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天恋  作者: 滝瀬優希
第1章
2/9

次の日から授業が開始された。

天界との差に戸惑うかなと思ったけれどそんなに内容に差はなくて。

天界が地上界を守ってるから同じなのかな?と一人で納得した。


「授業始めるよ」


次は初めての数学の時間。

岡本先生が入ってくると、クラスから歓声が上がった。


「岡本先生でよかったぜ。これで違う先生だったらがっかりだ」

「数学の時間はさぼれないね」


みんなから愛されてるんだな。

こんなに素敵な先生だもの。当然よね……

教壇に立った先生は一度ぐるりとみんなを見渡した。


「欠席者はいないね。自己紹介は必要ないでしょ? 授業始めるよ」


黒板に向かいチョークで文字を書く。

丸みがある、きれいな字。

文字からも優しさがあふれている気がした。

後ろ姿をそっと見つめる。

授業はドキドキしすぎて、まったく集中できなかった。



***



それから毎日嬉しかった。

朝と帰りはHRで必ず先生に会える。

数学の時間は先生を長い間見ていられる。

とてもドキドキした。

きっと、これは恋。

何かの本で読んだ症状と同じ。

秘密の恋。

誰にも言わず、内緒にしておこう。


そう思っていた日々が壊れたのは、5月も中旬にさしかかった頃のことだった。


「……あやしいわ」


学校から帰ると同時に私の家に結と美嶺がやってきて。

お菓子をつまみながら世間話をしていた中(主に美嶺が一人でしゃべっていた)、黙って聞いていた結が口を開いた。


「? どしたの?」


疑問の声を上げる美嶺を無視し、結はこちらをじっと見つめて。


「愛奈の岡本先生を見る目がおかしい」

「え? なにそれ、愛奈! どういうことっ?!」


美嶺が話に食いつく。

いつ気づいたんだろ?

私は内心焦りながらも平然を装って言った。


「おかしくなんてないわよ」


だが、結も確信を持っているようで余裕の表情を崩さず。


「おかしいわ。恋する乙女のような目で見てるもの」

「え!? 愛奈、恋してるの!?」

「恋なんてしてないわよ」


だが、彼女たちは聞く耳を持たないようで。


「私達に隠し事ができると思ってるの? バレバレよ」

「そうそう、バレバレ」


美嶺は気づいてなかったじゃん!

偉そうに言う二人にそう思ったが、何も言わないでおく。

それを肯定ととったのかお茶を飲みながら結が言った。


「私は反対よ」

「え、なに言ってんの!? 私は応援するからね、愛奈!!」


手を掴みブンブン振ってくる美嶺。

バレても美嶺には応援してもらえると思っていた。

そして結には反対されると思っていた。

予想通りといえば予想通りなんだけど……。


「……私は、このままでいいから」


見てるだけでいい。

私がそういうとたちまち美嶺が文句の声を上げる。


「何言ってんの! あたって砕けろ! よ!」

「イヤ……砕けるくらいならこのままで」

「私は反対」

「ほら結もこう言ってるし。仕事で来てるんだしね」


私の言葉に結は納得したようだったが、美嶺はしつこかった。


「恋愛調査よ、恋愛調査」

「そんな調査することないわ」


美嶺の発言を結がバッサリ切り捨てる。


「別れるだの別れないだの、大変なことになるのは愛奈なのよ?」

「それも調査のうちよ!」

「なら美嶺がやりなさい」

「私は好きな人なんていないわ!」


ぎゃぁぎゃぁ。

私をそっちのけで口論している二人に、恐る恐る声をかける。


「その前に、付き合えるとこまでいかないと思うんだけど……」

「「愛奈は可愛いんだから、告白すれば一発OKよ!」」


……そこは同意見なのね。自分じゃそうは思わないけど。

いまだに言い争っている二人に私はこっそりため息をつく。

考え方が合わない二人の、よくある光景だ。

今のままで充分。

先生とも、このままで。

このまま、3人で仲良く出来れば。


***


そんな口論があって数日後。

今日は先生との二者面談の日だった。

本当は三者面談だったのだが、ものすごく田舎から出てきているという設定になっている私たちは、特別に二者面談をすることになったのだ。


「それでね、岡本先生が勉強頑張れって」


三人の中で一番早く面談が行われた美嶺が、学食の丸テーブルでおやつのホットケーキを食べながら文句を言う。

今は結が面談中。

私はその後の予定。

一人あたり二十分の予定の面談で何を言われたのか、美嶺は凹んで帰ってきた。


「美嶺は勉強苦手だもんね」

「問題解いてる途中でわかんなくなっちゃうんだよね」

「そういう時はどこがわからないのかはっきりさせないと」

「そんなことより、愛奈! チャンスだよ!」


私のアドバイスをうざったいと思ったのか、美嶺が突如話題を変えた。

……満面の笑みで。


「先生と二人っきりなんだから、仲良くなってきなよ! 邪魔者の結もいないし!」


せっかく考えないようにしてたのに!

私は普通を装っていたけど、ものすごく緊張していた。

まともに話したことのない、想い人といきなり二人きり。

今まで恋なんてしたことのなかった私にとっては、大事件なのだから。


「……普通に話してくるだけよ」

「えー、チャンスなのにー。告白してきてもいいよ! なんてね!」


何がチャンスだ。

何が告白だ。

私は見てるだけでいい。


「そんな気はないから。そろそろ行くね」

「残念ー。でもあまり緊張しないで普通に頑張ってねー。色々聞かれるから」


椅子から立ち上がって荷物を持つ私に、美嶺がアドバイスする。

色々ってなんだろ……勉強だけじゃないの?

そう思ったけど、聞く時間もないので、わかったとだけ返事をした。


「結にあったら学食って言っといてねー」


***


二者面談の実施場所、教室の前につくのと結が教室から出てくるのはほぼ同時だった。


「あ、美嶺が学食にいるって」

「わかったわ」


結はそう言うと特になにかいうこともなく、学食方面に歩いて行く。

相変わらずクールだなぁ。

階段を曲がるまでその姿を見送ると、私は深呼吸して、教室のドアをノックした。


「どうぞ」


岡本先生の優しい声がする。


「失礼します」


深呼吸の意味なく、緊張したまま、扉を開ける。

教室の真ん中に二つ、向かい合わせに並べられた机。

その他の机は端に綺麗に並べられている。

向かい合わせの机の一つには岡本先生が足を組んで座っていて。


「いらっしゃい、安藤さん。まぁここ座って」

「はい」


言われるがまま、先生の向かいの席に座る。

人当たりのいい大好きな笑顔で先生が見ている。

それを実感して、私は更にドキドキして俯いてしまって。


「まぁそう緊張しないで」

「……はい」

「緊張するのもわかるけどね」

「はい」


教室に入ってからはい、しか言えない私に岡本先生が苦笑した。


「俺、安藤さんと二人きりで話してみたいってずっと思ってたんだよね。よく俺のこと見てるし」

「はい……って、え?」


気づいてたの!?

驚いて顔を上げた私に、先生は満足そうに笑った。


「やっとこっちむいた。じゃぁ、面談始めようか」


戸惑う私を放って、先生はえーっとと資料を見ている。

は、恥ずかしい……


「まず、勉強についてだけど先生の評価は総じて良いし、ミニテスト等の成績もいいね」

「……ありがとうございます」

「勉強について特に俺から言うことはなしと。優秀だね……数学以外は」


指摘された数学の時間。

私は先生にときめいてどうしても集中力を欠いていた。

苦手ではないのだが、他の教科に比べて、ミニテストの成績も悪かった。


「それでも平均上だけどね。なにかわからないとこあったらなんでも俺に聞いて? 授業終わりでも放課後でもいいから」

「はい」


優しいな。

仕事とはいえ、優しく声をかけてくれる先生に純粋にそう思った。


「じゃぁ次は進路について」

「進路……ですか?」

「もう二年生だもんね。卒業後どうしたいとかある?」


学生なら当たり前ともいえるこの質問に、困った。

私は天使。

どのくらいの期間、この地上界にいるかもわからないが、卒業まではいないだろうとなんとなく思っていた。

期間が終われば天界に戻らなければならない。

そのため、特に卒業後のことなど考えたことがなかったのだ。


「特に決まってないです」


その答えに先生は少し驚いた顔をしたが、すぐにいつもの顔に戻って言った。


「そうなんだ、まぁ安藤さんなら急ぐことないと思うよ」

「はい」

「ゆっくりしたいこと探すといい」

「はい」


またはい、しか言わなくなった私に先生が苦笑する。


「以上で面談は終わりなんだけど……まだちょっと時間あるから話そうか」


話? 二人きりで?

思わず緊張で身体がこわばる。

それに先生は笑った。


「緊張しなくていいよ。……学校楽しい? 友達できた?」


結と美嶺と常に一緒な私。

友達も欲しいと思うけど……三人一緒だからかなかなかできない。


「学校は楽しいです」


先生を見ていられるから。

友達の部分に触れずに答えた私に何かを感じ取ったのか、あまり追求せずに岡本先生は言った。


「なにか聞きたいこととかある? なんでもいいよ」


そんなことを聞かれると思っていなかった私は、頭を巡らせる。

色々聞きたいことはある気がするけど……


「目……悪いんですか?」


口からでてきたのはそんな質問だった。


「ああ、メガネだから?」


先生は気にした様子もなく、黒縁のメガネを外した。

普段とは違う若くみえる姿に、ドキッとする。


「俺、目はいいんだけど、容姿が幼いから。大人に見えるようにかけてるんだ」

「え……」


驚いて目を丸くしてしまう。そんな私に先生はぱちり、とウィンクして。


「他の人には内緒だよ?」


その姿がとても様になっていてどきどきした。


「さて、そろそろ時間だね」


そういうと眼鏡をつける先生。

私もありがとうございました、とお礼を言って席を立った。

ドアに向かう私に後ろから声がかかった。


「最後に一つ」

「はい?」

「俺と仲良くしてね」


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