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天恋  作者: 滝瀬優希
第1章
6/9

あれから、私へのイジメはピタリとなくなった。

代わりに流れるようになった、ひとつの噂。

「翔先生は怒らせると怖い」

……先生がなにをいじめっこたちにしたのかはわからないけど、守ってくれたのがすごく、嬉しかった。


***


今日のお昼に一学期の終業式も無事終わり。

いつもの様に、私の家で3人でおやつを食べながら話をするのんびりとした時間。


「成績見てよ、ほらーっ」

「あら、見事に4だらけね。……10段階だったと思うのだけれど」

「そうなの! やばいよねーっ」


あはははは、と危機感がない美嶺が笑う。

それにため息をつく結。


「いくら進学しないとはいえ勉強したほうがいいんじゃない?」

「えーっ! ……そういう結はどうなのよ」

「全部10よ」

「うわ、バケモノ」


そんななにげない話に華を咲かせていると、私の携帯がなった。

長い着信に電話だと気づき、画面を見る。

『岡本先生』

そこにはそう表示されていて。

のぞき込んだ美嶺が叫んだ。


「え、岡本先生? ちょっと愛奈! いつの間に交換したの!?」


交換だけした連絡先。

こうやってかかってくるのも初めてで。

結があきれ声で言う。


「……出るなら出たら?」

「え、でも……」

「しかたないなーっ。貸して!」


それでも動かない私に焦れたのか、美嶺に携帯を奪われた。


「ハイ、愛奈の携帯ですが、代わりに世界一キレイな美嶺ちゃんがでました☆」


美嶺の発言にはぁっ……と呆れた溜息を結がついた。


「愛奈ですかー? いますよ、ちょっと待っててくださいねー」


先生となにやら話していた美嶺が、私に携帯を差し出してきた。


「ご指名よ☆」

「えっ」

「ほら、出て出て」


無理やり渡された電話。

緊張する。

でも出ないわけにも行かないので、深呼吸してから耳に当てた。


「……安藤です」

『あ、こんばんは。岡本です。突然ゴメンね』

「いえ、大丈夫です。こちらこそ、美嶺がすみません」


外野からせっかく出てあげたのにーという声が聞こえたけど、無視。


『大迫さんってホントに面白いよね』

「そう言ってもらえると助かります」

『突然なんだけど、今週の土曜って暇?』


土曜……特に何もなかったはず。


「? 暇です」

『なら良かった。学校から電車で1時間ほど行った所で大きいお祭りがあるんだけど、よかったら一緒に行かない? 井上さんも大迫さんも』

「……ちょっと待ってください」


電話を耳から話した私に二人がどうしたのと問いかけてくる。

私は今の話を伝えた。


「行く行く! やったーっ」

「……心配だから付いて行ってあげるわ」


二人共ついてきてくれるようだ。

一人じゃなくてホッとする。

はじめの頃より挙動不審にはならなくなったけど、二人きりなんてパニックになる気がするから。


「大丈夫だそうです」

『ホント? よかった。じゃぁ土曜日にXX駅の南口で待ち合わせで。18時でいい?』

「はい」

『じゃぁ楽しみにしてるね』


***


土曜日の待ち合わせ時間の10分前。

私たちは約束の駅の南口の端っこで人混みを眺めていた。


「うわーっ! 楽しそう!」

「……これ、全部お祭りに行くの? 帰りたいわ」


美嶺が喜び、結が嘆く。

そんな中私はいつもの様に緊張していた。

その原因は……この服装。

数時間前、私服で行く予定だった私のところに美嶺が押しかけてきて、浴衣を着せられたのだ。

美嶺はピンクの生地に白や黄色の小花が咲いた浴衣。

髪をかんざしで結ってあって、綺麗。

……男だけど。

一方の結は、頭に大きな蒼の花をつけ、白を基調にした大きなあじさいが咲いた浴衣をこれまた綺麗に着こなしている。

そんな私は髪を美嶺と同じようにかんざしで結い上げて、紺色の浴衣。

ピンクや白の大きめの花(なんの花かはわからないけど)が咲いているんだけど……

……一番、私が似合ってないと思う。


「あ、あれ先生じゃないかしら」

「おーいっ、せんせーっ」


見つけたらしい美嶺がブンブンと手を振る。

人混みをかき分けてこちらに歩いてきた先生も、蒼い浴衣姿だった。

かっこいい!

ドキドキしてしまう。


「先生、こんばんわーっ。浴衣お似合いですねっ」

「……こんばんは」

「こんばんは」


それぞれ挨拶すると、先生は笑顔で言った。


「こんばんは。みんなも浴衣なんだ。可愛いね」

「みんな私が着つけたんですよーっ」

「大迫さんは、器用だね。今どき着付けができるなんて凄いね」

「ありがとうございますっ」


褒められて美嶺は嬉しそうだ。


「とりあえず……いこっか」


先生の言葉にこくり、と頷いた。


***


今年天界からきた私達にとって、お祭りなんて勿論初めてで。


「すごい! いっぱいお店があるよっ!」

「屋台っていうらしいわよ」


見たこと無い景色に思わず心がときめいた。


「屋台知らないの? そんな田舎から出てきたんだっけ?」


先生が不思議な顔。

焦る私と美嶺をよそに結がしれっと言った。


「小さい神社のお祭りくらいしかいったことなかったので。こんなに大きいのは始めてです」

「へぇ、そうなんだ。じゃあ楽しんでいってね」

「ありがとうございます」


微妙な空気が流れる。

そんな空気を変えるかのように美嶺が叫んで走り出した。


「みてみて! 焼きそば売ってる! 食べたいー」

「大迫さん、急ぐとはぐれるよ」


慌てて追いかける私たち。


「だって美味しそうじゃないですか! あ、あっちはなんだろー?」


上手に人込みを避けて美嶺がぱたぱたと走っていく。

次に止まったのは、くじ引き屋さんの前。


「美嶺、人の話はちゃんと聞きなさい」

「ごめんね、結! でも楽しそうだったんだもん!ほらこれ!」


特等には人気の家庭用ゲーム機。


「美嶺、これ欲しかったんだよね! やるしかない!」


美嶺が腕まくりをした。


「みんなで勝負しよ♪ 良い賞とった人が勝ちね」

「楽しそうだね、やろっか」

「やったっ♪ じゃぁ先生どうぞー!」

「まかせてよ」


そういうと先生はお金を払い、くじの箱に手を入れる。

開いた紙には……


「はい、8等!うんまい棒3本セットね!」

「……」


屋台のおじさんが嬉しそうに先生にうんまい棒が入った袋を渡した。


「つ、次は私! 美嶺ちゃんいきます!」


美嶺が手を突っ込む。

しばらく箱の中をかきまぜたあと1枚引いた。


「はい、9等!うんまい棒1本ね!」

「………」

「ど、どんまい、大迫さん」


美嶺が盛大に落ち込んでみせる。


「っ、次! 結! 最後は愛菜ね!」

「……私もするの?」

「あたりまえじゃない!」

「はぁ……仕方ないわね」


結はお金を払うとさっさと紙をひいた。


「…………」

「え、どうだったの?」


特に結果について何も言わない結に美嶺がせかす。


「特等よ」

「なにぃぃぃいいい!?」


誰よりも先に屋台のおじさんが驚いた。

結が紙を見せる。


「ほんとだ♪ ありがと、結!」

「誰も美嶺にあげるなんて言ってないわよ」

「えっ、くれないの!?」


大喜びの美嶺が結に絡む。

その横には頭を抱えるおじさん。

お金を払い終わって後は引くだけだった私はどうするべきか悩む。


「ひいてみたら?」


先生が気付いて声をかけてくれた。

お金払ってるしいいよね。

一応、放心状態のおじさんに声をかけ、くじを引く。


「8等……」

「俺とお揃いだね、うんまい棒3本セットだ」


もらっていきますよーと先生がおじさんに声をかけとってくれる。


「ありがとうございます」


ーーお揃いだね。

その言葉になぜか恥ずかしくなった。


「よし、ゲーム機ゲットしたし、次いこ、次!」

「美嶺、だからあげるなんて言ってないわよ」


無事に手に入れ、テンションがあがっている美嶺と言い争っている結。

結もそのゲーム機欲しかったんだろうな……

珍しい光景に思わず笑ってしまう。


「あたしのだもんねー♪」


ゲーム機を持っている美嶺が、結から逃げるように走り出した。


「ちょ、待ちなさい!」


結が慌てて追いかける。

美嶺が人混みをかけていきながらこっちを振り向きウインクした。

その顔はうまくやれよと言っているようで。


「もう見えなくなっちゃった。二人とも元気だね」

「そ、そうですね」

「でもこの人混みじゃ……困ったね」


先生が苦笑する。

もう二人がどこに行ったかなんてわからない。


「しかたないから、二人でお祭り楽しもっか」


先生が提案してくれる。

美嶺と結には悪いがちょっとだけ嬉しかった。

きっと美嶺が気を使ってくれたんだよね……

ありがと。


「とりあえず定番のかき氷でも食べようか」


はぐれないでね、と先生は先に立って歩き出す。

その後をついていきながら、なんとなく幸せだなと思った。


かき氷屋さんはすぐ近くにあった。

氷を機械が削る音がなんとなく涼しい。


「おじさん、2つね」


先生が注文してお金を出す。

二人分をかき氷屋のおじさんが受け取ったのを見て、私はあわてて先生にかき氷代を差し出した。


「先生、お金……」

「ん? いいよ。これくらい」

「でも……」


何となく悪い気がする。

必死に先生に渡そうとするが、先生は全く受け取ってくれなくて。


「俺が出すよ。おごらせて?」


笑顔でそういわれると引き下がるしかなかった。


「何味がいい?」


先生がおじさんから氷を受け取る。

どうやら自分で好きなシロップをかけて食べるものらしい。

いちご、レモン、メロン、ブルーハワイ、ブドウ……結構いろいろな味がそろっている。


「俺はブルーハワイにしようかな。安藤さんは?」

「いちごにします」


初めてなので定番そうな味を選んでみる。

先生はシロップをかけて私に手渡してくれた。

そっと口に運んでみる。

冷たくて甘くておいしい。

でも数口食べると頭がキーンとした。


「大丈夫? 急いで食べない方がいいよ」

「はい……」


先生には悪いと思ったけど、時間をかけてゆっくり食べる。

残暑で暑かったのが、だいぶ涼しくなった。

全部食べ終わると、先生が笑った。


「安藤さん、紅くなってる」


紅?

意味が分からず首を傾げる。


「舌だよ。知らない?」


そういうと先生は口を開けて自分の舌を見せた。

……青い。


「えっ? え?」


戸惑う私に先生が説明してくれた。


「宇宙人みたいでしょ。シロップの色がついちゃってるんだ」


なるほど……メロンとかだと緑になっていたんだ……

まだ紅でよかったなと思う。


「かき氷っておもしろいですね」


そういった私に先生は嬉しそうだった。



***



その後は、美嶺が食べたいと言っていた焼きそばを食べてみたり、たこ焼きを食べてみたり。

他にも射的で先生が可愛い30cm程の熊のぬいぐるみをとってくれたりして楽しんだ。

一緒に笑ってだいぶ緊張がとれてきたのを感じる。

それと同時に、先生が一歩前を歩くことで人混みの中を歩きやすくしてくれていることに気がついて。

本当に優しい人だと思った。


お祭りも終盤の時間帯という頃に先生が言った。


「ね、ちょっと行くと河原があるんだけど、そこから花火がよく見えるんだ。どう?」

「花火……ですか?」

「打ち上げ花火。見たことない?」


こくり、と頷く。

名前は聞いたことはあるけどみたことはない。


「じゃぁおすすめの場所で見よう。行こっか」


そういうと先生は手を差し出してきた。


「ちょっと歩きにくい砂利道歩くから。手繋ごう?」


その言葉に私はそっと手を乗せた。

暗くてあまり見えないとはいえ、恥ずかしい……

お祭りのメイン通りから少し離れて、歩きにくい砂利道を歩く。

途中何度か石につまづきかけたけど、先生が手を繋いでくれているから転びはしなくて。

頼りになるなと思った。

空が綺麗に見える河原にたどり着く。

人もまばらなそこは静かな場所で、月と星が綺麗に輝いていた。


「うわぁ……綺麗」


思わず呟いた私に先生はそうだね、と同調してくれた。


「穴場スポットなんだ。夜空がよく見える」

「空気もきれいな気がします! 今度二人と星見に来よう!」


こんな空の下を飛べたら気持ちいいだろうなと思う。


「大迫さんと井上さんはいつもあんな感じの?」


二人が話題に出たからだろう。先生が質問してきた。

あんなにはしゃいでる井上さん初めて見たよ、と先生。

私は苦笑しながら答えた。


「そうですね、正反対な二人なので」

「でもお互い大切に思ってるよね。仲良しな3人で見てて微笑ましいよ」

「クラスからは浮いちゃってますけどね」


そう言って自嘲する私に先生が言った。


「ごめんね、俺のせいもあるよね」

「いえ、私たちが他の人と話さないのが問題ですから」


転校当初は話しかけてくれる子も結構いた。

でもうまく仲良くなれなかったのはやっぱり自分たちのせいだから。


「2学期は仲の良い子ができるように、がんばります」


ガッツポーズでそういうと先生は複雑そうな顔を見せた。


「? どうかしました?」

「なんでもないよ。それより空見て。そろそろだよ」


あっち、と指さされた真後ろを向く。

星空の中を一筋の光があがっていって。

一番上で綺麗な大輪の花を咲かせた。

そしてぱぁんという大きな音。


「綺麗……! すごい!」


思わず笑顔になる。

心の底から綺麗だと思った。

次から次へと打ち上げられ、きらきら光りながら消えていく火花を眺めていると、後ろから不意に抱きしめられた。


「!? 先生?」

「……」


な、なに!?

ぎゅっと抱きしめられて、動けない。

想像もしていなかった展開に頭の中が真っ白になる。


「俺じゃダメかな?」


普段の先生とは違う、不安げな声。


「俺、安藤さんの一番仲の良い人になりたい」

「ーーっ!?」


耳元で囁かれるように言われた言葉に驚いて振り返る。

先生の顔がすぐ近くにあった。

鼓動が早くなる。

……ドキドキする。


「好きだよ」

「え……」

「安藤さんが好きだ。俺と付き合って欲しい」


はっきり言われた言葉に、聞き間違いじゃないことを認識した。



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