第四話
少し大きいダンボール箱を抱えながら、私は黒澤さんと役所から帰りの道を歩いている。
あれから、ちょっと不貞腐れた黒澤さんと、笑みを浮かべる福田さんに消防行事の簡単な説明等を聞いたり、出動連絡用のメールアドレスを登録したり、雑談をしてから役所の防災課を後にしたのだが………
「……黒澤さん、機嫌直して下さいよ…さっきからずっと黙って……ニートって言ったの謝りますから……」
「………うるせぇ…ブス」
「どこの小学生ですか!」
(この人…精神年齢低い……)
何時までもこうしている訳にもいかないし、どうしようか悩んでいると、突然黒澤さんが通りの本屋に走って行き、店の前の平積みの週刊誌を読み始める。
他にも何人か同様に立ち読みをしていているが、平日のこの時間帯に暇な人もいるものだ。
黒澤さんに近寄り、何を読んでいるか見てみると、『月刊マーニャレード』……少女漫画だった……
「……黒澤さん、何読んでるんですか?」
「月マだけど?」
「少女漫画じゃないですか!」
「何だよ、女子だってジャンポとか曲神読んでるだろ? 男が少女漫画読んで何が悪いんだよ? 俺は毎回『黄身に届く』とか『魚の目友達帳』楽しみにしてんだよ! お前、読んだ事無いのか?」
自信満々で言われると、確かに私も読んだ事はあるし、少年誌に好きな漫画家さんもいるので強く言えないが、大の大人が嬉しそうに読む物では無い気がする……
そう思って黒澤さんの隣の二十代くらいの人を見ると、小学生向けの『リポン』を読んでいた。更に隣ではオッサンが『特冊フリェンド』を読んでいた………
(……なんだろう…この人達?)
私が何か間違っているのかと思い始めると、黒澤さんが隣の人に話し掛けている。
「ああ、松木。俺の隣にいるのが、今回新しく入った水野淹ちゃんだ。よろしくな?」
「…ヘエ〜新団ですか? ヨロシクね。俺は班長の松木健一。マッキーで良いよ〜」
「この人も消防団なんですか?!」
驚く私に黒澤さんと松木さんが頷いている。黒澤さんもそうだけど、この松木さんは一体何をしている人なのだろう?
昼日中に少女漫画を立ち読みする暇人にしか見えない二人を見ながら私が呆然としていると、本屋の中から年配の男性が出て来てマッキーさんの頭を丸めた新聞紙で叩く。
「コラッ! 店の商品はお前の本棚じゃねぇぞ! 健一!」
「何だよ、親父っ! 商品の印刷チェックしてんだよ! 良いシーンなんだから、邪魔しないでくれ!」
「アッハハハ…相変わらずオッちゃん、元気いいね〜」
「勘違いすんな! お前も立ち読みすんじゃない! 呉服屋のバカ息子!」
「おいおい、オッちゃん。最近ツンデレおやじヒロインが流行ってんの知ってて言ってるのか? 生憎オッちゃんルートは俺には無理だぜ〜」
三人の言い争いに他の客は本を置いて逃げ出している。おじさんと騒いでいる二人を見ながら、こんな人達と一緒にやって行けるか不安になる。
先に一人で帰ろうとすると、黒澤さんが慌てて走って来て私の隣に並ぶ。
「ふぅーっ、参ったぜぇ〜水野さん、これから屯所に行くからついて来て下さい。出動の時のツナギ服渡しますから…」
「……まだ、あるんですか?」
そう言って黒澤さんは私の前を歩き始めた。
(段ボール持ってくれてもいいのに……)
次のマイナスオーラをコネコネしてます。まだ小さいのでちょっとお待ち下さい。