。仲間じゃないとか友達じゃないから助けないなんて事、私達のチームには通用しませんよ。それに………仲間で友達です!」真冬先輩は驚いた様な顔をしていた。でもやっぱり落ち着きを取り戻して前を向き、
「………あなたやっぱり馬鹿ね。」前を向いていたので分からなかったが笑っている気がした。
「私が精霊の力を使わない理由は2つ。」真冬先輩はそう言った。
すると咲は、「急にどうしたの?精霊の力を使わない理由?自分が強いって過信してるからでしょ。」と挑発的に言った。
「1つ目は、母さんと同じ様になりたいから精霊の力を使わなかった。まぁあなたの言ったことに近いかしら。」真冬先輩の身体から冷たい風が吹き始めた。
「そして2つ目は、私とこいつの性格が合わなかったから。」言い終わると氷の刀から猫の様な精霊が出てきた。
「HEY!真冬!久しぶりだZEI!お前なら絶対使うって信じてたZE!」
一瞬で真冬先輩の言っていた事が理解できた気がした。
「ライム、戦闘は私がやるからあんたは後ろの子が危なかったら私に教えるだけでいい、それ以外話さなくていい。」
「真冬、それは寂しいZEI!けど了解したんだZEI!」
なんであんなにノリのいい(可愛らしい表現にした)精霊と契約したんだろうと考えたが思いつかなかった。
咲が笑い始めた。
「それがあなたの精霊?笑わせないでよ。そんな奴の力が強いわけないじゃない。」
「やってみなきゃ分からないわよ。………面倒だから3対1でかかってきなさい。」
咲が舌打ちをした。
「調子乗ってんじゃねぇよ!恵は後ろで支援魔法、私と千里であいつを叩く。」
咲と千里が真冬先輩に向かって走った。
「全体強化。」恵は後ろで強化魔法を唱えた。今の2人は相当な強さになっているはず……。
「氷人形、氷罠。」
真冬先輩の前に氷で創られたもう1人の真冬先輩が現れた。
「千里、その人形ぶっ潰しとけ。私は本体をやる。」千里は頷いて真冬先輩人形と剣を交えた。
咲は短剣を逆手に持ち、躊躇する事なく身体を斜めに斬り裂いた。その瞬間、真冬先輩は氷になって粉々に砕け散った。違う、真冬先輩じゃない。ただの氷だ。そうだとしたら、
「真冬先輩はどこに?」
「ここよ。」声がした方を見ると、後ろで支援魔法を使っていたはずの恵が氷の柱に拘束されていて、その横に真冬先輩がいた。
「氷拘束。これで後2人。いいえ、違ったわ。1人ね。」
真冬先輩の見ている方向を見ると、千里が氷版真冬先輩に後ろから捕まれ、氷の柱に拘束される所だった。
「なんなんだよ、お前は。急にやる気になってさ。また裏切られるとか考えなかったの?」明らかに咲は動揺していた。
「考えたわよ。考えたから今あなたと本気で戦ってる。あの子がほとんど他人の私を仲間だとか友達だとか言ってるのはまだ気に食わないけど、目の前で倒れている子がいたら助けるに決まってる、でしょ?」
私を見て少し笑った。
「なにそれ?また裏切られるに決まってるでしょ!だからその前にそいつもお前も殺してやるよ!風烈斬Ⅲ!」凄まじい風の斬撃が私と真冬先輩の前に現れた。
「もう一度、信じてみるのも悪くないのかもしれない。凍結斬。」
小声で最初の言葉は聞き取れなかったが、真冬先輩が刀を横に振った瞬間目の前が全て凍りついた。咲の手前で止まっていたので無傷だったが今の攻撃で気絶してしまった。
「あの……真冬先輩、ありがとうございます。助けてくれて、とってもかっこよかったです。」真冬先輩が私の方を見た。
「私は自分が今するべきことを考えただけ。こういう事に巻き込まれたくなかったら、もう私には関わらない方がいいわ。」
「嫌です。最初、ショッピングモールに着いた時からこの人達のこと気付いてましたよね?教師も尾けるなんて事しないですし。」
「もともと帰るつもりでついた嘘よ。」
「それも違います。もともと帰るつもりだったらショッピングモールに着いてから引き返す必要なんてなかったんです。家の手前で私から離れればいいだけですし。3人に気付いたから私から離れようとしたんですよね?」
「………あなた、戦闘よりも謎解きの方が上手いわね。探偵にでもなれば。」
「だったら私は探偵になる前に、真冬先輩と友達になります!絶対に!いつか必ず言わせて見せます。友達になって下さいって。」
「……やっぱり馬鹿ね。春香、私もう先に帰るから。」そう言ってバッグを拾って廃ビルから出て行った。
「ちょっ、どうするんですかこれ?真冬先輩⁉︎」
「それなら今教師呼んだから大丈夫だ。」
聞き慣れた声がした。真冬先輩が出て行った入り口から入ってきたのはしゅう先輩に夏音先輩だった。
「しゅう先輩、それに夏音先輩まで、どうしてここが分かったんですか?」
「それはまず後で話すから、今はゆっくり休んでいいよ。」
その言葉を聞くと同時に私の意識が消えた。
ーーー「ひとまずこれで一件落着って事で。けどまぁ春香と真冬、それからこの3人には勝手に精霊使ったり魔法使ったりで暴れたから、反省文書かされるのは間違いないな。」
「それ、しゅうが言える事じゃないと思うけど。それに下手したら退学レベルの有り様よ、これ。」
確かに目の前にあるこの光景を春香自身は気付いていたのだろうか?氷の柱に拘束されている2人、つららの様に尖った先端の目前で気絶している1人、確かにこの光景も相当凄いが。
「春香の倒れている近くに車が急ブレーキをかけた様な摩擦の跡が残ってる。こいつ、何したんだ?」そんな話をしていると、先生と思われる人が数人入ってきた。
「この話ははるちゃんたちとしよ。ひとまず私たちは帰りましょ。忘れてないわよね?学園で居残りよ。」
すっかり忘れてた。学園出るときは覚えてたのに。
「よし、こうなったら真面目に勉強してやるよ!」半分やけくそだったがやるしかなかった。
居残りがしゅうだけ7時を過ぎたことは夏音と一部の先生しか知らない。
改めまして、作者の伊藤睡蓮です。次回の話はテスト前日から当日を書こうと思っています。また少し待たせてしまうかもしれませんが、気長にお待ちいただけるとありがたいです。twitterも伊藤睡蓮と言う名前でやっていますので何かお気付きの点がありましたらこのアカウントに報告お願いします。ではまた次のお話で。