ファイト・ラブ
「俺を殴ってくれ。力いっぱい」
もう、これしかない。
「は? なんで?」
「いいから。何も言わずに」
好きなんだよ。マジで。
「いやいや! 嫌だよ。嫌だって。理由ないし」
確かに。
「その通りだ。君が俺を殴る理由も、俺が君に殴られる理由も特にない。だがそういうものなんだ」
「何が? マジ意味わかんないんだけど」
「好きなんだよ。マジで」
「は?」
言ってしまった。これが自己破壊か。
「そうだ。俺は君のことが好き。恋愛ってそういうもんだろ? 好きになるのに理由はなかったりする。いきなり殴られるようなものだ」
「だからって本当に殴られる必要なくない?」
「いやある。なぜなら君が俺をフるのはわかりきったことだからだ。儀式が必要なんだ。完膚なきまでに打ちのめされたいんだ。自己を破壊したいんだ」
「……頭おかしいんじゃないの? わかりやすい形にしろってことなの?」
「いいから殴れよ! 俺はフラれたいんだよ!」
「はぁ!?」
自分でもわけわからなくなってきた。
「いいか! 真実の愛なんてどこにもないんだ! ロミオとジュリエットだって自殺してあの世に切り替えるしかないからそうしたんだろ! 男女の愛なんて生きてりゃいずれ冷めるんだよ! どうせ君も性格の悪い暇な中年ババァになって俺を邪魔者ATM扱いするだけなんだろ! いいから殴れ!」
「……いいだろう。その望み叶えてやる……なんかあったまきた!」
ボガッッッ!!
「ぐわっ!」
「あーすっきりした!」
「納得したぜ……これが恋か」
「自己満足野郎だね、あんた」
「君は高嶺の花だ。学内のみならず、学外でもファンがいて、調子に乗って読モやるような女だ。俺とは釣り合うはずがない」
「もう一回殴るわ」
「よし、こい」
「……今日はやめとく。まぁ殴られたくなったらいつでも来な」
「ああ、また来る」
「……じゃあね」
「おう。じゃあな」
その後、二人は付き合うことになる。