第二話
母親との言い争いに、事態を見守っていた黒澤さんが、クスクスと笑い出す。
気まずくなった私は、母親を無視して、黒澤さんに「すみません」と頭を下げる。
「いえいえ、謝らないで下さい。実際、消防団になりたいと言う人は、災害や何か無いと、そう多くはないのです。基本的にボランティアみたいなものですから…ウチの団でも欠員が多くて、十五名の定員に十名しか集まらず、人数が少ないと予算も少ないので、毎年人員確保に必死です」
「そうなんですか?」
「ええ、それに、今は会社勤めの方が多く、土日の休日ならまだしも、平日の日中に起きる火災などに出動可能な人員確保はどこの部でも大変なんです。ですから町内会から御電話を頂いて、水野さんの気が変わらない内にと、直ぐにお宅にお邪魔したのです」
「そうなんですか……あの、部って何ですか?」
「ああ、この南町の担当地域の事です。南町を東西に半分に分けて東側が第1分団、西側を第2分団。更に一つの分団を南北で10の部で分けて担当します。この地域は南町の西側の一番北側なので、南町消防団第2分団第10部。私達の担当になります。各部には屯所と呼ばれる消防車の車庫と集会場所を兼ねた建物があるので直ぐに判ります。他に質問とかありますか?」
「…消防団って、やっぱり火事を消す仕事なんですか?」
「まぁ、それも仕事の一つですけど、他にも、町内のパトロールとか、行方不明の人を探したり、防災の為に色々な事をします。どちらかって言うと、役場や消防署だけでは人が足りないので、それを手伝う下請け会社みたいな感じですね〜」
「…はぁ、下請け会社ですか? ……お給料ってどの位頂けるんですか?」
「水野さんが思っているより少ないと思います。先程言ったようにボランティアですからね。それと地域に依って金額が違います。この地域では……まず、消防団に入団すると、年給五万円、出動一回に付き二千円、役職に依って、多少変動します。第2分団の年間出動回数は約二十回、全部に出動すれば四万円、年間約十万円程。バイト1ヶ月分で十分稼げる金額です。この金額の低さが人員不足の原因の一つなんです……」
「少なっ! ……あっ、すみません。……よく集まりますね? バイト以下です……」
「ええ、でも、正義の味方は助けた人に『助けたんだから金よこせ!』何て言わないで、格好良く立ち去るでしょ?」
「……まぁ、八割くらい…」
「色々な人がいますから、バイトや小遣い稼ぎと考えるか、正義の味方と考えるかの本人の気持ちの違いです。……あの……前置きはこれ位で…それで、水野さん。貴女が宜しければ、消防団に入って頂けませんか?」
黒澤さんは、少し真面目な顔になって私を見詰めてくる。
確かに、母親の勧めで此方から採用のお願いをしたのだから、断りづらい……何より、毎日八百屋ばっかりじゃ飽きてしまう。授業が毎日数学だけなら、発狂するのと同じだ。色々あるから学校に行っていた気がする。
……もう、行かないけど………やってみようかな?
「……私で良かったらお願いします」
「ありがとうごさいます。いやぁ〜良かった〜 早速ですが、この契約書を書いて頂きます。あと、印鑑もお願いします」
黒澤さんから渡された書類に氏名、住所等を記入するのと、最後に印鑑を押して確認してもらう。
書類に目を通し、記入漏れが無い事を確認した黒澤さんは笑顔を見せ、書類を懐にしまう。
「…これで契約は完了した。……問おう、貴女のスリーサイズはいくつですか?」
「……はあっ?」
「スリーサイズです。あと、靴のサイズもお願いします」
「……ナゼ?」
「書類は今から役所に行って提出して来ます。それで、制服と作業服、革靴に長靴、帽子にヘルメットが支給されるので、水野さんのスリーサイズ教えてく……」
「嫌です!!」
「…なぜ?……あっ、秘密は守ります。それに、俺は二次元にしか興味ありませんから大丈夫です。水野さんがコスプレしてくれるなら別ですけど……」
「絶対! 嫌です!!」
「……残念です。それでは今から役所の防災課に一緒に行って職員と選んで下さい。良いですか?」
「……わかりました」
「それでは、行きますよ」
そうして私は黒澤さんと一緒に役所に歩き始めた。
通りを歩き始めた私は、早くも消防団に入団した事を後悔していた…………
マイナスオーラが煮詰まったら書いているので、投稿間隔が偏ります。ご了承ください。