精霊剣士の物語 〜Adasutoria〜其の六
どうも作者の伊藤 睡蓮です。毎回投稿が1ヶ月以上過ぎてしまって申し訳ないです。頑張って早めに投稿できる様に頑張ります。今回は新しくチームに加わった真冬との今後についてのお話です。(上手く伝えられない。)
10,〜凍りついた心〜
視線を感じる、見られている。目の前は真っ暗だがそう感じた。一体誰なんだ……。
「しゅうと……起きろ!紅葉秋翔!いつまで寝ているつもりだ!」俺はその声で跳ね起きた。俺の机の前には明らかに怒った顔の先生が立っていた。
「お、おはようございます!」咄嗟に出た言葉がクラス中を笑いの渦に包んだ。隣にいる
黒髪の女は呆れて額に手を当てている。葉月夏音、俺の幼馴染だ。とある理由で今は俺の家に居候中だ。
先生はこちらを見て飽きれた口調で、「まったく…そんなに俺の授業が嫌いか?」と言ってきた。
「いや、別にそんな事はないですけど……。」言い訳をしようとしたがやめた。どうせ何を言ったところで余計説教タイムを延ばすだけだ。ちょうど授業終了のチャイムが鳴った。
「はぁ、まぁいい。今日の授業はここまでだ。秋翔、次の授業も寝ていたら居残り確定だからな。」と言って先生は教室を後にした。
「マジかよ…。」と呟くと、「自業自得よ。」と隣から声がした。
「なぁ夏音、次の授業中に俺が寝て先生が気付きそうだったら起こしてくれねぇか?国語は特に眠いんだよ。」
「何で寝る前提の話をしてるのよ。寝なきゃいいじゃない。それに次は科学だから席は隣じゃないわよ。」そうだった。次の授業こそ絶対に眠ってはいけない。1時間くらい真面目に授業受けるか、と心の中で渋々決めた。
歩きながら夏音が話しかけてきた。
「そう言えば、真冬さんに会って話をしないと。TFT(チーム自由時間)のこと。」
「そうか、クラスの人数が少し減ったと思ったら今日からTFTか。じゃあ俺らも4人で何かやろうぜ。」
「しゅう、確かにチームで集まって練習やらしないといけないけど……来週テストだよ?45点以上取らないと学園内で行われる大会に参加することどころか2週間後の予選にすら参加できないのよ?課題もあるし。」
そうだった。すっかり忘れていた。何一つ手をつけていない。
「な、なぁ夏音。今日帰ったら課題手伝ってくれねぇか?」すると夏音はその言葉を見透かしていたらしく、
「そんな事だろうと思ったわ。と言っても、しゅうが点数取れなかったらチーム戦に参加出来ないし、いいわ。手伝ってあげる。その代わり、終わるまで寝させないから覚悟してなさいよね。」今日から大変な一週間になるかもしれない。
ーーー化学室に着き、真冬の席を見たがまだ来ていないらしかったので待つことにした。
すると1組の女子が近づいてきた。
「ねぇねぇ、真冬とチーム組んだって本当?なんであんな奴と組んだの?嫌じゃないの?」と 嫌な質問をされた。
「別に嫌じゃないぜ。俺たちのチームに必要だから仲間に加えただけだ。」そう言うと1組の女子は「ふーん。」とだけ言って席に戻っていった。
「ねぇ、しゅう。私今すごくムカついてる。この上なくムカついてる。」顔を膨らませて怒っている夏音。
「まぁ落ち着けって。って言っても怒る理由、分かるけどな。」ぽんぽんと夏音の頭を撫でてやると夏音は顔を赤くして大人しくなった。
教室の扉が開き、真冬が入って来たのが見えた。俺と夏音はすぐに近寄り、真冬の前に立った。
「よう、真冬。TFTの事で話したい事があるんだ…け…ど。」見事にスルーされた。綺麗に横を通り過ぎて行った。まるで誰からも話しかけられていないと言わんばかりのスルースキルだった。
「ちょ、ちょっと待て。せめて最後まで…」もう一度話しかけようとすると、真冬が振り返って、「話す事なんてないわ。確かにチームには入ったけど、私はあなた達と一緒に戦う気は無いから。もう私に話しかけないで。」そう言って自分の席に向かって行った。夏音は俺を見て、
「しゅう、ここはリーダーである私に任せて。とりあえず授業受けましょ。」と言うと夏音も席に座った。本当に大丈夫だろうか?
ーーー結局、あれから放課後まで真冬とは一度も話せていなかった。夏音も真冬とは話せていなかった。そのまま夏音は帰ろうとしていたので聞いてみることにした。
「なぁ、夏音。真冬の事は任せてとか言ってたけど、どうするつもりだよ。」すると夏音は、
「うん、その事についてなんだけど、完全に私たち、特にしゅうを避けてるみたいなのよね。だから、私たち2人だけで話すのもどうかなって思ったから皆で話そうかなって。あ、来た来た♪」夏音は俺の後ろを見てそう言ったので振り返って見ると、そこには桜色の短髪をした女の子が大きな荷物を持って立っていた。
「夏音先輩、しゅう先輩。この間はイプシロンに連れて行って下さり、ありがとうございました。」弥生春香1年2組の生徒で俺たちのチームの1人だ。
「いや、こっちこそ楽しかったぜ。それより春香、どうしてそんな大きい荷物持ってるんだ?誰かの家に泊まるわけ…じゃない…よな?」
「春ちゃんには今日から一週間、しゅうの家に泊まってもらって一緒に勉強してもらうわ。」まぁ何となくそんな気はしたが。
「何勝手に決めてんだよ……。俺の家だって分かってんだろ。わざとだろ?なぁ、わざとなんだろ⁉︎」
「こう言う問題は皆で解決させた方がいいでしょ?だったら集まって話し合える場所が必要じゃない。つまりしゅうの家よ。」どういう“つまり”なのかは分からなかったが、確かに3人で話せればそれが一番良いという事で納得する事にした。
家に着くととりあえず春香の荷物を父さんの部屋に置いてリビングに集まった。夏音は3人分のココアを作ってくれたのでそれぞれ椅子やソファに腰掛けて一口飲んだ。すると夏音が、
「さて、先に真冬さんの事について話そっか。勉強よりも大事な気がするし。」
「そうですね。真冬先輩って……その、いじめられてる……んですよね?」春香が戸惑いながらも口にした。
「えぇ、まぁ私の見た感じでも完全に孤立させられてたわね。何でもっと早く気づけなかったのかしら。」
「今さらそんな事考えたって無駄だろ。今俺たちがやるべき事は真冬と仲良くなる事だろ。」
夏音がクスッと笑った。「何笑ってんだよ。」そう聞くと、
「だってしゅう、あんた思いっきり避けられてたじゃない。あの後にそんな事言われてもねぇ。」ど正論過ぎて言い返す言葉が出なかった。その光景を見かねたのか春香が、
「ま、まぁしゅう先輩の言ってる事は確かに正しい事だと思いますよ。でも、仲良くなる事が今の所すっごく難しいと思うんです。予選まで残りの日数も少ないですし、しゅう先輩は完全に避けられてる、夏音先輩も、同じ学年で真冬先輩のクラスの女の子からいじめられているので接触はかなり難しいはずです。だから…その……真冬先輩のこと……私に任せてくれませんか?」
「 ………。」あまりの急な展開に俺と夏音は言葉を失ってしまっていた。春香は至って真剣な顔つきだった。しかし、急に顔が赤くなり、
「あ、す…すみません。急に変な事言い出しちゃって。」春香は申し訳なさそうに言った。
すると夏音は首を横に振り、
「はるちゃん、大丈夫だよ。はるちゃんの本音が聞けてよかった。確かにはるちゃんなら真冬さんと話す事が出来るかもしれないね。」春香や夏音の言う通りだ。俺1人じゃあ考えつきもしなかった。
「よし、じゃあ真冬の事は春香、お前に任せる。仲良くなるが一番の目標だけど最低でも一緒に戦ってくれるように説得してみてくれ。もちろん俺たちも出来ることがあればサポートする。」
「はい、頑張ってみます。」気合の篭った声だった。
ぐぎゅぅぅーー。誰かのお腹が鳴った。
夏音の顔が真っ赤になっていた。俺と春香は思わす笑ってしまった。「そろそろご飯にしませんか?いいですよね、しゅう先輩。」
「そうだな。少し早いけど待ちきれない奴がいるからな。」
「う、うるさいわね!私だってお腹ぐらい鳴るわよ!」さらに顔を赤くして言い返してきた。これ以上何か言ってしまうとそれこそ夏音の強烈な蹴りが炸裂してしまいそうだったので止めた。
ーーー「真冬、今日も楽しかった?」
「えぇ、楽しかったわ。クラスのみんなとも体育でバスケをしたのよ。」嘘だ。本当はバスケなんてしていない。ずっと見ていただけだ。でもそんな事ママには言えない。言ってしまったら……。だめ、絶対に。
「……そう、それはよかったわ。さすが私の自慢の娘ね。そう言えば、秋翔くん達のチームに入ってんだって。あの子達はすごく頼りになるわよ。」確かに頼りにはなるかもしれないが私は1人で戦うつもりだったのに、学園長の娘である私が1人で戦えないなんて知られたらママに合わせる顔がない。だから、大会には参加しない。
ーーー夕飯を食べ終えるとすぐにテスト勉強が始まった。夏音は俺の課題を手伝いながら春香の課題の手伝いもしていた。流石優等生様だ。じーっと夏音の方を見ていると、
「何よ、どこかわからない所でもあるの?」
と少し照れながら聞いてきた。
「あ、いや何でもない。」こっちまで照れてしまった。あらかた課題を終わらせた頃には11時を過ぎていた。
「2人とも、今日はもうこの辺で終わりにしましょう。お疲れ様。」
「それじゃあ2人先に風呂に入ってこいよ。疲れてるだろうし。」そう言うと、
「それじゃあ、はるちゃん、また2人でお風呂入ろっか。」
「いいですね、入りましょう。」2人は話しながら風呂場へ向かって行った、と思うと夏音が戻ってきて、
「私たちが風呂から上がってくるまでリビングから動かないように!」そう一言うと風呂場へ入って行った。完全に変態扱いをされてる気がした。
暇になったのでテレビをつけてみると交通事故のニュースをしていた。すると狐のストラップが赤く光り、紅い火を纏った狐が姿を現した。イグニだ。
「急に出てきてどうしたんだよ。何で今まで出てこなかった?」
「今までずっと寝てたからな。今さっき起きた所だ。そんな事より“また交通事故か”最近多いよな。」どんだけ寝てたんだよ、と心の中でツッコミながらも、確かにイグニの言う通りだった。
「そうだな、それがどうしたんだ?たまにはこういう事故が多い時もあるだろ。」
「そうだよな、何でもない。ちょっと気になっただけだ。それよりこの間レストランで会った女の子、真冬って子、あいつ精霊は宿してるみてぇだな。」
「別に宿していても不思議じゃないだろ?」
「それじゃあお前に聞くが何で赤城って奴が殺される手前までになっても“精霊の力を使おうとしなかった”んだ。まるで死にますと言ってるようなもんだぜ。」言われてみればそうだ。赤城さんだと知らなかったあの時は絶対に殺されてしまうと思っていた。結果的にそうはならなかったが精霊を宿しているなら使うべきだったはず…。
「イグニは真冬が精霊を使わなかった理由、分かるのか?」
「確証は持てねぇけど何となく分かってる。あいつの母親は学園長で、精霊を使わずともそんじょそこらの精霊使いが束になっても敵わないだろうな。そんな親がいて自分はどうかって考えるとな。」
「そうか、学園長の娘だから強くなくちゃいけない、1人で戦える様でなくちゃ駄目だって思ってるってことか。」イグニは頷いた。分かる気がする。父さんも母さんも強くて俺だって憧れていた。今でも父さんの背中を追いかけているつもりだ。
「イグニ、お前って意外と頭の回転早いんだな。」
「おい、意外とってなんだよ。褒めてるわけでもないし、かと言って馬鹿にしてるわけでもなさそう……褒めてるって事でいいか?」
「ポジティブだな、お前。」軽く馬鹿にした所で夏音と春香が風呂から上がってきた。結構話し込んでいて気づかなかったが深夜の12時を過ぎていた。
「しゅう、お風呂入っていいわよ。あら、イグニちゃんじゃない。そう言えば今日は見てなかったわね。」
「おう、夏音。最近ちょっと睡眠不足か分かんねぇけど眠くてさっきまで寝てたんだよ。」言い終わると大きな欠伸をした。
「そうなんだ、それじゃあもう寝た方がいいんじゃない?私達もそろそろ寝るわね。おやすみ。」と言って部屋へと入っていった。
「おやすみなさいです。しっかり寝てくださいね。」春香もそう言って部屋へと入っていった。
「しゅう、俺も先に部屋へ行って寝る。おやすみ〜。」イグニも部屋へと入っていった。
風呂に入ると考え事をしてしまった。少し前まではこんな事になるなんて思ってもいなかった。
夏音と同じクラスになって俺の家で暮らす事になって、精霊とも戦って、春香をチームに誘って今日から一週間ぐらい俺の家で暮らす事になって。真冬をチームに入れて避けられて。本当に色んな事があった。全部が楽しかったわけじゃない。全部が苦しかったわけじゃない。だから今こうやって考えてみて、父さんが死んで母さんがずっと眠ったままで、死にたいと思った時もあったけれど……今は生きていて良かったと思う。
「夏音、春香、俺の側に居てくれてありがとな。そして真冬、これからよろしくな。」
どうも改めまして作者の伊藤 睡蓮です。後書きで何を話したらいいか分かりませんが次回は少しバトルシーンを取り入れてみます。Twitterでも告知はしていますのでお気軽にフォローして下さい。漢字や文法など間違っている点がありましたら教えていただければ随時直したいと思います。今回も読んで下さり、ありがとうございます。また次回もよろしくお願いします。