精霊剣士の物語 〜Adasutoria〜其の十三
どうも、作者の伊藤睡蓮です。
初めての方、毎回見てくださっている方、ありがとうございます( ´ ω ` *)
前回の続きということで今月中に投稿しとこうと思いました(・ω・)
それでは早速どうぞ!
其の十三
前回のあらすじ
突如現れた3匹の悪魔に、しゅうたちが立ち向かうが、その圧倒的な強さに、精霊使いたちはなすすべなく倒れていく。3匹の悪魔の目的とは?しゅうたちはどうなってしまうのか?
23,〜悪魔に抗う者たち〜
初めてここまで力の差を目の前で感じた。それも圧倒的な。勝機が全くない。こいつを倒したいのに、殺したいのに……。体が震えて、力が入らない。
「しゅうから離れて!水槍Ⅲ(オーランツェ)!」
その声が聞こえたと同時に前にいたレオは俺から距離を置いた。目の前を水の槍が通過していった。
「……夏音?」
そこにいたのは夏音だった。
また、夏音に助けられた。
「しゅう、その剣…。それにイグニちゃん。……範囲回復。」俺の周りに術式が現れ、俺の体を少しずつ癒していく。
「お、新しい精霊使い。わざわざ来てくれたのか。」レオが楽しそうに言う。
「それじゃあ早速、これぐらい耐えてくれないと面白くねぇ、炎魔。」俺の剣を折った魔法。今回は手に纏うのでなく、黒い炎を夏音の方へと放った。
「夏音!気をつけろ!」夏音は一点だけを見ている。レオだけを。
「火属性か、相性はいいみたいね。水壁Ⅲ(オーミュール)。」夏音の前に水の壁ができ、レオの攻撃を防いだ。
「いいね!水属性か。少しは楽しめそうだ!炎魔!」黒い炎を今度は連続で手から放つ。
同じ魔法でも複数の使い道があるのか?
「無駄よ、いつまで経っても私の水壁は壊せない。」夏音は顔色一つ変えずに言った。
「それはどうかな?炎魔槍。」レオはニヤリと笑って、手を上にかざした。黒い炎が集まり、一本の槍が出来上がる。
「攻撃魔法なら私もあるわよ。水槍Ⅲ(オーランツェ)。」夏音も水で一本の槍を作り、レオに放つ。レオも同時に黒い炎の槍を放つ」
2つの槍が激しくぶつかる。互角の力だ。
「おもしれぇ、さっきの男より断然いいぜ!けどまだまだだな。」
黒い炎の槍はより激しさを増した。
「うっ……相性はいいはずだけどやっぱり攻撃魔法はあっちの方が断然上。」
水槍は弾けた。
「水壁Ⅲ。」炎魔槍をなんとか止める、が時間の問題だ。
このままだと炎魔槍が夏音に当たる。けど、俺の剣は……。
「おい、しゅ……う。」そう言ったのはイグニだった。夏音の魔法で少しは回復したようだ。
「今度は俺たちが夏音を守る番だ。あいつは俺たちを守るために戦ってる。あいつに勝とうとなんてしてない。」レオを倒すのでなく……俺たちを守るために。
「けど、俺にもうお前を宿すまともな武器を持ってない。」諦めたように言う。
「こうなったら武精祭の武器でいい、俺を宿して少しでも時間を稼げばきっと助けがくる。」精武祭の武器。かなり力が制限されるがこれしか……。おそらく数秒も持たないだろうがそれに賭けるしか……。いや、待てよ。もしかしたら……。
「イグニ、俺の体に宿ることは可能か?」イグニは目を丸くして俺を見ていた。けれど、すぐに真剣な目で俺を見た。
「おい、お前正気か?仮に宿ったとしても、2つの魂が1つの体に宿るのは相当な負担だ。それに、自我があるとも限らない。」だろうな、前に精霊が人の体に宿っている奴を2人見た。どちらも正気ではなかった。
「かもしれない……けど、あいつを倒す力が欲しい。夏音を守る力がもっと欲しいんだ。」そう言うと、イグニは目を瞑って考え、それから目を開いてまた俺を見た。
「その意気があれば、あなたたちはもっと強くなれる。だからここは私に任せてくれない?」
横から女性の声がした。
レオもその気配に気づき、夏音への攻撃をやめた。
「てめぇは誰だ?」
ーーー光明先輩、暗真先輩、それに真冬先輩が全力を出していても、あの悪魔、アクアリアスには敵わない。そんな奴を相手に、1年の私が、精霊もいない私が勝つことなんてむり。
「春香……逃げなさい、あなただけでも。」真冬先輩は刀をアクアリアスの方へ構えた。
「ま、真冬先輩?そんな事出来ません!」口ではそう言ったものの、今私がここにいても何の役にも立てない。
真冬先輩が逃げない私を見て、アクアリアスの方へ向かっていった。
「凍結斬Ⅱ(フロストシュラク)!」
アクアリアスをまた一瞬で凍りづけにした。
「春香、おそらくこの攻撃も相手には効いてない。でも逃げるなら今のうちよ。光明先輩、暗真先輩。まだ戦えますか?」倒れている2人に真冬先輩が声をかけた。すると、2人の先輩は立ち上がった。
「おうよ、嬢ちゃんだけにかっこつけさせねぇぜ。」
「そうだな、負けてられないもんな。」
氷がまた砕けた。やっぱり真冬先輩の言う通り、効いてはいなかった。
先輩方がなぎ倒されて行く。それでも立ち上がって、私の方へ来させないようにしている。
魔法が効かない相手に精霊使いが勝てる方法なんてないのに……私のために……。
(本当にあの悪魔には勝てない?)
どこからか声がした。
(確かに魔法は効かない。けどあなたなら勝つことができるのよ、弥生春香。あなたのその力なら。)
誰だろう?心に声が直接流れ込んでくるようだ。
「誰?どこにいるの?」
「私はここにいるよ。ようやくあなたのような精霊使いに会えた。」と上の方から声がした。
そこには、ふわふわと浮かんでいる猫がいた。
「ね、猫さんが浮いてます⁉︎喋ってます⁉︎」あまりの驚きに思考回路がめちゃくちゃになった。
「お、落ち着いて!私は精霊よ。“アイ”って言うの。」
「アイさん……って精霊さんですか!確かにそれなら浮いてることも理解できます。でもどうして力のない私なんかに?」そう言うと、アイさんは私の頭を肉球でペシペシと叩いてきた。
柔らかくて痛くはなかったけど。
「春香、私はあなたの力になりたいの。今も戦っている人たちの力になりたいんでしょ?私があなたに力を貸すわ。」
「で、でもあいつには魔法が効きません。」また頭をペシペシと叩かれた。
「だからさっき言ったでしょ?あなたの力なら倒せると。あなた、スピードupの風魔法使えるでしょ?さっきの見た限り、もう一段階くらい出来るんじゃない?」そんな事まで分かっているなんて。
「確かに使えます。でも、私の身体、特に目がついていけないんです。遅くなるような感覚なんですけど、それじゃあ目の負担が大き過ぎると真冬先輩が言っていて。」
そう言うと、アイさんは私の方に乗ってきた。
「うん、だから私が力を貸せば、今のあなたなら“もう一段階上の魔法を使える”の。分かった?」
みなさんの役に立てる?私の、私たちの力で……。
「アイさん、私はまだ未熟です。正直さっきまで恐くてたまりませんでした。でも、あなたと一緒にいれば私も少しは強くなれる気がするんです!」
「うんうん、その意気よ。それでは、春香とアイの契約を今ここに交わします。契約内容はあなたが決めて。私もそれにするから。」契約内容か……。
「それならもう決めてましたよ。……しゅう先輩や夏音先輩、真冬先輩、他のみなさんのお役に立ちたい。だから、契約内容は“私が死なないこと”です。」
アイさんはその契約を聞くと、クスクスと笑いだした。
「そんな契約聞いたことないわ。死ぬことで契約が破られるなんて。あなたに決めてよかった。いいわ、契約成立よ。」私の剣にアイさんが宿った。
「さあ、あなたの力を見せてやりなさい!春香!」
「私だけじゃないですよ、アイさんもです。天神目。」
アイさんが私の目をサポートしてくれる。そして私はスピードを上げる。
真冬先輩に攻撃するアクアリアスの姿を捉えた。
「絶対に許さない、最高速!」走り出すと一瞬でアクアリアスの前に辿り着いた。見える、アイさんが支えてくれるから、私の全力をぶつけられる。
「春香……あなた。」真冬先輩たちは呆然とその光景を見ていた。
「こいつ、さっきまであそこにいたのに⁉︎どうして……」高速で移動しながらアクアリアスの体を連続で斬る。
「残念ね、私に魔法は効かないわよ!」
「これは確かに魔法で移動してますけど、斬っている武器には魔法は一切使っていません。」魔法が効かない敵に唯一勝てる方法。それが私のこの力。
アクアリアスは笑っていた。
「でも、痛くないわよ。あなたの攻撃。ほら、私はここに立っている。あなたの魔力切れで終わりよ。」
「違います、あなたが気づいてないだけです。もうすぐ倒れます。私はもうあなたを2千回斬りました。」
立ち止まった。
その瞬間、アクアリアスは苦しみだし、背中に翼を生やした。
「ぐっ……ただの攻撃に私がやられるって言うの?ありえない、ありえない、ありえナイアリエナイアリエナイ!」叫び声をあげながら、遥か上空へと舞い上がり、どこかへ飛んで行った。
逃げられた……追わないと……あれ、体が動かない?
そのまま地面にうつ伏せに倒れた。
「無理させすぎちゃったかな?でもよく頑張ったわね。お疲れ様、ゆっくりやすみなさい。」
ーーー双葉……滉一……しゅうとくん……みんな……ごめん、何も出来なかった。意識が薄れていく。力が入らない。目がだんだんと閉じていく。わたしは……しぬ……の?
冷たい、凍えるくらいの冷たさが体を襲う。これが死ぬということなのかな?
「あなたたちは死なせない。」
この声……少しずつ目を開く。そこに見えた光景は、全てが凍っていた。冷たかったのはこの氷のせい。
「よく頑張ったわね。」首を掴まれていたはずなのに、いつの間にか外れていて、双葉や滉一も横に寝ていた。
私たちの前にいたのは……
「学園長……⁉︎どうしてここに⁉︎」
「変な魔力を感じて4会議どころじゃなくなって慌てて出て来たのよ。」
学園長が来てくれた。
「あなたは……武精学園の学園長、時雨吹雪。あなたの噂はよく聞きますよ。」
「あら、悪魔さん。そんなに私は有名なのね。」
「有名もなにも、世界精霊使い第3位のあなたを知らない人はいないでしょう。そんな方とお相手出来るとは光栄です。」
普通の会話じゃない。お互いにどう出るか探り合ってる?
「そう、私も悪魔と戦うのは初めてだけど、お喋りが過ぎるわね。凍結。」前に手をかざした。
その瞬間、リブラが慌てて回避した。
「残念、少し気づくのが遅かったわね。」学園長がそう言った。
リブラの左手は完全に凍りついていた。
「どうして⁉︎僕は躱したはずだぞ⁉︎」
「あなたは目の前の手しか見てなかったでしょ。いつ私が“右手をかざしたら発動する”って言ったかしら?無動作で発動出来る技もあるのよ?」無動作で出来る技、かつ凍結。初級魔法。
初級魔法で悪魔を圧倒している。
「これが……世界第3位。」目の前の光景が信じられない。
「私のかわいい教え子たちにちょっとやり過ぎたわね。」
リブラは初めて恐怖を感じている顔を見せた。
そして凍った自分の左手を砕き、空高く飛んで行った。
「後を追いたいところだけど……まずはあなたたちを手当てしないとね♪」
「わ、私たちよりもまだ戦っているところに……。」学園長は首を振った。
「その必要はないわ。残り2匹のうち、1匹はもう既に逃げたわ。自力で悪魔を追い返したみたい。後で褒めに行かないと。」自力で追い返した?誰だろう?
「もう1匹はしゅうとくんの方ね、しゅうとくんも夏音ちゃんも魔力切れっぽいけど。まだ終わってないみたい。」
「だったらそっちに行って下さい、私も多少は回復魔法使えるので。」学園長は少し笑った。
「ごめんごめん、言い方が間違ってたわね。しゅうとくんたちは今戦ってない”わ。戦っているのは、私の友達よ。」
学園長のお友達?
「学園長のご友人を巻き込んで大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ、第5位だから。」
ーーー「てめぇは誰だ?」レオがそう言った。
下半身まで届くような長い黒髪で頭の上の方で少し髪を結んでいる女性だった。正装のような格好で立っていた。
「私は、忠精学園で学園長を務めさせていただいています、雲雀真純と言います。」
「忠精学園の学園長⁉︎そんな人がどうしてここに?」雲雀真純学園長、世界精霊使い第5位の人。確か今日は4学園会議だったはず。
「説明は後でするわ。吹雪の学園の生徒よね。あなたたちは休んでなさい。あの悪魔は私が相手するから。いいわよね、そこの悪魔。」
「悪魔悪魔うるせぇな。俺はレオだ!けど、いいぜ。強い奴しか興味なかったからちょうど退屈してたんだ。」レオが標的を夏音から雲雀学園に変える。
夏音が膝から崩れ落ちた。緊張状態が切れて力が入らなくなったのだろう。急いで夏音の元へ駆け寄った。
「夏音、大丈夫か?……悪かった、何も出来なかった。」自分の無力さを痛感した。
「私なら大丈夫。ちょっと疲れただけだから。それよりも、」
レオと雲雀学園長の戦い。
雲雀学園長は目を閉じ、背中にかけていた日本刀を抜いた。
「どこからでもかかって来いよ。」レオが挑発する。
「では遠慮なく。」レオのところへ走り出した。刀を横に構える。
「かかったな!炎魔斬。」レオが手を縦に振ると、黒い炎の斬撃が雲雀学園長に飛んでいった。レオはこの瞬間を狙っていたのか。
「お前が強いのは分かってる。だからこそあえて挑発し、ここまで誘い込んだ!ざまぁみろ!」
「なるほど、烈火斬。」雲雀学園長が刀を横に振った。
その瞬間、炎魔斬は横に切れ、消え去った。そのまま雲雀学園長はレオの目の前に辿り着く。
「くっ!炎魔弾。」レオの頭の上に魔法陣?が描かれ、無数の炎の弾が降り注ぐ。
「雷鳴斬(雷鳴斬)。」今度は上を見て、剣を振る。全ての炎の弾を斬った。
「悪魔が人間に負ける?そんなハズはねぇ!炎魔槍。」雲雀学園長の超至近距離で槍が作られた。
「これで終わり………だ?」レオの体はいつの間にか切られていた。相当深く斬り込まれたようで、レオはその場に倒れ込んだまま、動かなくなった。
「疾風斬。確かにあなたは強いかもしれない。ですが、戦い方が素人ですね。戦い方ならこの子たちの方が強いでしょう。単なる魔力差です。」
雲雀学園長は俺たちを見てそう言った。
雲雀学園長がレオの体に近づこうとした時、上空から黒い何かがレオを掴み、遥か上空へと消えていった。
「逃げられましたね。」雲雀学園長はそう言った。
「くそっ!あいつらから何も聞けなかった。」地面に拳をぶつける。
「しゅう………。雲雀学園長、この度は助けていただき、ありがとうございました。」
「……ありがとうございました。」
「ひとまず吹雪の元へ合流しましょう。あなたたちの友達もそこにいると思うわ。」
24,〜1人の剣士の物語のはじまり〜
改めて周りを見てみると、建物のほとんどは崩れて、半壊していた。
体育館の中央には春香や真冬、先輩たちもいた。全員負傷しているみたいだったが死んではいないようだった。
「雲雀、ありがとね。恩にきるわ。」吹雪先生がそう言うと、
「他ならないあなたの頼みなら、断れないわよ。」雲雀学園長はそう答えた。
「しゅう先輩、それに夏音先輩も。無事で良かったです。」春香も身体中がボロボロだった。
「春香もな。」
「みんな、怪我してるところ悪いんだけど、私たちも単独行動で来たばかりだから、どんな容態かも分からないし、救助隊が来るまであなたたちとここで待機します。待機している間、少し話をしたいのですがいいですか?」吹雪先生は真剣な顔つきで言った。
全員頷いた。
「まず、雲雀は私の友人で今回の武精祭を一緒に見るつもりだったのよ。まぁこんな形になっちゃったけど。……今回の悪魔の襲撃は前から計画されたものだと思います。」
「計画されたもの?ですが学園長、今回の武精祭は世間に少し前に発表されたんですよね?」光明先輩が疑問を投げつけた。
「その通りよ。」
「それに、どうして計画されたものだと思うんですか?」生徒会長も続けて尋ねる。
「そうね、そんなに色々聞かれても困っちゃうから、一通り私の話を聞いてくれるかな?質問はその後、いい?」光明先輩と生徒会長は頷いた。
「ありがと♪私たち4学園は今日、悪魔について話をいたの。調べていくうちに悪魔は精霊使いと精霊の殲滅が目的だということに辿り着きました。今までも何件か、精霊と精霊使いが殺されています。しゅうとくん、あなたのお父さんも本当はその目的で殺された可能性があるということよ。」
……悪魔の目的が精霊と精霊使いを殺すこと。
「殺してどうするかというと、……精霊の力を取り込み、悪魔は世界を支配するつもりです。悪魔が人を支配し、悪魔に命を捧げるものにのみ力を与える。そして、悪魔に力を貸す団体、悪魔教会という団体がある事も4会議の情報で得られました。今回の襲撃はその悪魔教会によるものです。ここまで質問は?」
春香が手を挙げた。
「あの〜、いきなり精霊や精霊使いの殲滅だとか悪魔教会だとか言われてもよく分からないんですけど……。」春香の言う通りだ。
「春香さんの言いたい事もよく分かります。しかし、まだ断定できているわけでもないので、一先ず悪魔の狙いは精霊使いと精霊。援助している団体が悪魔教会。それぐらい覚えていれば十分です。神崎さん、さっきどうして計画されていたか知っていたのかと聞きましたね。それについては簡単に推察できます。しゅうとくんたちが来る前の話を聞くと、黒い雲のようなものがこの上空に現れて悪魔が出てきた。精武祭はもちろん私たちの学園の精霊使いの生徒が出場します。それも未来に輝く第一歩を踏む生徒たちが。そんな精霊使いの精霊を取り込めば悪魔にはかなりの力が渡ることになります。」
「1日目は精霊使いが多くてどの精霊使いが強いか分からなかったから、2日目を狙った……ということですか?」暗真先輩が言った。
「まぁそんな感じね。大会が2日間あると知っていて、世間に知られる前、つまり武精学園に悪魔と通じている人がいる可能性があります。」
嘘だろ、誰だ。誰が知ってる?そいつを探し出せれば……父さんの敵を討つことができる。
「しゅうとくん、あなた今、何を考えていましたか?」吹雪先生は突然俺に質問した。
「え?いや……その……。」
「まぁそれは、あなたたちが解決すること。私は口出ししない方がいいわね。雲雀、少し席を外しましょう。」と遠くへ離れていった。
「しゅう、どういうこと?」夏音が聞いてきた。
「いや、俺は別に……。」
「勝手に飛び出しといて悪魔とお前の間に何もないなんて言わせねぇぞ。」光明先輩が真剣な眼差しで俺を見る。
「悪魔から……俺の父を殺した悪魔の居場所を聞こうとしました。何も聞けませんでしたけど。」
「聞ける聞けないの話をしてるんじゃない。どうして俺たちに何も言わずに飛び出した?もっと早く教えてくれれば、俺たちだって手助けできた。」暗真先輩の言う通りだ。けど、俺の力で悪魔を、ナイトメアを倒す、殺したいんだ。
「しゅうとくん……今の君、誰から見ても……恐いよ。」生徒会長が冷たくそう言った。
俺が……恐い?
春香を見る、目が合った瞬間にビクッと驚かれた。
夏音を見ても、心配そうな表情で見られている。
「復讐心に心を囚われているわね。悪魔はそれほどあなたが憎むべき敵ってことは分かる。でも、あなたは憎むなんて言葉、復讐なんて言葉、殺すって言葉は似合わないわよ。」
「そんな顔つきじゃ、精霊使い失格だな。なる権利すらお前にはない。」
生徒会長と光明先輩ははっきりと言った。
「あなたたちには関係ないじゃないですか!俺には俺の道がある!他人が勝手に口出しした所で、俺の、俺の復讐は終わらない!」自分でもおかしいのは分かっている。でも、感情が抑えきれない。心の底から湧き上がる怒りを抑えられない。
肩を叩かれた。後ろを振り返ると、そこには真冬が立っていた。
と同時に顔に思いっきり顔をビンタされた。
「くそっ。何すんだよ真冬!」
「それはこちらの台詞です。どれだけの人に迷惑をかけたら気がすむの?あなたが1人で飛び出したせいで、チームバランスが崩れた。生徒会長の指示に従っていればもっといい結果になっていたはず。あなたの身勝手な行動が、夏音さんを、春香を、あなたの友達を傷つけた。それがまだ分からないの?私は今のあなたが今までで1番大嫌いよ。」
俺が……、春香をもう一度見ると、その身体はボロボロで、足にも包帯が巻かれていた。
夏音も、昨日はただでさえ熱で寝ていたのにまた無理をさせて、さっきも謝ったはずなのに。もう一度その身体を見ると手からも少し血が出ていた。
真冬も、生徒会長も、副会長も、双葉も光明先輩も暗真先輩も。全員俺が傷つけた。
「両親を殺した悪魔に復讐したい、殺したい。その思いは分からないとは言わない。でも、生徒会長の言った通り、あなたには似合わない。あなたにはあなたなりの力がある。私はこのチームに救われた。このチームに出会うまで私は周りの人を誰1人信じられなかった。けれど、春香やあなたたちが私を見るたびに何かを考えてくれているのが分かって……嬉しかった。」
知らなかった。真冬の本当の気持ちを。
「俺は……ごめん……みんなに、迷惑をかけた。俺は……精霊使いにはなれないな。イグニとの契約も、守れそうにないしな。」
「イグニさんとの契約は分かりませんけど、私はしゅう先輩は立派な精霊使いになれると思いますよ。」春香が足を引きずりながら歩いてきた。
ーーー私の気持ちを、今しゅう先輩に伝えなきゃいけない。こんなに恐そうにしていて、心の中では恐がっているしゅう先輩を元気づけるためにも。
「私はあの日、しゅう先輩と夏音先輩に助けられました。あの倉庫の扉を開いてくれたから、私は今こうして精一杯頑張れてるんですよ。真冬先輩とも出会えて、アイさんにも出会えて。みなさんに出会えたのはしゅう先輩のおかげです。しゅう先輩には人を幸せにする力がありますよ。精霊使いにぴったりな夢だと思います。だから、私はしゅう先輩をこれからも支え続けます、しゅう先輩、」恥ずかしかったので言うのをやめた。
私を助けてくれたあなたの事が、好きだから。
ーーー春香、真冬、夏音。俺は、ずっと復讐心に囚われていた。レオ以外の悪魔と戦っているみんなを心配すらしていなかった。考えていなかった。
イグニが近づいてきた。
「しゅう、俺はお前との契約内容、忘れてないぜ。」
イグニとの契約……。
【父さんのように、みんなを守るために戦いたい。友達を守るための力を僕にくれ、ください。精霊さん。】
「でも俺は、守れなかった。契約は破棄じゃないのか?」
「そうだな、契約は守れなかった。けど、契約した時の剣が壊れちまったな。」
は?
「契約した武器がなけりゃもう一度契約し直さないとな。しゅう。」イグニは俺を見てニヤリと笑った。
ずる賢いというか何というか。いい相棒に出会えたな、俺は。
「しゅうとくん。」生徒会長が明るい表情で俺を見ている。
「生徒会長……それに光明先輩も。さっきはすみませんでした。自分自身が見えなくなってました。」
「いいのいいの、遅い反抗期みたいなもんよ。」
遅い反抗期か……。
「今の顔つき、お前はいい精霊使いになれそうだ。いいや、なる。」
「生徒会長、光明先輩、ありがとうございます。」
それに、
「夏音、真冬、春香。お前らにも迷惑かけた。悪かったな。」
「ほんとよ……バカしゅう。」泣きながら俺に抱きついてきた。守ってくれてありがとな、夏音。
「しゅう先輩、いつもの顔に戻って良かったです。」涙を流して、少し笑っていた。お前の言葉で立ち直る事が出来た。ありがとな、春香。
「ようやく分かったみたいね。私と同じで、気づくのが遅いのかもね。」お前のおかげで気づく事が出来た。ありがとな、真冬。
夏音が急に離れて涙をごしごしと手で拭いた。
「さてさて、話し合いは終わったかな?」吹雪先生と雲雀学園長が近づいてきた。
「救助隊が来たみたいよ。一応明日はここにいる全員、病院で過ごすように。授業はまた今度みっちり教えるように伝えておくから。」
この場にいる全員が溜息をついた。
「それから、しゅうとくん。あなたの武器なんだけど……雲雀のおじさんが刀職人だから、その人にあなたの剣を作ってもらうことにしたわ。」
「ほんとですか⁉︎」
雲雀学園長は頷いた。
「えぇ、さっき連絡を取っておいたから、今週の土曜日に忠精学園に来なさい。そこで私と待ち合わせということで。お友達もついてきていいわよ。」
イプシロンの東に位置する学園、忠精学園か。
振り返って3人を見る。
「行くか、お前ら?」
「行くに決まってるじゃない。」
「行きます行きます!」
「あなたには興味ないけど、刀に興味があるから特別に一緒に行くわ。」
………最後の1人を連れて行こうか本気で悩んだが、今回は特別だ。
「それじゃあ3人で行くか。」
俺の…いや、俺たちの物語はまだ始まったばかりだ。
改めまして作者の伊藤睡蓮です。
少し次回の投稿は間が空いてしまうかも知れませんので早めに謝っておきます
ごめんなさい(・ω・)
お暇な時でいいので次回もぜひ見て下さい( ´ ω ` *)
それではまた!




