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精霊剣士の物語 ~Adasutoria~  作者: 伊藤 睡蓮
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精霊剣士の物語 〜Adasutoria〜其の十五

どうも作者の伊藤睡蓮です。テストが8月から9月に変更になり、時間が少しできたので小説書く時間がありました。

あらすじとか相変わらず苦手です。ので書きません。(すいません)

それでら本編をご覧下さい(笑)

27,〜空白の1年〜

保健室のベッドの上で横になっている夏音を見て、小林先生は言った。


「うん、やっぱり怪我はないようね。もう少ししたら目が覚めると思うわ。」


小林神奈(こばやしかんな)先生、武精祭でもお世話になった保健の先生だ。


その言葉を聞き、ホッと息をつく。


あの日、夏音が先に帰っててと言った時、もっと早く気づくべきだった。イグニがアクアの魔力を感じて慌てて電車を降り、アクアの魔力のある方へ春香と真冬の3人で急いで向かったころには、夏音は路地裏の方でうつ伏せに倒れていた。


急いで病院に連れていこうとしたが、真冬の提案で武精学園まで運んでいった。

なんでも小林先生は学園長直々に任命した凄腕の保健の先生だとか。


夏音の両親には連絡がつかなかった。夏音の両親は世界一周旅行中で、おそらく電波が届かないところにいるのだろうと思った。また後で掛け直そう。


「なんであんな所にいたんでしょう?夏音先輩。」春香が呟く。


確かにそうだ。何故トイレに行くと嘘をついてまであの場所に行ったのだろうか?


「イグニ、何度も聞いて悪いが本当にあの周囲にアクア以外の魔力は感じなかったんだな?」

するとバッグにつけていた狐ストラップは紅く光り、炎を纏った狐、イグニが出てきた。


「あぁ。それにガンマの駅の下、駅には人も多いし精霊使いもいるだろうから、アクアの魔力を見つけられたのは奇跡だな。」やっぱりイグニの感知能力もあんなに人が多いと探すのが難しいのか。


アクアも夏音の隣のテーブルに魔導書のまま置いてある。精霊には手の施し用がない。夏音の回復を待ち、主人である夏音の魔力を分けて上げるのが1番の回復法だろうと、小林先生は言っていた。


「それより、夏音さんが誰と会ったかが気になるわね。夏音さんがあんな所に1人で行くわけがない。」

真冬の言う通りでもある、どうして何も言ってくれなかったんだろう?


ふとガンマで会ったかた職人であり、特務部隊に所属する(かざり)さんの未来の見える魔法の内容を思い出した。俺の、俺たちチーム192の未来。


『私が見たのは…………、その内の1人がだんだん他の3人から離れていく光景だったわ。』その離れていた1人の魔力の属性が水、もしかして……いや、夏音にかぎつてそんな事はない。考えすぎだ。


保健室の扉が開き、この学園の学園長で俺や夏音、2年2組の担任、時雨(しぐれ) 吹雪(ふぶき)先生が入って来た。

「小林先生、夏音さんの様子はどう?」


「命に別条はありません。大丈夫ですよ。」

その言葉を聞き、さっきの俺と同じようにホッと息を吐いた。


「あなたたちも夏音さんが心配なのは分かるけど、しっかり授業受けといた方がいいんじゃない?いくらTFTがあるとはいえ、このまま隣にいても時間を無駄にするだけだし。」

吹雪先生は俺たちに向けてそう言った。


「でも……」と春香が何か言いかけたがやめた。

夏音の事が心配なのだろう。まぁ無理もない。この間武精祭でも熱を出して倒れてしまった事もあるしなるべく傍にいたいのだろう。


「春香、気持ちは分かるけど今は学園長の言う通り、授業を受けましょう。学園長、夏音さんが目を覚ましたら私たちに伝えてくれませんか?」真冬が言った。

学園内では一応立場関係を気にして“学園長”と言っているらしい。


「分かった、約束するわ。」吹雪先生が頷きながらそう言った。


「……分かりました。」渋々春香は了解した。


「それじゃあ行くか。…また後でな、夏音。」そう言って保健室を後にした。


ーーー化学か。ということは新井龍磨(あらいりょうま)先生が担当だ。

時計を見る。もう授業が始まってから数分経ってるな。

そんな事を考えながら机の中から化学の教科書を取り出し、廊下へと出た。


夏音は何故あそこにいたのか?

どうして倒れていたのか?

他に誰かいたのか?と色々な疑問が浮かんでいた。


すると急に横から、

「夏音さんのこと、どう考えてる?」と話しかけられた。咄嗟に話しかけられた方から距離をおいた。


「そんなに驚く?」そこにいたのは真冬だった。


「なんだ、真冬か。驚かせやがって。」


「別に驚かしたつもりはないわ。あなたを驚かしたところで私には何のメリットもないもの。」


……一言多いんだよな。


「夏音の事は化学室ついてからにしようぜ。新井先生には悪いけど今は夏音の事が気になるからな。」


「あなたとは席が離れてる。それに、頭の悪いあなたと一緒にいるのを他の人に見られたくない。だから今ここで話してるんじゃない。」

落ち着いてるようで焦ってもいる。そんな気がした。頭の悪いは当たってると思うが付け足して言っただけだろう。


おそらく迷惑をかけてしまうと思っているんだろう。まだ真冬のクラスで嫌がらせが続いているのか?


「真冬、俺はお前がどんな目にあって来たかは分からない。同じチームの仲間なのに分かってやれてないなんてな。けど、今からなら分かってやれる。誰に何を言われようと、誰に嫌われようとしても、俺はお前の味方だ。もっと俺や夏音、春香を頼ったっていいんだぜ。特に夏音なんかすげえ頼りになると思うぜ。知識でもあいつには敵わないからな。」


真冬は悲しそうな表情でこちらを見ていた。これまで心の奥底に溜めていたものが溢れてきたんだろうな。


「あなたたちって本当にどうかしてるわよ。」今度は笑みを浮かべてそう言った。


「かもな。それに俺もお前の意見が聞きたい。俺も1人だけだと考えがまとまんねえからよ。手を貸してくれないか?」


「あなたはチームの中でも特に馬鹿だものね。」

だから一言余計なんだよな。


真冬は手で涙を拭い、

「分かった。けど席はどうするの?実際に席が離れてるのは事実でしょ。」と聞いてきた。


「任せろ、俺に考えがある。」

ニヤリと俺は笑った。


ーーー保健室で私は夏音さんの横にある椅子に座っていた。


「学園長、お仕事は大丈夫なんですか?葉月さんなら私が見てますから心配しなくても大丈夫ですよ。」

小林先生が私にお茶を作って持ってきた。


「ありがとうございます。でも、私の仕事なら大丈夫です。それよりもあの子たちと約束してしまいましたからね。今は夏音さんの横にいます。」そう言うと小林先生はクスリと笑った。


「あの子たち、どうしてこんな不運な事ばかりに巻き込まれるのかしら?精武祭もそうだし今回だって。」


そう。悪魔の件、そして今回の件。絶対に意図的にチーム192を狙ったもの。いや、正確には違う。


葉月 夏音を狙った可能性がある。


「今回の件も近いうちに4学園会議で話してきます。……それよりも、小林先生、あの子たちに話してない事ありますよね?」

棚に手を伸ばしていた小林先生の手が止まる。


「やっぱり気づいてましたか。」

そう言ってこちらを振り向いた。


「私を誰だと思ってるんですか?」そう笑いかけると、小林先生も少し笑った。が、すぐに真剣な顔つきになった。


「私の能力は覚えてますよね?」


「もちろん、触れた人の魔力や属性が分かってそれに応じた治療ができる。だから私はあなたを選んだの。」小林先生はゆっくりと頷いた。


「実は、武精祭のときに葉月さんが熱を出した時があって、その時に夏音さんの魔力を直接手で感じ取った事があるんです。」


夏音さんが熱を出した事は少し耳にしていた。


「それが何か?」


「さっきもう一度触ってみました。……今の葉月さんはその時の倍以上の魔力を持っています。」


流石に驚いた。武精祭から数日で魔力が数倍上がるなんて聞いた事がないし、ありえない。


「原因はわかりますか?」

小林先生は首を振った。


「やっぱりおかしいですよね。それにあの子たちから話を聞く限り、特訓とか戦闘とかはあの襲撃以来ないと言うんです。それなのに葉月さんの魔力が上がっている。」


もう一度夏音さんの方を見る。まだ眠っているようだ。


一体あなたは何を隠しているの?葉月夏音さん。


ーーー「秋翔、真冬、話は学園長から聞いてある。遅刻にはしないから、早く席に着きなさい。」


作戦決行。真冬、上手くやってくれよ。


「あ、新井先生、今日もTFTを使って授業に来てない人いますね。」

やばい、自分で言ってみても完全に不自然な出だしなのが分かった。


「そうだな、まぁこっちとしてはちゃんとテストで点取ってくれれば問題ないからな。」


「あ、あの。」真冬が新井先生に話しかける。


「どうした、真冬?」


「秋翔くんに授業が分からないから隣で教えて欲しいとお願いされたんですけど……秋翔くんの隣に席を移す事はできますか?」

少し遠慮してそうな話し方をする真冬。絶妙なうまさに逆にちょっとひいてしまった。


暫く新井先生は考え込み、

「そうか、まぁ確かに同じチームの人からしっかり教えてもらえれば秋翔も少しはマシな点数取れるようになるだろ。真冬は今日から秋翔の隣にいてよし。」

作戦成功。と思ったが真冬もの顔があまり嬉しそうでない。席についてその理由を聞いてみた。


「なんでそんな顔してんだよ?」


「”今日”だけで良かったのに新井先生から“今日から”って言われたじゃない。あなたに勉強なんて教えたくないわよ。」

そんな事で怒ってるのか。


「そのぐらいいいじゃねえか。別に困ることなんか……。」

ふと俺の席の周りが新井先生に聞こえないぐらいでザワつき始めた。


「最近多いのよ。私の周りでコソコソ話してる人がいて嫌だったの。だから私はあなたといることを拒んだの。」

なるほどな、けどこのざわつき。嫌いというよりは……。


「それより夏音さんの事、話すんじゃないの?私も少し考えてみたことあるしまとめてみようかと思ってるんだけど。」


「あ、あぁ。そうだな。俺は3つの疑問を持った。夏音は何故あそこにいたのか?どうして倒れていたのか?他に誰かいたのか?この3つだ。」真冬も頷いた。


「まぁ私もそんなところね。他に誰かいたことを前提として話すわ。これから話すのはあくまでも仮説よ。まず夏音さんは私たち4人で歩いている時に、“何かを見た”、もしくは“聞いた”。そしてあの場所に誘導された。倒れた理由は分からないけど怪我がないとこからして多分頭に負荷がかかったりしたんじゃないかしら。」

さすが学園長の娘、というか夏音のような説明ぶり。真冬が何かノートにまとめている。


「夏音が1人であんな所に行く理由もないし、俺たちに嘘をついてまで行くなら誰かがいたとしか考えられないんだ。」

うーん、と首をかしげて考え込む俺と真冬。


「夏音さん……、去年は一度も会ってなかったからよく分からないわね。あなたは幼馴染なんでしょ?何か思い当たることとかないの?」


「思い当たること。」色々考えてみたが何も思い浮かばなかった。


しかし、真冬は何か気づいたように俺を見た。

「……ちょっと変な質問する。」

真剣な表情で真冬はそう言った。


「お、おう。」


「“夏音さんとの去年の思い出”、何かある?」

いきなりなにを言いだすんだ、真冬は。


「そんなのあるに決まって………、あれ?おかしいな。」

夏音と話した記憶がない。クラスが違っていたとはいえ、会わないはずがないんだ。


そうだ、後ろの席の女子に話しかけた。

「夏音って知ってるよな。」

急に聞かれて動揺していたが

「お、同じクラスだったよ。」と言った。


「夏音とはどうやって仲良くなったんだ?」そう聞くとその女子は頭に手を当てながら考え込んだ。


「どうやってだろう?気がついたら話してた、かな?普通はそんなもんじゃないかな?現に今こうして話してるうちに仲良くなったりするもんだよ。」


「そ、そっか。ありがとな。真冬、これってそういうもんなんじゃないか?気がついたら仲良くなってるっていうもんじゃないのか?」


真冬は首を振った。


「他の人はそうかもしれない。けど、あなたは幼馴染なのに1年間一度も会ってないなんてありえないわよ。それに“会ってないことに今まで気づかなかった”あなたも変よ。」

そうだ。何故俺は夏音に会ってない事を気にも留めなかったんだ?

ふと始業式での会話を思い出す。

ーーー「久しぶりだな、かのん。」


「久しぶりだねー、じゃないよ遅刻じゃない!」


「ギリギリセーフだから遅刻じゃねぇよ。」ーーー


久しぶり?何故疑問に思わなかった。

真冬はそんな俺の僅かな動揺を見抜いた。


「思い当たることがあるみたいね。おそらく魔法で記憶をコントロールされてる。夏音さんの思い出に関する記憶を。そして、夏音さんも同じように記憶を操作されてる可能性がある。」


信じられなかった。


「誰がそんな事を?なんのために?夏音はその1年間の間何をしてた?」

真冬の肩を掴む。


真冬は冷静に俺の手をそっと握った。そして、

「私は夏音さんじゃない。全てを知っているのは夏音さん自身。目を覚ましたら自分で聞きなさい。」そう言った。


真冬が言ってることは仮説だが筋は通っている。真冬に夏音のことを聞いても答えられないのは当たり前だ。


「やっぱり結局は夏音の意識が戻るの待つしかないのか。」机にバタンと伏せる。


すると新井先生が、

「秋翔、堂々と音を立てて寝るとはいい度胸じゃないか。寝れるほど余裕なのか。だったらこの問題解いてみろ。」

しまった。迂闊にも音を立てるというミス。しかもホワイトボードには見たことのない数式やら言葉やらが並んでいる。(多分授業で何度もやってる。)


隣にいる真冬を見るがノートに何か書いていてこちらを助けることは無さそうだ。


やばい、これが分からなかったらまた補習確定だ。


「どうした?早く解いてみろ。」


これはやばい。


「え、えーっと。答えは……。」

こうなったらやけくそだ。適当な数字を言うしかない。


とその時、体の横をツンツンと突かれた。隣には呆れた顔の真冬が机を指差していた。いや、正確には机の上のノートを。


「えーっと、・・・の公式を使って・・・」


そこに書かれていたのはおそらく今日の授業の内容を簡潔にしたもの。今出された問題の内容と解答だった。


俺と話をしながらこんな事までしていたのか。


「答えが少し間違ってるが、解き方は合ってる。まぁ秋翔にしては中々出来てる方だな。ちゃんと聞いてたみたいでなによりだ。」


少し間違える事により新井先生に疑われる事なく授業が進んだ。


「助かったぜ、ありがとな真冬。」

真冬は俺に顔を向けずに

「今日だけよ。次からは夏音さんにでも聞きなさい。」と言った。


………夏音、お前に何があったんだ?


28,〜笑顔でいて欲しいから・前編〜

真っ暗で何も見えない。目は開いてるはずなんだけど。


どこからか声がする。


・・・早く気づきなさい、あなたの目的を。

いつまでもこのままでいいわけがない。

あなたは思い出そうとするだけでいい。思い出せば、すぐに仲間が駆けつける。さぁ、早く。・・・


誰?どこにいるの?近くにいるはずなのに、見えない。


「私は……。」

何をしてたんだっけ?


………そうだ、しゅうやみんなとガンマに行ってその帰り。思い出した。


Dr.レイク。何故私はあの人の名前を知っていたんだろ?


すると突然、目の前に一筋の光が見えた。無我夢中で手を伸ばすと、誰かに掴まれた。

その瞬間、暗闇は、光に変わった。


ベッドの上で寝ていた。私の横には手を掴んでいる吹雪先生がいた。


この間取り……。保健室か。


「よかった、目が覚めたのね。」

明るい笑顔でそう言うと、小林先生と何かを話してどこかに行ってしまった。小林先生が私の元へ来ると、


「学園長は今秋翔くんたちを呼びに行ったわ。ちょうど三時限目が終わるころだかすぐ来ると思うわ。」

またみんなに迷惑かけちゃったのか。リーダー失格じゃない。


「リーダー……。」ふとその言葉が引っかかった。

頭の中に浮かび上がる映像。そこにはいくつかのグループにまとまっている黒いローブのようなものを纏った人たち。そしてそのグループの前に立つ人の中に……私がいた。


不敵に笑う私が。


激しい頭痛に襲われる。まるで思い出せと急かしているように。


その異変に小林先生もすぐに気づいてくれた。


「葉月さん⁉︎大丈夫?しっかりして。」この痛みを消すには何か大切な事を思い出せばいい。そんな気がした。


保健室のドアが開いた。


ーーー「よし、今日の国語の授業はこれで終わりだ。しっかり復習するように。」ようやく終わった。ほとんど内容が頭に入ってこなかった。


夏音はまだ目が覚めないのか。

その時、後ろの席の香織がツンツンと背中を叩いてきた。


「どうした、香織?」


「授業の終わるちょっと前からあそこに……。」指をさした。その方向を見ると、

「ようやく気づきましたか。」と言わんばかりのむすっととした顔の春香がいた。


急いで春香の元へ行くと、真冬、それに吹雪先生もいた。


「あんた、寝てたでしょ?全然気づかないし。」真冬が呆れた顔で言う。


「教室に入ってきてくれればすぐ気づいたんだけどな。」


「秋翔くん、寝てたことを否定しないのね。まぁ頭に入ってこないからがしれないけど……。夏音さんが目を覚ましたから、みんなで会いに行きましょう。」


夏音が起きたのか。よかった。


「3人で会いに行くためにずっと待ってたんですからね。」春香はまだ怒っていた。


「悪かったって。それじゃあ行こうぜ。夏音のとこに。」


保健室の前まで着くと、小林先生が何か喋っているのが聞こえた。


ドアを開くとベッドの近くに小林先生がいた。

夏音は、頭を抑えて苦しんでいた。


「夏音!」慌てて夏音のもとに駆け寄った。


「小林先生、一体何があったんですか?」吹雪先生が尋ねる。


「それが、学園長が保健室を出た後すぐに頭を抑えはじめたんです。特に体に異常はないようなのですが。」


何が起こってるんだ。


「夏音!俺だ、秋翔だ!分かるか?」

夏音はゆっくりと俺の方を向いた。


「しゅ……う?」どうやら落ち着いてきたようだ。


「夏音先輩、大丈夫ですか?」

春香が声をかける。


「はるちゃん、真冬さん。それに吹雪先生まで。大丈夫。もう頭も痛くないから。そうだ、アクアに魔力を……。」

夏音のその言葉を聞いて、春香は胸を撫で下ろした。


「夏音……、」言いかけたが夏音は魔導書を手に取り、自分の魔力を魔導書に与えた。


「これで目が覚めるわね。しゅう、みんなも。聞きたいことがあるんじゃないの?聞かないの?」


聞きたい、知りたい。けど、


「お前が話したいか話したくないか。お前が話したい時に聞く。無理に聞こうとはしない。」夏音は下を向いた。


「話すよ。といっても私もよく覚えてないんだけどね。あの日、しゅうたちとガンマで別れるちょっと前に、“誰かが私の名前を呼ぶ声”がしたの。」


「声?私たちには聞こえなかったけど。」と真冬が言うと、夏音は頷いた。


「それなんだけど、私だけに聞こえてた感じだった。」


「おそらく魔法の一種に通達魔法があります。風魔法の応用ですね。それを使ったのでしょう。」吹雪先生が説明した。


「誰がやったか分かるか?」俺がそう言うと夏音はまた頷いた。


「うん、お爺さんみたいな感じで、科学者っぽかった。それに………わたしはその人のこと、知らないと思ってたけど知ってた。」

どう言うことだ?知らないのに知ってる。意味が分からない。


「その人の顔、確かに見たことはなかったの。でもあの人が喋っているうちに頭が痛くなってきて、その時、Dr.レイクって言葉が思い浮かんだの。」


Dr.レイク。聞いたこともない。この場にいる全員も知らないという顔をしていた。

吹雪先生でも知らない人。それに夏音はその人を知っていた可能性。


「そして1番私も気になること。私の“空白の1年”。」


やっぱり夏音にも記憶が無かったんだ。夏音や俺たちの記憶を操作して書き換えた犯人はそのDr.レイクなのか?


「空白の1年?どういうこと?」

吹雪先生や小林先生、それに春香も訳がわからないようだった。


「私が説明するわ。」真冬がそう言った。


「この学園の全員に夏音さんが入学してからの1年間、あたかもずっといたように記憶を書き換えられている可能性が秋翔と話してて出てきました。秋翔は1年間、夏音さんと会った記憶がありませんでした。そしてその事すら気づいてなかった。さらに夏音さんと関係が深かった人全員が記憶を書き換えられてると思います。」


吹雪先生が納得したように頷く。春香は首を傾げてこちらを見ていた。


「なるほどね。でもそんな事出来る人なんて少ないわよ。それこそ、私たちのような精霊使いでも難しいっていうのに。出来たとしても一度にそんな魔力を使うから発動者は死ぬわね。」

確かに、大勢の人の記憶を書き換えるなんて大掛かりな魔法は相当な魔力が必要なはずだ。


「私が話せるのはこのぐらいかな。1年間の記憶はまだ戻ってないの。けど、みんなといるこの時間は、本物だって分かるから。」

夏音が悲しそうな目でそう言った。1番の被害者は夏音だ。こんな事をした奴を絶対に許すわけにはいかない。


すると春香が、「今のところ夏音さんの過去を知る手がかりになるのってDr.レイクって人ですよね?」と話に入ってきた。


「そうだな。そいつが何処にいるかさえわかれば。」


「私も、4学園会議で話してみます。何か手がかりが見つかるかもしれません。」


みんな夏音のために協力してくれる。これから夏音の記憶を取り戻すためにも頑張らないとな。


「その必要はないよ、紅葉秋翔くん。」


部屋に誰かの声が聞こえた。

「気をつけて、何かいる。」吹雪先生が小指につけていた鷹のようなストラップを外して手に取った。


「この声、Dr.レイク!」夏音が確かにそう言った。あいつが来たのか⁉︎


保健室の中には俺たち以外誰もいない。


「イグニ、精霊の匂い……はこの学園中精霊使いだらけだから無理だな。」


「その通り。けど変わった精霊の匂いはしないぜ。おそらく敵は精霊使いじゃない。」精霊使いじゃない?


「アイさん、お願い。天神目(シェルトアイ。」腰につけていた猫のストラップは光り、2本の双剣になった。


「おっけ〜。」アイと呼ばれた精霊。春香が悪魔襲撃時に宿した精霊だ。


「窓の外、グラウンド方面に誰かいます。」春香はそう言った。その場にいる全員が窓の方に目をやる。


「イグニ。」

「アクア、無理しない程度によろしく。」

「ライム、お願い。」

各々が精霊を呼び出すと、それに反応するように狐は剣に、魔導書は光り、犬のストラップは細い刀に変わった。


「おやおや、誰も戦うとは言っていないのだかね。まぁ、ちょうどいいか。」


絶対に許せない。

窓を開け、グラウンドに飛び出した。そこには老人が立っていた。あいつがDr.レイク。


「お前が夏音やみんなの記憶を操ったのか。」

他のみんなも集まった。


Dr.レイクはニヤリと笑い、

「それは少し違うよ、紅葉秋翔くん。やったのは、“葉月夏音自身”だ。」


その場にいた全員は夏音を見た。しかし、夏音は目を見開き、信じられないという顔をしていた。


「まぁ無意識にだがね。自身の体を守るためにその魔法が発動したに過ぎない。彼女に自覚はないはずだ。」

Dr.レイクは不気味な笑みを浮かべながら言った。


「私が……みんなを?」夏音はまた頭を抱える。


「夏音!……てめぇ、さっきからデタラメ言いやがって!火纏(フーラップ)。」

Dr.レイクを火を纏った剣で斬った。

奴の身体は燃え、その場に倒れた。


「まったく。真実を受け入れたくないからと言って斬りかかるのはどうかと思うがね。まぁその武器が君の本当の武器でない事も知っているが君本来の武器でも私は倒せない。」

燃えた身体は立ち上がった。炎は徐々に消え、火傷の跡が全くない無傷のDr.レイクがそこに立っていた。


いくら武精祭の武器とは言え無傷でいられるなんてありえない。


「嘘だろ……。」

驚きと恐怖のあまり膝から崩れ落ちてしまった。


その場にいた全員は反射的に数本下がった。小林先生でさえ額から汗が垂れていた。


「秋翔くん、下がりなさい。」

吹雪先生が俺の前に立った。それほど危険な人物ということか。


「これはこれは、吹雪学園長。葉月夏音がお世話になっております。」Dr.レイクは余裕の表情でお辞儀をする。


「あなた、何処からその余裕が出てくるの?言っておくけど手は抜かないわよ。」いつの間にか手には長刀を握っていた。さっきの鷹の指輪が吹雪先生の武器、初めて見た。


「あなたと本気でやり合うのは無理がありますな。」

なぜだ、奴はどうしてそんな顔が出来るんだ?


「一撃で終わらせるわ。絶対凍(フロストシュラ)…⁉︎」

吹雪先生が魔法を発動させる詠唱の途中で、背中から血を流し、その場に倒れてしまった。


「学園長!」小林先生が吹雪先生に近づく。回復魔法陣を展開する。

しかし、思ったりより傷が深いのか、中々塞がらない。


すると吹雪先生が

「気をつけて、今攻撃されたのは後ろからよ!」と言った。


春香や真冬は呆然とその場に立ち尽くしている。


頭を抑えていた夏音は……右膝を地につけたまま、手は吹雪先生の方へ向けていた。


「夏音……、お前がやったのか?」

夏音は何も言わずに立ち上がり、


「うん、そうだよ。」

今までと変わらない、明るい顔でそう言った。


「Dr.レイク、ちょっと強引過ぎたんじゃない?もう少し時間かけて私の記憶を戻しても良かったのに。それに、“タイミング悪すぎない?」」

奴の元に近づいていく。


「少々厄介な事になってな。早急にお前の力が必要になったのだ。」


「そうなのね、分かったわ。とりあえず行きましょうか。ここにもう用はないし。」2人は背を向けて学園の外へ出て行こうとする。


「待てよ、夏音……。どうしちまったんだ。」


なぜ奴と歩いてるんだ。


夏音が立ち止まり、こちらを振り向く。

「私が失ってた記憶、全部戻ったの。私がやるべき事、やらなきゃいけない事全てを思い出した。」

夏音の記憶が戻った。だからと言って夏音がDr.レイクの元へ行く理由が分からない。


「夏音先輩!どうしちゃったんですか⁉︎なんでその人の方にいるんですか!夏音先輩!」春香がそう言うと、夏音は春香に微笑み、そして

右手を春香の方へ向けた。

「はるちゃん、今までありがとう。十分楽しませてもらったよ。……もう私に近づかないで。」


春香は水の球体の中に閉じ込められた。しかし、前に春香を助けた時とは違う。球体の中には空気はなく、代わりにあるのは水だった。春香が苦しそうにもがいている。


「夏音、やめろ!」

夏音は無視して春香を見ている。


すると急に俺の横から真冬が飛び出してきた。


「夏音さん、流石にやり過ぎよ。凍結斬(フロストシュラク)。」


刀を振ると夏音の方へ氷の斬撃が飛んでいく。


水壁(オーミュール)。」

真冬の攻撃をいとも簡単に防いだ。凄まじい魔力の量だ。


「真冬さんとももっと仲良くしたかったけど、ごめん。」

真冬も春香と同様に水の球体に閉じ込められた。

夏音はようやく俺を見た。


「大丈夫、私が全部変えてみせる。今まであったこと全てを変える。だからみんな、邪魔しないで。」

水の球体が弾けた。2人とも無事だが相当体力を消耗している。


「夏音、本当にどうしちまったんだ?答えろ、夏音。」


「ごめん、しゅうでもそれは教えられない。けど、私の計画を邪魔するなら、容赦はしない。Dr.レイク、行きましょう。」

再び前を向いて歩き出す。


「2人に謝れ、夏音。吹雪先生にもだ。そして、そいつから離れろ、夏音。」


夏音は歩みをまた止めた。


「しゅう、やっぱりあなたは分かってくれないのね。アクア、水槍(オーランツェ)。」

………。夏音の魔法は不発した。


「アクア、どうしたの?あなたも記憶は戻ったはずよ。」

夏音は左手にもっている魔導書に問いかける。


「夏音、記憶は戻ったよ。けど、今ならわかる。間違ってるよ。今すぐこんな事やめて。もう仲間を傷つけるのは嫌なの。」

アクアが夏音にあんな事を言うのを初めて見た。


「アクア、本気で言ってるの?……だったらあなたは“いらない”。」手に持っていた魔導書を投げた。


我慢の限界だった。


「夏音、いい加減にしろ!紅翼(アーラ)。」炎の翼で空に飛び、投げられた魔導書をキャッチした。


「秋翔。夏音を、私の主人を止めてくれ。」アクアは今にも泣きそうな声でそう言った。


「当たり前だろ。」

どうも、改めまして作者の伊藤睡蓮です。

本編を振り返る前に、

ここでちょっと悩んでいて相談するんですけど、9月にテストがあるので10月から何本か連続で投稿するか、月1回投稿にするか。みなさんどちらがいいんでしょうかね?

twitterでもコメント欄でもどちらがいいか返答お待ちしております。

それでは簡単に本編を振り返ります。

今回は秋飛をメインとするより夏音をメインにしてみました。ガンマにいた時に出会ったDr.レイク。この人物と夏音の関係は今後明らかになります。夏音は記憶を取り戻すと同時に仲間であった秋飛たちに攻撃をしかけてきましたね。自分の精霊であるアクアまで、捨てられてしまいました。まぁ流石に怒りますよね、秋翔。

というわけで次回は秋翔vs夏音になりそうですね。

正直言うと、其の一とか二を書いてる時点でこんな想像はしていませんでした。( ̄▽ ̄;)

よし、もう無理(笑)

twitterで告知しているのでお暇な時でいいのでチェックしてみてください。

それではまた!


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