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11.





 自分の持つ”チカラ”が、他の人の使う”魔術”と違うと気付いたのは、物心ついた頃だった。


 一人でつかまり立ちができるようになって、それが嬉しくて家中うろうろしていた時だった。

 たまたまお湯の入ったケトルをおばさんがテーブルに置いたままにしていたのを知らず、あたしはよろけてテーブルの足にぶつかってしまった。

 ケトルは衝撃で倒れ、中に入っていたお湯はテーブルのみならず、その下にいたあたしの上にまで落ちてこようとしていた。


 その時だった。無意識にあたしは自分の周りに結界を張ったのだ。


 あたしに降り注ぐはずだったお湯は、まるで伏せたワイングラスの表面を滑るように、あたしを避けながら床へと落ちていった。

 呆然とするあたしに、おばさんが慌てて近づいて抱き上げてくれた。


「アン、どうしたの! 今どうやって結界を張ったの?」


 おばさんが心配と困惑を混ぜたような顔であたしに話しかけてきた。勿論、まだ大して言葉を喋れなかったあたしは、ろくな返事もできなかった。それどころか、いつもと違うおばさんの様子に恐れをなして、泣き出してしまったほどだった。


 それからだった。あたしが無意識に”チカラ”を使い始めたのは。


 だけどおばさんがその度に、あたしに言い聞かせた。


「あなたの力は魔術とは違う力なの。だから簡単に人前で使ってはだめよ?」


 言葉を喋れなくても、理解することはできたから、あたしは”チカラ”を使うのは、あまりよくないことなのだと理解した。


 そういえばと、ある時思い出した。


 この世界に生まれ落ちる前、あたしはどうしようもないいい加減な自称女神に、魔法を無限に使い続けることができる力を授けるとかなんとか言われたような気がする。

 でもこの世界には魔法じゃなくて魔術があるだけで。じゃあ、あたしのこの”チカラ”はなんなの?

 疑問に感じながらも、あたしはおばさんの言いつけ通り、なるべく”チカラ”を使わないよう努力した。


 だけどまたある時、もう一つ別のことに気付いたのだ。


 ――”チカラ”を使うには”魔力”が必要で、それは補充できるものだと。


 養父母とコミュニケーションが取れるほどに成長したあたしに、おばさんが教えてくれた。魔術を使うには魔力が必要で、人はそれぞれ持って生まれた魔力を使って魔術を使うのだと。


 あたしは聞いた。「じゃあ、まりょくがなくなったらどうなるの?」

 おばさんは少し悲しげな顔で言った。「魔力がなくなると、人は魔術を使えなくなるのよ」


 おかしいと感じた。あたしの”チカラ”は魔術とは違うけど、魔力を使うのは一緒だ。だけど、あたしは魔力がなくなっても、ある事(・・・)をすれば魔力を再度貯めることが出来ると気付いていた。


 例えば、おじさんが育てた畑で取れた新鮮な野菜を食べた時、例えば川で取れた新鮮な魚を食べた時、例えば採れたての野生の果実を食べた時。

 どういうわけか、そういった物を口にすると、あたしの中に「なにか」が満たされる感じがするのだ。


 だからあたしはそれを確かめるために、ある時おじさんとおばさんに隠れて、こっそりと森の奥で”チカラ”を使った。


 おばさんが言ったように呪文や術式を使うでもなく、あたしは地面に手を触れて、そこに生える草花がもっと大きくなるようにと、ただ漠然とイメージした。

 そして草花はあたしのイメージ通りに、どんどん成長していき、小さなあたしの背を追い越しても、まだ成長した。


 面白くなってきて、そのまま自分の中に感じる魔力が空っぽになるまで”チカラ”を使い続けた。


 そしてついに空っぽになった魔力を感じると同時に、あたしは妙な飢えを感じた。お腹は朝食の後だったから満たされているはずなのに、なぜかお腹が空く。

 きっと魔力が空っぽだからなんだと、なんとなく見当をつけ、あたしは今度は無くなった魔力を補おうとした。


 いきなり家に帰ってお腹が空いたから、何か食べたいなんて言ったらおばさんに不審がられるだろうからと、あたしはその辺りに生えている草を適当に千切っては口に含み、吐き捨てた。

 少しずつだけど飢えを感じなくなっていき、やっぱりあたしの魔力は無くなっても補充できるんだと確信した。


 しかし同時に不安になる。この事をおばさんとおじさんに言ったら、不気味に思われるんじゃないだろうかと。

 ただでさえ、あたしのよく分からない”チカラ”をおばさんたちは危惧しているようだったし、これ以上彼らに嫌われたくないと思った。


 これは隠し通さなければいけない、そう決意して家に帰ったけれど、あたしの幼稚な隠し事なんて直ぐにバレた。


 理由はじつに単純で、呆れ顔のおばさんに促されて家の外に出ると、スッとおばさんが手を上げてある方向を指差した。

 あっ、と思わず声が出た。なぜならおばさんが指差す方向を見ると、鬱蒼とした木立の隙間からでもはっきりと確認できるほど、巨大な花が木々の間からニョッキリと姿を表していたのだ。


 この一件で、あたしの魔力は無くなっても補充ができることが養父母にバレて、そしておばさんにこってり叱られた。

 後でおじさんと一緒に育ちすぎた巨大な花を切りにも行かされた。ついでに巨大な花の茎は、木と変わらないほど堅くて、力自慢のおじさんでさえ、切り倒すのに難儀していた。


 まぁ色々あって、あたしは自分の”チカラ”のことを知っていくのだけど、未だに分からないことも多々あって、その筆頭がどうして魔力の補充は口からでしかできないのか、ということだった。

 色々試してみたけど、どうしても口からでしか魔力を吸収できなかったのだ。


 ”チカラ”は無限に扱える。魔力さえあれば、だけど。そしてその魔力はそうそう簡単に補充できない。故郷の森ならまだしも、都会の首都ランメでは魔獣なんて結界のせいで寄りつけないし、頼りの新鮮な食材も故郷の森で食べていた物よりも、どうしてだか魔力の量が少ない。


 じゃあ、魔力のある人から摂取すればいいじゃないかって?


 馬鹿言わないでよ! 自慢じゃないけど、前世から今世の年齢合わせて清い体のあたしが、他人とキ……キスできると思ってるわけ? できるわけないだろ!


 あぁ、でももうそんな事言ってられないかもしれない。こんな取り留めのないことを考えてるのは、今の状況から逃避しようとした結果なんだけど、正直もう無理。だって――


「痛い……痛すぎるんですけど」


 魔人が放った氷塊を結界で防ぎきれなかった何個かが、あたしの身体に突き刺さってる。左肩の辺りと右腹部、そして右太腿に。

 前世でも今世でも、身体に鋭利な物がぶっ刺さるなんて状況、初めてなんだけどこれ、どうしたらいいわけ? 抜いていいの? 抜いた瞬間血が吹き出して、あたし死んじゃったりしない?


 今直ぐにでも泣き喚きながら気を失いたい。だけどそれが出来ないのは、さっきから続けざまに氷塊をあたし達に向かってぶつけてくる魔人から身を守るために、ずっと結界を張り続けているせいだった。

 結界を破られそうになるたびに張り直すけど、正直追いつかない。というか、なんだか妙に魔力が無くなる速度が早く感じるんだけど、なんで?


「イアリーナさん、貴女は一体……」


 はたと背後から聞こえた魔王の声に我に返る。チラリと一瞬だけ振り返ると、真っ青な顔の魔王と目が合った。


「説明する暇がないんで、取り敢えず一緒に結界を張ってくれませんか?」


 さっきから結界を張り直しても追いつかないどころか、どう見ても結界の力が弱まっている。その証拠に、だんだん氷塊が結界を突き破る速度が早くなってる。このままじゃ、あたし達が氷塊に串刺しにされるのも時間の問題だ。


「結界は直ぐに展開できるものではありません! 複雑な術式を発動してから、そして――」


 思ったよりも魔王は使えなかった。なんだよ、魔術管理局の局長のくせに、肝心な場面で使えないってどういうことだよ! さっき魔獣と戦ってた時に、ちょっとだけ感心したあたしの気持ちを返せ!


 痛みで朦朧とし始めてきた頭をフル回転させて、あたしはどうやって魔人から身を守るかを考える。というか、本当はとっくに答えなんて出ていた。ただただ、それを実行したくなかっただけだった。


 あたしは歯を食いしばって、唸るように魔王に言った。


「まお――ローム局長、お願いがあります。あたしにキ……く、口付けて下さい!」


 もうやだ、こんな厄介な”チカラ”をあたしに与えたあの駄女神、一生恨んでやる!





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