両手のケーキ
「どちらにしますか」
AはBに尋ねた。Aの両手には白いケーキが乗った皿がある。
「なにか違うの?」
「右と左が違います」
「一緒なんだね」
Bはいやらしくケーキを眺める。どうにも違いは見つからない。Bはどうにもつまらない。
ふと思いつく。
「右がいい」
Bはにやにやしている。Aはそれには気づかないで右手のケーキを差し出した。
「君はいやなやつだ」
殴りたくなるような微笑を浮かべてBはケーキを突いた。Aはなにかしでかしたろうかと考えた。
「右と言われて右を差し出すやつは、自分のことしか考えないやつだ」
したり顔。
「いいかい、僕は右と言ったけれど、僕にとっての右というのは、君にとっての左なんだ。だから僕が右が欲しいと言ったら、君は左を差し出すべきなんだ。それが人の気持ちというものだ。迷いなく右を差し出すのはなかなかいやなやつだぜ」
Bはくすくす笑った。するとAも笑った。
「私はてっきり、B様が私の気持ちを汲んでくれたものとばかり」
Bはきょとんとした。
勝敗は明らかである。