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天恋  作者: 滝瀬優希
第1章
5/9

体育祭も終わり、半月たった7月上旬。

あと少しで夏休みだが、私の悩みは深くなっていた。

体育祭以来、イジメられるようになったのである。


***


朝、家を出ると結と美嶺がすでに待っていた。


「愛奈、大丈夫?」


美嶺が心配そうな顔で覗きこんでくる。


「大丈夫、大丈夫。おはよ、二人共」


安心させようと明るく挨拶をする。

けど二人は悲しそうな顔をした。


「愛奈、私たちの前で強がらなくていいよ」

「そうよ。美嶺はともかく私には頼りなさい」

「え、ナニソレ。どーゆーこと?」


結に美嶺がかみつく。

心配してくれてるんだよね……

二人のやり取りに私は自然と笑った。


「ホントに大丈夫だから。ありがと」

「でも、昨日もイジメられたんでしょ? 美嶺知ってるよ」


昨日は確か上履きの画鋲。

その前の日は筆箱を隠された。

中傷内容の陰口と手紙はしょっちゅうだ。


「二人がいてくれるから大丈夫」


心の底から二人に微笑む。

それを見た美嶺が抱きついた。


「愛奈可愛すぎ!男だったら食べちゃいたい!」

「それにしても」


男でしょ、と突っ込む間もなく結が真剣な顔で言った。


「天界は地上界を守るために働いているっていうのに、こんな世界じゃ守りたくなくなるわね」

「ほんと、ほんと」


美嶺も同意する。

私は苦笑いして言った。


「天界が守らなかったら魔界の人たちが酷いことしてもっと殺伐とした世界になってるわ」

「そうかもしれないけどーっ」


美嶺がぶーぶー言う。

私の言葉に結が付け足す。


「私達天界人の力が及ばないのは確かだけど。現状を把握するために私達が派遣されたのでしょうし」

「でも愛奈がイジメられるのは納得いかない!」

「美嶺も結もありがと。私も良い世界にするために頑張るから」


地上界が明るい世界になるように。

私は心から祈った。


***


……でも祈るだけで何かが変わるわけでもなく。


「ナニコレ! ムカつく!」

「やりすぎじゃないかしら」


教室に入って私の机を見た美嶺と結が激怒した。

机にユリの花……ね。

さすがに悲しくはなるが、花に罪はないし。


「綺麗ね」


そういった私に美嶺が恐る恐る聞いてくる。


「愛奈……意味わかってるよね?」

「もちろん知ってるよ。家に飾ろっと」


美嶺と結が心配気な目を向ける。

私は二人を少しでも安心させたくて笑いかけた。


「大丈夫だよ」


***


「安藤さん、これ」


朝のHRが終わり。

一限の準備をしていたら岡本先生が近づいてきた。

手渡されたのは四つ折りにされた一枚の紙。

それを見ていた一部の人間がざわめく。

……ものすごい殺気を感じた。


「よろしくね」


岡本先生は、私の言葉を待たずに去っていく。

そっと紙を開いてみた。

『放課後、帰りのHRが終わったら指導室で待ってる』

綺麗な字で書かれたメモ。

……呼び出し?

心当たりがなく首を傾げる。


「愛奈、どうしたの?」

「美嶺にも教えてー」


殺気を感じとったのか二人が慌てて私の周りに寄ってくる。

私は紙を二人に手渡した。


***


『何かあったらすぐに言うのよ』

『二人きりじゃん! イチャイチャしておいでー♪』


心配気な結と楽しそうな美嶺に送り出され。

帰りのHRが終わって私は指導室の前にいた。

普段あまり来ない場所にある指導室。

緊張しながらドアをノックする。


「どうぞ」


岡本先生の声がした。

部屋を間違っていなかったことに安堵しつつドアを開ける。


「……失礼します」


ローテーブルとソファーが二つ向かい合わせで並べられている、少し綺麗な空間が愛奈を待っていた。

岡本先生が座っていたソファーから立ち上がる。


「こっちどうぞ?」


座っていた向かい側の席を勧めてくる。

そして私が座るのを確認すると、岡本先生は部屋に鍵をかけた。


「聞かれたくないから、悪いけど鍵閉めるね」

「? はい」


聞かれたくない話?

首を傾げる。


「ごめんね、急に呼び出して」

「いえ、特に用もなかったので大丈夫です」

「そう? ならよかった」


岡本先生はそういっていつもの様に微笑む。

二人きりなのも相成っていつもよりさらにドキドキする。

すぐに先生は真剣な表情になって言った。


「単刀直入に聞くけど」

「はい」

「俺のせいでイジメられてるよね?」


なんで知っているんだろ?

今日も先生が来る前には花は片付けたし、岡本先生が近くにいるときにはイジメはなかった。

私は笑顔で言った。


「いいえ、ないです」

「嘘」

「なんで嘘って言えるんですか?」

「いじめっこたちの会話を聞いちゃったから」


先生に聞かれる所で話をするなんて間抜けないじめっこたちだな、と思った。

でも聞かれた以上否定できなくて。

こくり、と頷くしかなかった。


「ゴメンね、俺のせいで」

「……先生は悪くないです」

「でも俺が体育祭で安藤さんを選ばなければこうはならなかった」


切なげな顔を見せた岡本先生に悲しくなった。

こんな顔を見たくなかったから、気づかれたくなかったのに。


「先生に仲良くしてって言われて嬉しかったです」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、軽率だった」


ホントにごめんね、と先生が謝ってくる。

私は首を横に振った。


「それで……俺からいじめてる子達に指導したいと思うんだけど」

「指導ですか?」

「そう。安藤さんはそれでいい? 自分で何とかしたいって子も中にはいるから確認しておこうと思って」


私は頷いた。

自分でなんとかしてもいいのだが、指導してもらった方が確実な気がする。

それに岡本先生がほっとした表情を見せた。


「お手数をおかけします」

「いや、俺のせいだから。ホントにごめん」

「私が放置したのも問題です」


先生は悪くない。

心からそう思う。


「それで、お願いがあるんだけど」

「お願い……ですか?」

「携帯持ってる?」


そう言うと岡本先生は自分の携帯を取り出した。

新しい、最新機種の黒。

偶然にも私が持っているものの色違いだった。

自分の携帯を取り出す。

白い新しい携帯は地上に降りてきた時に買ったものだ。

岡本先生が笑った。


「俺と色違いだ」

「偶然ですね」

「連絡先交換しない?」


もし、何かあったら教えて欲しいんだ。

そう言った岡本先生に私はこくり、と頷いた。

お互いに電話帳に登録して。

よろしくお願いします、と頭を下げた私に岡本先生は優しく笑った。


「こちらこそ、よろしくね」


やっぱり好きだな、と思った。



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