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天恋  作者: 滝瀬優希
第1章
1/9

この世界は、昔から3つの世界に分かれている。

白い羽を持ち、聖なる存在の天使が暮らす天界。

羽を持たず、天界の加護を受け暮らしている地上界。

そして、人間界を支配しようと企む、黒い羽を持つ存在が暮らす魔界。


魔界人は天界の敵。

それが、私たち天界に住むものの常識。


***


天界の中でも、上位の方々がいらっしゃる、白を基調とした宮殿の一角。

私たち幼馴染3人組は、私の母であり……上司でもあるレミエル様に呼びだされていた。

母様の姿は跪いているために見えないが、醸しだされる空気から大切な話であることがうかがえて。


「テリエル、エリミエル、サマエル」


母様の凛とした声が辺りに響きわたる。


「お前たちには地上界に行き、人間の生活について調査をしてもらう」


天界が人間界を守っていくために必要な調査。

ずっとやりたいと思っていた仕事に、私は目を輝かせた。


「まだ17と若いお前たちの感性を期待してのことだ。できるな?」


母様の問いに私は力強く答えた。


「必ず、やり遂げて見せます」



***



天界の計らいで私達3人は、歳相応に見えるよう高校へ通うことになった。

今日は高校2年生へ転入の日。

私、テリエルこと地上名、安藤愛奈は与えられた自分の家の鏡の前で、自分の姿を確認中。


「髪の毛よし、スカートよし、忘れ物なし」


蒼色の目はぱっちり。

黒い腰近くまである少しカールした髪も絡みなし。

痩せ気味の身体にブレザーのサイズはぴったりだったし、

スカートも今頃の女子高生に合わせて、膝上10センチの長さ。

ネクタイも程よくゆるめて今風にした。

忘れ物も無いように30回は確認したし、大丈夫。

白い羽は人間には、見えないし天使だとバレることもない。


ピンポーン


玄関のチャイムが鳴る。

迎えに来たのかな?

私はカバンを持つと外に出た。


「おはよ、愛奈」

「おっはよーっ、愛奈、今日も可愛いね」


予想通り玄関の前に立っていた二人に私は笑いかけた。


「おはよ、2人共」


エリミエルこと井上結いのうえゆいと、サマエルこと大迫美嶺(おおさこみれい)

両隣に住む、私の幼馴染。

結は真面目な高校生になっていた。

人間界に来るときにかけたというメガネがキラリと輝いている。

制服も現代風に合わせた私とは違い、きっちり校則通り。

ボブな黒髪も真面目さを演出している。

一方の美嶺は、ストレートの背中の真ん中まである黒髪に、でっかいリボンを後ろにつけている。

スカートも私より短いし、勝手に茶色のカーディガンを着て制服改造。

もちろんとっても似合ってるし、その美貌は3人の中でもピカいち……なんだけど。


「美嶺……なんで女子の制服なの?」

「もちろん似合うからっ♪」

「私も男子用の学ランを着ろと言ったんだけど」

「学ラン可愛くないんだもーんっ」


……男なのだ。

何故か声変わりもしてないし、きっと彼が男だと気づくものはいないのだろう。

真面目人間の結と個性派な美嶺。

地上界での高校生活がどうなるのか楽しみ。


***


私立雲雀高等学校。

都会にあるこの高校は進学校として有名で、偏差値もそこそこ上の人たちが通ってる。

駅から近いこともあり、中学生に人気の高校。

電車から降り、駅から歩いて私たちは学校へ向かう。

電車なんて初めて乗ったから色々と大変だったけど(主に美嶺のせいで)、なんとか時間内に学校にたどり着いた。


「ここが学校……」


天界にもあったし、地上界にくるまでは天界の学校に通っていた。

なんとなく似た雰囲気を感じてほっとする。


「あ、クラス分け貼ってあるよーっ」


美嶺が指さした先に貼ってあったクラス分けには人だかり。

楽しそう!と美嶺がクラス分けへと駆けて行く。

そんな彼女に男子生徒の視線が集まる。


「……さすが美嶺」


思わずつぶやいた私に結も同意するように言った。


「男というのは内緒にしておいたほうがいいわね」


私はこくこくとうなずいた。


「二人共早くーっ!みんな同じクラスだよっ!2−C!」


美嶺が掲示板の前で手を振っている。

美嶺に向いていた男子生徒の視線が私たちの方へ一斉に向いた。


「……恥ずかしいわね」

「……うん」


ただでさえ転校生ということで目立つのに、美嶺のせいで注目度アップ。

私と結は目立たないようにしながらも、急いで美嶺の元へと走った。

――けど。

クラスに入った瞬間、ざわめきとともにクラスメイト(主に美嶺目当ての男子)に囲まれて。


「へぇ、美嶺ちゃんっていうんだ、可愛いね」

「ありがとーっ、美嶺嬉しいっ」

「美嶺ちゃん、俺とメルアド交換しよー」

「もちろんいいよーっ」


来る者拒まずな美嶺は明るく笑顔で対応中。

一方、結はそんな美嶺と男子を無視して自分の席へつき、本を読み始めた。

どうしよう……

どうしていいのかわからず、入り口のところで固まる私に、美嶺とアドレスを交換し終わった男子が話しかけてくる。


「君も転校生やろ? よろしゅうな!」

「あ、えーと……」

「わいは石田仁。お前さんは?」


着崩した学ランにシルバーのネックレスをつけ、お洒落にしている彼が握手を求めてくる。

私は少し困りながらも、手を握り返して答えた。


「安藤……愛奈です」

「へぇ、あんたも可愛いな!」

「あ、ありがとうございます」


美嶺と違い、言われ慣れていない言葉に戸惑う。

このあとどうすればいいんだろう。

自分も相手を褒めるべき?

握手しながら、必死に頭を働かす。

と、そのとき。

背後から声をかけられた。


「君たち、ホームルーム始めるよ。席について」

「あ、はい」


反射的に返事をして、入り口を塞いでいた私は慌てて自分の席へ移動する。

移動途中、女子生徒が先生を見て騒ぎ出した。


「やった、翔先生だ」

「今年ついてる!」

「笑顔ステキーっ」


どんな先生なんだろう?

気になった私は席につこうとしながら先生を見て……思わず固まった。

一筋の風が胸の中を吹いていったような、時間が止まったような、そんな感じがした。

茶髪にウルフカットの髪は爽やかで、黒縁メガネの奥の目はとても優しい。

背も高く、程よく筋肉質なのが黒いスーツの上でもわかる。

でもなにより、醸し出している空気が私を呼んでいる気がした。

……ドキドキする。

なんだろう、この気持ち。


「えっと……安藤さんだったよね、席について?」


その声で先生に見惚れていた私は我に返った。

慌てて廊下側の一番前の席につく。

みんな既に座っていたようで、不思議そうにこちらをみている。

恥ずかしさから顔を机に埋めながらも、先生を盗み見た。

素敵な人。

ドキドキが止まらない。


「知っている人のほうが多いですが、改めて。みなさんの担任で数学教師の岡本翔です」


やわらかな声で自己紹介する先生。

にこやかな笑顔。

ひとめぼれ。

そんな言葉が頭に浮かんだ。


***


次の日は一日LHRで午前中だけの授業。

そこでクラスの役割とかを決めるらしい。


「まずは自己紹介をお願いしようかな」


岡本先生が笑顔でみんなに促した。


「出席番号順でいいかな?」


出席番号順はあいうえお順。

つまり一番は……


「とくに異論はないね。じゃぁ安藤さんお願いします」


突然のことに頭がパニックになる。

とりあえず席を立って名前を名乗ってみた。


「安藤愛奈です」


誰もなにも反応しない。

続きを待っているのだろう。

どうしよう……

なにを言っていいのかがわからなくて無言になってしまう。

そんな私に先生が声をかけてくれた。


「安藤さん、何か趣味とかはないの?」

「趣味……」


空を飛ぶこと。

とはもちろんいえないよね……

あとは……


「料理すること……です」


天界では料理が好きでよくお菓子なども作っていた。

まだ地上界にきて数日だけど、天界とそんなに差はなく、何とかおいしいものが作れている。

私の言葉に満足したのか先生が微笑んでくれた。

昨日も感じたドキドキが再び私を襲った。


「女の子らしくていいね。よろしくお願いします」

「お、お願いします」

「じゃぁ次、石田君。お願いね」


次々と自己紹介が進んでいく。

先生のおかげでなんとかなった。

女の子らしいって誉め言葉だよね……

優しいなと思った。

先生を盗み見る。

先生はみんなの自己紹介を聞きながら始終にこにこしていた。



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