精霊剣士の物語 〜Adasutoria〜其の四
どうも、作者の伊藤 睡蓮です。Twitterでも言っているのですが、作者が受験生のため、次回の投稿は少し遅れます。本当にすみません。気長に待っていただけるとありがたいです。
7,〜秋翔の過去 前編〜
・・・すぐに夢の中である事が紅葉 秋翔にはなんとなく分かった。
「父さん、母さん。」小学生の頃の俺が呼んでいる先に見えた人影。父さんと母さんだ。
「しゅう、強く生きろ。」
「ちゃんと夏音ちゃんを守ってあげて。」
と言いながら、どんどんと薄れていく。
「父さん!母さん!」走って追いつこうとするが、徐々に遠くなっていく。そこにいる俺は泣いていた。そして急にその光景は光に包まれ俺は目を閉じた。
・・・目を覚ますと俺は何故か泣いていた。
夢の中で何かを見た気がするが内容が思い出せない。
「なんで泣いてんだ?」
涙を拭いて、時計を見た。ちょうど7時を過ぎたぐらいの時間だ。1階のリビングに向かうと、いつもなら起きて朝食を作っているはずの夏音がいなかった。
葉月 夏音、両親が急に世界一周旅行に行くと言い出し、俺の家に泊まることになった。
「まだ寝てるのか?」と呟き、
顔を洗うために洗面所へ向かった。この後、俺はとてつもなく後悔する事になる。
洗面所の前まで着き、戸を開けた。するとそこには2人の女の子がちょうど風呂から上がり、タオルを巻く瞬間だった。
2人の顔が真っ赤になった。俺は寝ぼけていたので、
「あれ、夏音?それに……春香?あ、風呂入ってたのか、……風呂?」
ようやく自分の置かれている状況が分かった。
「あ、その……どうもすみませ……ぶっ!」やはり言い終わる前に夏音の蹴りをくらった。洗面所から放り出された俺はしばらく腹を押さえ、台所の水道で顔を洗った。
「最初からこっちで顔洗えばよかったな……。」と溜息を吐いていると、
「ねぇ、しゅう?そんなに女の子の裸が見たいのかしら?」と後ろから聞こえた。ゆっくりと振り返ると、私服に着替え、悪魔のような形相でこちらを睨む夏音と、顔が赤くなって照れている春香の姿があった。ここまで反応が両極端だとは…….。
「いや、あの、今回も不可抗力で……。」
「何が不可抗力よ!私はあなたに2度も見られてんだからね!」
「いや、まぁ、確かにおっしゃる通りなんですけど……俺もわざとやってるわけじゃないんで……。本当にすいませんでした!」
その場で土下座をした。
「か、夏音先輩……その、許してあげても良いんじゃないですか?謝ってますし。」
春香が女神のように見え、春香を拝んだ。
「はるちゃんが言うなら……じゃあ最後に質問!この質問に正直に答えたら許してあげるわ!」そう言われ、俺は息を呑んだ。夏音の顔が少し赤くなった。
「そ…その、私達……のか、体…どこまで見たのよ?」
「そうだな、上半身は見え……ぶっ!」本日2度目の蹴りをくらった。
「お、おい!俺は正直に答えたぞ!」
「それでも女の体を覗いた罪は重いわよ!」
「2人とも落ち着いて下さい!」
今日はいつもより賑やかな朝だ。
昨日の電車ジャック事件で春香が俺の家に泊まることになった。
弥生 春香、夏音の今の状況とは真逆の女神だ。
「っていうかそもそもなんで2人で風呂に入ってたんだよ?」と聞くと、
「それは男子には分からないわよ。」と意味の分からない回答が返ってきた。
「さ、さて、そろそろ朝食でも作ろっか。」
と、夏音が言うと、
「あ、私が作りましょうか?少しくらいなら作れますけど……。」と春香が言った。
「いいのか?別に俺や夏音に任せてもいいんだぞ?」と言うと、
「いえ、私が泊まらせていただいているので少しでも何かしたくて。」
「俺の家に泊まった初日の夏音がそんな事言ってたような……。まぁいいか。じゃあよろしく頼むよ。」
「じゃあ私は10分くらい外散歩してこよっかな。」
「なんでだよ?」
「外の空気を吸いたくなって。それにしゅうの家に泊まる前までは朝起きたら散歩してたのよ。」
「お二人で行ってきたらどうですか?朝食の準備が出来そうになったらメール送りますので。」そう言われたので俺と夏音は顔を見合わせた。
「わ、私は別にいいけど。」
「そうか、まぁ朝食出来るまですることもないし、行くか、散歩。」そう言って2人で家を出た。
ーーー2人が家を出るのを確認し、
「よし!やるぞ!」と気合を入れた。といっても簡単な朝食を作るだけなのだが……。
「さて、まずは目玉焼きでも作りますか。」卵を3個冷蔵庫から取り出し、フライパンを用意した。ここで何故かチャレンジ精神が生まれた。
「普通な感じだとな〜。特別感を出したいですね〜。何か無いかな〜。」と冷蔵庫をあさっていると蜂蜜とハムなど色々な調味料や食材を見つけた。
「どれか使えないかな〜?蜂蜜?ハムは普通過ぎる気がするし、あ、全部入れちゃえばいいか。」という結論に至った。
数分後、かなり匂いのキツい目玉焼きが3個出来た。
「あれ?どうしてこうなったんだろ?でも卵もうなくなっちゃいましたし、これで完成にしましょう!」そして次のメニューを考えた。
「そうですね〜。簡単なスープでも作りますか。確かこの辺にさっきコーンスープがあったはず………ありました!」
ーーーしばらく散歩していると、春香からのメールがあったので帰宅した。そして今、俺と夏音の前には見たこともない、芸術的料理が並べられていた。
「おい……春香。一体何をどうしたらこうなるんだ?」
「いや、なんかアイディアが次々と浮かんできて……こうなりました。」
「普通でいいんだよ!普通で!」
「いや、こ、これはこれでありかも……。」流石の夏音もフォローが上手くない。
「よし!分かった。食べよう、もう早く食べたくてしかたがない!」
「そうです、問題は味ですから!みなさんで一緒に食べましょう!」
「分かったわ、覚悟を決める。……よし!」
3人の決意が固まった。一斉に目玉焼きを口にした。
「…………ん?以外といけるぞ。ちょっと辛味が効きすぎてるけど悪くない。」
「うん、おいしい!」
「まずくなくてよかったです〜。」と3人は安堵した。
「ん?このコーンスープは何も隠し味とか入れてないのか?色が普通だけど。」
「いえ、何種類か入れたはずなんですけど、色が変わりませんでした。」
「そっか、じゃあいただきます。」目玉焼きが実際に美味かったのでコーンスープも美味しいだろうという予想で3人はコーンスープを口にした。
「………刺激的な味だな……これ。」
「はるちゃん、何入れたの?」
「はっきりとは覚えていませんが……ニシンと唐辛子と………後は苺を……ミキサーで混ぜて入れました。」
「え?苺?あ、しゅう、今日苺も買わないと……。」
「……絶対言うと思った。っていうか口の中がそれどころじゃないんだが!」
「すみません!凄まじいものを作ってしまいました。料理は普通にレシピ通り作るようにします。」
「あぁ、そうだな………。」
すると夏音が笑い出した。
「確かに最後のはあんまり美味しくなかったけど、思い出にはなったかな。良い意味でね。」
「……そうだな。」と3人で笑った。
それから暫くして、大都市イプシロンを目指すことにした。
「電車は止まってるから……バスで行くしかないか。」
と俺が提案すると、
「そうだね、良いと思うよ。」
と夏音が賛同した。
「なんだか、ワクワクしますね!イプシロンなんて行ったことありませんし。」
「そうだったのか。俺は何度か行ったことあるな。」
「私は先月行ったかな。」
「そう言えば夏音と遠くに出かけるのも小学生の………。」と言葉が詰まった。
「……どうしたんですか?…しゅう先輩?」
「は、はるちゃん。この話はもう終わり。イプシロンに行こう!ね、しゅうも!」
俺は我に返り、
「そ、そうだな。」と言って家を出た。
春香は「訳が分からない」というような顔をしていた。しかし、追求はしなかった。春香には話さないといけない。そんな気がした。
ーーー10時過ぎくらいに大都市イプシロンの中心街に着いた。久しぶりに来ただけあってショッピングモールもかなりの大きさになっていた。
「凄すぎです〜!」と春香があまりの大きさに感動していた。
「あ!あれは何ですか?あっちにあるのは何ですか!あそこにも何かありますよ!」と
「は、はるちゃん!1つ1つ見ていくから落ち着いて。」
「懐かしいのもあるけど変わってない所もまだあるな〜。」
と懐かしい光景に浸っていると、
「しゅう、はるちゃんがあっちに行きたいって。」と言ってきた。向こうから春香が手を振りながら跳びはねて「こっちです!」とアピールしていた。
「なぁ、夏音。”さっき話そうとした事”春香には伝えるべきか迷ってるんだけど。」
「うん、それは私も思ってた。でもはるちゃん、昨日の事件の後2人でしゅうの家に着いた時も私がしゅうのお母さんの部屋使ってる事に不思議そうな顔してたのよ。」
「そりゃそうだろうな。」すると夏音は続けた。
「でもね、何も聞こうとはしないの。はるちゃんは私達が話そうと思う時まで何も聞かないと思うよ。」知らなかった。さっきもそうだ。
「どうしてお父さんやお母さんがいないんですか?」などと普通なら聞くだろう。
「まさか春香に気を遣わせてたなんてな…。昼飯の時ちょっと時間とっていいか?」
「……うん、話すんだね。」
「あぁ、無理そうだったらお前に話してもらう。」
「何それ、ふふっ♪……分かった。」
「もう!秋翔先輩、夏音先輩!遅いですよ!早く早く!」と春香が近づいてきた。
「ごめんね。それで、どこに行くんだっけ?」
「あそこの大きいタワーですよ!」
「あぁ、イプシロンタワーだな。」
「安直なネーミングですね……。」と春香に言われた。
「俺に言うなよ、考えたのは俺じゃない。」
「2人とも、そんな話してるとお昼ご飯食べるの遅くなっちゃうよ。」と夏音が言うと、
「それはダメです!お腹が空いて動けなくなります!」と言ってダッシュでイプシロンタワーへ向かった。
・・・誰かに見られている。そう思って振り返るが人がたくさんいて分からない。気のせいと思って前を見ると2人の姿が小さくなっていた。
「お、おい!待てって!」2人は俺を待つ事なく走って行った。
息を切らしてイプシロンタワーに辿り着くと、チケッを買った夏音と春香が近づいてきた。
「はいこれ。しゅうの分。…どうしたの?」
「どうしたの?じゃねぇよ!走って行くことないだろ。」
「しゅう先輩って以外とスタミナ無いんですね。」
「春香、ちょっとそれは傷つくからもう言わないでくれ。それとスタミナないんじゃなくて……誰かに見られてるんだよなぁ。」
「…….?誰によ?」
「わかんないけど……。さっきお前らが走って行った時に感じた。」
「こんな大都市なら誰かに見られるってのは仕方ないんじゃない?待ち合わせをしていて顔が似ていたら確認とかするかもしれないじゃない。」
「いや、あの感覚はそんなんじゃなかった気がするんだよな、。まぁいいや今は感じないから。上に行って景色楽しもうぜ。」と言うと、
「……そうだね。行こっか。」
「楽しみです!」と行ってエレベーターに乗った。
最上階まで着くと、春香はすぐに窓の方に向かった。
「うわぁ〜〜。感動です〜!」
「何度見てもここからの景色は最高ね♪」
「あぁ、そうだな。春香も楽しそうでなによりだ。」
「はい!全力で楽しんでます!」そんな会話をしていると、また背後からさっきの視線を感じた。振り返ると1人のフードを深く被った何者かが慌ててエレベーターに乗った。
「あいつか!夏音、春香を頼む。」
「え?しゅう、どうしたの?」
「後で話す!」と言ってフード男を追いかけた。エレベーターの扉が閉じた。
「くそっ!」周りを見ると階段があった。
急いで駆け降りた。
「あいつは一体誰だ?けどあの視線、どっかで……。」
「おい、シュウ。そのまま走っててもらって構わないけど話を聞いてくれねぇか?」とストラップになっていたイグニが言った。
「ん?急に何だよ?」
「伝えるか迷ったけど伝えることにした。昨日の電車ジャック犯、指名手配されてるんだろ?」
「あぁ、生徒会長が言ってたぜ。お前も聞いてただろ。」
「あいつ近くにいるぜ。まぁ今追っかけてる奴は違うけどな。」
「は?マジかよ、今度はここを爆破する気なのか!」
「いや、違うと思うぜ。電車の上にあった爆弾は魔力を感じた。けど今は何も感じない。」階段を下り終えると、フード男は人混みに紛れて見失ってしまった。
フード野郎は一旦諦め、イグニの話を聞くことにした。
「つまりどういう事だ?」
「あいつは別の目的でここに来てる、っていう事。」
「別の目的って何だ?」
「俺が知るかよ、ただ別の目的って事しか分かんねえ。」
「普通の爆弾なら魔力反応しないんじゃないか?」と、イグニに言うと、
「……それは考えてなかったな。さすが相棒だぜ!」
「馬鹿野郎!もし爆弾があったら……。」と考えていると、
「あれ?秋翔くん?やっぱりそうだ!」と聞き慣れた声がした。
「詩織か?何でここに?」
「それは私が聞きたいんだけど、私はみんなでイプシロンタワーに来たのよ。秋翔くんは?」と詩織が言った。詩織の後ろには女子が3人いた。チームだろうな、と思った。
「俺は夏音たちと…」と話そうとした時、
「シュウ!ジャック犯がいた!」とイグニが言った。
「どこだ!」、「左前だ!」言われた方を向くと、確かにあの男がいた。フード男も気になるが今は後回しだ。
「わるい詩織。また明日な!」と言って男の尾行を開始した。
ーーーしゅうがどこかに行ってしまった。
「もう!しゅうってば!」
「しゅう先輩どうしたんですか?」
と、はるちゃんが私に話しかけてきた。
「あ、ううん。大丈夫。すぐ戻ってくるから心配しないで。」
「……しゅう先輩ってすごいですね。行動力と言うか何というか、憧れます。」
「しゅうはバカなだけよ。」すぐさま否定した。まぁそんなしゅうの行動力には過去の出来事が関係しているんだろうと思った。
「……ねぇはるちゃん、しゅうの過去について……知りたい?」
「え?急にどうしたんですか?」まぁ当然の反応だ。
「さっきしゅうと話してたんだけど、はるちゃんに伝えるべきだと私は思うの。」
「……まぁ知りたいは知りたいですけど、いいんですか?しゅう先輩いないですけど。」
「いいわよ、あんな奴。早めのお昼ご飯にしましょう。食べながら話すから。」と言ってイプシロンタワーの食堂へ向かった。
食堂の席に座ってメニューをいくつか適当に頼んだ。
「いいんですか?かなり頼んだみたいですけど……食べきれますか?」
「大丈夫よ、はるちゃんもいるし、それに今は食べないと私の気が済まないし。」
「は、はぁ。」と、はるちゃんは目を丸くして驚いていた。
「どこから話したらいいんだろ?う〜ん。」
と考えていると、はるちゃんが
「夏音先輩の話したいところからでいいですよ。」
「はるちゃんは本当に優しいね。そうね……やっぱりあの事件の日の最初から話した方がいいかな。………準備はいい?」
「は、はい。」と、はるちゃんは少し緊張していた。
「私としゅうが小学3年生の頃、しゅうのお父さんとお母さん、4人でイプシロン遊園地に行った日だったの。」
ーーー爆弾男を尾けていると、路地裏へと入って行くのが見えた。急いで路地裏へと入り、角を曲がった。不良の溜まり場のような広い空間があったが爆弾男の姿はなかった。
「どこ行った⁉︎あの野郎!」と言うと、
「ここだよ。」と上の方で声がした。上を見ると、空を浮いている爆弾男の姿があった。
「尾行下手だね〜、バレバレだよ。」
「さすが指名手配犯だな。」
「いや、君が尾行下手なだけ。なんか褒められてるのかよく分からないな。まぁいいや、僕の事は”ゼノン”って呼んでよ。」
「お前とそんな仲良くなるつもりはねぇよ。それよりお前、イプシロンタワーに爆弾仕掛けただろ?」
「イプシロンタワーに行ったのは人と会う約束があってね。そのついでに君を誘い込んだんだよ。それじゃあ、紅葉 秋玄という男について話そうかな?」
「お前……何で俺の父親の名前を知ってる⁉︎俺はお前に苗字を名乗った覚えも、父親の名前を言った覚えもない!」
「それは秘密だけど、あの事件が事実かどうか確認したくてね。君と話をしたかったんだよ、あれは”面白い過去”だよねって。」
「イグニ!あいつをぶっ飛ばす!」
「あぁ、俺も流石にブチ切れたぜ!」イグニは一本の剣に姿を変えた。
「戦う気はないって言ってるじゃん。重力拘束。」
身体が一歩も動かなくなり、倒れこんだ。
「くそっ、何だこれ。身体が動かねぇ。」
「そこのフードの君も邪魔するなら拘束するけど?」
意味がわからなかった。しかし次の瞬間、俺が入ってきた通路からフード男が入ってきた。
フード男は喋らず、ただ立っていた。どうやらこの現場を見ていたいだけらしい。
「よし、じゃあ始めようか。あの事件は君が9歳、小学3年生の頃に家族と友達の4人でイプシロン遊園地に遊びに行った日だった。」
ーーー父さんと母さんと遊びに行けるなんて久しぶりだ。それに幼馴染の夏音とも一緒に行けるなんて思ってもいなかった。こんなに楽しみなお出かけは久しぶりだ。
「お父さん、お母さん。早く早く!夏音も待ってるよ。」
「私は大丈夫ですから、忘れ物がないようしっかりチェックして下さい。」
「本当に夏音ちゃんは優しいね、でも大丈夫。もう準備できたから。」と父さんは夏音の頭を撫でた。少し嫉妬を感じたが母さんに頭を撫でられたので機嫌はすぐに直った。
父さんは仕事上、偽名?コードネーム?と言うよく分からない言葉を使っていて”紅蓮”と名乗っているらしい。本名は紅葉 秋玄。
父さんの仕事は警察の特務部隊?で精霊使いらしい。たまにお父さんの精霊と遊んでいる。名前をカグツチと言う。父さんは特務部隊では一番強いらしい。なので自慢の父ちゃんだ。
母さんの名前は紅葉 優姫、家の家事を全て完璧にこなす自慢の母ちゃんだ。
何故ここに夏音がいるのか、この間、母さんに聞いた。すると”ママ、ちょっと世界遺産見に行かないかい?”、”でも夏音は学校もあるのよ。”、”秋翔くんのところに泊まらせていただけばいいよ♪”、”……そうね♪”と言って世界遺産を周っているらしい。すごい家族だなと思った。
父さんが車を家の前につけて、俺たちは乗った。
「ところで2人とも、イプシロンに行くのは初めてだろう。イプシロンはすごいぞ〜、でっかいビルがいくつもあるんだぞ。」と言って車を発進させた。
「でっかいビル⁉︎そんなのここにもいっぱいあるけどな。」と僕が言うと、
「こんなもんはイプシロンでは小さいもんだぞ。びっくりするぞ〜。」
「パパ、ハードル上げない方がいいわよ。」と母さんから言われていた。
「それよりあなた達もイプシロンに向かうまでは少し時間かかるから寝ていた方がいいわよ。着いてから眠くなったら遊園地楽しめなくなるわよ。」と言われたので夏音と顔を見合わせ、「それは嫌だ。」と言って2人で寝る事にした。
しばらく眠っているとお 父さんと母さんの話し声で目が覚めた。
「パパ、秋翔は本当にたくましくなったわよね。一応私だって精霊使いなんですから。」
「でもやっぱり心配とこもあるぞ。秋翔は目を離すと何するか分からないし。」
「だから私が見てるって。夏音ちゃんもいるしね。」
「……そうだな。秋翔を頼んだぞ。そして秋翔、母ちゃんを頼んだぞっ!って寝てるから聞こえてないか。」
言われなくても 分かってるよ、父さん。そしてまた眠りについた。
次に目が覚めると夏音が窓の外を見ていた。
「お、秋翔!起きたか。イプシロンに着いたぞ、窓の外を見てみろ。」お父さんに言われた。
「ねぇ、しゅう!すごいよ、見て!」夏音も大分興奮していた。
「なんなんだよ……って⁉︎すげ〜〜!!」外を見ると巨大なビルがたくさん並んでいて自分の住んでいる町もたくさんビルはあるが、どれも小っぽけだったと思ってしまった。
「どうだ、これがイプシロンだ!」と父さんがドヤ顔で言った。
「別にパパが作ったわけじゃないからね?ドヤ顔なんてしなくていいのよ。」
「いや〜、ついつい。」
「遊園地!遊園地はどこなの?」と聞くと、
「そりゃもうあの大きい観覧車があるところだよ。」と斜め前を指した。そこには今まで見たこともない大きな観覧車があった。
「す、すげ〜!」夏音はあまりの驚きの連続で声が出ていなかったが目がキラキラと輝いていた。
「もうちょっとだからな。楽しみにしとけよ〜。」
楽しい思い出になるだろう。俺はそう思っていた。
……… あの事件が起こるまでは。
8,〜秋翔の過去 中編〜
「なんだかここまで聞くとすごく仲のいい家族と思っちゃいますね。」と私は言った。
「えぇ、私も家族の1人のように接してくれて……本当に楽しかったな。」夏音先輩はうっすらと涙を浮かべていた。
するとウェイトレスが料理を運んできた。
全10品の料理がテーブルに並べられた。
「か、夏音先輩?本当にこれ食べれます?1品でもかなりの量だと思うんですけど…。」
「大丈夫よ、話してればお腹も空くし。それにしても、しゅう遅いわね。全部食べ終わっちゃっても知らないわよ。」これを全部食べるのか、夏音先輩って以外と食べ盛りなんだな。と思いながら夏音先輩を見た。
しゅう先輩と夏音先輩の小学生の頃の話を途中まで聞いたが今の所は本当に仲の良い家族と友達だという事は分かる。これから一体何が起こるんだろう?
「はるちゃん?どうしたの?食べないの?」
少し疑問があったので言うか迷ったが、思い切って言ってみた。
「夏音先輩、きっと今の話の後、大変な事が起こるんですよね?何でそんなに明るく話していられるんですか?私だったら……そんなに明るく話せません。」
変な質問だったかもしれない。本当は、私はその答えが分かっていたのかもしれない。
「え、えーっと。そうねぇ……、……本当はつらい……かな。」言わせてしまった。その目には涙がまた浮かんでいた。
「す、すみません!変な事聞きました。もういいです、無理して話さなくても大丈夫ですよ。」と私は話を止めようとした。すると夏音先輩は頭を横に振った。
「ううん、違うの。はるちゃんの言う通りだよ。これから話す事は本当はあってはならない事だし、この先2度と起こってはならない。こんな悲しい思いをするのは……って考えたら……ね。だからせめて明るく振る舞おうと思ったんだけど……ごめんね。変な話しちゃって。」
「い、いえ。大丈夫ですよ。明るいいつもの夏音先輩がいいんですよ!……でも泣きたい時は泣いていいと思います。」夏音先輩は笑っていて、涙も浮かべていた。本当につらい過去がこれから夏音先輩が話す事に詰まっている。そう思った。
「ありがと。それじゃあ…続きを話すね。はるちゃんには話しておきたいから。」
ーーー「何でお前がその話を知ってる?」こいつは俺の全てを知っている、そう思った。
イプシロン遊園地の事件を知っているのなら納得出来るのだが、俺たちの車の中にいたときの会話も知っているなんて、
「お前一体何者だ……?」
「ん〜、それは言えない事になってるけど…いずれ分かると思うよ。それより、そろそろ無関係なフード君にはご退場願おうかな?」
「………。」フード男はその場から動かなかった
「動かないのなら重力拘束。」
「……氷影。」初めて喋った。しかしその瞬間、謎のフードは呆気なく捕まり、重力拘束で動けなくなった。ゼノンは近づき、
「何かしようとしたみたいだね。でもごめんね。さようなら。」と言って手を構えた。
「やめろ!そいつは関係ないだろ!」
「関係なくても聞いてたんだから仕方ないでしょ?命令なんだから。」
「……氷砕。」
そう聞こえた時、ゼノンの目の前で下を向いていたフード男は氷となり砕け散った。どうやら最初の魔法で逃げていたらしい。
そして氷の破片がゼノンを目がけて飛んだ。
「重力壁。」至って冷静に対処していた。
「 ふー、危ない危ない。さて、”本体”はどこ行った?」
2人を遠くで見ていたからこそ、目で追う事が出来たが、実際に戦っていたらどうなっていたか分からない。
フード男はゼノンの背後に回っていた。
「……氷槍。」ゼノンの体を氷の槍が貫く瞬間、ゼノンは横に回避した。
「そんな低魔法じゃ倒せないよ?本気出しなよ。重力剣。」2人の間に空気を圧縮した剣が地面に刺さった。その衝撃でフード男の顔が見えた。
見覚えのある顔だった。フード男、ではなく女だった。
武精学園の生徒だ。化学の授業で見たあの水色の短髪にはあまり似合わない、冷徹な目の女の子だった。
「お前……、どうしてここにいるんだ…?」
「…………。」彼女は何も答えなかった。
「おや?お知り合いだったのかな?……ならせめて死ぬ前に紅葉秋翔の過去について知りたいでしょ?全部話したら殺す。それでいいね?」……ゼノンは本気だ。そして余裕で俺たちを殺す事ができる。
「おいお前!逃げろ!」、「………。」何も答えず動かなかった。
……どうして逃げないんだ?
「うん、それじゃあ続きを話そうか。」
ーーーイプシロン遊園地は既に沢山の人で賑わっていた。
「ここで今日1日パーっと遊ぶぞ!」
「おー!」、「おー♪」父さんの掛け声の後に、俺と夏音は返事をした。それを見て母さんは笑っていた。
「夏音ちゃん、どこに行きたい?」と父さんが聞いた。
「え、えーっと、観覧車!観覧車に乗りたい!」と夏音が言った。
「おい、夏音もうちょっと考え……」言い終わる前に父さんから首根っこを掴まれ小声で、
「夏音ちゃん、楽しそうだろう。この遊園地に着くまでずっと元気なかったんだぞ。窓の外見てた時だって、悲しそうに眺めてて、お前が起きると涙を拭いて、お前と話してたんだぞ。」そうだったのか……知らなかった。
きっと夏音も家族と来たかったのだろう。
「よし!夏音!観覧車行くぞ、そして今度はお前の父ちゃんと母ちゃんも連れてこよう。その時のために楽しいアトラクション探しとくんだ!」と僕は言った。
すると夏音は笑って、「うん!行こ!」と答えた。その笑顔で俺は顔を赤らめていた。きっと夏音も気づいていただろう。
観覧車はかなりの人が並んでいた。係員は1時間ほどかかると言っていた。
「1時間か……全然大したことないぜ。」かなり強がったかもしれない。
実際待ち時間はとてもつらい物だった。やる事もなくただ待っているだけだったので、順番が回って来た時はとても嬉しかった。
前の席に父さん、母さんが乗り、横の席には夏音が乗った。車の中とほとんど変わらない筈なのに何故かこの時はすごくドキドキしていた。するとそれを知った父さんが、
「どうしたしゅう、顔が赤いぞ〜。」と言ってきた。
「う、うるせ〜!あ、赤くなんかなってないよ!」相当赤かっただろう。本当に恥ずかしかったのだから。母さんはそんな俺を見て、
「うふふ、それよりも景色を堪能しなさい。綺麗よ♪」と話を逸らしてくれた。逸らしてくれただけでなく、本当に窓の外は絶景だった。
「すっげ〜!」目を輝かせて見ていた。夏音も声は出さなかったが横で感動していた。
ようやく半分くらいに来た所で、突然父さんの携帯が鳴った。
父さんは半分面倒くさそうに携帯の画面を見た。しかし次の瞬間、父さんは今まで見たこともないような真剣な顔をしていた。
「もしもし、私です。」コードネームを使っていた。それだけで僕は嫌な予感がした。
「司令官、どうしたんですか?はい…。」言葉を途中で止めた。恐らく俺や夏音に不安を抱かせたくなかったのだろう。でも相手の会話の内容が俺には聞こえていた。これでも耳はかなり良い。
イプシロン遊園地。指名手配。
「ママ、観覧車を降りたら、”秋翔”と”夏音”を頼む。俺は少し行くところがある。」”しゅう”や”夏音ちゃん”とは呼ばなかった。
「はい、わかりました。」母さんは敬語を使っていた。
すると父さんと母さんは真剣な顔つきでこう言った。
「しゅう、夏音ちゃん、この観覧車を降りたらママと家に帰りなさい。そしてママの言う事をしっかり聞きなさい。いいね?」
「お父さんは?どこ行くの?」と俺が聞く隣で夏音も不安そうな顔をしていた。そしてその不安が的中し、大きな爆発音と振動が遊園地の中に響いた。メリーゴーランドがあった場所が炎に包まれ見えなくなっていた。
観覧車が下に着くと、父さんは、
「ママ、精霊を出しておいて。そして速やかに遊園地から逃げて。……カグツチ、行くぞ。」
その言葉に応えるように、カグツチは紅い剣になった。
「しゅう、夏音ちゃん、こっちよ!」と母さんが手を取って、走り出した。
この時、すごく嫌な感じがした。
駐車場に着くと、既にそこは沢山の車が我先にと車を出そうとして混雑していた。
既に警察の人も何人か来ていた。
俺は遊園地の方を見た。すると、また爆発した。一体何が起こっているんだろう?父さんは無事なのか?不安が頭を覆い尽くした。
「パパが心配?」と、母さんが声を掛けてきた。
「う、うん。 」と答えると、
「パパは強いから大丈夫よ。」と優しく声で言われ、少しばかりか気が楽になった。
すると遠くの方の会話がふと聞こえてきた。
「うちの息子がまだ遊園地の中にいるんです!お願いです!行かせて下さい!」と叫んでいる女性がいた。警察に止められ、泣き崩れていた。
あの爆発している中に子供が……。そう考えると足が遊園地の方に向いた。そして走って遊園地の改札口へ入ろうとすると、警察官が止めにきた。
「ぼく、止まりなさい。ここから先は危険なんだ。」そんな言葉は今の僕には関係なかった。警察官の手を巧みに躱し、遊園地の中へと入った。
「なんだよ……これ⁉︎」
遊園地の中は僕たちが入ったあの賑やかな感じは全くなくなり、無惨にも壊れた乗り物などが、転がっていた。一刻も早く男の子を探さないと。
「おーい!……名前分かんねぇ。」聞いておくべきだった。そんな事を考えていると、後ろから足音がした。振り返るとそこには目に涙を浮かべた男の子がこちらを見つめていた。
「いた!おい、お前、早くここから逃げるんだよ!こっちついて来い!」男の子は僕と同じくらいの背だったので、同い年かな?と思った。
その子は安心したのかこっちに少しずつ近づいてきた。しかし、急に顔が恐怖で埋め尽くされた。その子の視線は俺の後ろに向いていた。
振り向くとそこには、黒いマントで顔は見えなかったが、手には黒く大きな鎌を持っていた。まるで死神のようだった。
「あ………あ……。」あまりの恐怖に腰が抜け、声も出なかった。黒マントは鎌を振り上げ、鎌を降りおろす瞬間、俺は目を閉じた。
しかし鎌は紅い剣によって、俺の目の前で止まっていた。
「大丈夫か、しゅう?」父さんだった。
「お父さん!」父さんの目つきは真剣なままだったが、声はいつもの父さんの声だった。
父さんなら負けるはずがない。絶対に勝ってみんなでまた遊べる。そう思っていると、父さんが、
「しゅう、あの子の近くにいてやれ、そしてなるべく動かないでいてくれ。いいな?」
「う、うん。分かった……。」男の子の近くに走った。怯えているがどこも怪我はしていないみたいだ。
そして今、父さんと黒マントの死神とのバトルを真近で見ることになる。
どうも改めまして、作者の伊藤 睡蓮です。次回は秋翔の過去の後編から始まります。お楽しみに……というところでキャラクターの紹介をしていきます。
まずは生徒会書記、叶瀬 二葉ちゃん。17歳、2年1組。黒髪で短髪の女の子。生徒会長の命令には必ず従う。今回は登場しませんでしたが次回は登場するかも……。武器は魔道書、精霊はトライです。
続いてゼノンさん。年齢不明、白髪で指名手配犯の男。心にいつも余裕があり、冷静に物事を対処する。武器は不明。精霊も不明だが、重力系の魔法を使う。
今回はこんな感じで終わりたいと思います。次回の投稿をお楽しみに〜。