明けない冬
視点:霧雨魔理沙
明らかに、冬が長すぎる。
去年のこの日は、既に魔法の森では、春の様相を見せていた。
季節をまるまる一つ、奪うような存在がいる。
この前見つけた、春のかけら。
それはこの世のものではなかった。
魔理沙は、この異変を解決してやろうと、心に決める。
春のかけらを見せれば、さすがにあのぐうたら巫女も動きだすかもしれない。
--貴女のことが、心配なの
先日、紅莉栖から渡されたものを思い出す。
ポケットから取り出したそれは、未だに不気味な黒いような、闇色に光っていると、形容して差し支えないような禍々しさを放っている。
なんだかそれを見ていると胸騒ぎがする。
だけど、聞くと凄いアイテムであるようにも思える。
魔理沙は、軽率にもそれを飲み込む。
それは、決意の表れであるかのように
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博麗神社に押しかけ、勢いよく襖をあける。
「霊夢!これは異変だぜ!」
春に差し掛かるというのに、一向に明ける兆しの見えない冬。
未だ動かない博麗の巫女。
「寒いから動きたくない・・・・・・」
巫女とは思えない発言をし、こたつから動こうとしない霊夢は顔だけ魔理沙に向けて返事をする。
「おいおい・・・・・・、これはおかしいぜ!いくら幻想郷でも、明けない季節なんて今までなかったじゃないか」
・・・・・・・。
霊夢は分かっているのだろう。
気だるそうに、どこか恨めしがるように、魔理沙を眺める。
だけど、霊夢はやはり動かない。
この巫女は、普段から活発ではないが、冬に限れば、二度寝した布団から出ることさえも、さらに珍しくなる。
まるで、どこぞのスキマ妖怪のように、冬眠でもするんじゃないかというくらい、気だるそうにしている。
さすがに、いくら紫でも、もう起きていると思うが・・・・・・。
「そうかよ・・・・・・、勝手に寝てればいい。私は行くぜ、一人でもな」
霧雨魔理沙には意地がある。
霧雨魔理沙は一人、出撃する。
手がかりはない、それでも・・・・・・。
半日、それで魔理沙は幽明結界の前へとたどり着いた。
アリスに弾幕勝負を挑み、異変解決への協力を仰いだ。
そしたらレティ・ホワイトロックと弾幕勝負をし、これを打ち破り、黒幕宣言を受けた。
冥界へと春を盗んでいたのだという。
妖怪の山を越え、さらに上空にある、冥界への入り口。
そこにあると言われる冥界との境界。
常命の者が立ち入って良い場所ではない、そこは、しかし今は春の通り道として開放されていた。
ここが、異変の元凶の居る場所。
アリスは、一応ついてきてくれている。
この人形師が、なぜついてきてくれているのかは分からない。
それでも、一人よりは心強かった。
黒い帽子を深くまでかぶり、自分が怖がっているという素振りを、霧雨魔理沙は内心に隠す。
--こんな時、あいつがいればな・・・
神社で居眠りをしている巫女のことを思う。
何事にも無関心な少女は、それでも博麗の巫女だ。
幻想郷の管理者であり、妖怪退治を生業とする博麗の巫女、いずれは行動を起こすだろう。
あれでも、自分の職業に、少なからず自信を持っているのだから。
--それでも、私はやってやる
苛烈な意思が宿る瞳、霧雨魔理沙は前へ進む。
人間の身で、魔法使いを自称するのだ。
これくらいの不可能を覆してみせる。
まるでそんな声が聞こえてきそうな、だけど弱弱しい背中を、アリス・マーガトロイドは見つめている。
そして、冥界へと足を踏み入れた。