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精霊剣士の物語 ~Adasutoria~  作者: 伊藤 睡蓮
16/20

精霊剣士の物語 〜Adasutoria〜其の十四

どうも作者の伊藤睡蓮です。ちょっと今回は早めに投稿することになりました。7月はずっと勉強しないといけないかもしれないということで投稿が難しいと考えたためです。

そのため、7月の投稿はおそらくありません。

1ヶ月くらい間が空いてしまいますが、少しお待ちいただけると幸いです。

それではどうぞ!

25,〜東の都市ガンマ〜

「ここがイプシロンから東の都市、ガンマか。」イプシロンに比べればビルなどは少ないがそれでも充分大都市だと思う。


並ぶビルの多さがやはり武精学園がある北の都市、アルファよりも都会だ。


「へぇ〜、ガンマも中々の大都市ね。初めて来たけどいい都市じゃない。」夏音は辺りを見回しながら言った。


「ですね。ガンマ学園までは後少しで着くと思いますよ。どんな学園なんでしょうか〜。」わくわく感全開の春香が手提げのバッグをぶんぶんまわしながら言った。

そんな春香の肩を真冬が掴んだ。


「春香、人に当たるからやめなさい。それにまだ退院したばかりなんだから、無理しないように。」春香の保護者みたいだ。


「えへへっ、すいません。」


「イグニ、悪いな。精武祭用の武器にずっと入らせちまって。」と狐のストラップに語りかける。


「まぁちょっと窮屈な感じはやっぱりするけど仕方ねぇだろ。それに新しい武器がもう少しで手に入るんだから少しの我慢だぜ。」

そう、俺たちがここに来た本当の目的、それは忠精(ガンマ)学園を見に来た訳じゃない。忠精学園の学園長の親戚の、刀職人に前回の悪魔との戦闘で折れてしまった剣の代わりを作ってもらうために来たんだ。


ふと吹雪先生が言っていた言葉を思い出した。


『武精学園に悪魔と通じている人がいる可能性があります。』


もしそれが本当だったら大変な事だ。吹雪先生も急いで対応しているだろう。悪魔の襲撃があったことはあの場にいた一部の人しか知らない。観客席にいた生徒には演出だの何だのと誤魔化したらしい。


いつまた悪魔が襲って来るかもわからない。もっと強くならなければ。


「しゅう、顔が暗くなってるよ。またあの事考えてたでしょ?」と夏音が顔を膨らませて迫って来た。


「ちょ、近い近い!わるかったから。離れてくれ。」と言うとスッと離れた。


「忘れなさい、なんて言わないけど、折角みんなで来たんだから楽しもうよ。」遊びに来たわけでもないんだけどな。


でも、俺を元気付けるために言ってくれたんだろうな。


「しゅう先輩ー、夏音先輩ー!見えましたよー。」坂の上の方に、手を振っている春香が見えた。春香と真冬は俺たちが立ち止まっている間に坂の上の所まで歩いていた。


「いまいくー。」と夏音が手を振り返した。


今は考えないようにしよう。そう思った。

夏音の腕を掴んだ。

「な、なに?しゅう?」

何故か分からないが夏音は顔を赤くしていた。


「ほら、行くんだろ?」笑ってそう言った。


すると夏音も笑って、

「うん。」と答えた。


2人で走って春香たちの所まで辿り着くと、そこに見えたのは東の学園、忠精(ガンマ)学園だった。


「とうとう来たね、忠精学園。」夏音はそう言った。


また4人で歩き始めた。


「みなさんもここに来るのは初めてなんですよね?」と春香が言った。


「そうだな。基本俺たちが他の学園に行く理由もなかったし、イプシロンなら殆ど何でもあるから他の都市に行く必要も無かったってこともあるな。他の学園の奴らも多分アルファ都市には来たことない奴が多いと思うぞ。」と答えると、


「私は母さんの仕事で何度か他の都市にも付いて行ったことあるわよ。もちろんここも。」と真冬が言った。そりゃ学園長の娘なら来ててもおかしくないか。


「私の両親なんか旅行は2人で行っちゃうんだけど……。」と夏音が悲しげに言った。

夏音の両親は子供の頃からよく旅行に行っていた。夏音を置いて。危険な所もあったり、学校に行かないといけないからなど、理由は様々で、俺の家で過ごすことも元々少なくなかった。だから今も夏音と住んでることには抵抗がないのだが……。最近は1人増えた。


春香まで俺の家に泊まることが多くなった。母親と揉めた事もあったが今は泊まることの許可がおりたらしい。流石に慣れない。


真冬は、たまに春香に会いに来る程度だが、前までは顔すら合わせなかったが今では大分ましになったと思う。


慣れない事もあるけど、賑やかになって楽しいと思ってる俺もいる。思わず少し笑ってしまった。


「しゅう、なに笑ってんのよ?」と夏音に聞かれた。


「いや、なんでもない。」と答えると不満だったらしく、


「何よそれ。」と、また顔を膨らませた。


ーーーそれから暫く歩いて、ついに忠精学園に着いた。

校門の前にはこの学園の学園長であり、吹雪先生とプライベートでも仲の良い、雲雀真純(ひばりますみ)学園長が立っていた。


「わざわざ出迎えて下さったんですか?」と夏音が言った。


「遠くから来てくれたんですし、私もこのぐらいはしないと。それに、他の学園の生徒だけでこの学園内に入ると色々と大変な事になりますし。」


大変な事とはどういう意味だろう?


「とりあえず、お茶でも淹れるから学園長室に案内しますね。話はそこで。」と雲雀学園長が言った。


「は、はい。」付いていくしかないので学園の中へと入っていった。


学園の中に入ってみると、基本は武精学園と同じような造りだったりして、そんなに違和感はなかった。


「あのー、雲雀学園長、すいません。大変な事が起きないような気がするんですけど。」と春香が言った。


すると雲雀学園長が振り返って、

「それじゃあ、少し体験してみます?大変な事。」と言った瞬間、雲雀学園長は霧のようにどこかへ消えてしまった。

おそらく魔法の類で姿を消したのだろう。


……………………、


「別に何も起きませんね。」春香がそう言った瞬間、教室の扉が一斉に開いて、中から生徒が俺たちの方に走り寄って来た。


「な、なにが起こってるんだ⁉︎」状況が理解できない。一瞬で俺たちの周りにこの学園の生徒が集まった。


「ねぇねぇ!どこの生徒?」

「精霊見せてよ!」

「どこから来たの?」

「どんな授業受けてるの?」

「名前なんて言うの?」と質問の波が俺たちを襲った。


「た、大変な事ってこのことか!」と気づくと、


「はい、みなさんそれまでにしておいて。見学しに来たわけじゃないから。」と雲雀学園長が生徒の間をかき分けてきた。


学園長が来ると同時に渋々各々の教室へと戻って行った。


「た、助かった〜。」大きく深呼吸した。

学園長室に着くと、ソファに座るように言われ、4人で1つのソファに座った。かなりギリギリだったが。


「体験したから言うまでもないと思うけど、この学園の生徒たちは他の学園の生徒を滅多に見ることないから、ああやって質問してくるのよ。まぁ悪気はないから許してあけまてね。」と笑いながら言った。


「な、なるほど。」悪気がないのは分かるが限度もあるだろと思った。


「あなたが吹雪の娘さんの真冬さんよね。」


「はい、いつも母がお世話になっています。」と頭を下げた。


「お世話になってるのはこっちよ。いつも相談に乗ってくれて助かってるわ。そしてあなたが春香さん。この間の戦いで精霊を宿したのでしょう?」と今度は春香を見た。


「はい、そういえばしゅう先輩たちにも紹介してませんでしたね。アイさん、出て来てください。」と猫のストラップに声をかけると、風を纏った猫になり、春香の肩に乗った。これが春香の精霊か。


「どうもよろしく〜。」とアイは軽い挨拶をした。


「夏音さんと秋翔くんは確か吹雪のクラスの生徒って聞いたんだけど、本当なの?」と今度は俺たちに聞いてきた。


「本当です。俺たちも最初は驚きましたけど、今はもう慣れました。」と言うと雲雀学園長は笑った。


「本当なのね、吹雪ったら学園長ってこと自覚してるのかしら。でも、そういうところが吹雪らしいのよね。」と懐かしげに言った。


「そろそろ本題に入ろうかしら。私の親戚の刀職人なんだけどね、ちょっと変わってるのよ。」


「変わってるというと?」と聞くと、


「会ってみるのが1番なんだけど言っておいた方がいいわね。その刀職人は多分刀を作ることを拒否すると思うから説得して作ってもらいなさい。」


…………はい?


「それから行くなら2人、大人数だと話してくれすらしないから。真冬さんも合わない方がいいわね。」


「あ、あの。話が見えないんですけど……。」夏音が手を上げて言った。


「ごめんなさいね、私の親戚の刀職人、腕は確かなんだけど認めた人にしか武器は作ってないのよ。真冬さんが行かない方がいいのは吹雪とはあまり仲がよくないからなの。昔、吹雪がその人に作ってもらった武器を大胆に壊した事があってね。その時言われたのよ、『吹雪の顔は2度と見たくない、武器も作らない。』って。昔の吹雪に顔がそっくりだから、やめといた方がいいわね。」真冬は少しがっかりしていた。刀を作ってるとこ見たいって言ってたからな。


「そんなに学園長と長い付き合いなんですね。」と春香が言った。


「えぇ、小学生の頃からの幼馴染だもの。」

さらっと凄いことを聞いた気がする。


「あれ、吹雪ったら言ってなかったのね。まぁいいわ。はい、この紙に住所が書いてあるからそこに行けば会えるわよ。」と小さな紙を渡された。


「ありがとうございます。とりあえず行ってみます。」そう言って忠精学園を出た。


「さて、俺1人で行ってもいいんだけど……どうする?」と一応聞いてみた。


「そうねぇ、真冬さんを1人にさせるのも嫌だし、しゅうを1人にしても迷子になったら大変だから分かれましょ。」


迷子……、お前から見て俺は小学生か。


「それじゃあ私がしゅう先輩について行きます。夏音先輩は真冬先輩とこの都市を楽しんできてください。」と春香が言った。


「春香、何勝手に決めてるの?」と春香に冷たい視線を送る真冬。


「たまには同じ年同士の女の子と遊んでみたらいいじゃないですか。」なるほど、ここで夏音との仲をよくするつもりか。


「そうだな、夏音。お前も俺に付き合う必要ないからゆっくり羽伸ばしてこいよ。」


「う〜ん、心配だな〜。………分かった。真冬さん、それじゃあ2人でガンマを適当に周ってみる?」


真冬はため息を付いて歩き始めた。


「やっぱり2人きりだとまだ距離がありますね。」春香が真冬の背中を見て残念そうに言った。


「だな。この時間で少しでも仲良くなってくれればいいけど。」


「ですね、それじゃあ私たちは刀職人さんのとこへ行きますか。……そういえば名前聞いてませんでしたね。」

そういえばそうだった。もう一度さっき渡された紙を見る。やっぱり何も書かれていなかった。


「住所と店の名前か。“飾刀職人店(かざりかたなしょくにんてん)”?」


「飾さんという名前なのでしょうか?まぁ行けば分かりますよね。古くて恐そうな人がやってる店なんですかね?」

春香がどういう人を想像したかは大体分かった。


「分かんねぇぞ、案外真新しくて小さい女の子が作ってたりするんじゃねぇか?」

自分の頭に浮かんでいるゴツい男の想像を取り払うためにありえない想像をした。


一体どんな人なんだろう?


ーーーやばい、今気づいた。私と真冬さんって2人きりで話すの初めてだ。さっきは適当に答えちゃったけどいざ2人きりとなると本当に話すことがない。


「あ、あのさ真冬さん。どこか行ってみたいところない?」丸投げしちゃった。


真冬さんは足を止めて、私の方を見た。

「あなたたちのチームってどこ行くかを私に丸投げするチームなの?春香にも前に同じこと言われたわよ。」そうだったんだ。はるちゃんもとりあえず話を切り出したかったのかな。


「あなたの好きなところにでも行けば。私は行きたいところないし。付いてくだけ付いてくから。」う〜、流石に同級生の女の子となるとやっぱり嫌なのかな。


同じクラスの女の子からかなりひどいイジメを受けていたから。その事に私は気づけなかった。視野狭いなぁ〜私。


「そ、それじゃあ精霊石が売ってあるお店、昨日ネットで調べたらこの辺にあるらしいからそこに行こ。うん、それがいい。」こんなんじゃ話しかけてなんてくれない。


「精霊石?何それ?」


え?話しかけてきてくれた?戸惑っていたけどこのまま黙ってたら無視してるとか思われちゃう。


わざとらしく咳払いをして

「精霊石は今私たちぐらいの年代で流行してる精霊の加護が宿ってるとされてる石の事なの。まぁお守りみたいなものかな?」これなら話を広げられるかも!


「ふ〜ん。私たちぐらいの年代で流行してる、知らなかった。」


「きっと真冬さんにも似合う精霊石が売ってるよ。2人で行こ、真冬さん。」

黙ったまま真冬さんは間隔を少し開けて私に付いてきた。

まぁ最初はやっぱりこんな感じだよね。はるちゃんの時もそうだったし。


そうだ、はるちゃんとしゅうにも買ってあげようかな。きっと2人にもぴったりな精霊石があるよね。


ーーー「飾刀職人店、ここだな。」明らかに古く、今にも倒れてしまいそうな程にボロい店があった。しかし、看板は建物と違って少し新しい気もしたがボロいのには変わりない。


「しゅう先輩、ここですよね。随分と古いお店ですね、やっぱり恐そうな人がやってる店ですよ。」春香の予想が当たってたか。


「さっきから私の店の前でなんなのよ、用があるなら早く入りなさい。」後ろから若い女性の声がした。俺と春香は後ろを振り向いた。


が、そこには誰もいな……いや、いた。


そこには小学生くらいの女の子腕を組んで立っていた。


春香と顔を合わせてから、もう一度その女の子を見る。


「ちょっと、なにか返事をしたらどう?独り言を喋ってるみたいでしょ。」

間違いない。この子がさっきの若い女性の声の正体だ。


「さっき、“私の店”って言いました?」春香が念のために聞いた。


「だからそう言ったでしょ。私がこの店の店主、(かざり) 麻耶(まや)よ。」春香の答えと俺の答えを割って足したのが最終的な答えだった。


「き、きみが本当に刀職人?」


「ちょっと、君はないんじゃない?これでも私、忠精学園の学園長よりも年上なんだからね。」

この見た目で………。ありえねー。それに本当に刀職人かも怪しい。


「まぁ初めてだから無理ないか。さ、用があるなら入った入った。」

と背中を押され、半ば無理矢理俺と春香を中に入れた。


小さな店主は奥の座布団へと座って、近くに重ねてあった座布団を2枚、ぽいぽいとこちらへ投げた。


「適当なとこに座りなさい。話はそれから。」そう言った。俺と春香は

小さな店主の近くに行き、座った。


「さて、まずは自己紹介といこうか。私の名前は(かざり) 麻耶(まや)。あなたたちは?」


「は、はい。武精学園2年、紅葉秋翔です。」


「武精学園1年、弥生春香です。」ぺこりと頭を下げる。


「秋翔くんに春香さんね。それでここへはどういう用件で来たの?刀を買いに来たならその辺に飾ってあるから適当に持って来なさい。」と周りを指差ながら言った。


「いや、あのー、武器を作ってもらいたくてここに来たんですけど……。」そう言った瞬間、飾さんの目つきが変わった。


「断る。」その一言だった。雲雀学園長が言った通り断ってきた。


「どうしてですか?」と尋ねてみる。理由を知りたい。


「あなたたちに理由を教える必要はないわ。刀を作って欲しいのなら他を当たりなさい。」そう言って店の奥へと入って行こうとする。さっきとは真逆の態度だ。余程作りたくないのだろう。


俺と春香は慌てて立ち上がった。

「店主さん待ってください。」奥へ行こうとする飾さんを春香が引き止めた。


「自分が作った武器が壊れてしまうのが見たくないのでしたら……。しゅう先輩はあなたの刀を壊したりなんてしません。大切にすると思います。だからお願いします。」今度は深く頭を下げた。


春香がどうしてそこまで俺のために頭を下げてくれるのか分からなかった。


「春香さん、あまり頭を下げてばかりいると低く見られますよ。顔をあげなさい。」飾さんは優しい声でそう言った。


「そこまで言うのなら、少し試してみようかしらね。」


「試す?何をするんですか?」

わけが分からなかったので飾さんに聞いた。


「座ってるだけでいいわ。それとあまり何も考えないように。」


どういうことだろう?


よく分からなかったが、言われたとうりに座り、目を閉じた。


すると、額の辺りに誰かが手を置いている感じがした。おそらく飾さんだろう。


「我は望む。其方の過去を。其方の光を、闇を。記憶共有(メモリシェア)。」


その瞬間、子供の頃から今の俺に至るまでの記憶が全身を駆け巡った。父さんに母さん、夏音もいた。様々な思い出が鮮明に蘇る。


もちろんあの出来事も……。


そして今の状態に辿り着く。

目を開けると、既に俺の額からは飾さんは手を離していた。

天井が見えた。天井?俺は座っていたはず。


「しゅう先輩、気がつきましたか?」すると春香が俺の顔を覗き込んできた。


「俺、さっきまで座ってたと思ったんだけど……。」


「しゅう先輩、あの後すぐに倒れてしまって……。あれから10分ぐらい経ちましたかね。」そんなに経っていたのか。ほんの数十秒目を閉じただけだと思っていたのに。


すると奥から飾さんがお盆の上にオレンジジュースが入ったコップを2つ持ってきた。


「目が覚めたみたいね。少しあなたに聞きたいことがあるわ。」

テーブルの上にコップを置いた。


「聞きたい事ってなんですか?」


「あなたの過去を見ました。といえばなんとなく分かるんじゃない?」


俺の過去……だとしたら……。


「分かります、父さんと母さんが死んだ日のことですね?」そう言うと飾は溜息をついた。


「やっぱりそうなのね。あの人の子供だったのね。……あなたの刀を作りましょう。」


あの人の子供?俺の父さんを知ってるのか?


「あの〜。」春香が何か聞きたそうにしていた。


「春香さん?どうかしましたか?」

飾さんは春香に聞いた。


「はい、記憶を見たって言いましたよね。」

そういえばそうだ。記憶を見たと飾さんは言っていた。

「私が知ってる限りだと1人しかいないんです。実際に見たことはないですけど、赤城さんという方からそんな話を聞いたことがあるんです。」

赤城さん…、父さんと同じ特務部隊に所属していて、この間久しぶりに会って話をしたんだ。そうだ、確かその時赤城さんは……


『私の部下に人の記憶を見るこ

とのできる精霊使いがいてな。その子に頼んで君のお父さん、秋玄君の記憶を見たんだ。』と言っていた。


「そう……赤城さんとも知り合いなのね。それなら隠す必要はないわね。私は少し前まで特務部隊に所属していて、死んだ仲間の記憶を見たり、犯罪者の記憶を覗いて事件の鍵となる素材を探す仕事をしています。この店との掛け持ちになっていますがね。」

そうか、赤城さんが言っていた人はこの人の事だったのか。


「俺の父さん、秋玄について何か知っている事がありますか?どうやってヒノカグツチと出会ったのかとか。」飾さんは首を振った。


「それは答えられない。そういう決まりになってるのよ。でもこれだけは秋玄さんから伝えられているわ。

“私の息子が助けを求めてきた時、手を貸してやってくれ”ってね。今回は私の恩人でもある人の言葉を最優先に考えるわ。」あくまでも俺のためというわけではないらしい。


「ありがとうございます!」

飾さんが少し笑った気がした。


「その代わり、まだ未完成の私の魔法の実験台になってくれない?」


………はい?


「私の魔法は相手の身体に触れた時に発動する魔法なの。さっきの記憶共有もそのひとつ。そしてこれからやろうとしてる魔法なんだけど、未来を見る魔法。まぁ未来予知ね。」


未来予知、それが出来るとしたらこの先何かが起こっても対処出来る可能性がある。


「まぁ未完成だからいつの未来が見えるかとかは分からないのよ。それに相手にどんな影響が起こるかも分からない。どう、やってみる?やらないなら作らないけど。」


………やるしか選択肢なくないか?けどまぁ、信頼出来る人なのは確かだし、やってみるか。


「しゅ、しゅう先輩、本当にやるんですか?」不安そうに春香が言う。


「大丈夫、なるべく最善は尽くすから。」


「飾さん、その最善は尽くすからが恐いんですけど。」またさっきのように座り、目を閉じた。


飾さんが額に手を当てる。

「我は望む。其方の未来を。行く末を。記憶共有Ⅱ。」


真っ暗だった。さっきは過去が見えたはずなのに何も見えない。お先真っ暗ってか。


目をゆっくりと開くと、また横になっていた。


「あ、しゅう先輩。身体はなんともありませんか?」


また倒れていたのか、自分の身体を触ったりしてみるが特に異常はないようだ。


「大丈夫っぽいな。それより飾さんは?」


すると飾さんは奥から今度はアップルジュースを持ってきた。


「どうだった?あなたの見た未来。」と聞いてきた。


「どうって言われても真っ暗でしたよ。何も見えませんでした。」

そう言うと飾さんは驚いた顔をしていた。


「本当に何も見えなかったの?私は見えたよ。もしかして、発動者にしか見えない魔法なのかも。」

なるほど、そうだとすると飾さんには俺の未来が見えたってことか。


「あの、飾さん。どんな未来を見たんですか?」春香が飾さんに聞いた。


飾さんは暫く腕を組んで考えていた。

「私が見たのは映像じゃなくてどちらかというと写真だったわね。人間関係がどうなるかの。」


つまり俺の未来を見たということは俺の周りの人との人間関係ということになる。


「誰がどうなるんですか?」気になった事を率直に聞いた。


「誰かは分からなかった。黒い人のシルエットが4人、並んでいたように見えた。その4人の心臓のあたりはそれぞれ違った色の光を発していた。おそらく魔力、そして属性を現してるんだと思う。1つは炎、1つは風、そしてのこりは水。心当たりはある?」


それって……。


「私たちのチーム192というメンバーがちょうどその属性なはずです。」と春香が言った。春香も同じ考えだったらしい。


「俺は炎、春香が風、夏音は水、そして真冬も氷魔法を使うけど実際の分類では水。間違いなく俺たちの事だな。」


「なるほどね。この後私が見たのは…………、その内の1人がだんだん他の3人から離れていく光景だったわ。」


離れていく?


「ちなみにどの属性なんですか?」春香がまた聞いた。


「水よ。」水だとしたら夏音か真冬だ。けど夏音が俺たちから離れる理由がない。真冬もようやく仲良くなってきたばかり。


「ちょっと待ってください。それって本当に未来ですかね?」春香が急に首を傾げて言った。


「どういう事?」飾さんが春香の問いに疑問があるかのように言った。


「はい、実は私たちのチームの1人が少し前まであまり仲の良い関係とは言いづらかったんですよ。もし店主さんが見た光景が“過去を遡る光景だとしたら……”」飾さんはなるほどと言わんばかりに閃いたような顔をした。


「3人から離れていく未来を見たのではなく、時間軸を戻って“元の関係に戻る過去を見た”って事?まぁ筋は通ってるわね。」


やばい。頭が混乱してきた。すると飾さんはそんな俺を見て、


「簡単に言えば逆再生よ。」とだけ言った。なるほど、それなら理解できる。


「それなら良かった。つまり真冬も俺たちを認めてるって事だよな。」

そうだとしたら、


「もしそうなら、夏音先輩と真冬先輩、今いい感じなんじゃないですか。」やっぱりそう考えるか。


「よし、それじゃあ実験にも付き合ってくれた事だし、あなたにぴったりの刀、作ってあげるわ。出来たら連絡するわ。」


「やっぱり1日じゃ無理なんですね。」


「当たり前じゃない。ボロボロでもいいなら今すぐ渡すわ。」と鋭い目つきで言われた。


「いえ、どんなにかかっても構いません。よろしくお願いします。」


飾さんはニヤリと笑い、

「注文承ったわ。完璧な出来で渡してあげる。」


「やりましたね、しゅう先輩。」

春香も喜んでいた。


「ありがとな、春香。」頭をポンと叩いた。すると急に顔を赤くして、


「さ、さて、さっき夏音先輩からメールが来てたので夏音先輩たちのところに早く行きましょう。きっと待ってますよー!」と全速力で走って言った。


「おい、春香!俺は待ち合わせ場所聞いてないんだけど。」もう春香の影はなかった。あいつ、魔法を使いやがったな。


ーーー駅前で待っていて、はるちゃんだけ全速力で走ってきたのには流石に驚いたわね。無事にしゅうも合流できて良かった。


「春香……魔法はずるい……。……というか走る必要なくなかったか?」息を切らしながらしゅうが言った。


「す、すみません。急に走りたくなって……。」

………絶対うそだ。


「どうやったらあそこで急に走りたくなるんだよ。」

今回はしゅうが正しいな。そんな2人の会話を見て少しおかしかった。こんな日がいつまでも続けばいいのに。


「そうだ、私と真冬さんでみんなに合う物、買ったんだ。絶対似合うと思うよ。」

バッグから小さな袋を取り出し、開いた。手を中に入れ、ガサゴソとしてからはるちゃんに手を伸ばした。


「はい、これははるちゃんに。」

はるちゃんの手に風を模った石を渡した。


「あ、これってもしかして精霊石ですか⁉︎ずっと欲しかったんですよね〜。いいんですか?」


「いいのいいの、はるちゃんのために買ったんだから。」そう言うとはるちゃんは微笑んだ。


「ありがとうございます。大切にしますね。」はるちゃんが喜んでくれて素直に嬉しかった。


「はい、そしてこれがしゅうの精霊石。大事にしなさいよ。わざわざ買ってあげたんだから。」しゅうには真紅で火が燃えているような形の石を渡した。


「お、おう。ありがとな。」

それだけ?って思ったけどしゅうからこれ以上の感想は出そうにない。


「真冬さんはこれだね。」氷の結晶の形をした石。とっても綺麗。


「私が買っても良かったのに。」

真冬さんはそう言ったけど、私は首を振った。


「私が真冬さんのために買いたいと思ったから。チーム192の一員の証だよ。もちろん私も買ってあるからね。」手に取ったのは雫の形の石。


「これからも4人、ずっとずっと一緒でいようね♪」


「はい!」、「おう!」、「約束だから仕方ないわね。」


ようこのチームが1つになれた。


「そろそろ帰るか。」

としゅうが言った。


「ですね。そういえば、今日からまたしゅう先輩の家に泊まってもいいですか?お母さんから連絡があって当分帰れないとの事だったので。」


「おう、いいぜ。」


「真冬先輩もどう…」


「いやよ。私は行かない。」即答。


こんな会話もなんだかんだで楽しいんだよね。


ふとどこかから声が聞こえた。

「楽しいか?葉月夏音。そろそろ目を覚ましても良いのではないか?」

周りを見渡す。誰か話しかけてきた様子もない。いや、いた。駅の横、裏の路地の方にこちらをニヤリと笑って見ている老人。そのまま裏の路地へと入っていく。


この距離で私に話しかけるのは不可能。つまり、敵?


「ごめんみんな。トイレ行ってくる。先に電車乗っててくれない?すぐに行くから。」


「おう、分かった。行くぞ、春香、真冬。」


「え、いいんですか?待っててもいいんですよ。」


「あなた、私に命令しないでくれる?」真冬さんがしゅうを睨む。


「大丈夫、しゅうみたいに迷子にならないから。」春香と真冬が渋々了解して、駅へ入って行ったと同時に、さっきの老人が入っていった裏の路地へと走った。


肩から提げているバッグが光る、正確には魔導書、アクアが。


「夏音?どうしたの?」

アクアが心配そうに尋ねる。


「さっき私の名前を呼んでる人がいた。妙なことも言ってた。」


「妙なことって?もしかして夏音の本当の力を知ってる人なの?」


「分からない。けど、会って確かめたい。きっと奥で待ってる気がする。」裏の路地へと入り、ゴミが散らかって通るのを拒んでしまうような道を抜けた。


そこは電車が通る橋の下へと繋がっていた。


老人は私よりも少し遠いところに立っていた。こちらへ背を向けて立っている。


「ようやく来たか、葉月夏音。」

やっぱりこの人だ。私を呼んでた人。


「あなたは誰?どうして私の名前を知ってるの?」老人がこちらを向いた。その顔にはやはり見覚えがなかった。


老人はまたニヤリと笑った。


「やはりまだ記憶が戻っていないか。……私のこと、それはお前が1番よく知っている。紅葉秋翔もどんどん魔力を高めてきている。“川辺で襲わせた時”とは大違いだ。」


川辺……、


「あなた、始業式の日にしゅうを襲った精霊の主人?」老人は笑った。


「それは少し違うな。正確には造り主、人工精霊の親だよ。」この人は何を言ってるの?もっと詳しく知りたい。


「さて、そろそろ時間か。また暇があれば伺おう。葉月夏音、私たちの仲間。」


長?急に頭の中に映像が流れ込んできた。周りには顔を隠し、黒い服を着た人が数人いる。


「夏音、あなたは何を望む?富か?幸福か?」


「いいえ、どれでもないわ。」


「それでは何を望み、我らの前に立つ?」


「私は………」映像がごちゃごちゃに絡まり合う。


頭が痛い。何も考えられなくなってきた。


「夏音⁉︎しっかりして!」アクアが必死に私の名前を呼ぶ。


「アクア、君も同じだよ。本当に私を覚えてないかい?」


するとアクアも苦しみだして、魔導書の輝きが薄れていった。


「あなたは一体誰?私は一体……?」


最後の力を振り絞り、老人のいた方を見た。しかし、そこにはもう老人の姿はなかった。


もう……意識を保っていられない。

薄れていく意識の中で何故か頭の中に1人の名前が浮かび上がった。


「………Dr.……レイク。」それがあの老人の名前。何故か分からないがそんな気がした。


その瞬間、私の意識はなくなった。

改めまして作者の伊藤睡蓮です。今回は悪魔の襲撃を退けた後のお話でした。続きを早く投稿したいのですが、前書きで書いた通り、勉強に専念するため7月はおそらく投稿できない可能性が高いです。もしかしたら息抜きで書いていて完成する可能性もなくはないですけど……ないですね。

そういうわけで一応Twitterでも告知や独り言をつぶやいていますので確認していただけると幸いです。

それではまた!

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