空の果てまで
・金子みすゞ作「鯨法会」オマージュ作品です。
・即興小説より転載…したかった。途中で誤操作がありまして内容が全部消えたので記憶を頼りに復元・加筆・修正したものです。
・即興小説の方では執筆放棄になっていました。
・お題「静かな負傷」
・必須要素なし
・制限時間15分
雪と言えば冬に降るもの。しかし北の方の寒さの厳しい土地では四月になっても雪が降る地域がある。
真冬のそれとは違い、手で触ればたやすく溶けてしまうそれを人は淡雪と呼ぶ。
わたしの住む土地は夏が短く、冬が長い。わたしが生まれてから今日までずっとそうだったように、これからもずっとそうなのだろう。
この小さな港町から電車で少し行ったところにある高校がわたしの今日までの通い先。少しの間の休みを挟んで四月になったら、わたしは晴れて社会人となる。
よく見かける近所のおばあさんが日課の墓参りにお寺まで歩いていくのを横目で見ながら、わたしは海へ向かって歩いていた。
港に並ぶ漁船はいつも見慣れたもので、おばあさんの日課が墓参りならわたしの日課は港を散歩することだろうか。
空には灰色の厚い雲がたちこめ太陽の光を阻んでいた。海からやってくる冷たい風が頬や鼻に突き刺さるような気がした。
わたしはこの季節が嫌いだ。青空が見えないせいで気分が暗くなる気がするし、太陽の光が射さないだけでなんとなく不安な気持ちになる。
テレビを見ると、もう桜が咲いたニュースをやっているのに、ここでは桜の開花どころか未だに雪がちらつく始末。
今日終わらせてきた卒業式の時にも雪がはらはらと舞い散っていて、より気持ちが重くなった。
桜が満開の中で卒業できれば、そうでなくともせめて天気が良ければ、少しは晴れ晴れとした気持ちで卒業できたのかもしれない。
同級生の中に、同じ大学を受験して合格した子と、不合格になった子が居たらしい。受験をしていれば少なからず起こる事だし、それがどうというわけではない。
あくまで自分のことでないからこう冷静で言えるのだけど、もしそれが自分の事だったなら、あるいは自分の知らないところで既に―――。
はあ、と吐いた白い息は少しも待たずにすぐ消えた。
わたしの毎日は、誰かの犠牲の上で生まれているのかもしれない。
淡雪がほろほろと降っては解け降っては解け、コンクリートの道は暗い色に変わっていった。頬に雪がほたりと落ちて、そのまま解けて流れていく。
少し大げさすぎたかな。
小さな呟きは町のお寺の鐘の音にかき消された。