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 すっかり日も暮れ夕焼けになった頃。相変わらず心配性の門番が何か問題はなかったかとカツミヤを質問攻めにするのを乗り越え、やや疲れた気持ちでギルドにやって来た。

 中に入れば昼間よりガラの悪そうな冒険者たちが待ち合い場所に集り話し合っている。カツミヤは彼等から慎重に距離を取り、向かったのは朝と同じカウンターの前。


「こんばんは、リールさん」

「こんばんは。依頼中何か問題はありませんでしたか?」


 門番の男性と同じような言葉をリールにも掛けられ、カツミヤはやはり体格のせいで心配されるのだろうと苦笑いする。


「それ、門番さんにも言われましたよ」

「貴方の実力を疑うわけではありませんが、迷惑だったでしょうか?」

「あ、いや、迷惑ではないんですけど……」


 表情は薄いがどことなくしょんぼりとした雰囲気のリールに、カツミヤは慌てて話を変えようとギルドカードを持ち出した。


「これ!依頼の確認をお願いします!」

「……少々お待ちください」


 あからさまに話を変えられたのだが、リールはそれに何を言うでもなく丁寧な手つきでカツミヤからカードを受けとると、そのまま手元の道具へ差し込んだ。カードリーダーのようなそれに差し込むこと数秒。確認を終えたのか、リールはカツミヤにカードを返した。


「ラビッツの討伐を確認しました。報酬の600カロです、お確かめください。それと条件をクリアした為これから貴方のギルドランクはEになります」

「本当ですか?やったぁ!」


 カツミヤは両手を上げ大きく喜ぶ。その姿をギルドに居た職員、冒険者全員が見ていたのだが、本人は喜ぶことに忙しく気づいていない。

 一日1つ、もしくは2つ依頼をこなしていた為一週間程でランクアップとなった。これは平均よりやや早めのランクアップだったが、規格外というほど早いわけでもない。

 身体能力が低く、この世界の常識に疎いカツミヤが早めにランクアップ出来たのは殆どがアイテムボックスや魔法のお陰だ。これらが無ければ異世界に来た時点で詰んでいた。


「あっ、ごめんなさい。騒いじゃいました……」


 数秒後自分の行動に気が付いたのか、カツミヤはフードの中で真っ赤に照れながらリールへと謝罪する。


「いえ、このくらいなら騒いだ内に入りません。お気になさらず」


 冒険者など腕っぷしで稼ごうという者がほとんどである。その分気性の荒い者が多く、暴力沙汰のいざこざなど日常茶飯。報酬の取り分や依頼の内容、果ては食事のことまで争いの種として問題を起こすのだ。

 カツミヤの喜びの声など騒いた内には入らない。


「あ、そうだ。ラビッツの解体をお願いします」


 カツミヤはそう言うと解体カウンターに移動し、10匹の内5匹の解体を頼んだ。解体受付の職員は刈り上げたような短髪が似合う筋骨粒々の男性。

 良い人なのだろうがカツミヤはその体の大きさと厳つい顔に中々馴れない。

 解体の職員はラビッツなら数分で終わるからと、あっという間に別けてしまう。素材となった皮や肉はギルドに売ることなく全てを受け取った。


「次に来たときは新しい依頼を受けてみますね。それじゃあまた」

「お疲れ様です」


 カツミヤはそのまま新たな依頼を受けることなく日の暮れた街へと出ていく。

 今までは週に一度依頼を受けなければいけなかったが、Eランクは月に一度の猶予となる。ひとまずこの世界で生きていくため、カツミヤは今泊まっている宿に向かいつつ今後の予定を考えた。


 (この世界で暮らしていくならやっぱりまずはお金だよね。それはギルドの依頼で稼げるから良いけどまだまだ金額は少ないし)

 (ご飯は自炊が良いなぁ……基本的に物価が安いから小さくても家が欲しいかも)

 (ゲームじゃ農業とかも出来たらしいけど、流石にそこまでは僕じゃ無理だから諦めよう。でも小さな畑、家庭菜園くらいなら僕でもできるんじゃないかな?)

 (うーん、ゲームじゃどんなスキルがあったかなぁ……)


「おやお客さん、お帰んなさい」

「ただいまです、宿主さん」

「夕飯出来てますよ」

「じゃあいただきます」


 ギルドから門の間の通りを曲がる。民家の多い場所にある宿屋。カツミヤがこの街に着いたときからギルドの紹介でお世話になっている場所だ。

 ややお腹に肉の付いた宿主が一人で経営しており部屋数は少ない。代金も初心者冒険者に優しい設定で、ランクが上がればすぐに出ていく者が多いような宿だ。

 食事は夕飯だけ付いて一日500カロ。カツミヤの今日の稼ぎを半分以上取っていくが、素材を売るなどやりくりしていけば貯金も十分に可能なレベル。

 一階が食堂で二階が部屋となる。カツミヤが食堂に足を運ぶと、すぐに宿主が夕飯を運んできた。


「いただきます」


 元の世界と変わらぬ挨拶で食事を始める。今日のメニューは何かの肉であろうステーキと葉もののサラダ、芋と豆の入ったスープに硬い黒パンだ。

 今日の、というより今日も、と言った方が正しい。カツミヤがここで食事を始めて約一週間、夕飯のメニューは一才変わらない。


「……硬い」


 メニューは一才変わらないのだがその代わりというように量がとんでもなく多いのだ。駆け出し冒険者なら量さえあればメニューが変わらない事など気にしないのだろう。一度他の宿泊客である冒険者と食事のタイミングが被り様子を見たが、あっという間に平らげ部屋へと戻っていった。

 体格の違うカツミヤには量が多すぎ、初日は半分ほど残してしまった。それを申し訳なく思いつつも宿主に食事量を減らしてくれと言うと、宿主は驚き心配しながらも食事量を減らしてくれた。

 減らした値段分なのか、時々デザートとして甘い果物が付くようになったのはうれしい。


「ごちそうさまでした」


 硬い黒パンと格闘しつつなんとか食事を終わらせる。食器は後で宿主が片付けるらしいので食器をそのままに、カツミヤは自身の部屋へと移動した。

 部屋の中はベッドが殆どを占め本当に寝るだけといった感じだ。ラビッツの討伐で疲れたのだが、今すぐ眠るには少々汗が気持ち悪い。


清潔(クリーン)


 風呂等と贅沢は言わないが、せめてシャワーが欲しい。個人風呂は貴族が所有するのが一般的で、庶民が入るなら大衆浴場しかない。

 基本的に庶民は体を拭く程度しかしないんだそうだ。

 戦闘に使えるほどの威力や能力の無い魔法の事を生活魔法と呼ぶ。生活魔法と呼ばれる魔法はゲームには無かった。

 カツミヤは生活する上でその魔法が便利だと知ると、何とか生活魔法を使えるように情報を集めた。そしてこの世界の魔法はスキルさえ身に付けば、後はイメージによって大抵何でもできる事を知る。

 清潔(クリーン)でサッパリと綺麗にはなるが、やはり気持ちの問題で風呂には毎日入りたい。

 カツミヤは綺麗になった体に視線を落としつつ、ぼんやりとそんなことを考えていた。






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