精霊剣士の物語 〜Adasutoria〜其の十
どうも作者の伊藤睡蓮です。今回は精武祭が始まるところからです。秋翔たちの活躍をぜひ見て下さい。今回はGWが忙しくなるため、其の九と同じ日に投稿しました。その代わり、もしかすると5月は投稿出来ない可能性がありますのでその辺はご了承ください(。>人<)
それではどうぞ!
18,〜仲間に繋ぐ一撃〜
武精祭1日目 第1回戦 192vs35
あと数分もすればいよいよ始まる。
精武祭用の服に着替えている時にふと思った。小型のイヤホンを耳につける。これで戦闘している時も味方の指示がしっかり聞こえる。試しに夏音に話しかけて見た。
「なぁ夏音。俺たちの最初の相手って何人なんだ?」実際にわからないことだったが。
「ちょっと、今そんな質問するの?えーっとね、3年生が4人、精霊使いは2人はいるでしょうね。だからまずは様子見。下手に前に出て突っ込んだりしないでね。」
「了解リーダー。」このチームのリーダーだし、知識もあるのは確かなので指揮は任せようと思う。
しばらくすると武精学園の放送委員長の鈴木みなみアナウンスが入った。
「それではチーム192さんとチーム35さんはフィールドに入って下さい。」
ついに呼ばれた。夏音も更衣室から出てきた。
「落ち着いていこ、しゅう。」
「あぁ、春香や真冬のためにも絶対に勝つ。」
夏音が拳を体の前に出した。何も言わずに俺も拳を前に出した。
ーーー「それでは!第1回戦の試合を始めたいと思います。まずはチーム192!2年生3人、1年生1人の4人での参加……ということですが今回は2人しかいませんね?何かあったのでしょうか?しかし、時間厳守でいきたいので試合はこのまま続けさせていただきます。続きましてチーム35。全員が3年生にして全員が精霊使いの強者揃いだー。これはチーム192圧倒的不利があるように思われます!」
夏音の予想よりも上をいっていて正直驚いた。が、同時により戦いごたえのある試合になりそうだとも思った。
「なぁリーダー。全員が精霊使いだってよ。どのくらいの強さなんだろうな。」
「ちょっとしゅう、なにわくわくしてんのよ。どこぞの武闘家かってのよ。もう1回言っておくけど何も考えずに突っ込むのは禁止だからね。」夏音に釘を刺された。流石に夏音も動揺していた。
「大丈夫、絶対に勝つのは俺たちだ。」
「あらあら、学園1の美貌を持つこの私、天野きらりが雇った武精学園でもかなりレベルが高い子たちがいて負けるはずがありませんわ。」明らかにあちらのリーダーであろう金髪の女が前に出てきた。
「拳に杖に剣に魔導書か……。しゅう、試合が始まったらすぐに指示出すから、よく聞いてて。あとはこの間見せてくれた技、早速使うことになるかも。」夏音はきらり先輩が言った言葉を無視して考えたようだ。
アナウンスが入る、
「試合開始の合図を副委員長の杉山太一がさせていただきます。それで太一くん、どうぞ。」
「それでは早速始めたいと思います。精武祭第1回戦、始め!」
「しゅう、さっそくだけど作戦内容を伝えるわ。戦いながら伝えるから聞き逃さないでね!水槍!」放たれた槍は敵に一直線に飛んでいった。
「防ぎなさい。」金髪の女がそう言うと、横にいた1人の大柄な男が出てきた。
「重撃。」腕を振り下ろし、夏音の放った槍を簡単に砕いた。
今の防御で隙ができ、大柄な男の懐に入ることが出来た。
「紅一閃!」
「甘い、鋼鉄。」俺の攻撃は簡単に防がれた。さすが3年生と言ったところか。
「………って作戦なんだけどしゅう、大丈夫そう?正直魔力が尽きるか尽きないかぐらいのギリギリな戦いになると思うんだけど……。」
「大丈夫だろ、お前が考えた作戦なら絶対に上手くいく。俺はお前を信じてる。」
「………うん。ありがと。」
「火に水か、それならフォーメーションBだね。始めますわよ!」金髪の女がそう言った瞬間、大柄な男は地面に拳を突きつけた。
「岩石壁。」大地がせり上がり、俺と夏音の間に大きな壁が出来た。
「分断成功。そこの君。あなたの相手は私たちよ。」
きらり先輩と明らか不良の先輩が壁の前に立っていた。きらり先輩は杖、不良先輩は剣を持っている。
「相手になってあげますけど勝つのは俺ですから、先輩。最初から飛ばしていくぜ!」
ーーーしゅうと分断された。
「お前の相手……オレ。」土の壁を作り出した大柄男と、対照的に不気味なほどに痩せている男が目の前にいる。
「アクア、魔法をいつでも使えるように術式をできるだけ多く展開しといて。」
「了解だよ、夏音。」
「上限解放の一撃。(オーバーリミットパワー)」大柄の男はいきなり最大の技を放つ構えだ。でも、隙がある。今がチャンスだ。
「水弾、水槍II。」的が大きいので確実に命中する。
「させないよ〜。電気糸。」蜘蛛の巣のようなものに防がれた。
「雷属性……相性最悪ね。」
「そういう作戦だからね〜。雷槍。」雷の槍が放たれた。この距離では躱せない。
「水槍Ⅲ!」三本の槍を放った。が、それでも歯が立たなかった。三本の槍が消され、雷の槍が直撃し、地面に倒れこんだ。
「きゃっ………うぅ〜、ピリピリする。」立ち上がろうとした瞬間、目の前には大柄な男が立っていた。
「大地の一撃。」これを喰らったら負ける!
「アクア!水壁Ⅳ!」私と大柄な男の前に分厚い水の壁があらわれた。しかし、男は迷いなく拳を振り下ろした。
水壁は簡単に壊され、衝撃が体を襲った。吹き飛ばされて岩石壁に背中をぶつけた。イヤホンも取れてしまって地面に落ちていた。
「うっ………、これちょっとやばいかも。アクア、残りの魔力は?」
「さっきから高い魔力使い過ぎて水槍が2、3発打てるかどうか、かな。」2人が私の少し前に立つ。
「もうちょっと楽しめるかと思ったのにな。残念だよね〜。貫電Ⅲ。相性が悪すぎるね」一直線の電気のビームが放たれる。おそらく相手の最大の技だろう。
ついに来た……この攻撃に賭けるしかない。
「しゅう、私もあなたを信じてる。」
ーーー「あなた方の魔法の属性についてはもう調べてありますわ。あなたが炎、そしてあちら側の子が水。だったら有利な属性を1人つけられるだけで私たちが圧倒的に有利。そしてあなたの不利な属性、水属性を持つのがこの私ですわ。」
「………あの〜、きらり先輩?でしたっけ?……話が長いって言わられません?正直どうでもいいって言うか、です。」
そう言った途端、きらり先輩の態度が明らかに変わった。
「なるほど……そうでしたか……でしたら早く終わらせましょう。水連華!」
無数の水で創られた針のようなものが飛んで来た。
「風切。III」不良先輩も躊躇うことなく上級魔法を放ってくる。スロウスタートでは勝てない。
「イグニ、火纏、からの紅一閃II!」
剣先から一直線の炎を放った。全ての水の針をかき消した。
「そんな……炎には水が有利なはず……。」
「確かに理屈はそうかもしんねぇけど、俺は誰かを金で雇ったりなんかする奴に負けたくないって思ったら力湧いてくるんだよ。要は気持ちの問題だな。さてと……夏音、そっちの状況はどうだ?」
「きゃっ………うぅ〜、ピリピリする。」と夏音からの返答?が返ってきた。
「ピリピリ?雷か……」と考えていると今度は壁の向こうとイヤホンから大きな音がした。
「夏音、無事か?」返答がない……というか遠くから夏音の声が聞こえる。イヤホンが外れたのか。
「他人の心配をしている場合かよ!風烈斬!」
いつの間にか至近距離に不良先輩が近づいていた。咄嗟に剣で防いだが風の斬撃で土の壁に叩きつけられた。
きらり先輩が俺の前に立った。かなり怒っているようだ。
「私を怒らせるなんて……愚かですわね。この勝負、私の勝ちですわ。「水大蛇!」蛇を象った水が現れた。
「おいおい、マジかよ。最上級魔法じゃねぇか。」初級、中級、上級、最上級の4つのクラスのうちの最大魔法。それを目の前にして汗が止まらなかった。
「後悔してももう遅いですわよ。まぁ大丈夫ですわ。この武器ですから死にはしませんから。」獲物に喰らいつくような目の蛇がこちらに向かってきた。
「紅一閃II!」一直線に放った炎は水の蛇とぶつかり、今度はこちらが押し負けた。
「さすがに無理か……。」
前にはきらり先輩が出した水大蛇、後方にはゴツい先輩が出した土壁。本当にすごいな………。
うちのリーダーは。
「紅翼!」背中に炎の翼をつけ、空に飛んだ。と同時に土の壁が砕け、一直線の雷の光線の様なものが水大蛇とぶつかり、蛇を打ち消してきらり先輩に当たった。
「何が起こったんだ?」不良先輩は動揺を隠せずに戸惑っていた。
「しゅう、うまくいったみたいね。」壊れた土の壁から人影が見え、そこから夏音が出てきた。
「よぉ夏音、やっぱりお前の作戦通りだな。」そう言うと、雷の攻撃をくらい、ボロボロになったきらり先輩が起き上がった。
「作戦通り?どう言うことですの?」すると夏音がドヤ顔で前に出た。
「先輩たちの方が知識的にも戦闘においても私たちよりも圧倒的に上。だとしたら属性の相性でくるかなと最初から思ってました。そこでしゅうに伝えたんです。」
………「私たちよりも確実に先輩たちの方が賢いに決まってる。おそらくだけど分断されて相性の悪い相手との戦闘になると思うの。私は雷属性、しゅうは水属性の相手とね。」
「なるほど。それでどうするんだよ?」
「分断する方法はおそらく視界を塞ぐためでもある土の壁の類かな?そうなったら普通は勝ち目がないと思う。と思う所を突くの。見えないところから弱点属性の攻撃が飛んできたとしたら、びっくりすると思わない?」
「けど俺たちの属性は炎と水、相性はそれほどよくない……まさか……。」
夏音は頷いた。
「そうそのまさか。」………
「相手の最大の攻撃を利用して相手にダメージを与える。うまくいってよかった。まぁうまくいったかいってないかはしゅうにかかってるけど。」と満足気な夏音が横にいる。でもまさかここまでうまくいくとは思ってもいなかった。
モニターを見ると、こちらのチームも残り体力3分の1ほどになっていたが、相手も半分くらい削れていた。
「確かに驚きましたがそれでもまだ私達のチームの方が体力もある。そこの女はもう魔力は残ってないでしょ?まだ私達は魔力にも余力がありますのよ。」俺と夏音の周りを4人が囲んで立っていた。
「それはこの攻撃を受けてからもう一度言ってもらいたいかな?行くよ、しゅう!水流。」水流が俺と夏音を空高く押し上げる。
「それじゃあ行くぜイグニ!俺たちの最大の魔法。」
「おうよ!かましてやるぜ!」剣が紅く煌る。
「炎狐の尻尾。」
ーーーこの会場にいた全員が空を見上げ、呆然としていた。1人の男の剣から出ている紅い尻尾を見て。
「これはこれは、一回戦目からすごいものが見れましたね、学園長。」
「えぇ。まだ未完成とはいえあの魔力。」やっぱり私が思ったとうりの生徒だ。
ーーー「炎狐の尻尾。」うまくいった。剣から出るその紅い輝きを纏ったまま剣を振り下ろした。バトルフィールドの半分を薙ぎ払った。
下にいた先輩達は全員服が焦げたりしていたが加減もしたし元々の武器も武器なので無事だった。
「俺につかまれ夏音、どうせ魔力残ってないんだろ?紅翼。」夏音に手を差し伸べた。
「うん、ありがと。結構ギリギリだったね。」その手をしっかりと握り下へ降りた。
「第1試合の勝者わー!チーム192!初戦からいい試合を見させてもらいました!次の試合も楽しみですね〜。」
夏音と控え室に戻り、次の試合を見ることにした。
「しゅう、次に私たちが戦うのはこの試合の勝者だからね。よく見ておかないと。」
「それはそうだけど……次の試合っていつだよ?俺たちの魔力はもうすっからかんなんだが。」夏音は俺と目を合わせたまま動かなくなった。少し恥ずかしくなった。
「な、なんだよ?」
少し考えるような仕草をとった後に、
「次の試合は……午前で全チームの1回戦が終わるから13時からかな?それまでに私たちの魔力の回復はほとんど無理かな。まだ本格的に魔力量を上げる練習はしてなかったから。魔力に頼らず勝つ?無理だよそんなの。」
「自問自答してんじゃねぇよ。どうすんだよ?春香と真冬……は無理か。春香1人じゃ流石にキツくないか?」
すると控え室にアナウンスが入った。
「それでは第2試合を始めたいと思います。第2試合の対戦チームは、66vs50です。それではスタート!」
「しゅう、と、とりあえずまだ時間はあるから今はこの試合を見よ。どっちが勝っても相手の行動を見るのは大切だからね……。」現実逃避したかと思えば急にモニターを見て目を見開きながら固まっていた。
「おい夏音、どうしたんだよ?お〜い、聞こえてんのか〜?」夏音は何も言わずモニターを指差した。
煙でよく見えなかったが、
モニターの上に対戦チームのメンバー表が書いてあった。3年生2人のチーム66と3年生4人のチーム50だった。
「3年が2人か……これは同じ学年である4人のチーム50の方が有利だな。」夏音が固まっている理由が分からなかった。
「……ちがう、その逆よ。」夏音はそう言った。
煙がおさまり、そこに写っていたのはチーム66の2人の男が無傷で立っていた。その前にはチーム50のメンバーが倒れていた。
「決まりましたー!圧倒的勝利となりましたー!これはすごい。チーム66、3年生2人のコンビが3年生4人を反撃の隙も与えないいいプレーでした。」夏音と同じように固まってしまっていた。
「夏音、あの人たちってもしかして……。」夏音はゆっくり頷いた。
「どのチームか分かってなかったけど、今回の優勝候補の天津光明先輩に地場暗真先輩。」やっぱりそうか。
あの先輩たちは吹雪先生からも一目置かれている人たちだ。
優勝するにはこの人達に勝たなければいけない。忘れていたわけではないがいざそう考えてみると本当に優勝など出来るのかと考えてしまった。
すると急に夏音が自分の頰をパシパシと叩いた。
「あーもう!今そんな事考えてる余裕ないし!」そして俺の方を向き、
「今はあの先輩たちの事よりも次の試合の事考えよ。はるちゃんたちももうすぐ来るし。」
そうだ、俺たちは2人だけじゃない、心強い仲間がいる。
すると、控え室の外で誰かが走って来る足音がした。その音は一瞬通り過ぎたがまた引き返して足音が止み、扉が勢いよく開いた。
「お待たせしましたー!春香と真冬先輩、只今着きました!」
「はるちゃん、それに真冬さんも来てくれたんだね。ありがとう。」
「まぁ真冬は春香の付き添いで来たようなものだろうけどな。でも、来てくれてありがとな真冬。」夏音と俺がそういうと真冬はそっぽを向いた。
「ま、真冬先輩、私との約束忘れてませんよね?」
「忘れてないわよ春香、次の試合に出るって事でしょ?でも誰かと話すなんて約束はしてないわ。」
「そ、そうですけど。私と同じ感じで話して見てくださいよ。しゅう先輩も夏音先輩も悪い人じゃないですよ。」
「約束にそんなのはなかったから、あなた以外とは話さない。」
俺と夏音は会話の内容についていけていなかった。
「春香、ちょっと待ってくれ、真冬は次の試合出てくれるのか?」春香はこちらを向いて、にこりと笑った。
「はい!勝負に私が勝ちましたので。」余計に分からない情報が増えた。
「はるちゃん、さっきから約束とか勝負に勝ったとか、この2週間ちょっとで何をしてたの?」
「勝ったといっても1対1で戦ったわけじゃなくて……う〜ん、とにかく私のために真冬先輩が色々稽古つけたりしてくれて、魔法も少し使えるようになったんですよ。」胸を張っているが張る胸が小さいのがかわいそうだ。
「しゅう、今何考えてた?あなたのその目からして……。」夏音の隣で迂闊に変な事を考えるのはもうやめよう。
軽く咳払いをし、春香を見た。
「それにしても、真冬が俺たちと一緒に戦ってくれるのはありがたいな。俺と夏音ほとんど魔力残ってないし。」
「そうなんですか、すいません。私のせいでお2人に大きな負担をかけさせてしまいました。」春香は謝って何度もぺこぺこしていた。
「気にすんなって。次の試合を勝てさえすればもう今日の試合は終わりなんだし。」
「そうそう、4人で頑張って勝ちましょう。ね、真冬さん。」夏音は真冬に近寄っていった。
「………。」真冬は黙っていたが、前までは試合にすら出ないと言っていたのだからかなりの進歩だと思う。というか春香のおかげか。
「あ、あの〜。ちょっといいですか?」落ち着きを取り戻した春香が夏音と俺に話しかけてきた。
「次の試合、お2人は後ろにいてもらえませんか?私と真冬先輩だけで次の相手と戦います。」真冬は腕を組みながら黙って聞いている。
「はるちゃん、どういうこと?さすがに1回戦を勝ち抜いてきた人たちだから決して弱くはないよ。」春香は頷いた。
「はい、分かってます。でも、お2人には1回戦に頑張っていただいたので私も力になりたいんです。それに、私の強くなった姿を母にも見てもらいたいので。」そうか、保護者も観覧可能だった事を忘れていた。自分には関係ないとばかり考えていたからか。
「……どうするリーダー。」
「リーダー言うのやめなさい。それじゃあはるちゃん……お願い…できるかしら?」リーダーと言われて照れているのか?いや違う。夏音の様子がおかしかった。顔を見るといつの間にか赤くなっていて今にも倒れそうなくらいにフラフラしていた。倒れそうな夏音を慌てて受け止めた。
「おい、夏音!しっかりしろ!夏音!」
ーーー「魔力の使い過ぎですね、それに少し熱もあるわね。やっぱり簡易保健室は必要だったわね……。夏音さん、今日と明日の試合は出ない方が賢明ね。」保健の先生がそう言った。ベッドで横になっている夏音に俺と春香が近づいた。真冬は保健室の入り口で壁にもたれかかったいた。
「ごめんね、しゅう。はるちゃん、それに真冬さんも。心配かけさせちゃったね。」明らかに疲れているのが分かった。
「無理させてた俺が悪い。ゆっくり休んでてくれ。後は俺たちに任せとけ。」
「そうです。というかしゅう先輩は後ろにいて下さいね。お願いしますから。」春香に体をぐいっと俺の方に近づけて念を押された。
「はるちゃんには悪いけど今回はさっきの言葉に甘えさせてもらうわ。次の試合ははるちゃんと真冬さんに任せる。しゅうまで倒れられちゃったらそれこそ勝てなくなる。だから、お願い。」
「任せてください!絶対に勝ちます!」夏音はその言葉を聞いて安心したようで、すぐに眠ってしまった。
「さて、まだ時間はあるし、試合でも見てるとするか。」
「ですね。真冬先輩も一緒に見ましょうよ。」春香が真冬を誘った。
「………はぁ、分かったわよ。」真冬はめ息をついてそう答えた。
3人で夏音のいる治療室を後にし、控え室の場所へと向かった。
19,〜チーム1、生徒会の実力〜
「これが午前最後の10戦目、チーム1対チーム55。なんとなんとチーム1は生徒会の生徒会長、副会長、生徒会書記の御三方のチームです。この絵面はすごい!感激です!そしてそして、もう片方のチームもすごい!チーム55、3年生3人のチームで今回のテストではトップの成績の3人です!この試合、本当に楽しみですー!」放送委員長の鈴木みなみは号泣していた。
「そんなに私たちを好きでいてくれるなんて………。副会長、放送委員の活動費UPよ!」目をキラキラとさせて副会長に頼んだ。
「ダメですよ会長。常にどの委員も平等にすると決められているのですから。」赤髪の男はそう答えた。
「私は会長の意思に従うまでです。」短髪の女はそう答えた。
「もう、滉一は固すぎ、もっと柔らかくいこうよ。双葉も双葉よ。会長の意志とかどうとかじゃなくて、自分で考えた事、言っていいんだからね?」
「考えておきます。」2人は息を合わせてそう言った。
考えておきますは2人の定型文1だ。
「これはこれは、生徒会の方々とお相手出来るとはなんと貴重な場をもたせていただいたことか。」後ろから話しかけられた。
「あなたたちが私たちの対戦相手の……あ、そう言えばチーム登録の時に会ったわね。藻ノ部さんたちだったかしら?」すると向こうの3人が息の合った綺麗なお辞儀をした。
「覚えていてくださり、光栄です。ともにベストを尽くしましょう。」きっちりかっちりしていてやりづらかった人達と覚えていた。
「え、えぇ。よろしくね。」滉一よりも断然やりにくさがある。
「それでは、チーム1対チーム55試合を始めたいと思います!」
「くぅ〜。わくわくするわね、2人とも♪」とはしゃいでるのが私だけだった。
「はい、ワクワクします。」淡々と双葉が答えた。
「ワクワクですね、ワクワク。」滉一にはバカにされてるように思えた。
「もういいわよ!とにかく2人とも、もう1試合ある事考えてのペース配分で戦うことはもちろんだけど“あの作戦”が無理そうだったら助け求めなさいよ。」
「了解しました。」
「了解です、会長。」
「それでは試合開始!」
ーーー会話の内容は聞こえなかったがモニター越しに生徒会長の神崎零架先輩がやりにくそーに会話しているのが見えた。
「やっぱり生徒会の方々も出てたんですね。」春香が呟く。
優勝候補に力が未知数な生徒会の面々。
「そうだな、これは優勝するのはかなり難しいぞ。」
「ですね、でも私も強くなったんですし、真冬先輩やしゅう先輩だっています。それに今は寝てますけど夏音先輩も。私たちが生徒会の方々と戦うって考えたとき、絶対勝てないって気はしないんです。」さっきも思ったが前までの春香とは一味違うなと思った。
「春香。お前の言う通りだ、優勝候補だろうが生徒会だろうが俺たちがやる事は関係ない。」
「生徒会か………。」
「ん?真冬、今なんて…」
真冬が何を呟いたのかよく聞こえなかったが、どうせまだ答えてくれないだろうと思い、聞くのをやめた。
「それでは試合開始!」
とモニターから聞こえたので、後で聞こうと思いモニターの方を見た。
ーーー「それでは試合開始!」
「滉一、双葉、作戦通りにお願いね。私たちの力、見せつけてやるわよ。」
滉一が左に、双葉が右に飛び出し、私が直進する。
「なるほど、1対1で来ましたか。いいでしょう。それぞれお相手してあげます。」相手も右と左、そして真っ直ぐにこちらに向かってきた。
「私の相手はメガネくんね。それじゃあさっそくやりますか。いくよ……ルナ。」その声に反応したように杖が光った。
「光の雨。」空に魔法陣が描かれ、光の雨が降り注いだ。
「光属性ですね、この世では光属性はかなり珍しい属性です。さすが生徒会長と言ったところでしょうか。しかし、重力操作。」男がそう唱えると、光の雨は下に降り注いでいたはずなのに、右や左へ逸れていた。
「地属性の中でも扱いが難しい重力魔法か……。すごいな〜。こんなに簡単に攻撃の方向を変えちゃうなんて。だったらこれはどう!光の円!」男の周囲を光の円で囲み、それを狭めていく。
滉一と双葉が気になり横を向くと、2人ともなんとも言えない感じだ。さすがに魔力を抑えつつ戦うのは難しいようだ。が、2人からこちらに親指を立てた。
作戦通りの合図。
「どこ向いてるんですか、生徒会長。」いつの間にか光の円は狭まるどころか広がっていた。
「嘘でしょ…。あなた本当にすごいわね。」
「お褒めいただき光栄です。しかし手は抜きませんよ。重槍。」透明のような薄い槍が宙に浮いている。重力を固めた槍か。
「そろそろかな。滉一!」そう呼ぶと滉一が重槍の横に突然現れ、大剣でぶった切った。
「なっ⁉︎いつの間に⁉︎」
「双葉、うまく避けなさい!光の雨!」双葉と双葉が戦っている相手の上空に術式が描かれ、光の雨が降り注いだ。双葉はその声を聞くと、ステップを踏みながら光の雨を躱した。相手は躱しきれずに光の雨の洗礼を受けていた。
「次は私が、拘束。」鉄の鎖が魔法陣から放たれ、メガネ男の動きを封じた。
「というわけで、これで終わりです。」滉一が大剣を構える。
「そんな……1対1ではなかったのか。」
「誰もそんな事言ってないわよ。それぞれの敵と戦うと見せかけて実は3対3。まぁ似たようなことを私たちの前にやったチームがあるけど……。うまく引っかかってくれたわね。」
メガネ男は笑った。
「完敗です、ぜひ優勝してください。」
「えぇ、そのつもりよ。」歓声が体育館中に響いた。
「チーム1しょーーりーー!さすが生徒会、後でサインもらいにいきたいーー!」
「よし、100枚くらい書いちゃう♪」満面の笑みで放送委員長を見た。
「生徒会長、調子に乗らないでください。」
「そんな生徒会長が素敵です。」
「………見てるのかな、秋翔くんたち。あなたたちとは決勝戦で会いたいわね。」誰にも聞こえないような声でそう言った。
どうも、改めまして作者の伊藤睡蓮です。真冬との距離が一気に近づいた秋翔たちが今後どうなるかは、次回に期待ということで(・ω・)
前書きにも書きましたが、本編の投稿が出来るかできないか分からないです。ただ、特別回の投稿を考えていますので気長にお待ちいただけるとありがたいです。
twitterもやっていますのでそこで活動報告等もしています。
それではまた次回!




