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「せっかくコンロ買ったんだし、何か作ろうかな」
ベッドでごろごろしていた体を起し、数歩も歩けば辿り着く台所へ移動する。邪魔になるだろうローブをベッドに脱ぎ捨て、アイテムボックスの中身を思い出しながら魔道具に手を当てた。魔力を流すと冷たい水が流れる。
宿暮らしの間はずっと宿の料理を食べていたため自分で料理を作るのは久しぶりだ。
「お肉はラビッツのが沢山あるし、野菜も……うん、ちゃんとある」
アイテムボックスの中身は念じると脳内にスクロールが思い浮かぶ。例えば「ラビッツの肉×99」と表示され、ワンセット最大数は99だ。100にはならない。
カツミヤはゲームでメインストーリーを進めるよりも辿り着いた街でアイテムを集めては細々と楽しむのが好きだった。その為集めたアイテム99セットがスクロールにそれなりの数並んでいる。
老人の経営する雑貨屋で買った生板やゲームの頃に買って使用していた包丁を取り出し軽く水洗い。作業台の汚れが若干気になったので魔法で綺麗にすると、早速アイテムボックスから材料を取り出した。
先ずは鍋に水とEランクのホワイトバッファローの骨を入れ火にかけておく。この骨は採取クエストの依頼中に遭遇したやつを倒し、ギルドで解体してもらったものだ。流石にコンソメ等の便利調味料が無いので骨から出汁をとるしかない。
玉ねぎや人参の皮を包丁で剥き、ピーマンと共に食べやすい大きさに切っておく。ボウルを買い忘れたため買ったばかりの平皿に移し、もう一度アイテムボックスの中に入れ直した。
ギルドで捌かれたラビッツの肉を一羽分取り出し、こちらも同じように食べやすい大きさに切った後、塩と胡椒をまぶしておく。
ついでに使った道具を洗った。
フライパンに火を通し油を引き、切っておいたラビッツの肉を先に炒める。炒め終えると先程切った野菜と入れ換えるように皿に移し、今度は最初の野菜を炒めた。
ある程度炒めた後、骨を煮込んでいた鍋の中身を一度確認する。浮いていた灰汁を丁寧に取り除いたら再び煮込む。
野菜に火が通ったのを確認すると、今度は再びラビッツの肉をフライパンへと戻し入れた。
「アイテムボックスがあるし、三人前も四人前も変わんないよね」
フライパンで炒められている具材の量は明らかにカツミヤ一人分のものではない。どうせ作るのなら何日か分を一気に作ってしまえとばかりにアイテムボックスに眠っていた食材たちを使ったのだ。
久しぶりの料理だったため少々浮かれていたのかもしれない。
全体に火が通ると一旦フライパンと鍋の火を止める。鍋から煮込んでいたホワイトバッファローの骨を取り出すと、塩等の調味料を投入し掻き混ぜた。
この世界の調味料は基本的に塩がメインだ。その他の調味料も存在するのだが、元から素材の味が良いため探求心が低くあまり料理の幅がない。
トマトを細かく刻み鍋の中に投入。少し煮込んだら今度はフライパンで炒めていた材料を入れていく。
最後に再び調味料で味を調節し、ハーブを少量入れ全体にとろみが付くまで煮込めば完成だ。
因みに実際は食材の名前全てが違うのだが、カツミヤは紛らわしいからと元の世界の名前で呼んでいる。
「うん。少し長めに煮込んだからラビッツの肉ももっと柔らかくなってる」
元の世界では兎や蛇などは鶏肉よりも固かった。この世界でもそうなのかと思っていたが、肉は良い意味で予想を裏切り柔らかかったのだ。
やや深めの皿に盛り付けられたのはラビッツ肉のトマト煮込み。久しぶりの料理で惜しむことなく使った野菜がごろごろと皿のなかで転がっている。
カツミヤが大きめのスプーンで肉をつつけばホロリと崩れた。それを野菜と一緒に掬って口の中へと運び込む。
「んーっ、美味しい!」
パッと目を輝かせ、笑顔でスプーンを進めていく。アイテムボックスに入れていたふわふわの白パンを時折間に挟みつつ、時間をかけて少し遅めの昼食を食べ終わる。
「ごちそうさまでした」
はふぅ、と息を吐き外を眺めた。透明度の低い窓ガラスは小さいが、治安が悪いわりに割れてはいない。
作った料理の味は満足のいく出来映えで、食べ終えた食器を流しへ運ぶ。食休みだとスキルを使って作った自作の紅茶を飲みながら、少しぼんやりと時間を過ごした。