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精霊剣士の物語 ~Adasutoria~  作者: 伊藤 睡蓮
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精霊剣士の物語 〜Adasutoria〜其の八

どうも作者の伊藤睡蓮です。今回はバトルシーンはありません。次回は入れたいと思っています。毎度毎度の事ですが、漢字、文法のミスがありましたらTwitterもやっていますので連絡してもらえれば訂正します。それではどうぞ。

13,〜1人の男に試された学力?〜

自分の机の中心を見ながら、俺は自分自身に言い聞かせていた。



赤点だけは絶対にダメだ、と。


「ちょっと、机見てないで問題集とか見たら?どうせ『赤点は取らないようにしないと!』みたいな事考えてたんじゃないの?」横から話しかけてきたのは隣の席の夏音(かのん)だった。


「ここまでくるとお前、本当に魔導士になる素質あるわ。今回のテストはチームメンバーの誰か1人でも45点以下を取ったらチーム戦に参加できないんだろ?それ考えるとこのチームの中じゃ一番頭悪いのは俺だろうしな。」


「確かにそうね。」夏音にストレートに言われたので尚更自分の力に自信がなくなった。

「でも、しゅうが人一倍努力してきたのを私は知ってるよ。一緒に勉強してきたからね。だから私はしゅうは出来るって信じてるよ。」


「お、おう。」

優しく穏やかな顔でそう言われたので少し恥ずかしくなった。

するとそんな俺を見て夏音は顔をにやけつかせ、

「あれ、しゅう照れてるの?」とからかってきた。こいつは本当にいつも一言余計だ。嬉しかったのは嬉しかったが。


チャイムが鳴って先生が教室に入ってきた。

「全員席について。問題集等はしまっておけよ。1時限目は国語からだ。」


解答用紙と問題冊子が配られた。


「はじめ!」


問題冊子を開き、問題に目をやった。



………………わからねぇ。


ーーーコンコン

ドアをノックする音が聞こえた。パソコンを操作しながら、

「どうぞ、開いてるわよ。」そう言うとドアがゆっくりと開き、1人の男が入ってきた。


「誰かと思えば副学園長じゃないですか。」


副学園長は軽くお辞儀をしてから

「学園長、今お話しするお時間はありますでしょうか?少し急いで伝えねばならない事なのですが。」


「大丈夫よ。」作業に一区切りをつけてパソコンを閉じた。


「それで、急ぎの連絡とは何かしら。」


「はい。最近精霊に関する事件が多いのはご存知ですよね。」


「えぇ、もちろん知ってるわ。この学園でも既に2件起きていますからね。1つ目はグラウンドで許可なく精霊の力を使い戦闘をした4人のうちの1人、土属性の魔法でロックという精霊の持ち主、岩山(いわやま) (ごう)は少し前まで魔力はほとんど無かったはずなのにあの時はその倍以上の魔力を持っていたわ。」


「はい、そして2件目は、学園長の娘さんである時雨(しぐれ) 真冬(まふゆ)さんが正当防衛で戦闘した風属性を持つ荒川(あらかわ) (さき)さんが異常に高い魔力を持っていました。」

正当防衛といっても結構真冬も危険な事をしたのには変わりはないから反省文書かせちゃったけど。


「その2つの事件について何か分かったの?」


「はい。それが岩山 剛、荒川 咲の2人の精霊の力が無くなっており、精霊を宿していた武器も砕けていました。」


「砕けていた?そんな事今まで一度もなかったのに。一応混乱を避けるためにもなるべくこの2つの件と今のことは生徒たちには話さないように。」そう言うと副学園長は軽く頭を下げ、


「はい。しかし、あの場にいた数人はどうしましょう?」


「あの子たちなら私が口止めしといたから誰にも話さないわよ。報告ありがとうございました。引き続き何か分かったことがあったらよろしくお願いします。」

副学園長はまた軽くお辞儀をして学園長室を後にした。


……どちらの件にもチーム192、紅葉秋翔くんのチームが関わっている。偶然なのかしら?いいえ、違う………。


ーーーチャイムが鳴った。これで4教科全てのテストが終わった。隣の席の夏音は

「毎回思うけどテストが国語、英語、数学、精霊使いに関するテストの4つって少なくない?」と言い出した。


「俺はそっちの方がありがたいけどな。それに結果が午後に分かるんだからありがたくないか?早く分かった方が気が楽だし。」この学園のテストは全て最先端の技術を取り込んでいて丸つけを高速かつ的確に行なってくれる機械があるらしい。


「それは確かにそうだけど……そんな事言ってるしゅうはテストの結果が良かったから?それとも悪かったから?」


「いい方………とはとても思えてねぇ。最初の問題でつまずいたし………。」最後の方は敢えて小声で言った。すると夏音は時計を見て何か思いついた様にしてこちらを見た。


「そうだ、今お昼だし1年生の教室に行ってみよ。」


「1年の教室行って何すんだよ。」そう返すと夏音はため息を吐いて、

「はるちゃんに今日からの事、話し合わなきゃいけないでしょ?あの事件の後はるちゃん自分の家に帰ってから私たち全然会えてないじゃない。だから一応どうするか話さないと。」


「それなら真冬も呼んで………無理だな俺たちだけじゃ。」


「そういうこと。話すら成立しないと思うけど。まだ私たちとは距離置いてるみたいだから。」そういうことなら春香の所に行くのが確かに一番の方法だ。


「それじゃあ行くか。確か3組だった気がする。」


「うん、行こ。」


ーーー1年3組の教室の前に着くと、教室のドアを夏音が少し開けてそこから顔を入れて春香を探していた。


「別に隠れて探す必要はなくないか?」頭はいいがたまによく分からない行動をする夏音をただ見ていると、


「いた、はるちゃん。」そう言って手を振っている先に見えたのは友達と楽しそうに会話しながら昼ご飯を食べている春香だった。こちらに気づき、友達に何か言った後こちらに近づいてきた。


「夏音先輩にしゅう先輩。何の連絡も出来ずにすいません。ちょうどご飯を食べ終わったら伺おうかと思っていた所なんです。」


「そうだったのか。悪いな、ご飯食べてる途中だったろ。後ででもいいんだけど。」夏音がそう言うと春香は首を横に振った。


「いえ、大丈夫ですよ。……今後の事ですよね。」春香も分かっていたらしい。


「えぇ。なるべく短めに話すわね。それじゃあ早速本題に入るけど、今はるちゃんはどういう状況?」どういう状況?夏音は何を言ってるんだ?


「はい、実はあの後に母に精霊使いを目指すのを止められてしまっていて……もう精霊使いには関わるなって。」


「なんだよ、それ。」

すると夏音は分かっていたように

「やっぱりね。」とだけ言った。

「夏音は知ってたのか?春香がこうなってること。」


「だいたいわね。自分の娘がボロボロの姿で帰ってきたら大体の母親は辞めさせようとするわよ。それにはるちゃんと携帯の連絡先交換してて何度も電話かけたけど出なかったし。はるちゃんのお母さんが持ってるでしょ?」春香が頷いた。


「この学園の友達の連絡先も全部消されてしまって……しゅう先輩の家にも行けなくなってしまって。今週で学園を退学する様に言われてしまいました。すみませんでした、何の役にも立てずに……。」そうだったのか。すると夏音は落ち着いた顔で

「そっか。分かった。それじゃあ……今日ははるちゃんの家に行きましょう。というわけで解散♪」夏音が教室へ戻ろうとしたので慌てて引き止めた。


「ちょっと待て!いや確かに俺もそうしようとはしたけど……。」春香も呆気にとられて何も言えずにいた。


「だって説得するしかはるちゃんと一緒にいること出来ないんなら、なるべく早いうちにした方がいいでしょ?だから今日。」

こいつの行動力は本当にすごいと思う。昔から友達のためならなんだってするタイプだった。


「そんな、もういいんです。母を説得するなんて絶対に出来ませんから。」絶対に出来ないと断言できる理由があるんだろう。だけど、俺も夏音の気持ちと同じだった、だから


「リーダーが行くって言うなら仕方がねぇな。行くか、春香の家。今日の放課後昇降口集合で。」春香は驚きを隠せずに俺を見て、


「あ、あの。私………。………ありがとうございます。」春香は泣いて、そして笑っていた。


ーーー春香と待ち合わせ場所を確認して教室に戻った。昼ごはんの弁当を広げながら俺は夏音に聞いた。


「それで、春香の母親を説得する方法って具体的に何か考えてるのか?」

すると夏音はこちらを向いて、

「いいえ、考えてるわけないじゃない。ぶっつけ本番よ。」平然とした顔でそう言った。


「大丈夫なのか?春香は説得なんか絶対に出来ないとか言ってたけど。」


「そんなの、やってみないと分かんないでしょ。それに、はるちゃん本人が精霊使いになる夢を諦めてないんなら応援したいもの。」まぁなんとなく分かっていた事だが夏音が言うならそれはそれで安心する事ができた。



ーーー昼休みが終わるとすぐに学園ちょ、吹雪先生が教室に大量のテスト用紙を持って入ってきた。

「というわけで早速テスト返すわよー。」ここが学園の大会に出るための入り口、クラス中が緊張というオーラに包まれた。そんなオーラを感じ取ったのか吹雪先生は

「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。このクラスには他のクラスや学年の子とチームを組んでる人もいて確か…………各クラス30人いてこのクラスは10組のチームだったわ。大体の子はこのクラスの子達と組んでるようね。大丈夫、落ちたのは“たったの3組”だから。」

…………。吹雪先生的には場を和ませるために言ったのであろう満足気な表情をしていたが、さっきよりも空気が重くなった気がした。隣の夏音も緊張してるだろうと横を振り向くと、

「3組か、1組にはならなかったわね。」と呟いていた。自分のチームが落ちているという考えはないらしい。


「それでは1番から取りに来て下さい。テスト返すのめんどくさいのでまとめて返します。」

どんどんとテストを返却していく吹雪先生。この時点でかなり落ち込んでいる人もいたのでダメだったのだろうと思える人もいた。


今回のテストは過去のテストの中でも1番難しくかつ45点以下が赤点なので「90点以上を取れたら天才だねー。」と吹雪先生が軽く言っていた事も思い出した。

すぐに俺の番号がきた。

「はい、紅葉秋翔くん。」とテストを渡された。


席に戻り、テスト用紙を開こうとしたが、45点以下が俺だったらどうしようなどと考えてしまって開くに開けなかった。が、夏音もテスト用紙を受け取ってきて、ぐいっと体を俺の机の方に向けて寄ってきた。

「今から見るの?早く私にも見せなさいよ。」と急かしてきた。


「分かったから落ち着け。……めくるぞ。」恐る恐る折りたたまれているテスト用紙を広げた。


「えーっと数学67点、英語71点、精霊知識問題55点、国語51点。赤点なし!個人的には大満足だ!」


「少し前までは中学の問題すら危うかったのに、しゅうにしては頑張った方じゃない。」けなしているのか褒めているのか分からなかったが、赤点ではなかったので気にはしていなかった。


「で、お前はどうだったんだよ。まぁ80点以上だろうけどさ。」

夏音が4つの教科の点数を全て俺の目の前に突きつけた。

「当たり前じゃない。それに80点じゃなく90点以上よ。」

英語93点、数学96点、国語92点、精霊知識問題100点。夏音はドヤ顔でこちらを見ていた。


「さすが真の天才、葉月夏音さん。ここまでくるとカンニングしてそうなくらいだな。」

「しゅう、なんでちょっと引いてるのよ。それにカンニングはしてないわよ。」ともあれ後は春香と真冬が大丈夫であれば大会に参加出来る。


「あー、すっかり忘れましたが、みんなに知らせないといけないことがありました。」と吹雪先生が言った。


「えー、今回のテストにも関わっている学園の大会の正式名称が決まりました。その名も精武祭です。」


「精武祭……。」クラスがざわついた。


「そうです。大会の形式は勝ち残り、つまりトーナメント制です。そして出場する組の数は……31組、ほとんど1年生は参加してませんがね。このクラスで7組は多い方ですよ。とても素晴らしい事です。前も言いましたが、ぜひこのクラスから優勝組が出て欲しいですね。」


「吹雪先生、質問いいですか。」夏音が手を挙げた。


「夏音さん、何でしょう。」


「その精武祭っていつやるとかの日時は決まってますよね?それに勝敗とかってどうなるんですか?」そう聞くと吹雪先生はハッと思い出したようで、

「そうでした!すっかり忘れてました。最近忙しくてついつい忘れちゃうのよね。夏音さんありがとうございます。精武祭は……2週間後の5月の15日です。ちなみに場所はイプシロンの大運動場を借りてあるのでそこで好きなだけ暴れてください。」


2週間後か。まだ時間はあるな。少し体もなまってるしイグニと体動かしとくか。


「そして勝敗ですが…………戦闘不能になるまで、又は降参するか……です。」

戦闘不能?そんな事を……


「嘘です。」

初めて全員が学園長にイラっとした瞬間だった。


「刃のある武器で戦闘している方は精武祭の時は精武祭専用の武器に精霊を宿し移してください。その武器は自分が所持している武器に近いものを選んでも構いません。その武器は斬ってもほとんど痛くありません。魔導書等も同様に攻撃魔法はチクリとはするもののあまりダメージはありません。」


「それだと勝負がつかないと思うんですけど……。」


「大丈夫です。精武祭の専用武器には相手を攻撃した際にセンサーでダメージ判定をし、モニターに移して出されます。チームで体力は決められていて体力はチーム内で共有されます。」共有………。


「つまり、チームの人数に左右されず、体力は決まっているんですね。」


「しゅうとくん。そう言う事です。4人だからと言って範囲魔法を全員が食らったらひとたまりもありません。因みに回復は反映されますのでそこも鍵になるかもしれませんね。話すことはこのぐらいね、不備があったら後日報告します。では帰ってよし!」

吹雪先生が教室を後にした。


「夏音、いろいろ言われて既に忘れてることもあるんだが……。」


「まったく……、まぁ簡単に言えば精武祭は2週間後、勝敗は精武祭専用の武器を用いてのセンサーダメージ判定制。相手の体力をゼロに出来れば勝ち。回復はあり。って感じよ。」


「なるほどな。というか春香と真冬が赤点取ってないのが最低条件か。」というと、


「あの2人なら大丈夫よ。それより早く昇降口へ行こ。はるちゃんが待ってる。」どこから大丈夫という言葉が出てくるのだろう。まぁ2人にに直接聞いてみれば分かることだと思い、バッグを持って夏音と昇降口へ向かった。


ーーー昇降口へ向かう途中に1組へ行って真冬を探したがいなかったので1年の頃同じクラスだった今井(いまい) 拓人(たくと)に聞くと

「あいつならさっさと帰って行ったぞ。」と言われたのでまた今度聞くことにした。


昇降口に着くと壁に寄りかかって体の前にカバンを両手に持ってぶらぶらさせている春香がいた。

「春香、待たせて悪かったな。」

声で気がついたらしくこちらを振り向いた。


「いえ、大丈夫ですよ。私もさっき来たばかりですから。」と待っていた人の定型文を言った春香の優しさに感謝した。


「それじゃあはるちゃん、早速家に向かおっか。その途中で精武祭の話をしましょ。」


「はい。分かりました。」その声は何かを期待しているような声だった。


夏音も春香の感情を読み取ったのかたわいもない話をし始めた。昨日の夜のご飯でイチゴを何個食べたの俺とイグニの永遠に続いたじゃんけんのあいこだの本当にどうでもいいような話をした。

しかしそれが春香は嬉しかったのかまたさっきまでと同じように笑い始めた。


「話は変わるけどはるちゃん、テストどうだった?」夏音が春香にストレートに聞いた。


「え、しゅう先輩の悪口からいきなりテストの話ですか!……テストは私たち1年生は精霊知識問題を除く3教科でどれも70点前後でしたので良くも悪くもって感じですね。」


「そっか。大丈夫だよ、これからたくさん勉強すればいいんだから。それより、真冬さんに聞けなかったのは残念だったな〜。明日聞くにしても仲良くなっておきたかったし。」

まぁ真冬本人に俺たちのチームと一緒にいる気はないと思うが。


「真冬先輩なら4教科80点以上ですよ。」春香の発言に俺と夏音は立ち止まってしまい、春香は何事もないかのように歩いていた。が、すぐに立ち止まっていることに気づいて駆け寄って来た。


「どうしたんですか?」と何事もなかったように聞いて来きた。


「いや、今お前、真冬のテストの点数さらっと言ったろ。」と言うと春香は


「あ、真冬先輩の個人情報を簡単に言っちゃうなんて、明日謝らないと。」

間違った解釈をしていた。

「いや、そうじゃなくて……なんで真冬のテストの結果を知ってるかって事だよ。」春香はようやく理解したらしく腕をポンと叩き、

「あぁ、それならしゅう先輩たちを待ってる時に真冬先輩が帰るところだったので近づいて挨拶したら『話しかけないでって言ったのに……、まぁちょうどよかったわ。テストどうだった結果は全部80点以上。ちなみに私は精武祭に出るつもりはないから』っと言ってました。」


「やっぱりまだ距離おかれてるな。どうしたら春香みたいに話せるようになるんだろな。」


「まぁ私たちの場合、同じ学年だからこの間の咲さんみたいな事になるかもって思ってるんじゃないかな。」今はまだ真冬と話すことは難しいなと改めて思った。


ふと春香が足を止めた。

「着きました、ここが私の家です。」


14,〜母の思いと子の思い〜

あまりの大きさに俺と夏音は呆気にとられてしまった。塀で囲まれた白い壁の家、俺の家の2倍くらいの敷地だった。ここが春香の家らしい。


「少し待っていてもらえますか?母を呼んできます。」春香はそう言うと玄関を開け中に入っていった。


「立派な家ね、こんないいお家に住んでみたいわ。はるちゃんの家ってお金持ちなのね。」


「春香の両親がどっかの社長かお偉いさんなんじゃねぇか?そのうち執事とかメイドが出てきそうだな。」

と話をしていると、中から春香と春香の母親と思われる人が中から出てきた。綺麗な人だった。20代後半くらいの見た目だったが、実年齢は40前半だろう。


「えーっと春香から会わせたい人がいると聞いてきたのだけれど……。あなた達のこと?」


「はい。私は武精学園の2年、葉月夏音といいます。こっちは同じく2年の紅葉秋翔(くれはしゅうと)です。」俺は軽く会釈した。


春香の母親は俺たちが武精学園の生徒だと知ると急に態度が変わった。


「武精学園の……何の用でしょうか?」この家に着く少し前に夏音に『私がメインで話すからしゅうは横にいてくれるだけでいいから。余計な事を言わないように。』と言われていたので大人しく見ている事にした。


「私たちは春香さんと一緒にチームを組んでいます。」


「そうだったんですね。でもこの子は今週いっぱいで学園を中退させて私の仕事の手伝いをする事になってますから。あんな事になるなら精霊使いなんてやっぱり初めからならせるべきじゃなかったのよ。」母親の横にいる春香は何も言わず、下を向いていた。


「春香さんの夢は精霊使いになる事なら応援すべきじゃないんですか?本人が嫌だと言ったんですか?」


「あんな目に合わされたのに辞めさせない親がどこにいるんですか?それに家族の問題にこれ以上あなた達に立ち入られたくもありません。」

これは中々手強いな。やっぱりそう簡単に納得してはもらえないようだ。


「私たちと春香さんはチームですから。チーム間の問題を解決するために私たちは今ここにいるんです。春香さんのお母様、何故急に辞めさせるんですか?最初から別の学校、又はあなたの仕事の手伝いをさせればよかったじゃないですか?」しばらくの沈黙が流れた。

夏音と春香の母親は見つめ合い、そして春香の母親が口を開いた。


「……………私の夫は元精霊使いでした。」

その言葉だけでその後がだいたい理解できた。


「国や都市からたまに夫に任務の依頼がきて、その任務が父の仕事でした。そんな夫を見て春香も精霊使いになりたいと思ったんでしょうね。でもある日、夫と同じ任務をしていた方が家にきて、任務の途中で亡くなったと言われて目の前が真っ暗になりました。何度も何度も夢だと思ったけれど、夢じゃなかった。でも春香は死んだお父さんの分まで頑張るんだと言って聞かなかった。」


「だから武精学園に通わせたんですか?それなら本人が怪我をするという覚悟はなかったんですか?」


「もちろん覚悟はしてました!ですが実際に怪我をした娘をみたらもうこんな目に合わせたくないと思ったんです。そういう訳ですから、もう帰って下さい。娘は今すぐにでも辞めさせたいくらいなんですから。」我慢の限界だった。身勝手に自分の子供を束縛しているだけだ。けど傷つく姿を見たくないという母親の言葉も本音なのは分かる。


夏音は言葉を詰まらせていた。春香の父親が亡くなっていた事、その理由が春香をやめさせる理由な事、確かに精霊使いになる以上、死はいつ来るか分からない。『死なせない。』とは断言できない。などと考えているのだろう。


「お母さん!私、もっと強くなって見せるから、精武学園にもう少し居させて。お願い……。」


「駄目よ。そんな事私が許しません。いくらあなたのお願いでもあなたを死なせる訳にはいかないの。」春香の最後の言葉も母親には伝わらなかった。


春香の母親が家の中に入っていこうとする。


「ちょっと待って下さい。俺の話を聞いてくれませんか?」こうなったら……やけくそだ。


「まだ何か?何を言っても私は……。」


「俺の両親はどっちも精霊使いで、俺の目の前で死んでいきました。」その言葉を聞いた春香の母親は目を見開いて驚いていた。


「まだ小学生の頃だった俺も春香と同じように父に憧れ、精霊使いになると言っていました。父と母も俺が精霊使いになる事を応援してくれて、本当に嬉しかった。」


「それが何だというのですか?私には…。」


「春香の夢を応援していた頃もあったんじゃないかなと思いまして。そしてまだ母親であるあなたがいるなら、春香の夢を応援してもらいたいんです。」


「春香の夢を……。」そう言って春香をみた。思い出してくれているだろうか。まだ小さかった頃の春香を、その夢を語っている自分の子供を……。

母親が口を開いた。

「私がただ自分勝手に娘を束縛していただけなのかしらね。娘を守る一心でいたけれどそれが娘を苦しめてるのなら……。春香、これからも精霊使いを目指す思いは変わってないのね?」


「はい、お父さんのためにも。」

その目は自信に満ち溢れていた。


「そう……分かりました。武精学園に通う事を認めます。」


「ありがとうございます!」春香は嬉しそうに言った。俺と夏音も目を合わせて微笑んだ。


「でも、また命に関わることになったら今度は辞めさせますからね。……頑張りなさい。」そう言って家に入っていった。


「よかったね、はるちゃん♪」

「はい。夏音先輩にしゅう先輩のおかげです。本当にありがとうございました。」


「それにしても春香、これからもっと強くならないと下手したら精武祭で退学させられるんじゃないか?」


…………、どうしようみたいな空気が辺りを包み込んだ。


「それだけは阻止しないとね。でもあと2週間で2,3年生と対等にやれる力をつけるのはちょっと厳しいかな。TFTを2週間丸々使っても無理ね。あなたの力をよく分かってる人がいれば少しは良くなると思うんだけど。」


「私自身、まだ自分の能力をよく理解できていませんし………。あ、もしかしたら。」春香が何か思いついたようだった。


「どうした春香?」


「ちょっと思いついた事があるんですけど、これから精武祭の間までTFTを使わせていただきます。しゅう先輩と夏音先輩とは別行動させていただきます…自分勝手ですいません。」頭を下げて謝った。


「何か思いついたんでしょ?だったら謝る必要なんかないわよ。あなたに任せるわ。絶対みんなで一緒に優勝しようね♪」夏音は拳を握ってそう言った。


「はい。ありがとうございます。」

4人で絶対に優勝する。改めて強くそう思った。


ーーー4学園招集会議

丸いテーブルを4人の人物が囲んで座っていた。1人の男が口を開いた。

「いや〜、まさかまたみんなで集まる事になるとはね。でも久しぶりに会えて嬉しいよ。」

世界精霊使い第7位、霧崎千(きりさきせん)。イプシロンの西に位置する学園、磨精(ベータ)学園の学園長。


1人の女が返答した。「こんな非常事態だというのに集まれて嬉しいだなんてありえないわ。」

世界精霊使い第5位、雲雀真純(ひばりますみ)。東に位置する学園、忠精(ガンマ)学園の学園長。


もう1人の女が口を開く。「そんな世間話をしに来たのではありません。」

世界精霊使い第3位、時雨吹雪(しぐれふぶき)。北に位置する学園、武精(アルファ)学園の学園長。


男は3人の会話を聞いて少し笑う。「まあまあ、いいじゃないか。少しくらい世間話をしたって。まだ集まったばかりじゃないか。」世界精霊使い第1位、神谷晴明(かみやせいめい)刻精(デルタ)学園の学園長。


「晴明さんはこの件、どう見ていますか?」真純は晴明に問う。


「やれやれ。そうだね、今回の件は色々と混じっているね。」


「混じってるって何がだよ、晴明。」千はめんどくさそうに聞く。


「精霊と悪魔、それに人間。この3つが複雑に絡み合っている可能性があるということですよ、霧崎さん。」


「吹雪、お前に聞いたんじゃねぇよ。」


「頭が固いあんたに分かりやすく真冬が説明してやったんでしょ。なんであなたが学園長を務めていられるのかが不思議ね。やっぱりその力だけで認められたのかしら?」真純が千を挑発する。


「なんだと……。」床全体が揺れる。


「やめたまえ。」その一言で揺れが収まった。千からは大量の汗が吹き出していた。吹雪や真純も顔から少量の汗が出ている。


「この件は今まで通り他の誰にも話さないように。混乱させたくないからね。」


物語はまだ序章に過ぎない。












改めまして、作者の伊藤睡蓮です。次回は本編を投稿するか特別編を投稿するか迷っていますが、本編を投稿するつもりでいます。特別編もいつか投稿しますが早く見たい方はTwitterで連絡下されば早めに投稿したいと思います。次回の本編では精武祭に向けての合宿と精武祭本戦を少し入れると思います。

次回もぜひ見てください。それではまた次回!

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