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精霊剣士の物語 ~Adasutoria~  作者: 伊藤 睡蓮
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精霊剣士の物語 〜Adasutoria〜其の十七〜

どうも、作者の伊藤睡蓮です。

今回は同日二本投稿ということでこの後にもう1本投稿されます。そちらも是非見てください\( ´ ω ` *)

それではまず、精霊剣士の物語〜Adasutoria〜其の十七、どうぞ!


32,〜魔導書が語る少女の過去・前編〜

俺たち3人は学園長室の扉の前に立っていた。


1組の教室にいた時に副学園長から学園長室に来るようにと呼び出されたからだ。


深呼吸してから、扉をノックし、

「紅葉 秋翔です 。春香と真冬も連れてきました。」



すると中から「入りなさい。」と声がした。


「失礼します。」そう言って扉をゆっくりと開けた。


「待ってたわよ。長くなっちゃうから、適当に座りなさい。」


言われた通り、ソファに腰をかけた。真冬は目の前にある2つのソファを暫く眺め、考え込んだあとに春香と一緒のソファに座った。


「おい、なんでこっち側で一緒に座らねえんだよ。スペースなら全然あるぞ。」


「一緒に座ってほしいの?」


「そ、そう言うわけじゃねぇけど!何故そっちを選んだか気になったんだよ。」


「勝手に覗き見した罰ね。」

真冬はそう言って冷たい視線を俺に浴びせた。


それは春香も同じだろ。


「春香は秋翔にそそのかされただけだから一緒に座っていいの。」


俺が言う前に回答された。読心術でも習得してるのかお前は。

それに春香はさっきから周りのトロフィーやら賞状を眺めて目を輝かせて何も言わない。


「あなたたち本当に仲良いのね。」

吹雪先生は笑った。


「いえ、良くないです。」即答からの否定。

吹雪先生は微笑みながら、

「それが仲がいいって言うのよ。」と言った。

真冬は顔を少し赤くして

「そ、それよりも学園長。本題に入ったらどうですか?」と強引に話の流れを変えた。何故顔を赤くしたのかは分からなかった。


「そうね、と言っても話すのは私じゃなくて、この子だけど。」そう言って一冊の魔導書を手に取った。


夏音の精霊アクアが宿っている。そういえばあの後、俺が保健室で最初に目を覚ました時に学園長が連れて行ったと保健室の小林先生が言っていた。


アクアは吹雪先生の手から離れて宙に浮いた。


「しゅうと、それにみんなも。……取り敢えずは謝らなくちゃね。本当にごめんなさい。」


「別にお前のせいじゃないし謝る必要ないと思うぜ。悪いのはDr.レイクたちだ。」


「そうですよ。アクアさんは悪くありません。」春香も同意した。


「けど、私たちと出会う前までは何をしてたか分からないから、まだ私はあなたを仲間と認めるわけにはいかない。」真冬ははっきりとそう言った。


「おい、真冬。言い過ぎだろ。」


「いいよ、しゅうと。その通りだし。これからそのことも話すね。」

俺も初めて聞くことになる。

夏音とアクアの出会いの物語。


「私と夏音が出会ったのは、夏音がこの学校に入る本当に少し前、3月、ううん。実際に会ったのは2月くらいでちょくちょく会ってはいたけど、きっかけとなったのは夏音が中学3年生の時。」


ーーー約1年前の3月、地面にはまだ少し雪が残っていて、子供は雪を踏みつぶしてその感触を楽しんでいた。そんな道路の端っこに私はいた。


ふわふわと空中を漂う私にとって地面にある雪などどうでもよかったけど、空気だけは冷たく私の体温を下げた。


「全く、もう3月なんだからそろそろ暖かくなったらどうなのよ。」ひとり言を呟いた。


つもりだった。


「ふふっ、精霊さん。暖かくなるのはもう少し後じゃない?まあ確かに寒すぎるけど。」と後ろから声がしたので振り返ると、マフラーを巻いた1人の黒髪の少女が明るい笑顔で私に近づいてきた。


「あなた、また会ったわね。精霊使いさん。」

少し距離をおき、私は身構えた。


そう聞くと少女は首を振った。


「だ〜か〜ら〜、ちがうって。確かに精霊使いになるのが夢だけど、4月からようやく見習いになるの。」


なるほどね。


精霊使いになるのに必要な絶対条件、魔力の有無。魔力がもともとない人は精霊を見ることはできない。普通の人ならこの子も私の存在すら気付かずに通り過ぎていた。この子には精霊使いになる権利があるということね。


「精霊さんも寒さとか暑さとか感じるんだね。初めて知った。メモメモ……。あ、もう少し質問いいですか?街とかでよく精霊は見かけるんですけど他の精霊さんは狼さんだとか鳥さんとか色々と動物のような姿なんですけど、どうしてあなたは水色の球体なんですか?」


「質問って……自分の姿があまり好きじゃないの。だから水の膜で隠してるだけ。私も他の精霊のように手も足もちゃんとあるわよ。」


「そうなんですね。」また紙に何かを書いていた。


「あなた、私と契約しようとしないのね。今まで出会ってきた精霊使いや見習いは契約しろ契約しろってうるさい人ばかりだったのに。」


少女は書くことを一旦やめ、私をみた。

「私はただ精霊や魔法の事を知りたいだけだよ。……ううん、違う。本当は大切な人を守りたい。守るために精霊と契約したい。でも、私にはまだ知識がない。だからもっとこの世界のことを知りたいの。も、もちろん精霊さんとも友達になりたいんですけどね。」

少女の瞳を見た瞬間、私はなぜかこの少女に興味を持ってしまった。


「あなた、変わってるわね。私が出会ったどの精霊使いよりも優しい。あなたが嫌でないなら、契約してみない?」


少女は私の突然の提案に口をポカンと開けて停止した。


「ちょっ、ちょっと大丈夫⁉︎そんなに嫌なら別にいいわよ。無理しなくて。」


少女は正気に戻り、首をぶんぶんと横に振った。


「ご、ごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃって。……私もあなたのような精霊となら一緒に戦えると思いました。私からもお願いします。私と契約してください。」


この子となら上手くやれる気がする。


「私の名前はアクア、水の精霊よ。あなたは?」


「私は4月から武精学園の1年生になる、葉月夏音(はづきかのん)って言います。アクアさん、よろしくね。」


「さん付けしなくていいわよ。それに敬語もなし。アクアでいい。私もあなたのことは夏音って呼ぶから、ね?」


私がそう言うと夏音は

「うん。これからよろしくね、アクア。」微笑みながらそう言った。


「それじゃあ契約内容はどうする?私とあなたが納得する契約じゃないと力は貸せないんだけど。」


夏音は腕を組んで考えた。

「そうねぇ。うーん…………。」


「ちなみに私は、あなたのためならなんだってする。私は夏音、あなたのことが気に入ったの。あなたが力を欲している時、真っ先に私が手を差し伸べてあげる。」


「アクア……。それなら、私が守りたい人のために、救いたい人のために力を貸して。アクアは私のために力を貸して、私はその力で大切な人を助ける。」


「おっけー。契約成立。別に契約といってもこんな風に約束ごと程度のものでも成立しちゃうのが人間と精霊の心の距離の近さなのかな?……まぁいっか。その守りたい人ってのが気になるけど。」近づくと夏音は顔を赤くした。


「べ、別にそんなんじゃないから⁉︎」


「なにも言ってないんだけどなー。まぁいいよ。守りたいって言うんなら多分すぐ会うことになるだろうし。……それよりも私、この水の膜張ってるのだけでも魔力消費しちゃうからできれば武器かなんかに宿してくれない?」さっきから水の膜が剥がれそう。


私は自分の姿が本当に嫌い。できれば夏音にも見られたくはない。


「そうなのね、別に姿なんて私は気にしないけどそれは本人の問題だからね。私は魔導士希望だから杖とかかな〜。でも今杖なんて持ってないよ。」


「本ならどう?」と私が提案すると、夏音は手をポンと叩いた。


「そっか、それならこれ。私のお気に入りの本。」とバッグから一冊の本を取り出した。


「これはね、出かける時いつも持ち歩くようにしてるんだ。私が小さい時に祖父からもらった最初で最後の誕生日プレゼント。まぁ本の中身は全然読めないんだけどね。なんかいろんな言語が混じっててよく分からないの。」


「それでも、あなたのおじいさんがくれた本なんでしょ。私がそんな本に宿っていいのかってくらいなんだけど。」


「いいよいいよ。きっと祖父も喜んでくれるから。」夏音は微笑んだ。


「それじゃあ遠慮なく。」私は夏音の持つ本に入った。


居心地もいいわね。最高だわ。


「これからが楽しみ。」声に出すつもりなんてなかったが自然にそう言ってしまった。


「うん、私もだよ。アクア。これからたくさんのことを一緒に学んでいこうね。」


これが私と夏音の出会いの日。


私は浮かれていたのかもしれない。こんな優しい子と契約できたことに。もう少し注意していればあいつに出会うことはなかった。あんなに早くも夏音の夢が別の意味で叶おうとしているなんて。


33,〜魔導書が語る少女の過去・後編〜


夏音との出会いから2週間が経過した。後1週間で夏音は精霊使いの見習いになる。


「アクア、今日は土曜日だからどこかに出かけない?」


「それはいいけど、まず着替えなよ。パジャマのままで行く気?」

バッグは提げていたがパジャマ姿のままの夏音に呆れた。


「ごめんごめん、アクアと買い物に行けるのがいつも楽しみで仕方がないの。」


まあそれは嬉しいけど。


「アクア、今日もどこか行きたいところとかある?」着替えながら夏音は聞いてきた。


「この2週間で結構いろいろ見せてもらったからねー。今回は夏音のお気に入りの場所に連れて行ってよ。」


「お気に入りの場所かぁ、………うん。決めた!イプシロンに行こ。ちょっと“用事”もあるし。」


用事?


「何か買うものでもあるの?」


そう聞くと、夏音はこれまで見たこたない寂しそうな顔で答えた。


「まぁ行く前に買うものがあるかな。アクア、あなたには話しておかないといけないと思うけど、もうちょっと待ってくれない?」


夏音もやっぱりこんな顔するのね。


「別に言わなくてもいいわよ。聞いてないし。嫌な過去なら忘れちゃえばいいのよ。」


夏音はゆっくり首を振った。

「これだけは逃げちゃダメな過去なの。私が犯した“罪”だから。」

罪、その言葉の重さを私はすぐに知ることになるなんて、考えてもいなかった。


ーーーイプシロンに着くと、まずは夏音と一緒に洋服屋を見てまわった。夏音に合った服を見つけては着てみたり、

これはいい感じ。ちょっとイマイチ。などと笑いながら過ごした。その時は夏音はいつもと変わらないような笑顔で私も楽しんでいた。


「ねぇねぇ、これなんかどう?」

黒の半袖にミニスカート、サッシュベルト?と呼ばれるものを巻いて出てきた。


「とっても似合ってるわよ、夏音。」


「これに決めた。アクアと一緒に選んだ服。絶対に大切にするね。」


やっぱり夏音の笑顔が1番ね。


しかし、買った服は意外といい値段がして、合計金額を見た夏音の顔は青ざめていた。


「結局買ったのね、夏音。」

というかもう着ていた。


「もちろん。アクアと一緒に選んだ服だし、かわいいもん♪まぁこれで無駄な買い物は当分できないけど……。」財布の中を確認して、少し涙目になっていた。


「もう、次からはちゃんと値段見て買いなよ?次はどこ行くの?」


「うん、お花屋さんに行こうかな。綺麗な花があるといいな〜。」


「その花を置く場所が今回ここにきた本当の目的なんでしょ?」


流石に想像できた。


ゆっくりと夏音は頷いた。

「まぁいいわよ。夏音が行きたいとこに付いてくだけだし。夏音、私は暗い顔の夏音、好きじゃないよ。たまには泣いたりそんな顔してもいいけど、流石に毎回見たいわけじゃないから。」


そう言うと、夏音ははっとして微笑んだ。


「ごめんね、そうだよね。よし、それじゃあいこー。」

切り替えるの早いわね。


花屋に着くと、服を選ぶのと同じようにその花の前で止まっては吟味していた。


「やっぱりあの人たちが好きだったマーガレットがいいかな。これをください。」


夏音はマーガレットの花を買った。


「ここからそんなに遠くないから歩いて行こ。」


「そうね。」

私としては歩くのもバスに乗るのも電車に乗るのも同じなんだけどね。


「そういえば、さっきあの人たちって言ってた、1人じゃなかったのね。」私がそう言うと夏音は、


「うん、2人。私の両親が家を空けてるときとかよくその人たちの家に泊めてもらってたんだ。」


「親戚か何か?」夏音は首を振った。


「私の幼馴染みに秋翔っていう男の子がいるの。その子の両親。とっても優しくてね、私を置いて海外に行く私の両親とは大違い。」

少し文句も混じっていた。


「それじゃあその秋翔って子はどうしてるの?ってごめん。」

こんなに人の過去を聞くものじゃない。きっとその子の両親のための花だと聞いた後に気づいた。


「大丈夫よ。きっとしゅうも気にしないから。しゅうは中学2年生までは親戚の家にいたみたいだけど、今は両親と住んでた家で1人で暮らしてるって。お金は親戚の人がなんとかしてくれてるみたいだけど。」

しゅうと呼ばれる子、話を聞いている限りはしっかりしてると感じた。


「今度しゅうと遊ぶ約束してるからその時にアクアのこと紹介しよっか。」


「あら、いいの?デートの邪魔じゃない?」ちょっとからかってみた。


「な、な、なななっ、何言ってるのよ⁉︎そ、そん、そんなんじゃないから⁉︎」顔を赤くしてかなり動揺していた。


少しだけからかったつもりだったけれど予想外の反応に思わず笑ってしまった。


「ごめんごめん。まさかそこまで動揺するなんて思ってなかったわ。」


「もう、アクアったら。」顔を膨らませて怒っていた。


それから暫く歩いていると、大きな観覧車が目の前にあるのに気づいた。話に夢中でよく見ていなかった。


「ここって、遊園地?」


「そう、イプシロンにある超大きい遊園地よ。まぁ今日は入らないけど。流石に遊園地の中にお供えなんて出来ないし。」


遊園地の外周を回り、少ししたら夏音は立ち止まった。


「着いた。1年ぶりだな〜。お久しぶりです、パパさん、ママさん。

……さっきの話の続き。あなたにも話しておかないといけないこと。秋翔の両親の死因は、悪魔による攻撃、そして呪いの魔法によるもの。」


驚きで言葉が出なかった。悪魔ですって。この世界に来てるなんて。


「悪魔……精霊界でも危険視されてる奴らは精霊界の下、こっちの世界の地獄とでも言うべきかしら。そこに閉じ込められてる。この世界に来ることはできない。」


「やっぱり異常なのね。しゅうのお母さんはその魔法によって永遠の眠りについた。死んではないけど生きてもない。でも、目を開けることがないならそれはもう死と同じ。そして、しゅうのお父さんは悪魔から殺されそうになった私を庇って……。」


なるほどね、どうしてもここに来たいという理由がなんとなく分かった。


「責任、感じてるんでしょ。あなたが秋翔って子の父親を殺してしまったって。」


夏音は何も言わずにお供えした花の前にしゃがんでいた。


「夏音……。」

私はその光景を知ることはできない。だから絶対に夏音は悪くないなんて軽々しくは言えない。


何も言えない。暫く沈黙の時間が流れた。いつの間にか晴れていた空は曇り空になっていた。


「紅葉秋玄に優姫、本当に惜しい人を亡くした。まぁ紅葉優姫に関しては完全に死んだわけではないが。」

私たちの後ろから知らない誰かの声がした。


夏音もその声に気づき、振り返った。するとそこには、いかにも怪しい白衣を来た老人が立っていた。


「どちら様ですか?どうして秋翔の両親の名前を知ってるんですか?」


秋翔の両親の本名を知っている人。

秋玄さんと優姫さんと言う人が両親の名前。2人の知り合い?


「私はね、レイクという。研究者Dr.レイクだよ。」

Dr.レイク。老人はそう名乗った。


「研究者?Dr.レイク……さん?」


「夏音、Dr.の後にさんはいらないんじゃないかしら?せめてレイクさんとかじゃない?」

顔を赤くしてわざとらしく咳き込んだ


「いいのよ別に。それより、質問に答えて欲しいんですけど。」Dr.レイクを見つめる。


すると彼は不気味に笑い、

「なぜ2人の名前を知っているのか、それについては私の研究対象だからだよ。葉月夏音。」


夏音の事まで知ってる。


「夏音、こいつなんか嫌な感じがする。」

夏音は何も答えなかった。


「夏音?」


「だが彼らは死んでしまった。これでは研究が続けられない。そこで君に会おうとしたわけさ。」


こいつとこれ以上話してはいけない。直感でそう感じた。


「私を研究対象にするつもり?」

夏音がようやく口を開いた。


Dr.レイクはてをあたまの前で横に振り否定した。


「いやいや、私の研究対象はあくまでも紅葉秋玄と優姫。君じゃない。君に会ったのは力を貸して欲しいからさ。正確には君のその“膨大な魔力を蓄えられる器”だがね。」


「私の魔力の器?」


「そう、君は他の人とは違い大量の魔力を身体に貯めることができる。」


目的は夏音の身体か。


「夏音は絶対に渡さない。」

魔力を解放する。


「まって、アクア。この人、もしかしたら……。」


「どうして止めるの、夏音?」


Dr.レイクはニヤリと笑った。


「夏音、気づいたね。私がやろうとしている事を。」


あいつの目的?夏音の身体じゃないって事?

夏音は黙っている。


「夏音、こいつと話しちゃだめ。早く帰ろ。」


「大量の魔力を必要として発動する魔法が世の中に2つあるのはアクアも知ってるよね。」


「蘇生と時渡り、よね。どちらも禁忌の魔法よ。ってもしかして⁉︎」


夏音は頷いた。

「この人はそれを使わせて蘇らせるつもりだと思う。」


「ちょっと待って。蘇生は確かに大量の魔力が必要なのもそうだけど魔力と同時に発動者の命を消費、つまり、あんたの寿命が短くなるのよ⁉︎」


「そこの精霊、君はもう少し頭を働かせたほうがいい。」


この人はおそらく精霊と契約してない。それなのにこの人からはただならぬ力を感じる。


「どういうこと?2人を蘇生するんでしょ?」


すると今度は夏音が答えた。

「確かに蘇生を使えばすぐに死者は蘇る。けど、まだ死んだわけじゃないママさんは、優姫さんは寝たまま。2人を蘇生させるには、時渡り。この魔法を使って2人を助けるしかない。悪魔に、ナイトメアに襲われる前に2人を助け出せばいいの。」


襲われる前に……そうか、時渡りには死のリスクはない。大量の魔力のみで過去に飛ぶことができる。


「どうだね、葉月夏音。私に協力するというなら、君に力を与えよう。時渡りを可能にするまでの大量の魔力を。」


時渡りを可能にするまでの魔力を与える?そんなこと不可能に決まってる。


「魔力の譲渡が人間同士では不可能よ。たとえ精霊から与えられたとしてもそんなに大量の魔力を持った精霊はいないわ。」


「精霊界にはね。私は別の研究で人工の精霊を造り、その魔力を抽出する事に成功した。何千何万もの人工精霊から抽出した魔力を、葉月夏音。君に与えようというわけさ。」


精霊を造りだした?一体何者なの?


「あんた、精霊を何だと思ってるの?」


「私が造った人工精霊と君たち精霊とは別だよ。君たち精霊のことは尊敬しているよ。あくまでも人工精霊とは仮称さ。」またニヤリと笑う。

この人はやっぱり好きになれない。


「2人を助けることができる。本当だったらしゅうもきっと喜んでくれる。あんな悲しい記憶より、みんなで笑って過ごせる時間の方がいい。私がしゅうのパパさんを殺した。今度は救う。絶対に助けてみせる。過去に戻ってナイトメアを倒す!お願い。私に力を下さい。」


「夏音……。」


「アクア、私と一緒に大切な人のために戦ってくれる?」


『あなたのためならなんだってする。私は夏音、あなたのことが気に入ったの。あなたが力を欲している時、真っ先に私が手を差し伸べてあげる。』


『私が守りたい人のために、救いたい人のために力を貸して。アクアは私のために力を貸して、私はその力で大切な人を助ける。』


救いたい人のために……。

私は、夏音と一緒に。



「とりあえず、私たちの基地に来たまえ。歓迎するよ、葉月夏音とその精霊、アクアよ。私たちの組織の名は“精霊神協会”。文字通り、精霊と共に歩む組織だよ。」


私は、この時点でもう底知れぬ違和感を感じていた。けれど、言えなかった。心の中にその気持ちを押し殺してしまった。


ーーー約1年後、私と夏音は正式に精霊親協会の一員として認められ、Dr.レイクの研究序に連れていかれた。


「全く、君たちには驚かされてばかりだね。入ったばかりで精霊神協会、第1精霊部隊の隊長になるとは。」Dr.レイクは手を上げていた。


夏音の力は私の想像をはるかに超え、知識、魔力の質、全てにおいてトップクラスの力だった。

「そんな話をしに来たんじゃない。私の魔力はどこ?」


「ここだよ。」1つの扉の前に立たされた。


Dr.レイクは扉をゆっくりと開けた。

そこにあったのは2つの容器だった。

1つからは物凄い量の魔力を感じる。そしてもう1つは何かの液体?が入っていた。


「夏音、君にはこの容器に入ってもらう。大丈夫、呼吸は出来る。入ってもらったら何もしなくていい。後はこちらで対応する。」


「………分かったわ。」


本当は止めたい。けれど、夏音はそれを望まない。私は夏音と一緒にいたい。


「それから言い忘れていたが、おそらく魔力が君に全て入った時、その魔力の多さに記憶をなくすだろう。もちろんそれも想定内。こちらで君の記憶を取り戻す段取りもできている。心配はいらないよ。」


「しゅうやしゅうの両親を助けられるなら、少しの間の記憶喪失なんて問題ないわ。」


「それでこそ夏音だ。そして君は1年間、武精学園にいない事にもなっている。そこでだ、君が魔力を全て蓄えきる前に、その蓄えた魔力で学園中の記憶を書き換えたまえ。そうすれば君はあたかも初めからいたようにする事が出来る。」


そこまで考えているなんて。


「そんなの簡単よ。私はしゅうのためなら何だってする。もう、あんな顔は見たくないから。」もう、夏音の明るい顔は見られない気がした。


「それでは準備に取り掛かろう。アクア、君は夏音の近くにいてもいいぞ。容器の外だが。」


「……えぇ、分かってるわ。」

全部夏音のため。自分を抑えないと。


夏音は服を脱ぎ、容器の上の蓋を開けて中に入った。


こちらを見つめる夏音の目は誰かを救いたい、助けたいという気持ちよりも、憎悪の感情が現れている気がして、恐かった。


「それでは始めるよ。」


ーーー「こうして夏音は大量の魔力を身体に取り込み、この学園中の生徒、先生の記憶を書き換えた。」


その場にいた全員は何も喋る事ができなかった。


夏音は、俺の両親を助けたくてあの魔力を手にしたのか。自分の記憶をなくしてまで。


「全部、俺が原因なのか。」


「秋翔くん、自分を責めては駄目よ。いくら助けたいとはいえ、蘇生と時渡りは禁忌の魔法。絶対に発動してはいけないの。」

それは分かってる。けど、そもそもあの時、俺が一度イプシロン遊園地から避難できたのに、父さんが心配で戻ったのが原因なんだ。


「らしくないわよ、秋翔。まだ夏音さんは時渡りを使ってない。まだ助けられる。」真冬がそう言った。そうだ、まだ夏音は使ってない。


「そ、そういえばどうしてあの時すぐに時渡りを使わなかったんでしょう?」

そうか、春香はまだ知らないのか。


「春香さんはもう少し後に習うわね。時渡りは身体へのデメリットがない分、他に制限されるものがあるの。3つの時間の制限がね。1つは飛びたい月日を合わせないといけない。イプシロン遊園地の事件は今から10年前、7月2日の午前11時頃。つまり今時渡りしても早過ぎて失敗しちゃう。」と吹雪先生が言う。


「2つ目、時間帯も飛ぶ瞬間の時間帯を引き継ぐ形になること。午前11時頃ならあの時飛べたとしても間に合わない。」真冬も吹雪先生に続けて言った。


今度は俺が説明してやる。

「そして3つ目、えーっと……何だっけ?」指を3本立てカッコつけたつもりが恥ずかしさを倍にしただけだった。


「まったく……3つ目は飛べる年の制限。必ず11年前か11年後にしか飛べない。つまり、夏音は今から1年後の7月2日に、イプシロン遊園地に現れるってこと。」呆れた口調で真冬が言った。


「そ、そうだった気もするな。」

正直よく分かってない。


「禁忌なんですよね?どうしてそこまで分かるんですか?」

春香はまた別の疑問を持ったようだ。


「いいとこに気がついたわね、春香さん。時渡りを使った最初の人が、その力の恐ろしさを知り、禁忌に指定したのよ。蘇生も同様にね。」


そうか、言われてみればそうだ。誰かが魔法の効果を知らない限りその能力を知ることはできない。


よくよく考えるとその人、命知らずだな。死ぬかもしれないのに。


「まぁこの話はまた今度、今は夏音さんの事。」吹雪先生が手を叩いて注目を逸らした。


「そうね。………1年後、それまでに私たちは何ができるの?」真冬が消極的に言う。それもその通りだが。


たった1年間で出来ることなんて少ないか。


「力をつけないとダメね。今の状態じゃ絶対に新井龍磨には勝てない。おそらく新井龍磨以上に強い奴はいると思うから。それに、今後のためにも力をつけることは必要。」


「なんとかしないと……。学園長、私を鍛えてくれませんか?」


「春香さん、唐突に言うわね。う〜ん、鍛えてあげたいけど私は風魔法は得意じゃないからね〜。」


「そうですか……。」残念そうに春香が言った。


「なにかいい方法はないかな。例えば同じ属性の力を持つ人とか武器の型が同じ人に教わるとか。ってそんなに都合いい先生とかこの学園にいないか。」


適当に言ってみたが吹雪先生は何か思いついた。


「秋翔くん、それよ!いい事思いついちゃった。……あなたたちも他の生徒も武精祭が終わったので一旦TFTをなくし、通常通り授業を受けてもらいます。」


「学園長、それじゃあ私たちは強くなれない。」真冬が言うと、吹雪先生は頷いた。


「もちろんそれだけならね。それとは別に放課後、個々に特別授業を受けてもらいます。詳細は明日言います。色々連絡しないといけないしね。」


吹雪先生が何を考えているのか分からなかったが、今できることは何もない、明日を待つことしかできない。


「今日はゆっくり休みなさい。無茶な特訓もしないように。遅くならないうちに帰りなさい。」


「分かりました、学園長。さようなら。」


「……さようなら。」


さっきの会話の時からずっと考えていた。


夏音は俺の父さんと母さんを助けようとしている。俺にとっては何一つ悪くない事だ。


……だけど、間違ってるとも思っている。


止めないべきだと思う自分もいる。俺にとってどちらが正解かよく分からなくなっていた。


ーーー次の日、俺と春香は遅刻ギリギリの時間で学園に着いた。夜ふかしをしたわけではなく、ただ単にこれまでの疲労がたまっていたようで、目が覚めた時はリビングで春香と同じソファで寝ていた。


春香は気づいていないようだった。春香が起きる前に目が覚めてよかった。


「お、真冬だ。」反対から小走りで真冬がやって来た。正門を過ぎた後、真冬は歩き始めたので俺と春香も歩くことにした。


「真冬も遅刻か。」

「遅刻じゃないわよ。チャイムまだなってないでしょ、セーフ。」

「始業式の俺みたいなこと言うな。」

「それは自分自身に謝らないと。こんな奴と同じことを言うなんて。」

「それどう言う意味だよ。」


春香がその会話にクスクスと笑った。その笑いで、俺と真冬の言い合いが止まった。


「やっぱり皆さんで楽しく話してた方が幸せです。夏音先輩がいたら尚更です。」


俺と真冬は黙って見つめ合った。


「……そうだな、その方がいい。」

「そのためにこれから学園長に会うのよ。」


ーーー精霊親協会本部

地下へと続くエレベーターに乗り込み、下へ下へと降りた。エレベーターが開かれると、そこには懐かしい光景と人がたくさんいた。

「みんな、ただいま。」

そう声をかけると、みんな私を歓迎してくれた。


「夏音が帰って来たー!」

「おかえり夏音。ずっと待ってたよ。」

「おかえりなさい、夏音。」

とても嬉しかった。みんな私を覚えていてくれた。


「Dr.レイク。夏音が戻ったってことは……ついに……。」1人の男が興奮しきった声で言った。


「時渡りの準備はできた。後は1年を待つのみ。」

本部は再び歓喜に包まれた。


「ねぇ、どうしてもう1年私をあそこにいさせなかったの?多分あのまま1年過ごしていても問題は無かったと思うんだけど。」


「夏音、それはお前の記憶が戻った時にも言ったが厄介な事が起きた。私たち精霊部隊のうち2つの部隊が悪魔によって倒された。」

……なるほど、私は戦力としても呼ばれたと言うことね。


「でも、私の魔力、残ってるのはは時渡りの分の魔力だけ。自分の魔力だけじゃとても悪魔には勝てないわよ。」


「私が、夏音が記憶を失っている間、何もしてないわけがないだろう。………“人工精霊を使い、精霊使いと戦わせることで精霊使いの魔力を戦闘の中で抽出することに成功した。」

魔力の抽出。その時点でだいたいDr.レイクが何をしようとしているか見当がついた。それに、

「入学式の前後にしゅうを襲った精霊は人工精霊だったって事ね。」


「もう既に時渡りを使える魔力は溜まっている。思う存分、今残っている魔力を使うがいい。」


この魔力が全部、私のもの?


こんなに嬉しいことはない。これなら精霊なんていらない。吹雪先生だって倒せる。まだ1年残ってる。


この力は、しゅうのために使おう。しゅうを襲った悪魔を倒すんだ。確かレオって言ってたっけ。この際全悪魔を潰すのもありかもね。


黒のローブを手に取り、体に纏った。


「Dr.レイク、悪魔を出来る限り殲滅します。何か情報あったらよろしく。」


秋翔、2人は絶対私が助けてみせるから。私をちゃんと見ててね。

どうも、改めまして作者の伊藤睡蓮です。

夏音とアクアの出会い、正直短くし過ぎた気もします。まぁ過去ストーリーに関しては見てくださってる方から投稿して欲しい要望がありましたら投稿させていただきます。(一応書いてはいるんですがあんまり好きではない方もいるかと思いまして……)

というわけで次回のお話も是非見てください( ´ ω ` *)

それではまた!


twitterでも活動しています。告知等はこちらでも行っていますので確認してみてください。

@suiren110133

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