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「……あれ?」
目を開くとそこは深い森だった。
確か前回ログアウトしたのは宿屋の一室。いつものようにログインした筈なのに、いま自分が立っているのは宿屋の中ではない。
「おかしいなあ?」
バグか、それとも自分が知らない間にメンテナンスでもあったのだろうか。どこかいつもと違うゲームの様子に華夜の心に不安が込み上げた。
キョロキョロと辺りを見回し首を傾げる。周囲に人の気配は無く、こういうこともあるのだろうと無理矢理自分を納得させるが不安は拭えない。
「そういえば此処、どこなんだろ?」
とりあえずマップで現在位置を確認しようと慣れたように無言で念じ、ステータス画面を出そうとした。しかし目的のものは現れない。
「え、あれ?」
やはりバグなのか。慌てた華夜は一言短く言葉を紡ぎ魔法を使った。
「水」
華夜がそう言うと突然手のひらから冷たい水が溢れ出てくる。その際体から何かが抜けていく感じがした。
(よかった、魔法は使えるんだ)
現在位置が解らないのであれば安全性も解らない。いつ魔物が出てくるかも解らない場所で戦う手段があるという安心感は大きい。
しかし安心したのも束の間、華夜は冷たい水に違和感を感じ、今度は別の魔法を唱えた。
「火、アツッ!!」
まただ、体から何かが抜けていく。
片方の手のひらから出たリンゴと変わらない大きさの火。その火の上に反対の手を翳すと、通常のゲームではあり得ない程の熱と痛みを感じた。
「っ、回復!!」
ヒリヒリと痛む手のひらを抑え、華夜は慌てて回復魔法を唱える。抑えた手のひらからは何かが抜けていく代わりにぽわぽわと光を放ち、火傷した部分からすぐに痛みを取り除いていく。
「…………現実?」
よく冷えた冷たい水、火傷するほどの熱を持った火。頬を撫でる風や鼻を通り抜ける土や草のにおい。その全てが華夜にゲームでは感じられないほどのリアルを感じさせる。
「もしかして夢?そうだよね。夢、夢だ」
どう足掻いたとしても心の奥底では既に理解している。でも認めたくない。
追い付かない事実に華夜はそのまま意識を失った。