高速空間の先駆者達
どーも、懲りずに新作を書こうと無謀やってます。地道に書き切ることがどれほど難しいか身に染みた愚か者ですが、ちょっとずつでも書いていければなー、と。
鼓動を聞く。最早、耳鳴りと変わらぬ程大きなそれを聞きがなら、同時に通信が届いた。
『ジーン3、緊張するな。航行速度が落ちているぞ』
『こちらジーン2。何だい、接敵前にもうへばったのかい? 案外だらしがないね、新卒の坊やは』
勝ってなこと言いやがって、こちとら初陣だぞ。そんな愚痴を吐こうとしたものの、息が切れて呼吸が苦しい。緊張によるものだ。委縮した身体が、酸素を求めて肺と心臓を動かしている。
ああ、緊張できるだけ大丈夫か。自分が生きていることを確認出来る。
そう考えると、若干の落ち着きを取り戻し、こちらから返信を行う。
「スイマセンね、だらしがない補充要員で。手が震えてるんで誤射したら避けてください。――当てますけど」
『ははっ! それだけ言えりゃ十分さね! 精々無駄弾バラ撒いて事務にどやされな!』
『ジーン2、貴様もよく機体を破損させて整備長に睨まれているだろうが。次は壊される前に壊すとか言っていたぞ』
「……御愁傷様です。自業自得ですねざまあみろ」
『アンタ本音と建前の落差が酷いね!? 大体破損させるのは仕方ないさね、――私はモテるからね!』
『…………』
「…………」
『おい何か文句あんのか』
滅相もないです。あるけど。
とは言え、先任達の気遣いの御蔭でこちらの緊張も多少は解れた。むしろ、いつも通り過ぎてだいじょーぶ何だろうか、これ。
突入陣形の隊列を維持しつつ、これまでの訓練を思い出す。
――正直、訓練の状況設定鬼だったよなあ……。基本、増援無し、敵数無制限、補給無しのヘルモードだし。しかも、時々悪乗りで倒した瞬間敵前に再出撃とかやらかすし。殺意が沸かざる得ない内容ばかりだったが、だからこそ、必要なものだったんだろう。
悪乗りしてるときの先任達が一番活き活きしていたが、それもこれもこの足手纏いを生き残れる程度にするため、……の筈だ。
自信を無くしかけたが、実際実力は付いて来てる。実際を目の前にしてどれほど出来るかは不明だが、よーは今までの積み重ねた全てが、自分の動きの前提だ。だからいつも通りにやれ。頑張ると碌なこと無いぞー、と自己暗示。
すると、無駄に姉御肌な先任から、
『――新人!』
「っ!?」
切羽詰まった声だ。身体に染みついた条件反射で、機体を思いっ切り横転回避させた。
直後だ。
極太の光線が、先程までの飛行していた航路を飲み込んだ。
「――あっ……!」
大気の震えが、ざ、という電子音として脳に響く。電磁波による乱れを、航行中閉じている筈の集音機器が拾ったのだ。
だが、その衝撃の中でも思考は止めていない。
次が来たからだ。
横転回避は強引な機動だ。体勢を整え直すのにはそれなりの繊細さがいる。少しでも姿勢制御をミスれば、そのまま無茶苦茶な軌道を描き、失速して墜落だ。
だから、右の飛翔器を、わざと一瞬だけ強く吹かした。
空気の壁にぶつかり、機体はあらぬ方向に跳ねた。同時に、先程と同じく光線が通過する。
「うげえ……」
危機は回避できたが、当然の如く機体は制御を失い滅茶苦茶に振り回された。
ぐるぐると回る世界に、一瞬だけ先任の機体を捉える。混乱する世界での基点だった。
「うぬぉ……!」
半ば強引に、それに向かって飛翔器出力を全開にした。Gの圧力に身体が蹂躙される。大丈夫、出力は安全テスト基準値をちょっとだけオーバーしてるだけです……! 死にそう。でも死んでない。
何とか姿勢を安定させると、
『――うおらあ! 思いっ切り突っ込んできて粒子砲よりビビったさね!? 殺す気か!? いっそ死ぬか!?』
「いやあ、ちょっと臨死体験しましたけど、先任が元気なようで自分も元気です。いいことですね」
『良くないわ!』
無駄に元気の良い雌狼がうるさいが、どうやら敵は充填中らしい。姿を確認することは出来ていないが、先程の砲撃で位置を大体で割り出す。
そこら辺、先任達も結論したようだ。
『ジーン1だ。如何やら無事らしいな、これから先も無事でいられるといいが。出来れば私の負担が減るようにしてくれ、――解るか? 私は楽がしたい』
「こちらジーン3。結論から言うと最悪ですね。何でさっきの砲撃で死ななかったんです? 再砲撃まで20秒ほどの猶予があるので辞世の句でも読めクソ野郎」
『中心は、いつも私だ、嬉しいな。こんなところかね? ん?』
こいつは……、と思っていると、隊長殿が再び口を開いた。
『新任の小猿が言ったようにあまり猶予は無い。三包囲強襲で仕留める。圧縮弾を装填しろ』
「応!」
隊長殿の命令に、二つの了解を寄越した。通信越しから笑みを浮かべているような、そんな息遣いを感じる。
何か男の息遣いを感じるって気持ち悪いな……。そんなことを考えていると、隊長が声を上げた。
それは、俺が生と死を混ざり合う場所に立つ号令だ。
『強襲せよ、――先往きの防衛者!!』
三つに分かれた飛行機雲が、予測座標へと航路を定めた。
プロットは取り敢えず出来てるものの、肉付け作業が難航中。