お隣のやわな魔術師
そのときに書きたいものを書いております。
ジャンルは恋愛が多いと思いますが、色々挑戦してみます。
お暇つぶしにどうぞ
うちの隣に変なやつが住み着いた。
名前は、ジェム。
ひょろりと背の高いうえに、だぼだぼの引きずるくらいに長いローブを身にまとっているので、
メタボなのか?ほんとにひょろりなのかいまいち分からない。
顔は、たてなが。綺麗に整っているのかも知れないが、これまた、ぼさぼさの濃いグレーな髪の毛が、
ジェムの顔を覆い隠しているので、真相は不明だ。
ジェムは気がついたら、小さな小屋を建て、内部は本で一回りさらに小さい部屋に住んでいた。
(どれだけ、本に囲まれて、つぶれてしまいたいのか、謎である。)
日があるうちは、大きな木の下で湖からの風を受けながら、優雅に夕方まで読書に勤しみ、
夜は、夜更け(酷いときは、夜明け)まで明かりが消えない。
(何をやってんだか・・・・・。)
あきれて見ていたら、5日目の晩、家の扉が弱弱しくノックされた。
トントン・・・・・・・・トン・・・・・・・・・ト・・・・・・・・・・
(何かの暗号?)
「すっ・・・・・・・すいま・・・・せ・・・ん。・・・・・・・・」
か細い声付きで再度ノックされ、しぶしぶ扉を開けると、なんとも悲しい位にやせこけたジェムが
扉と共に倒れてきた。
行儀が悪くて申し訳なかったが、足で扉とジェムを支えると、軽く押し出し、ひょろながの体を
「よっ!」と、担ぎ上げた。
「あんた、いくら本が好きでも飯ぐらいは食べなきゃ、何もない森の中なんだから、死ぬよ。」
それほど、大きな声を出したつもりは無かったが、ジェムは盛大に顔をしかめた。
「す・・・・・・、すいません。それで・・・・申し訳ないですが・・・。」
「飯だろ?あるからとりあえず、水が先だ。」
部屋の中央にある一枚板のテーブルにジェムを座らせると、木のコップに水を汲んで渡した。
手をぶるぶる震えさせながら、本人はがんばって飲んでいるつもりなんだろうが、ボタボタと、
胸元を濡らし続けているだけだった。
「お前・・・・・、どんだけ弱っているんだよ。それじゃ、飲んでるんじゃなくてこぼしてるだけじゃないか。」
と、ジェムの顎を掴みコップに残っていた水を含むと、そのまま唇を合わせた。
「ん”ん”!!!・・・・・・ん”!?・・・・・・・ん”!・・・ん”・・・ん”・・・。」
驚いたのか、ジェムが体を離そうとのけぞったが、弱っている男一人なんてことなく拘束して、
口移しで水を飲ませ続けた。
しばらくして、落ち着いたのか、あきらめたのかゴクゴク飲み続け、唇を離したところ小声で、
「すっ!!・・・・・・すいませ・・・んぅ。」
謝ってきた顔が可愛くて、最後の言葉を言わせずに、口をふさいでみた。
(初めて、きちんと顔を見ることが出来た。案の定、綺麗な顔をしていた。)
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「手間のかかるやつだな。とりあえず、服脱げ、ぬれたままじゃ風邪をひく。」
口付けが落ち着いて、飯を温めているついでにジェムに言った。
「・・・・っええ!!!」
ジェムが慌てたように、きょろきょろしたが、逃げ道はなし。
「ほら、万歳しろ!」
「えっ!いや、あの・・・・!!!ひゃあ~~!」
なんとも、情けない声を上げたジェムは、プルプル子犬のように震えて、こちらを見上げた。
「ん?なんだ?お前、意外に筋肉あるじゃないか、なまっちろいけどな・・・。」
ぺたぺたと、腕や胸、腹を触ってみる、予想より若いのかもしれない。
「お前、年いくつだ?」
「は?・・・・・・えー、18になります。」
「18!?(年上かよ!!)ちゃんと飯食わないと、病気になるぞ!」
「はぁ・・・すいません。」
着替えを用意して、煮込んだシチューをジェムに渡すと、一体いつからまともに食べていないのか
不憫になるほどの食いっぷりだった。
「温まったら、すぐ寝るぞ!」
「え!」
手にとろうとしていた、スプーンをつるりと滑らして、ジェムは再び驚きの声を上げた。
「え、じゃない。お前・・・、そんなありさまで風呂に入る気だったのか?倒れる寸前までの状態だったんだ
今日くらいは我慢しろ。」
「あ・・・、お風呂ですか・・・お風呂ね・・・なんだ・・・。」
「???変なやつだな。」
風呂と聞いて、あからさまにほっとしながらも釈然としない様子のジェムに首をかしげながら、
寝床の仕度に取り掛かった。
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「あの・・・・、ご厄介になっていながら、こんなことを言うのもなんなんですが・・・・。」
「・・・・なんだ?」
「ここに二人で寝なくてもいいんじゃないかと・・・・。」
「?布団が少ないんだ。朝晩はまだ冷える。別々に寝ても構わないが、お前確実に風邪引くな。」
「・・・・・。」
そう、二人では多少なりとも窮屈だが、ジェムと同じ布団で毛布を重ねて、防寒はばっちりだ!
文句は、風邪を引かなかったら言ってくれ!
「あの~~・・・・・。」
「今度はなんだ?」
「腕枕・・・・は別にいらないんじゃないかと・・・。」
「?こうした方が、お前の顔を見ながら話せるし、構わないじゃないか?」
「いえ・・・あの・・・・・、すいません・・。」
ジェムを腕枕しながら寝るのは、なかなか乙なものだと実感していた!
「はぁ・・・・。」
「眠れないのか?」
「いや、あの、どうしたものかと考えていまして・・・。」
「何がだ?」
「私をここまで、動揺させて、困惑させて、介抱してくれて、あなたの意図が全くわからない。」
「意図?」
「何が、あなたをそうさせているのでしょうか?」
「お前の言っている意味がわからない。やりたいようにやっているだけだ。」
「・・・・・・・そうですか。やりたいように・・・。」
「?どうした?何故腕枕を外す?・・・・なんで人の上にマウントポジションを取るんだ?」
「私も、やりたいようにやってみます。」
暗闇の中、ジェムの瞳がキラリと光ったように見えたとき、あたしの唇に暖かいものが重なり、
体がピクリとも動かないことを知り、なるほど、魔術師というものはこんなことが出来るのかと、
アマゾネスの国では戦士としてのスキルを磨いてきたが、この男には完敗だ。
潔く嫁になってやろう!
並みの男よりもタフに出来ている、女戦士リードス。
オレンジ色の髪をなびかせて、魔物狩りを生業とする彼女の現在の住まいは、
魔物の巣窟が湖の真ん中で、ぽっかりと口を広げている目の前である。
そんな、危険地帯で余りある魔力を持ちながら、人との関わりを避けてきた
稀代の魔術師ジェム・シュテルツとの出会いはまさしく運命だったのではないかと後にリードスは語った。
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「あの、リードス・・。」
「なんだ、ジェム?」
「コレは何だろう?」
ジェムは、首にはめられた金属を指差しながら、リードスに聞いた。
「ああ、結婚の証だ!」
にこやかに言う、リードスにジェムは固まった。
(どう見ても・・犬の首輪にしか見えないんだけど・・・。)
「気に入ったか?あたしの父もそうやって、証をつけて母にくっついていたなぁ」
(ああ、義理父!!!あなたの意思は私にも痛いくらい分かります!!)
「泣くほど嬉しかったのか?ジェム・・・・お前、可愛いな。」
「リードス・・・、あの、昼間ですよ。ほら、魔窟からなんか出てきてま・・・・んぅ」
(まあ、結界があるから、大丈夫か。魔王でも出てこない限り、心配ないです。)
と、甘い誘惑に落ちて行くジェムであった。
それから、ジェムとリードスの息子。魔法剣士となったジェリスが世界を救っちゃうよ!
と、展開するけど、それは別の話。
こんな話。はじめは、息子ジェリス君の話から始まったのに、なぜかご両親様いらっしゃ~い!になってしまいました。
読んでいただきまして、ありがとうございました。