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あの後、私が泣きやむまで先生は側にいてくれた。
先生と両思いになれたのが嬉しかったのと、ここ数日不安でいっぱいだったのから解放されて。
私はしばらく涙が止まらなかった。
用があるという先生と別れ。
家に帰ってきたところを狙いすましたかのように、美嶺と結が家に押し掛けてきた。
散々泣いた顔は二人が見ればすぐわかるみたいで。
「だめだったの?」
結が率直に聞いてきた。
私は首を横に振った。
「ううん……つきあうことになった」
「……そう。おめでとう」
結はまだ何か言いたそうだったが、特に何も言わなかった。
代わりに美嶺が口を開く。
「よかったね。通じあえて」
「うん」
本当によかった。
嫌われていたらと思うと今でも身体が震えそうになる。
それだけのことを、話したんだ……
美嶺が優しく言う。
「先生と生徒っていうのもあるからなかなか一緒にはいれないし不安だろうけど、協力するから」
横でうなずく結。
「ありがとう」
私の言葉に二人は満足そうに頷いた。
***
8月前半のある日曜日。
私は朝から落ち着かなかった。
今日は付き合い始めてから初めて合う日。
もちろん毎日メールとか電話はしていたけど、直接会うとなるとやっぱり緊張して。
もうすぐ約束の14:00。
今日は私の家に先生が来てくれることになっている。
そわそわと、落ち着かなく家の中を歩く。
綺麗に掃除したし、大丈夫大丈夫。
自分に言い聞かせる。
「愛奈ぁーっ! いるでしょー?」
突然ドアが開いた。
おもわず、びくっとなる。
「美嶺、結!」
「いたいた、おじゃましまーす」
「……ほんとに邪魔だと思うけど」
「な、なに?」
二人には事前に先生が来ると言ってあったはず。
直前にやってくるなんて何かあったのかと身構える。
「ちょっと先生に話があって♪」
「話?」
「大した話じゃないわ」
そう言われても気になる。
やっぱり、つきあうのに反対とか?
あたふたする私を無視して、二人はローテーブルの周りにいつもの様に座り込んで。
「愛奈、お茶!」
「喉乾いたわ」
飲み物を要求した。
こうなったら二人に何を言っても出て行かないだろうことは容易に想像ついて。
仕方なくお茶を入れにキッチンに向かう。
すると、チャイムが鳴った。
来た!
玄関に向かう。
でも美嶺のほうが行動が早くて。
「センセ、いらっしゃい♪」
「あれ? 大迫さん? 俺、家間違えた?」
「あってますよー♪ まぁ上がってくださいな」
美嶺が先生を案内しようとする。
私は再度キッチンに向かうと、冷たいお茶を4人分入れ用意してあったお菓子を手に、リビングに向かった。
「こんにちは、先生」
「こんにちは。安藤さん」
にっこり笑って挨拶すると、先生も笑ってくれた。
お茶を出し、空いていた先生の横に座る。
美嶺が口を開いた。
「今日はデートのところ邪魔をしてすみません」
いつもと違う真面目な口調。
結もいつもよりもさらに真面目な顔をしていて、真剣な話なのかな? と思った。
「私達から先生にお話があります」
「? 何?」
ニコニコ笑いながら話を聞く先生。
大切そうな話に私の背筋が伸びる。
美嶺はすうっ……と大きく息を吸い込むと先生を指さして大きな声で言った。
「愛奈のこと大切にしないと先生だからって許さないんだからな!」
とっても男らしい態度に思わずぽかんとなる私と先生をよそに美嶺は続ける。
「愛奈は俺と結が大切に大切にしてきたんだ! 悲しませるようなことすんなよっ!」
したら許さないからなっ!と言い切る美嶺。
感情的になったのか、俺の愛奈が……と嘆き始めた。
横で聞いていた結がため息を付いて続ける。
「要は大切にしてやってくれということよ。禁断の恋だかなんだかに巻き込むんだからそれくらいわかってるわよね」
まっすぐ先生を見る結。
先生も真面目な顔になる。
「もちろん大事にするよ。俺らの立場もわかってる。それでも俺は愛奈のことが好きだし、一緒にいたいと思ってる」
--愛奈。
まだ聞きなれないその呼び方にドキリとする。
先生が私の方を見て笑う。
「愛奈が人間じゃないことも聞いた。きっと大変なことも多いと思う。でも乗り切っていければと思ってる」
そして美嶺と結の方をみて。
「二人には愛奈の支えになってほしい。……言わなくてもわかってるだろうけど」
「当たり前! 俺達は愛奈の幼なじみなんだからなっ!」
美嶺が言い切る。
そして笑った。
「美嶺ちゃんと結チェック終わり! 合格でーす!」
「認めてあげるわ」
チェックだったんだ……
合格できたことにほっとする。
「ありがとう」
先生が笑顔でお礼をいう。
私も美嶺と結が大切にしてくれているのを改めて実感して嬉しくなった。
ありがとう。
心の中でお礼を言う。
「あ、愛奈の昔の話とか聞きます?」
「俺が聞いていいの? 是非お願いしようかな」
「えっと、まずは天界の学校時代の話とかどうです?」
「美嶺、恥ずかしいからやめてっ」
急に振られた話にあわてて美嶺を止める。
でも話の流れは変えられなくて。
今日は4人で話をする日になりそうだな。
二人きりではないのを少し残念に思いながらも、嬉しかった。