牧瀬紅莉栖の幻想入り:後編
どれだけの時間、経過しただろうか。
唐突に、意識を取り戻す。
私、牧瀬紅莉栖は、世界線の収束に伴い、消失した……そのはずだった。
そこまで考えて、しかし、主観は存在していることを指し示す。
ここは、どこ?
ぼんやりと、周囲を眺めると、そこには見知らぬ風景が広がっている。
森林があり、生い茂る木々は、どれも見たことがなかった。
こころなしか、空気が重いような気がする。
立っているだけで、気分が悪くなってくる。
ここは、どこ?
--私は牧瀬紅莉栖
名前は覚えている。自分が何者であるかも覚えている。
--私はたしか、ラボに向かって、それで・・・・・・
それで、どうしたのだろうか。
岡部倫太郎へ、気持ちを伝えようとした
--それで、私は・・・・
思い出せない。
自分は少なくとも、この場所に立っている。
自らの足で、大地に立っている。
であるからには、そこに移動するまでの「過程」が存在するはず。
--しかし、記憶には存在しない。
ここは、死後の世界なのだろうか。
だとしたら、なんてこの世界は残酷なんだろうか。
私はオカルトなんて信じない。
死後の世界なんて曖昧なもの、信じない。
だけど、見せられたからには、信じるしかないじゃない。
ふと、そんな自問自答を繰り返しながら、牧瀬紅莉栖はただ歩いていた。
その視界に、一軒の建物が見えてきた。
『霧雨魔法店』
漢字でかかれた看板は、
しかしこんな人気の無い場所で、お店が存在していること、
少なくとも生活をしている誰かがいることを示している。
風を切る音がした。
振り返ると、箒にまたがっている少女が、宙に浮いていた。
ふわり、風を舞い上がらせ、そして地面に降りる。
その少女は、白と黒の魔法使い然とした恰好をしている。
「お客さんか?・・・それにしても、酷い顔してるぜ。とにかく入るか?」
そういって、霧雨魔法店の扉の内へ消えていく。
私は後を追いかける。
「私の名前は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだぜ」
魔法使いとは、あの魔法使いだろうか?
死後の世界だと思っていたが、ファンタジーの世界へ迷い込んでしまったらしい。
「私は牧瀬紅莉栖、・・・・・・科学者よ」
科学者?
その言葉に、首を傾げているが、さして気にした様子はなかった。
気さくに、私のことは魔理沙でいい。紅莉栖って呼んでいいか?と、声をかけてくる。
「紅莉栖はどこから来たんだ?」
「よく、分からない。気づいたらここにいた。逆に聞いていい?ここはどこ?」
その返答に、何か納得のいったような魔理沙。
「紅莉栖は外来人だったんだな」
外来人?
「ここは幻想卿。外界で忘れ去られた存在が生きる場所。妖怪や神、人外にとっての楽園であり、様々な幻想に溢れる場所」
もっとも、人間にとっては厳しい自然や妖怪なんている、生きるには厳しい場所でもあるけどね。と魔理沙はいう。
妖怪、魔法使い、神様、巫女、人間、不老不死、なんでもありの世界。
なるほど、私の状況は、細かい理論は分からないが理解できた。
外界で忘れ去られた存在が辿り着く場所。
私は世界の収束によって、なかったことになり、それは忘れられたと言えなくもない。
「それより、紅莉栖はなんでさっき、泣いていたんだ?」
え?
問われて、紅莉栖は戸惑ってしまう。