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天恋  作者: 滝瀬優希
第1章
7/9

それからのことはあまり覚えてない。

最後まで花火を見て家に帰った気がする。

けど花火を見ている間も……

帰りの電車の中でも……


『好きだよ』

『俺と付き合って欲しい』


この言葉が頭から離れることはなかった。

私も先生のことが好きだと思う。

一緒にいるとドキドキするし、幸せだし。

告白されたときのことを思い出すと、胸が暖かくなる。

……でも私は天使で学生で、先生は人間で教師。

まさか告白されるなんて思ってもいなかったし、見ているだけで十分なはずだった。

でも今はもっと一緒にいたいと思う自分もいて。

……どうすればいいのかわからない。

私は二人に相談することにした。


***


「反対」

「賛成」


いつものように正反対な答え。

でもいつもと違って結の言葉には続きがあって。


「……でもあなたが傷つくの承知で付き合いたいというのなら味方になってあげるわ」

「え」

「どうせ私が止めても、自分が決めたようにしかしないんだから。だから付き合うって言うなら協力はするわ」


だから自分で決めなさい、そう言って結は知らん顔で紅茶をすする。

美嶺が苦笑して言った。


「美嶺も結も愛奈に幸せになってほしい、それだけだよ」

「美嶺……」

「大切な幼なじみだもん。どっち選んでも私達は愛奈の味方。覚えておいてね」


二人共、ありがとう。

感動して、少し泣きそうになった。


***


「安藤さん、いらっしゃい。迷わなかった?」


二人に相談した次の日のお昼。

私は隣町にある先生の家にやってきた。

オートロックのついている、新しめなマンション。

先生はここに一人暮らししているという。


「突然すみません。あの、これお土産です」


私は買ってきたチーズケーキを手渡した。


「別に良かったのに。まぁ上がって?」


言われるままに、部屋に上がりつつ、私は深呼吸をした。


昨日、二人に相談した後、私は勇気を振り絞って先生に電話した。

ちゃんと会って、自分の思いを伝えようと思ったから。

話がしたいとだけ告げると、先生はわかった、と時間を作ってくれた。

先生は思いを伝えてくれた。

自分もちゃんと伝えなくちゃ。



「そこ、座って。今飲み物入れるよ」


リビングに通されて。ローテーブルの横の二人がけソファーを勧められる。

白と黒で統一された部屋は整えられていて、先生の匂いがした。

言われるがまま腰掛けると、先生が飲み物を出してくれて反対側のソファーに座る。


「こないだはごめんね? 抱きついちゃって」

「いえ……」

「話ってこないだの返事だよね?」

「はい……」


緊張して声が震える。

深く、深呼吸をした。

先生が優しい表情でこっちを見ている。

私が話すのを待ってくれているのだろう。


静かな時が流れる。

私は思い切って口を開いた。

自分の気持ち、伝えなきゃ。


「私、先生に好きだと言ってもらえて、本当に嬉しかったです」

「……そう? ならよかった」

「私も先生が好きだし、一緒にいたいです」


その言葉に先生が嬉しそうな顔をする。

でもごめんね先生。まだ続きがあるんだ。


「……でもずっとは一緒にいられないから」

「え?」


ホントのことを言うのはとても怖い。

嫌われたらどうしようと思う。

でも……ちゃんと話すって決めたから。

先生の前で宙に浮いてみせる。

先生が驚いた表情を見せた。


「私、天使なんです」


自分の気持ちを伝えるならちゃんとすべてを話そう。

これが考えに考えた私の結論。

あなたがそれでも好きと言ってくれるなら。

別れる時まで一緒にいたい。


「人間じゃないし、生徒だけど。それでも好きだと言ってくれるなら、私は先生と一緒にいたいです」

「俺は……」

「ごめんなさい。人間じゃないなんて気色悪いですよね。遠慮なくフッてください」


さよなら、私の恋……

自嘲気味に笑う。

すると、向かい側に座っていた先生が立ち上がって私の横の開いている部分に座って、私を抱きしめた。


「そんな顔で笑うなよ……」

「先生?」


いつもと違う声。

ぎゅっと、大切そうに抱きしめてくれる腕。


「俺は、どんな安藤さんでも好きだよ。だから、俺と付き合ってほしい」

「先生……」


その言葉が、すごく嬉しかった。

おもわず、ぽろぽろと涙が出てくる。


「愛奈」


更に強くなる腕。

おもわず抱きしめ返してしまう。


「愛してる」


こうして私達は、恋人同士になった。



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