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精霊剣士の物語 ~Adasutoria~  作者: 伊藤 睡蓮
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精霊剣士の物語 〜Adasutoria〜其の三

どうも作者の伊藤睡蓮です。当分投稿出来ないと思ってたら小説書きたくなって書いてたら出来ちゃったので投稿しますね。其の一、其の二、見てくださってる方、初めて見る方もありがとうございます。後書きでは恒例のキャラクター紹介をしたいと思います。

5,〜仲間と孤独〜


ーーーとある豪邸

ふと窓の外を見た。朝日が町を照らていくのを1人の少女は見て、そして呟いた。

「 今日も嫌な1日が始まるのね。」


ーーー「しゅう、そろそろ起きないと遅刻しちゃうよ!」

その声で紅葉(くれは) 秋翔(しゅうと)は目が覚めた。


「お、やっと起きた♪おはよう、しゅう♪」


「夏音か……おはよう。」と言って欠伸をした。葉月(はづき) 夏音(かのん)、幼馴染で両親が世界一周旅行中で俺の家に泊まっている。


「もうご飯出来てるから。先に下に行ってるね。後、1人で起きないとダメだからね!」

と言って俺の部屋を後にした。


下へ降りるとテーブルには料理が並べられていた。


「毎日悪いな、朝飯作らせちまって。」


「泊まらせてもらってるしね。それに私、料理作るの好きだし。」


「それならいいんだけど。そう言えば今日は生徒会室にチームの登録しに行くんだよな?いつ行くんだ?」


「その話、”あの後”話したじゃない。放課後に3人で行こうって。」

”あの後”……あぁ、嫌な先輩3人組とドンパチやった後か。


「そう言えばそんな事も話してた気がするような……。」


「まぁ結構しゅう疲れてたからね。無理もないか。」疲れていたのもあるがあの時、謎の精霊の気配を遠くで感じたとイグニが言っていた。イグニはどうやら精霊の中でも鼻がいいようだ。

かなり遠くからだったが何かしらの力を使ったから分かったようだ。


「ねぇ、あなた達。そろそろ学園に行く時間よ。」とアクアが言った。アクアは普段魔道書になっていてイグニのように動物の姿にはならない。


「そうだな、ありがとなアクア。イグニ、お前も準備しとけよ。」


「俺はただ姿変えるだけだろ。シュウこそ準備しとけよ。」と自分の尻尾でクルクルと遊んでいた。まぁ正論だ。支度を済ませ、俺と夏音、それからイグニとアクアで学園に向かった。


ーーー今日も学園に通うのか。今日はどんなイベントが起こるのだろう。机の上に落書きか、靴がなくなるのか、……もうどれでもいい。


ーーー教室に着くと変な感じの雰囲気が漂っていた。クラスの全員が俺を見ていた。


「しゅう、人気者だね♪」

夏音はそう言ってスタスタと自分の机に向かった。


(な、なんで俺こんな見られてんだ。)

そう思って教室に一歩を踏み出す事が出来ない。恐る恐る踏み出すと一気に周りを囲まれた。

そしてその中の男子が言った。

「なぁ、お前昨日………先輩3人と戦ってたよな!すげーなお前!」


「3年生にあそこまで歯向かう奴なんて中々いないよ!」などと絶賛された。


「お、おぅ……。ここまで褒められると逆に怖いな……。」そんな事を話してどうにか話を切り上げ、自分の席へ着くことができた。


「はぁ〜。」と溜息を吐くと、


「おはよう、しゅうとくん。」

詩織が声をかけてきた。


「おはよう、詩織。ったく夏音。少しは助けてくれてもいいだろ。」


「つい面白くて見てちゃった♪」……こいつは本当に昔からこういう性格だ。普段は優しいがたまにこういう行動をとる。


「なぁ夏音。来週からチームの自由時間が始まるんだよな?」


「うんそうだけど、どうして?」


「いや、俺ら”あいつ”の事ほとんど何も知らないだろ?だから色々知るためにどっか行こうかなって。」

”あいつ”とは弥生(やよい) 春香(はるか)だ。昨日新しくチームに加わった。


「それいいかも!じゃあショピングモールに行こうよ!ね!」

ここまで迫ってくるという事は……。


「お前何か欲しいものあんだろ?」


「う、いやいや春香ちゃんともっと仲良くなりたいだけだよ…。……そのついでに買い物したいだけだから!」


「まぁいいや。買い物は自由にすればいいし。散歩感覚で楽しもうぜ。」


話終えるとタイミングよく教室に吹雪先生が入ってきた。

「皆さんおはようございます。昨日は色々ありましたがその話題に夢中になり過ぎてチーム登録し忘れた!何てことにならない様にしましょう。後は特に話す事も無いしあっても面倒だから、今日はこれで朝のSHRは終わります。」

・・・なんて簡潔的なSHRだ。これが学園長風SHRなのか。とクラスの全員が思った。


ーーー今日は”まだ”何も起きていない。珍しい事もあるものだ。そう思っていると私の周りをいつもの女子5人組が周りを取り囲んだ。ようやくお出ましか……。


「ちょっと放課後付き合ってもらいたいんだけど?いい?」


「断ったらどうする?」


「そりゃもちろん、こうする!」

腹の真ん中を思いっきりけられた。嗚咽が出た。


「お前に断る権利もねぇよ。落ちこぼれ。」


……そう、私は落ちこぼれ……。


ーーー「次の授業なんだっけ?」

と言うと夏音が、


「化学よ。」と即答した。


「授業の日程ぐらい覚えなさいよ。」


「2,3日じゃ覚えらんないって。どうやって覚えてんだよ?」


「今日の授業日程は一番覚えやすいんだよ。

数学、国語、倫理、化学、英語よ。5時間しかないんだから覚えやすいでしょ?」


「分かった。俺が聞いたのが間違いだったかもしれない。そうだなー分かりやすいなーうん。」


「何その棒読み、今日の授業日程すら分からない人に馬鹿にされたくないんだけど。」

などと言い合っているとチャイムが鳴った。


「夏音……ちょっと質問……化学はどこでやるんだ?」


「4階……そして私たち今2階………。しゅう!走るよ!」


「当たり前だ!」

言い終わる前に慌てて俺と夏音は4階の化学室へと向かった。


ーーー放課後……まぁ時間帯はどうでもいいけど、何をされるのだろうか。考えても仕方ない。次の授業の準備をしよう。……教科書がない………そう来たか。次は1,2,3組合同の化学だったはずだ。とりあえずノートだけでも持っていこう。


ーーー「まだ先生来てないみたい。」と息を切らしながら夏音は言った。


「あぁ、助かったぜ。」と言うと後ろから、


「なーにが”助かったぜ”だ。秋翔、それに夏音も、減点だ。」


「げっ、新井先生。」

新井(あらい) 龍磨(りょうま)先生、理科の授業を担当している。授業遅れの生徒、特に俺にはかなり厳しい。


「すいませんでした。次からは気をつけます。」と夏音が謝った。


「うんうん、夏音は席に着きなさい。」と言われ、夏音は自分の席に向かう前にこちらを向いて舌を少し出して笑ってから席に着いた。……あの野郎。


「すみませんでした。次からは気をつけます。」と俺が言うと、


「お前は1年の時もそんな事を言ってその次の授業も遅れてきたよな?」


「いや、あの…1年の頃は……すいませんでした。」

暫く怒られるだろうと覚悟した時、女子が1人、化学室に入ってきた。


「すみません。トイレに行っていて遅れました。」


「お前が授業に遅れるなんて珍しいな。まぁいい。2人とも席に着きなさい。」

この子のおかげで助かった。


「助かった、ありが……」お礼を言う前にその子は自分の席に迷わず向かっていった。俺が見たその子の目は誰も信じていないような、冷徹な目だった。


ーーー放課後になり、下校する人や部活動に行く人など様々だった。化学の授業で会ったあの子が気になっていて、なんとなく窓の外を眺めていると、夏音が教室に入ってきた。


「しゅう、早く生徒会室行こうよ。”はるちゃん”も生徒会室の前で待ってるって言ってたし。」


「おう、そうだな……。行くか。」


そうして2人で生徒会室に向かった。生徒会室の前では夏音の言う通り、春香が待っていた。


「しゅう先輩、こんにちは。」


「おう、春香。待たせてすまん。」


「いえ、大丈夫ですよ。」と話していると、


「ほら2人とも早く入るよ。」と夏音が生徒会室のドアを開けた。中に入ると生徒会のメンバーであろう男子が1人、女子が2人、面接の様に並んで座っていた。


「失礼します。チームの登録をしに来たんですけど……って生徒会長に副会長、それに生徒会書記の方じゃないですか!」

夏音は驚きながらそう言った。


すると真ん中の女子が、

「えぇ、生徒会長の神崎(かんざき) 零架(れいか)です。よろしくね。」白髪が似合う夏音と同じくらいの髪の長さの綺麗な生徒会長だ。


「生徒会副会長を務めさせていただいております、水瀬(みなせ) 滉一(こういち)と言います。」この人は知ってる。赤髪が特徴的だし、学園中の女子から人気の”イケメン”という奴だ。


「生徒会書記の叶瀬 二葉(かなせ ふたば)です。よろしく。」黒髪で短髪の清楚な感じが魅力的だった。

そんな事を考えていると生徒会長が、


「チームの登録に来たんだよね。ではまず、お名前を聞こうかしら。」と言ってきた。


「紅葉 秋翔です。」、「葉月 夏音です。」、「弥生 春香です!」


「秋翔くんに、夏音ちゃんに、春香ちゃんね。そっか、貴方が噂の秋翔くんか……大分派手に倉庫散らかしてくれたみたいね。」と睨まれた。


「あ、あははは……。すいませんでした。」と謝ると、生徒会長は笑った。


「冗談よ冗談。私もあの場にいたらきっと貴方と同じ行動をとってると思ってるから。それよりチーム登録なんだけどチームリーダーを決めてもらいたいんだけど。」


「チームリーダー?」


すると副会長が、

「はい。今後の活動のためにも決めていただきたい。」と言った。


「なるほどな。どうする?春香、夏音。」


「私はしゅうで良いと思うんだけど、春香ちゃんは?」


「そうですね……、このチームを作った人、ではどうでしょう?」


「このチームを作った……言い出したのは夏音じゃないか?」


「え、私なんかがリーダー⁉︎務まらないと思うけど……。」


「そうか?結構適任だと思うけどな。」と言うと夏音は顔を赤くして、

「じゃ、じゃあチームリーダー、や、やってみようかな。」と言った。


「では、葉月夏音さんがリーダーでよろしいですね?」書記が言った。


「はい!頑張ります!」


「ではこの箱の中にある数字が貴方達のチーム番号です。夏音ちゃん引いて引いて!」生徒会長は完全に楽しんでいた。


「生徒会長、遊びじゃありませんよ。」


「分かってるって。」


「ではもう少しお静かに。」

「ではもう少しお静かに。」と副会長と書記に言われた。生徒会長は顔を膨らませて、ふてくされていた。


夏音が生徒会長が持つ箱に手を入れた。

「じゃあ、これで。……えーっと、192番です。」生徒会長に紙を広げて言った。


「192番ね、わかりました。これでチーム登録は完了です。お疲れ様でした。」


「ありがとうございました。」

こうしてチーム登録が済み、生徒会室を後にした。


ーーー3人組が出てからすぐに「ふーー。今の3人で最後かしら?」


「どうでしょう?後10分程待ってみましょうか。」


「そうね滉一、それがいいわ。」


「生徒会長、楽しそう。」双葉が言った。


「だってチームだよ!ワクワクするじゃん!楽しいに決まってるよ双葉!」 と双葉の肩を思いっきり揺らした。


ドアが開いた。

すると1人の女の子がそこにいた。その体はボロボロだった。


「ちょっと貴方、大丈夫⁉︎」


「はい、大丈夫ですよ、このぐらい。」


「貴方は大丈夫でも私達が大丈夫じゃないわよ!双葉!」


「了解しました。”トライ”お願い。」そう言うと双葉が机の上に置いていた魔道書が光出した。


「回復Ⅱ(ヒール)。」

みるみる女の子の傷が癒えた。


「……ありがとうございます。」


「生徒会長の命令ですので、それに今の傷は普通に付けられた傷ではありません。確実に魔法を使われてそれを真正面で受け止めた。違いますか?」


「………傷を癒してくれた事には感謝しています。けど私はこんな話をしに来たわけじゃありません。1人で登録しに来ました。」


「やっぱり”女の子でも”1人で登録する子がいるのね。まぁ貴方が1人がいいって言うなら止めはしないわ。名前を教えてくれない?」


「・・・・・です。」その名前を聞き、私達3人は目を合わせた。


「そう、貴方が……。」


6,〜過去と今〜


「ちょっと、しゅう!急いで!」


「これでも十分急いでいるよ!」

今日は土曜日、学園はもちろん休みだ。だけど俺たちは焦っていた。


「何でしゅうはいつも大事な時ばっかり寝坊するのよ!」


「悪かったって。」


ーーーチーム登録を終え、俺たちは生徒会室を出た。


「来週からチーム時間……tt(チームタイム)が始まるんだよな。」


「そう、授業はいつ受けてもいいし、チーム練習でもいいし自由に街を歩いてもいい。ただしテストの赤点は35点から45点に上がるらしいけどね。」と夏音が初耳情報を言った。


「マジか!35点でギリギリなんだか10点も上がるのか!……終わった。」


「そう言うと思った。はるちゃんは?」


「しゅう先輩ほどではないですけど苦手な教科は50点とかありますね……。」と縮こまりながら言った。なんだか悔しかった。


「やっぱり勉強もするために授業もある程度出た方がいいか。それに3人で勉強するのもありかも。」


「なるほど、それは面白そうですね!」


「まぁその話は一旦置いておいて、土曜日3人で中央都市”イプシロン”に行かない?」夏音が言った。


「私としゅうで話したんだけど、私達は幼馴染でお互い色々知ってるけどはるちゃんの事はあまり知らないでしょ?だから交流ついでに買い物とか出来たらいいな〜と思って。」


「それ、とってもいいです!」


「休日使って交流してttで特訓やらをすればいい。」


「じゃあ決まりね♪明日の9時にイプシロン駅前の時計台の下で集合で♪」


ーーー現在8時45分。俺と夏音はようやくアルファ駅に着いた。


アルファ駅は休日で沢山の観光客が駅の中にある施設が武精学園の”新授業”という謎の割引セールやらで賑わっていた。


それどころじゃない!急いでイプシロン行きの電車に乗った。だいたいイプシロンに着くまで25分ってところか。


「少し遅れちゃうかな。はるちゃんに連絡しないと。」

と言って携帯を取り出し、春香にメールを送った。


「ちゃんと謝んないとな、春香には。」


「私にも謝りなさいよ。というか感謝しなさいよ。」


「はいはい、ありがとうございますーー。」

そう言った瞬間横から殺気を感じた。


「……もう起こしてあげないよ?永遠に。」


「すいませんでした。とても助かっております。ありがとうございました。」殺気が消えた。


「そうそう、それでいいのよ♪」

こいつを敵に回してはいけない、そう確信した。

夏音の携帯が鳴った。どうやら春香からの電話らしい。


「もしもしはるちゃん、ごめんね?え、どういうこと?」何かがおかしかった。急に夏音の口調が変わっていた。


「はるちゃんの乗ってる電車、誰かにジャックされたみたい。」


「冗談はよせよ、そんなニュース流れて無い……。」

その瞬間ニュースが速報で8時30分に出発したイプシロン行きの電車がジャックされ、都市を回っているというニュースが流れた。


夏音の携帯を取り、

「今どこ走ってる?周りに誰かいるのか?」

と聞くと、


「今イプシロン駅を通過して次の駅に向かう中間辺りです。ジャックしてる人は少なくとも3人です。3人とも男で1人は車掌を見張っていて、残りの2人は携帯を回収しに車両を移動してきてます。」と小声で伝えてきた。


「という事はこの電話ができんのも残り数秒か。にしても電車ジャックするメリットがなくねぇか?」


「そうなんです。それに、あ……」急に通話が切れた。


「春香、春香!くそっ!」予想以上だ。そして勘だったが当たっているような考えが浮かんだ。3人の中に精霊使いがいる。


ーーー咄嗟に通話を切った。その行動は正解だった。携帯を集めている電車ジャック犯がこの車両に来たのだ。あまりにも早い気がしたが、その瞬間理解した。

自分の携帯が宙を舞い、袋へと入っていったのだ。


(精霊使いがいる……。)確信ではないけれどそう思った。


「おい、これで全部回収したぞ。」

と1人の男が言った。どうやらトランシーバーに話しかけているようだ。

トランシーバーから聞こえてくる声は聞こえづらかったが、

「よし、……次の……開始……。」

何かをするつもりのようだ。自分でも何故こんなに冷静に判断出来るのかよく分からなかったが今は何か情報を掴もうとした。


「おい、お前。」隣の中年の男が呼ばれた。


「は、はい。な、何でしょう?」


「ちょっと来い、まぁこないと死ぬだけだがな。」と言われ、男に慌ててついて行った。


このまま動かないで誰か来るのを待つべきか。それとも……とバッグに目をやり、鞘にしまわれた二本の剣を見つめた。


しゅう先輩と夏音先輩には一応このことは伝えられたし、おそらくニュースにもなっている。どうせ戦っても何も出来ない。その思いが強く、待つことにした。


ーーー春香からの通話が途切れた携帯を夏音に返した。この電車はジャック事件のせいでイプシロン駅で全員降ろされた。


「すまん、携帯取っちまって悪かった。」


「ううん、それはいいけど……はるちゃんは大丈夫なの?」


「あぁ、今の所はな。結構冷静だったし。」


「そう、でも何で電車をジャックしたの?」


「俺もそこは気になった。電車は前にしか進めない。ジャックするにはあまり適した乗り物とは思えない。なのにどうしてジャックしたのかってとこだろ?」


「あれ?結構頭いいのね。」完全に馬鹿にしていた。


「俺だってこのぐらい分かる。それよりも早くその電車に行かないと。」


「そこは頭回らないのね。どうやって走ってる電車に乗るのよ?それに私達が行ってもどうにもならないわよ。」

その通りだ。乗る手段も乗った後の事も考えていない。


「けど、手遅れになる前に何とかしたい!」


「私達が行って逆に状況悪くなったらどうするのよ?」


「それは………。」言い返せなかった。すると夏音が、


「助けに行くのは私も賛成。けど考えもなしに突っ込んじゃだめ。よく考えよ。実ははるちゃんのさっきの通話、録音しといたから何かヒントがあるかも。」


「本当か⁉︎いつ録音ボタン押したんだよ。」


「はるちゃんの様子がおかしかった瞬間からよ。」頭の回転が早い、早過ぎる。さすが夏音だ。

その録音された音声にはさっきの会話がしっかりと録音されていた。そして夏音が、


「まって、時間がないかも。」と言った。


「何がだ?」夏音が巻き戻して「ここではるちゃんが言ってること。」と言って再生した。


「”3人とも男で1人は車掌を見張っていて”の部分だけど、はるちゃんは”男”って確定してるよね、ということは覆面をしてないって事だよね?」確かにおかしい。


「けどそれって……まさか、電車に乗ってる人たちを生かす気がない。」そうなるとすると一刻の猶予もない。しかし、これだけの情報ではまだ動くに動けない。もう一度聞いてみた。


「ん?このジャックされてる電車いったいどこ走ってるんだ?」


「どうして?」


「それさえ分かれば助けられる可能性があるんだ。」


「さっきイプシロン駅を通り過ぎたって言ってたから、時間的にシータ駅辺りかな。」ジャックされている電車はいくつもの小都市を回る。いつかは数十分もすれば一周するだろう。


「あれれ〜、秋翔くんじゃない?」振り向くと生徒会長の神崎零架先輩がいた。


「生徒会長⁉︎どうしてここに?」


「ん〜、うちの副会長が隠れ電車マニアでさ、写真撮りに来たんだけどその電車がジャックされたみたいであそこでがっかりしてるから慰めてんの。」と指をさす方向に目をやると下を向いている人がいた。


「電車マニア……それだ!」と言って生徒会副会長の水瀬滉一先輩の方に向かった。遠くからでも分かるくらい落ち込んでいた。


「副会長、お話があるんですが……」


「なに?今絶賛落ち込み中なんだけど。」


「今ジャックされてる電車どこ走ってるか分かりますか?」


「聞いてどうするのさ?」


「助けるためです。」少し驚いていたがすぐに、


「ここからだとかなり距離あるし、僕達が動いても無理だ。」


「諦めないでください。必ず阻止します。」


「どうする気だい?」


「見てれば分かります。夏音!」と呼ぶと夏音が走ってきた。


「なに?どうすればはるちゃんや乗客の人助けられる?」


「何人の乗客が乗ってるかニュースでやってるか?」


「それならさっきジャックされてから咄嗟に逃げた人が何人かいて乗ってるのは10人程度だって。」


「よし、行ける。夏音、俺を思いっきり電車走ってる方に飛ばせ。」


「……え?もしかして助けられる可能性って……。」


「あぁ、俺が飛んで行く!」


ーーーだめだ、やっぱりじっとなんてしてられない。1車両目に全員集められて監視の目が厳しくなった……。すると女性が、


「あ、あのお願いです。子供だけでも降ろしてくれませんか?」とジャック犯に言った。


「わかった。」男はそう言った。女性が一安心した。


「って言うと思うか?お前らは俺たちの顔見てる時点で死ぬしかない。」女性だけでなく、周りの人たちの顔も恐怖で歪んでいた。


やるしかない、ここにいるジャック犯は2人でもう1人は車掌を見張っている。バッグから武器を取り出そうとした瞬間、男が

「下手に動くなよ、誰か1人が動こうとしたらこの車両の上の爆弾のスイッチを押す。」

この車両の上?いつ仕掛けた……?でも、あの不思議な能力の精霊使いがいる。3人のうちの誰か。

まぁどちらにしろまた動けなくなった。


「死にたくない!」誰かが立って叫んだ。

その瞬間、1人の男は叫んだ男を殴り、気絶させた。


拳銃があるのに撃たない、爆弾を爆破させない。タイミングがあるのか、もしくはタイムリミットか。思いっきって聞いて見る。何もしなければ始まらない。先輩から助けられて学んだ。


「あの、もしかして爆弾ってタイムリミットだったりするんじゃないですか?」すると1人の男が、


「よく分かったな、そうだ。後10分ってところか。」


「馬鹿野郎、それを言うな!」


「いいじゃないですか、知ったところで死ぬんだし。」

後10分、……そろそろ都市を周って4分の3といったところ……もしかして狙いは武精学園前のアルファ駅!あそこは今、休日で謎の割引セールもやってる。人が沢山いるはず。


あんな所で爆発したら……考えるだけで体が震えた。


体がまた震えた……と思ったら、車両そのものが上からの衝撃で揺れていた。かなりの揺れだ。どうやら2車両目の辺りで何かが起きている。


「なんだ⁉︎」2人の男は上を向いた。


今しかない!バッグから2本の鞘に入った剣を取り出し、不器用な手つきで2人の体を思いっきり突いた。


2人は悶え、拳銃を手放した。乗客の男性がジャック犯に覆い被さるようにして、2人を拘束した。


しかし、車掌を見張っていたもう1人の男も出てきて拳銃を構えていた。


「死ね!」男はそう言うと引き金に手をかけた。


「だめー!」そう叫ぶと、急に男の動きが止まった。いや、乗客も車掌も止まっている。いや違う、ゆっくりと動いている。


「よく分かんないけど、このチャンスは逃せない!」

1本の剣を拳銃に向かって投げた。拳銃が男の手から離れたと同時にスローモーションが解けた。


「ぐぁ⁉︎何だ!」男は訳が分からない様だった。


その男も乗客の男達によって呆気なく拘束された。


「きみ、ありがとう!」


「勇気ある行動だった!」、「すごい!」、

「お姉ちゃんかっこいい。」

などと褒められた。


「いえ、私はほとんど何も……。」

まだ終わってない……。窓の外を見ると後少しでアルファ駅に着く。


「みなさん、あまり動かないでください。爆弾を見てきます。」すると、

「その必要はない。」背を向けていた後ろの車両が開いた。


ーーー「飛ぶ⁉︎嘘でしょ?」


「本当だ、それしかない。」これ以外に思いつかない。


「副会長!駅を止まらずに電車が走ってた場合、今あの電車はどこの辺りですか?」


「それならアルファ駅より少し手前辺りじゃないかな。」


「よし、夏音その方向に飛ばせ!」


「……いや、やりたい事は分かったけど私の水魔法だけじゃそんなに飛ばないわよ。」


「………え?」俺の中の時間が止まった。

行けるとばかり思っていた。このままでは俺の考えが水の泡だ。


「じゃあ私も手伝うわ。」そう言ったのは生徒会長だった。


「生徒会長、本気ですか⁉︎」副会長が驚きながら言った。


「そりゃ何か出来るならしたいに決まってるわよ。滉一、あんたも手伝いなさい。多分あの電車、アルファ駅に着くと爆破される。爆破されたくないでしょ?」


「なんで爆破するってわかるんですか?」


「あのニュースで電車の上の部分、一瞬映ってたけど誰かいた。そいつ拡大したら3年前のバスジャック事件の指名手配犯とそっくりだった。そいつ爆弾でバスを爆破して10人以上も殺したのよ。」なるほど、本格的にヤバい。


「お願いします、生徒会長、副会長、夏音。吹っ飛ばしてくれ!」


「オッケー!」、「守って下さい!乗客も、電車も!」、「お願い、しゅう!」


1人の白髪の女は杖を取り出し、またある赤髪の男は大剣を取り出し、ある黒髪の女は魔道書を取り出した。


水流(オーライズ)!」すると下から水で生徒会長、副会長、そして夏音と一緒に上空へ上がった。


「次は私と滉一の番ね。」


「秋翔くん!僕の大剣に乗って!」そう言って大剣を構えた。


「はい!」滉一先輩の大剣に乗った。


「準備はいいわね?思いっきり飛ばすわよ!

腕力強化(アームエンチャント)Ⅴ!」


「行けーーー!」

そう言った瞬間、物凄い勢いで吹っ飛ばされた。顔がめちゃくちゃになりながら飛んだ。


「うおぉぉぉーーーー!」暫くの間飛んでいるとジャックされたであろう電車が見えた。


「イグニ!」


「おうよ!ようやく出番だな!」


「このままだと通り過ぎちまうから逆噴射で威力殺してもらいたいんだけど……。」


「どんだけだよ!あいつらヤバすぎだろ!」

そう言いながらイグニは片手剣になった。剣を前に突き出した。


紅翼(アーラ)!」

剣から火の鳥が出てきて、俺を電車の近くまで導いた。


「サンキュー、助かった。」どうやら3車両目に降りたらしい。前を見ると黒い塊がうごめいていた。


「お前が今回のジャック犯のリーダーか。」


「ほう、ここまでたどり着く者がいるとは驚きだ。それも上から。」20代ぐらいの男だ。


「爆弾解除してくんねぇかな。俺の通ってる学園に近すぎんだけど。」男の後ろにはあからさまに爆弾と思われる物があった。


「ほう、武精学園の生徒か。安心しろ……君が思ってる通りだからね。」


火纏(フーラップ)!」剣に火を纏って突進した。


「おっと、いいのかい?爆破しちゃうよ?」


「爆破は絶対しない。」


「ほう、興味深いな。ハッタリではないぞ?わかってるのか?」


「あぁ、多分そうだろうな!」剣を振ったが躱され、逆に腹に蹴りを受けた。少し後ろによろついた。


「ちっ、やっぱ強えな。けどまだまだこれからなんだよな。」


「余裕だね、けど残念。後ろを見てみな。」

振り返るとアルファ駅が後2,3分で着くところまで近づいていた。


「じゃあ俺からも1つ、後ろの爆弾はちゃんと守らないとダメだろ。」男は急いで振り返った。


「な⁉︎なんだこれは⁉︎」そこには水の球体で囲われた爆弾が入っていた。


「あなたがこの電車ジャックの主犯ね?悪いけど爆弾はもう使い物にならないみたい。原因は水没ね。」


「バカな⁉︎いつの間に⁉︎」


「俺と戦ってる時にこっそりと着地をきめてくれた。俺が勢いよく飛び乗ったから気づきにくかったろ?」


「まったく、本当に恐かったんだから。さ、大人しく捕まってくれるとありがたいんだけど?」すると男は笑い、


「なるほどな、だがそれは無理だ、今回は諦めよう。」そう言って電車を飛び降りたかと思うと真っ直ぐ飛んで行った。


「あんなのありかよ!」


「仕方ないわ、それより乗客の安全を確認しましょう。」

・・・奴とは必ずまた会う気がした。


ーーー「しゅう先輩、それに夏音先輩も!」


「お、どういう事だ?3人ともくたばってるけど……。」すると乗客であろう男性が、


「この子が助けてくれたんだよ。命の恩人です。」


「そうなのか、春香?」


「まぁ、隙を突いただけですけど。」


「すごいよはるちゃん!っていう事は今持ってるのがはるちゃんの武器?」


「あ、はい。双剣です。」

そんな話をしていると車掌が来て、

「乗車している皆様、アルファ駅へ緊急停車致しましたのでお降り下さい。そして本当にありがとうございました!」


ーーーそれから警察から事情聴取を受け、すっかり暗くなってしまった。


「明日イプシロンに行く事にするか。」


「そうだね。」、「はい。」


「春香、家に帰れるか?電車全部止まってるって言ってたけど。」と聞くと、


「何とか帰りますよ。」と言った。


「お前どこに住んでるんだよ。」


「ここからバスで1時間ぐらいですかね?」


「ねぇ、しゅうの家に泊まったら?もちろん無理にとは言わないけど。」


「勝手に誘うな。まぁ別に俺はいいけど春香に強制してるみたいだぞ。」


「無理にとは言わないって言ったじゃん。」

クスクスと春香が笑った。


「じゃあお言葉に甘えてもいいですか。お母さんに連絡してきます。」と言って電話をしに行った。


「という事で私とはるちゃんは先に帰るから買い物よろしく〜♪」


「は⁉︎おい、意味わかんねぇよ。」


「じゃないと今日食べる物ないよ、それでもいいの?」


「分かったよ、買い物して帰るからリビングにいろよ。」


「はいはーい、じゃまた後で♪」

女には勝てない。そう思った。


ーーー遠くのビルの屋上から一部始終を見ていた。「貴方なら私を孤独から救ってくれるの?紅葉秋翔……。」


どうも改めまして作者の伊藤睡蓮です。読んでくださりありがとうございます。

シリーズ的には其の三ですが其の一は序章の様な物と捉えて下さい。其の一は初投稿だったので変な文になってます。

では、特に話す事も無いのでキャラクター紹介といきますか。


まずは生徒会長、神崎(かんざき) 零架(れいか)さん。18歳、白髪がよく似合うロングヘアの女の子です。生徒会長としてはあまり威厳が無い感じはありますが、やる時はやる!そんな子です。武器は杖、精霊は不明です。


最後は副生徒会長、水瀬(みなせ) 滉一(こういち)さん。18歳、赤髪で学園だけでなく都市全体で有名なイケメン。実は隠れ電車マニアでこの事は一部の人しか知らない。武器は大剣、精霊は不明です。

と言うわけで今回はこの辺で終わりにしようと思います。Twitterで投稿の報告等してますのでよければフォローしてください!


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