精霊剣士の物語 〜Adasutoria〜其の九
どうも、作者の伊藤睡蓮です。今回はお気楽回にしました。次の話からは戦闘多めで書いてます。この投稿の後すぐにもう1本投稿されてるのでそちらもお暇であればぜひ見て下さい。それではどうぞ!
15,〜学園長の気まぐれ合宿⁉︎〜
太陽の光が俺の目を覚まさせた。顔を上げると自分の部屋でない事に気づいた。
「そうか、俺たち合宿してたんだ。
ーーー「しゅうー。早く起きなよ。今日から合宿だよー。」1階から俺を呼ぶ声がした。あくびをしながら1階へ降りると、夏音が合宿のための支度をしていた。
「朝から楽しそうだな。まだ俺眠り足りないんだが……。」
「もう、集合時間はまだだけど準備しときなさいよ。まぁ下着類は無理だけど2人とも必要な必需品は準備しといたから。後は自分が持っていくもの準備しなさいよ。」
「お前は俺のお母さんかよ。でも助かった。ありがとう。代わりに今日は俺が朝ごはん作るわ。」
「うん、わかった。それじゃあ私は少しシャワー浴びてくるわね。アクア、今日はあなたもシャワー浴びる?」と机の上にある本に呼びかけた。
「私は別にいいわ。夏音だけでも浴びて来なさい。というか私本だから濡れたら大変じゃない。」
「そういえば気になってたんだけど、精霊って動物の姿になれるよな?イグニも狐を模した姿になれるし。」そう言って俺はズボンに付いている狐のストラップとんとんと人差し指で叩いた。ストラップは大きくなり、紅い炎を纏った狐が現れた。
「シュウ、わざわざ呼び出さなくてもいいだろ。まぁ確かに俺も気になってたけど。」すると夏音が代わりに答えた。
「なりたくないんだって。私も最初の頃しかアクアの姿みた事ないな〜。まぁ無理に見たいとは思わないからいいんだけどね。それじゃあアクア、しゅうを見張っておいて。また覗かないように。」そう言って風呂場へ向かった。
「了解〜。」アクアは軽く答えた。
「わざとじゃねぇんだけどな。」
ーーーあの後、学園に着いてからバスで山に連れてかれて……吹雪先生が「今日はとりあえずこの山を走り周ってもらいます。男子は5km、女子は3kmです。コースが設けられているので迷わないはずです。さぁ行ってらっしゃい♪」それから夜まで休憩をはさんで走り続けてテントで寝たんだった。
「おい、しゅうと。もう少しで朝飯の時間だぞ。起きとけよ。」そう言ったのは同じテントで寝た青山嶺だ。髪がかなりツンツンしてるのが特徴だ。見た目からしたら恐がる人が多いかもしれないが以外といい奴だ。
「れいか。もうそんな時間か。」もっと早く起きることは出来ないのかとつくづく思う。
「まったく、ここまでお寝坊さんだとは思わなかったな。次からはもっと早めに来た方がいいか?」
「いや、そこまで甘えられないな。俺ももっとしっかりしないと。」
「そうだぞ。お前は俺と違って武精祭に出るんだからな。」そう言ってテントを覗いてきたのは杉山太一、メガネをかけていていかにも勉強出来そうなのにできない奴。クラスに1人はいる。
「お前、運動神経は俺よりいいんだけどな。もうちょっと勉強すりゃお前だって出られただろ。」
「俺に勉強は向いてないからな。仕方ないさ。ほら、それより早く行こうぜ。」着替えを済ませてテントの外に出た。
全員が集まったところで吹雪先生が話し始めた。
「それでは朝食を食べ終えた後の話をいまします。よく覚えておいてください。この後、6人のチームを5組作ります。そのチームは精武祭のチームは関係なく組んでも構いません。そのチームで……山菜採りをしてもらいます。」吹雪先生から出た以外な言葉に全員が口をぽっかりと開けた。
「山菜採り?」
「そうです。毒があるとかは関係なく持ってきちゃっていいわよ。ただし、そこらへんに生えてる草を適当にむしってきただけでは駄目ですからね。専門の人は呼んであるから。食べられる山菜をより多くとった組が勝ちです。勝者にはもれなく吹雪先生特製ハンバーグを差し上げます。」楽しげに話している。
「特製ハンバーグ……だと。」全員の目の色が変わった。絶対に美味しいに決まってる。
「開始時間は9時からにします。それまで朝食をしっかり食べて6人組を組んで下さい。」
「なぁしゅう。俺と組まないか?」嶺が寄ってきた。
「そりゃ頼もしいな。よろしくな、嶺。太一も誘ってみるか?」俺がそう言うと嶺が指を指していたのでその方を見ると既に他の人と組んでいた。
「そういうわけだ。他を探そうぜ。」
「しゅう、それに嶺くんもいるのね。ということは2人?」夏音が走ってきた。
「夏音か、おう。そうだけど…。」
「なら私たちちょうど4人いるから組まない?いいよねみんな?」夏音の後ろにいたのは女子3人だった。
「香織もいたのか、そっちの2人は話したことないな。俺は紅葉秋翔だ。よろしくな。」
「俺も話したことないな。俺は青山嶺だ。よろしくな。」3人は軽くお辞儀した。
「そっか。だったら私が紹介するね。この子は上林香織さん、しゅうの席の後ろの子。そして私と同じくらいの髪の長さの子が小松美久さん、そして驚くほどかわいくて短髪の子が土田若葉ちゃん。」
「よろしくね。」
「よろしくお願いします。」
「よろしく。」なかなか個性的な面々かもしれないが、
「確かに6人でちょうどいいな。それじゃあこのメンバーでやるか。」
「うんうん、そうしよ。それだったら朝食も一緒に食べない?」夏音が提案すると、
「それいいですね、お互いの事も知りたいし。」と美久が言った。
「それじゃあ全員で食べようぜ。」
それから朝食を食べて9時になるまでの間で大分距離を縮めることが出来た。真冬ともこんな風に接する事が出来たらと何度か思った。
「そろそろ9時になるね、袋は準備してる?」香織が俺たちに聞いた。
「もちろん準備してるぜ。これだけあれば十分だろ?」嶺が大量のビニール袋を持っていた。あれだけあれば確かに十分だ。
「それではみなさん、集まってくださーい。」吹雪先生がみんなを集めた。いよいよ吹雪先生特製ハンバーグをかけた山菜採りが始まる。
「よーい、スタート‼︎」
16,〜吹雪先生特製ハンバーグ争奪戦〜
山に入って数分が経った。
「なぁ、しゅう、みんな。雑草以外の山菜あったか?」
「………。」嶺の言葉を聞かなかった事にして周りを見ながら歩く俺を含めた5人。
全く山菜がないのはこの山の特徴なのかといわんばかりのなさだ。
他のチームとすれ違うとたくさんの山菜が袋に入っていた。
「おかしいな、他のグループは結構採れてるんだけど……なんで?」若葉が俺たちの心にとどめを刺した。
「なんでだ……おかしいだろ!いくらなんでも運が無さ過ぎる!」
「お、落ち着いてしゅう。まだ時間はあるから、ね?」夏音が俺をなだめた。
一度円になって座って作戦会議をした。
「どうしましょうか?このままだと1位どころかビリですよ。」若葉がさらに痛いことを突く。
「みんなはどうやって探してるんだろ?」香織が不思議そうに言う。
「何か探す方法はないのか……。」
すると夏音が急に立ち上がった。
「ちょっとずるかもしれないけど……アクア、水流。」水流が夏音を持ち上げて高い所にいった。
「他のチームは…….いたいた。なるほどあの辺りにあるのね。アクア、もういいわよ。」水流が徐々に低くなって夏音を地上へと降ろした。
「精霊は使ってもいいなら他のグループの場所の山菜を採っちゃえばいいのよ。」
「夏音……お前……けっこうゲスいんだな。」
「さすが夏音ちゃんだね。」と美久も言ってはいたが少し引いているような気もした。
確かに他のグループの周りにはたくさんの山菜があった。悪い気はしたが吹雪先生特製ハンバーグのためいたしかたがない!
「この辺はもう採りつくしたかな。」他のグループもこの場を離れていく。しかし、夏音の目はまだ何かある顔だった。
「この辺にたくさん山菜があったからそう遠くない場所に同じような場所があるはず……しゅう、イグニちゃんを呼んで。」
「お、おう。分かった。イグニ、出てこい。」イグニが狐の姿になって出てきた。
「話は聞いてたぜ、夏音…俺にも吹雪先生特製ハンバーグを食べさせてくれるか?」イグニの目が夏音を見る。
「もちろん。」夏音の目はイグニを見る。お互いに頷きあい、イグニは山菜の入った袋に顔を突っ込んだ。
「くんくん、なるほどな。」そういうことか。たしかにこの勝負に適した能力だ。
「あっちだ!あっちから同じような匂いがする。」
「でかしたイグニ!よし行くぞ!」全員でダッシュでイグニの指した方向へ向かった。
少し進むとたくさんの山菜がそこにはあった。
「みんな………採れーーーー。」嶺が叫ぶと同時に全員が山菜へ群がった。
………数時間後、時間になったので集合場所に戻ってくると俺たちが最後のグループが1番最初のグループだったらしく、吹雪先生しかいなかった。
「あら、以外と早かったわね。どうだった山菜採りは?楽しかった?」
「はい、おかげさまであまり話したことないクラスのことも話せましたし。」美久がそう言うと吹雪先生は満足げに頷いた。
「それはよかったわ。お、他の子も帰ってきたみたい。」ぞろぞろと他のグループも集まってきた。
「それじゃあ全員集まったところで、結果発表しましょうか。専門家の方に判定してもらうので、採ってきたものを前に持ってきてください。」
それぞれのグループの1人が前に出て、袋を置いていく。1グループ2袋程度のようだった。
「勝ったな。」絶対に勝っている自信があった。俺は4つの袋を持って前に出た。周りのざわつきが明らかに俺に当てられたものだったのでいい気分だった。
「それでは、お願いします。」山菜アドバイザーが袋の中身を確認していく。俺たちのグループは1番最後のようだ。
「これは食べられますね、おっとこれは毒があります。」どんどんと俺たちのグループの番が近づいてくる。
今のところで1番多い量で3kgだ。どうやらこの山は毒を含むものが多い山らしい。
「この山で3kgも食べられる山菜を採ってくるなんてすごいわね。」あえて吹雪先生はそこを選んだんだろう。全員がそう思った。
「それじゃあ最後のグループだね。すごいね。この量は相当頑張っただろ。」
「はい、頑張りました。」夏音は自信満々で答えた。俺たち全員が勝利を確信した。
「ん…?これはすごい!」何かを発見したらしく、すごく希少な山菜を採ったのかと思い、胸が高鳴った。
「これ………全部毒があるね。」
………………はい?
「ここまで毒の山菜しかない袋を持ってきたのは君たちが初めてだよ。」
「うそ…でしょ?あれだけ頑張ったのに。」夏音は今にでも倒れそうなくらいフラフラしていた。
「と言うことで優勝グループは3kgのグループ4!」優勝グループは声を上げて喜んでいる。吹雪先生特製ハンバーグを食べ喜んでいるグループがいる。さっきまでは俺たちが食べると確信していたハンバーグを食べられている。おいしそうに……。
すると香織が「残念でしたね、ハンバーグ食べられなくて。」と慰めるように言ってきた。
「えぇ、そうね。でも、みんなとこうして話せているからとっても楽しかったわ。みんなありがとう。」美久も楽しそうに笑った。
「ですね、男子とも仲良くなれたのは嬉しいな。」若葉も嬉しそうに言った。
「だな、それが1番嬉しいな。」嶺もニヤリと笑ってそう言った。
「そうよ、食べ物にこだわっちゃうとこが駄目だったのよ!これだけみんなと仲良くなれたことが1番よ。」若干やせ我慢しているように思えたが夏音の言葉も嘘ではないだろう。
「まぁ確かに吹雪先生特製ハンバーグ食べられないのは残念だったけど、いい思い出にはなったかな。みんな、本当にお疲れ様。」
「しゅうも、お疲れ様♪」
「うん、お疲れ様。」
「お疲れ様でした。」
「お疲れ様。」
「おう、お疲れ様。」
「はーい、それじゃあ全員もう一度集まって、話があります。」吹雪先生がそう言ったのでクラスのみんな吹雪先生の元へ近寄った。
「精武祭は10日後、それまであなたたちには身体を鍛えてもらうために、この合宿を企画しました。」
「身体を鍛える?まぁ体力づくりは大切かもしんねぇけど吹雪先生、それは魔導師もなのか?魔導師は後ろで攻撃や支援魔法が多いと思うんだけど。」嶺が質問した。確かにその通りだ。俺のような近接戦闘は体力づくりは大切だと思うが後方の魔導師もいる。それなのになぜ?
「精武祭の事で言ってなかったことがあります、わざとですが。……今回は精霊の力や魔法の力はかなり軽減される事は話しましたね。」確かにその話はしていた。精武祭専用武器に精霊を宿すはずだ。
「しかし、精霊の力を使わずにパンチやキックをした場合、チーム体力は減りませんが、肉体的ダメージは残ります。」
「なるほど、それで身体を鍛えるってことか。」
「そういうことです。おそらくこの事で出場を辞退するチームもあるでしょう。」
「ラッキーじゃねぇか。これで何もしなくとも優勝できたりしてな。」俺がそう言うと吹雪先生はクスクスと笑った。
「そういう意味で言ったのではないんですよ。辞退するチームは肉体的ダメージが嫌だから辞退するのです。つまり辞退しない人たちは全員強者でしょう。近接戦闘もそれなりに出来る自信がある人が残るのです。」吹雪先生に言われてやっと気づいた。甘い考えはしてはいけない。俺より強い奴はたくさんいる。俺に勝てるのか?急に思考がまとまらなくなってきた。顔から汗が垂れる。すると吹雪先生が俺の前に立って頭に手をおいた。
「大丈夫です。そのための合宿だから、ね♪」吹雪先生のその言葉にはっと我に返った。
「しゅう、あんたが考え事とか似合わないよ。」夏音がニヤニヤと笑いながら近寄ってきた。
「うるせぇな。たまには俺だって考え込んじまう時もあるんだよ。」
「そっか、分かった。でも…精武祭では私の指示に任せて。しゅう、あなたは戦闘に集中して。考えるのが私、突っ込むのがしゅう。それを支えるのが真冬さんにはるちゃんだから。4人で優勝しよ♪」そうか、俺には仲間がいる。仲間がいれば絶対に負けない、負けられない。勝つんだ。
吹雪先生はにっこりと笑った。
「そうそう、その意気よ。精武祭に出場しない人は出場するチームのトレーニングのサポートをお願いします。それから言ってなかったけど精武祭の予選、あまりにも少ないからなくなりました。」
………重要な事をさらっと言ってしまう吹雪先生は本当に学園長なのだろうか?とクラスの全員が思った。気を取り直してクラス全員が前を向き、
『はい!』と返事をした。
これから約1週間ちょっと、俺たちの合宿が本格的に始まった。
17,〜精武祭開幕!〜
合宿が始まって約2週間が経ち、いよいよ今日、精武祭が開かれる。2日に分けて行われるこの大会はトーナメント制、もうすでにランダムで決めてあるらしいが発表はまだだ。おそらくなるだけ公平に戦うためだろう。
体育館の中央で出場チームとして集まっている俺たちを含む全20組。だいぶ減ったなと思う。俺たちのクラスも7組が3組に減ってしまったが仕方がない。
全校生徒がこの体育館で行われる大会を見にきている。緊張でどうにかなってしまいそうだ。
「いよいよ始まるね、精武祭。」
前にいる夏音が後ろを向いて話しかけてきた。
「あぁ、そうだな。」夏音も緊張してるのだろうか?見た感じは緊張してなさそう……いや、足がかなり震えてる。俺より緊張してるなこいつ。そんな夏音を見ているとおかしくて笑ってしまった。
「な、なにがおかしいのよ。」顔を膨らませて怒っていた。
「お前も緊張するんだなって思ってよ。まぁおかげでだいぶ楽になった。」
「もう、次笑ったら許さないから。」お前の足の震え、止まってるけど。とは言わないでおいた。
20組が集まるところに1人の女子がその前に立った。
「え〜。これより、第1回精武祭を開催したいと思います。司会を務めますのはこの私、放送委員長の鈴木みなみと、ここには居ませんが副委員長の杉山太一さんでお送りしたいと思います。それでは、有無を言わせず精武祭、開催をここに宣言します!」
体育館中が歓声でいっぱいになった。
「太一のやつそういや放送委員だったか。似合わねぇ〜。」
「では早速大会トーナメント表を発表します!」
大きなモニターにトーナメント表が表示された。
トーナメント表
1回戦 192vs35
66vs50
185vs70
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「それでは各チームは指定された部屋で着替えて待機していて下さい。待機部屋にはモニターがありますのでそこでバトルを観戦することも可能です。」
「おい、夏音。1回戦目って俺らじゃねぇか。」
「そ、そうみたいだね。ねぇ1つ聞いていい?」俺と同じ考えだろう。
「当てようか?真冬は来なくてもおかしくはないけど……春香まで来ないのはどうしてでしょうか?だろ。」
夏音が頷くとタイミングよく夏音の携帯が鳴った。春香からだった。
「もしもしはるちゃん、いまどこ?」
「夏音先輩、ギリギリまで特訓してていまちょうどアルファ駅に着きました。これからイプシロンに向かいます。真冬先輩も一緒にいます。それよりトーナメントの組み合わせは発表ありましたか?」
「う、うん。あったよ。たった今。」
「そうですか、それはよかったです。順番が早くなければ1回戦目も出られますけど。何番目ですか?」
「……この後すぐ、1回戦目よ。」
「す、すみませんすみません!」携帯越しに頭を下げているのが想像がついた。
「夏音、ちょっと携帯貸してもらっていいか?」
「いいけど。」夏音の携帯を手に取り、
「春香、大丈夫だ。俺たちは負けない。だから焦らずゆっくりこい。真冬を連れてきてくれてありがとな。」
「……本当にすいません。お2人とも頑張ってください!」
「おうよ。」電話を切り、夏音に携帯を返し、顔を合わせて何も言わずに夏音と頷いた。
1回戦目、チーム192 vs チーム35
どうも、改めまして作者の伊藤睡蓮です。ラストは武精祭の1日目に若干触れる形で終わりました。次回は早速バトルになるのでお楽しみ下さい。後書きで書くことがやっぱりなさすぎる……。とりあえずいつもどうりに、漢字ミスや文法の間違い等がありましたら、お知らせいただけるとありがたいです。twitterもやってますのでそちらで教えていただいても構いません。




