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人の苦労をなんだとっ!

天気の良い昼下がり。


街道の真ん中で仁王立ちをし、こちらを見つけると、声変わりが終わってないのか、

12、3歳位の少年が私を指差しながら叫んでいた。


「ようやく見つけた!この!!極悪非道人が!!!」



突然だが、私はこのレン・テリア国南方地区担当の国境警備隊士である。

名はセレリア・ハレイラック(23)

一応、武門で知られたハレイラック家の三男坊である。

家督は兄が継ぐので、必然的に軍人への道を選んだ。


12歳で学院に入り、他の貴族のボンボンと同様に近衛を目指して、

18歳で王宮近衛隊に入ったがそりが合わなさ過ぎ、異動要請をようやくもぎ取り、

レン・テリア国の南外れにあるんだかないんだかギリギリラインの国境警備隊に配属されて半年。


今日も、見晴らしのよい崖っぷちの国境を左に見ながら愛馬に跨り、定期巡回中だ。


いやぁ、今日も良い天気だなぁ。白すぎと言われた自分の肌がいい感じに小麦色になっている。

少し、強くなってきた日差しに目を細めてると、



「(`皿´)無視するな!!!!!!」



ビュンと、音を立てて何かを投げつけてきたが、ヒョイとかわしてみる。

地団駄を踏んで、腕を振り回し、頭から湯気が出るぐらいの勢いで、先ほどの少年が叫んでいる。



はて?そういえば、極悪非道人を捕らえる任務についたことは多々あるが、

自身がそう言われるのは初めてだ。なので、理由を聞いてみた。



「どうして私が極悪人なのか、聞いても構わないか?」


「~~~~~~~~~~~~っ!言うに事欠いて、自分がしたこと忘れてるの!!!」



ん?

なんだ、少年じゃなくて女の子だったのか。

ずい分、ペタンとした体つきだったから分からなかった。

人違いされるとは思わなかったが、こんなところに子供一人はさすがに危険だ。

早く家に返そう。


うんうんと、勝手に納得して頷いているセレリアに訝しげな視線を浴びせながら、少女は


「ちょっと、何勝手に納得してるのよ!!私は人違いなんてしてないわよ!!

セレリア・ハレイラック!!」


おや?

知り合いにこんな少女はいただろうか?


「まさか!?本気でわからないわけ・・・・・・。」


はて?

と、首を傾げる。


「もういいわ・・・、こんな薄情な極悪非道人になんか相手にする方がバカだったのよ。」


吐き捨てるように投げやりな言葉に、聞き覚えがあった。

セレリアの部隊が駐屯地としているカレイの街のおしゃまなマーシャ(8歳)がそんな言い方をしていたはずだ。だが、目の前の華奢な少女はマーシャより年上だ。


一体誰だろうと、再び首を傾げたセレリアに

はんと、鼻を鳴らして少女は勢いよくかぶっていた帽子を外した。

この地域では、まず見かけない美しくひまわりのような強い黄金色の髪が風に吹かれて羽のように広がった。そして、レン・テリア国の姫にだけ受け継がれるペリドットの瞳は少女を花の妖精と言っても過言では無いほどの輝きを持って自分を見つめ・・・・いや、睨みつけていた。


「!?ラティカ!何してるんだ。こんな所で。」


驚きのあまり、素で応えてしまったセレリアは、レン・テリア第五王女ラルテリーティカ(13)の愛称で叫んだ。


「何をしてるかは、あなたにも言えることよ!セレリア・ハレイラック!

もう、時間がないのにっ!なんでこんな所でのん気に警備してるのよ!馬鹿セイ!!」


「いやいや、ラティカ。国境警備隊は大事な仕事だ。のん気に見えるのは気のせいだ。」


何とも的外れなセレリアにラティカは、凶器を投げつけた。


「馬鹿セイ!!

私が、いいえ、姉様がどんな気持ちだかも知らないでっ!」


「カルシェ様が?何のことだ?」


とぼけたように聞こえたセレリアの言葉は、ラティカの火に油を注いだようだ。


「このっ!!極悪非道人!!」


「意味わからないな!ちょっ!ラティカ!むやみに刃物投げつけるな!」


第五王女として産まれたラティカは、王家に対して仕えよと言う王妃の意向から、

城下町の軍事に秀でたハレイラック家に預けられ、何故か暗器の使い手に育ってしまい、

今もどこから出したのか折り畳み式の鉄棒でセレリアに容赦なく向かって来ている!


「まてまて、危ないっ!ラティカ、落ち着いて話をしよう?」


馬から下りたセレリアに、スピード勝負と言わんばかり鉄棒を繰り出したラティカに説得を試みたが、

残念ながら、回し蹴りが答えのようだ。

仕方なく、ハレイラック家の武道に通じている者なら必ず身体に叩き込まれる型で応じながら、

ラティカに尋ねた。


「と、取りあえず。ラティカはどうやって此処までたどり着いたんだ?」


いつの間に、重い一撃を繰り出せるようになったのか、ラティカは攻撃に変えて距離を取った。


「兄様が連れてきてくれたわ。」


ラティカの言う兄様は、実兄フレデリカ宰相閣下ではなく、セレリアの実兄ベックスのことだろう。


「ベックスが!?」


「私が、セイに会いたいと言ったらハレイラック家の私軍を護衛って、付けてくれたのっ!」


急に間合いを詰めたラティカのフェイントアッパーを避けながら、内心悪態をついた。


(あんのっ!!クソ兄貴!!!何、家挙げての全面協力してんだ!?

私軍なんて、謀反でも起こすのかって疑われるだろーがー!!!)


「それに!早く戻らないとカルシェ姉様がお嫁に行っちゃうのよ!」


ガツンと鉄棒と鞘から抜いていない剣が一段と音を立て、至近距離で視線が絡んだ。

キラキラと潤んだ瞳は何とも不安気にこちらを見つめている。


「だから、何でそこにカルシェ様が出てくるんだ?

ラティカは、私に用が有ったのだろう?」


自分では至極当然に聞いたつもりだったが、ラティカには通じなかったらしい。


ガツッ!

ガツッ!!

ガツッ!!!


と、一層激しくなる叩き込みを繰り返しながら叫んだ。


「何でって!?バカ!!バカセイ!大事な想い人がお嫁に行っちゃうんだよ!

何、平気な顔してるのよ!!」


そういう自分が泣きそうな顔をしながらラティカは、もう、型など無視してがむしゃらに腕を脚を振り回した。


(なんで、んな事になってんだか………)

諦め半分でセレリアは言った。


「あー、ラティカ。

私は別にカルシェ様に懸想はしていないんだけどな。」


ぴたりとラティカは動きを止めた。


「………………………………………………は?」


「いや、だから、私はカルシェ様に惚れてないし、第一、カルシェ様は、婚約されたマリュウ公国のトワイリース公子と相思相愛の仲だし、逆に式を早めたぐらいだ。本来なら、あと一年くらいは準備に追われるぐらいだったからな。」


周りから何も聞かされていなかったのか、迷子のように途方にくれたラティカは、ポツリと呟いた。


「……えっ、だって、姉様の婚約が決まってすぐにセイは、近衛騎士辞めちゃって、こっちに来ちゃったし、私はてっきり姉様のことが余程ショックだったんだって……………。」


「はぁ〜〜〜〜〜」


と、深いため息をついてしゃがみこんだセレリアにラティカは、恐る恐る近づいて顔を覗き込んだ。


「バーカ。俺がこっちに来たのは、近衛が嫌になったってのも理由の1つだけどな、本当は、カルシェ様と同時にお前にも縁談が決まりそうだって、聞いたからだ。」


もう、「私」なんて言ってるのも面倒くさくなって、 素で応えた。


「………何よ、それ。」


目をまん丸にして、こちらを凝視しているラティカに苦笑しながら、


「好きな女が、嫁に行くのを黙って見てられるほど大人じゃねーし、かっさらって幸せに出来る程、地位も甲斐性もねーから、俺が遠く離れて嵐が過ぎるの待ってるのに、お前が来ちゃ意味ねーってのっ!」


ラティカの瞳を真っ直ぐにそして確実に熱を帯びて見つめると、ボッと頬に熱を灯したラティカは、慌て離れようとした。


「逃がさないからな。懐に入ってきたお前がワルい。」


只でさえ、細身のラティカが暗器の使い手であろうと、自分から逃げ出せるとは思わなかったので、

ぐいっと腕を掴むと胸に抱え込んで、太陽と甘い香りの中に顔をうずめた。


「セッ、セイ!!」


セレリアの肩を力任せに押して離れようともがく彼女を更に思いっきり抱きしめて、耳元で囁いた。


「勘違いだってなんだって構わない。ここにお前がいてくれる…………………。

ラティカ、俺の「俺の?俺の何ですか。セレリア・ハレイラック隊士。」


急に背中にヒンヤリとした空気が感じ、セレリアは、ほぼ無意識に手に付いたラティカの太ももにあった暗器を背後に投げつけた。


「随分、近づいたのに気がつきませんでしたね。

国境の警備では、気が緩み過ぎではないですか?セイ。」


細過ぎて糸にしか見えない目は柔らかく弧を描き、片手に今、投げつけた薄いナイフをカードの様に器用に受け取り、レン・テリア公国軍総督ベックス・ロア・ハレイラックが2人の後ろに立っていた。


「何してんですか、ベックス………、軍総督までがこんな所に来てるなんて、

我が公国は平和ボケが進んだのですか?」


(せっかく良いところだったのに、何邪魔してんだよ!クソ兄貴!! )


一重の瞳で兄を睨みつけた。


(邪魔したくてやってるんじゃないんですよ。私もしがない軍総督ですからね、

王妃殿下の命令は絶対なんですよ。)


一層、糸目にしたまま弟の視線を受け止めた。


セレリアに抱きかかえられたまま、自分の頭の上で兄弟の無言の会話がなされている一方、

ラティカは、セレリアに言われた言葉を頭の中で反芻していた。


(私のために、私に縁談があったから、セイはわざわざこんなところに移動したなんて・・)


ちらりと上を見上げると、近衛騎士の頃はワインレッドの儀式めいた服装で、

チョコレート色の髪と瞳は柔らかく微笑んでいることが多かった(ラティカ限定である。)

今は、砂色の固い隊士服に日に焼けた精悍な顔つき、何故か以前とは違う感情が湧き上がってくる。


(前に見た時より格好よくなってる?)


顔を上げてセレリアを見上げたラティカだったが、こちらに連れてきてくれたセレリアの実兄ベックスと

いまだに無言のにらみ合いを続けているセレリアに何となくムカッとした。


(なんで、私を見てくれないの?)


グイッと(+グキッッと聞こえた気もした。)セレリアの顔を掴むと、頭突きでもするのかという勢いで「チュッ!!」と、かわいらしい音をさせて彼の唇を奪ったのだ。


「セイ!私のファーストキスあげたんだから、一緒に帰ってお母様にご報告に行くわよね!!」


いきなりの暴挙をかました第五王女の言動にベックスはやれやれとため息をつき、「はい、はい、撤収。撤収しますうよぉ。みなさん。」と、手を叩きながらどこから湧いて出てきたのか複数の護衛をまとめはじめた。


「おいっ!!妃殿下の命令はいいのか!」


去っていく次兄ベックスに声を掛けると、彼は手を振りながら


「私の役目はラルテリーティカ王女を国境付近まで護衛するという任務しか受けていませんよ。あとはお前が自力で這い上がってくればいいだけですよ。・・・・・・・・・ヘタレ。」


にやにやと意地の悪い顔をしているだろう兄は最後にぼそりとつぶやいてアッという間に視界から消えた。


セレリアは、にこにこ微笑むいたずら好きの妖精姫をまじまじと見つめながら大きくため息をつき、


「お前・・・、人の苦労をなんだと思ってんだよ!ここまでされたら腹くくんのは俺の方じゃないか。

ばーか、ラティカ。こんなん序の口だからな。とりあえず町に戻って宿屋にいくぞ!」


そのまま荷物のようにラティカを愛馬に乗せると意気揚々と走り出した。


「??何で・・・宿屋?」


疑問に思ったラティカが聞くと、セレリアは兄と同じように、にやりと人の悪そうな笑みを浮かべて言った。


「妃殿下には、もっと別なことの報告も必要かもな。」


「別な報告?」


疑問で首をかしげるラティカを甘い顔で見つめるセレリアは、ギュッと抱きしめると唇がいたるところに口づけていった。


「セッ!セイ!!」

慌てるラティカに笑いながら耳元でささやいた。


「ラティカ・・・・好きだ。絶対に這い上がってお前を堂々と手に入れてやるからな!覚悟しておけよ!」


真っ赤になりながらもセレリアにギュッと抱きついてラティカは、嬉しそうに微笑んだ。








二人は知らない。

この先、カレイの町の宿屋がベックスが率いてきた精鋭部隊に占拠されていることも。

よからぬことを企んでいたセレリアはすぐに地獄のような部隊の訓練に下っ端からやり直されることや、

まして、元々妃殿下がハレイラック家にラティカを降嫁させるつもりでいたとか。

はたまた10年後までラティカとの結婚が延びに伸びて晴れの舞台でラティカがいきなり出来ちゃった宣言をすることなどなど…………。






二人の前途は多難なようだ。

読んでいただきありがとうございます。

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