火星よりひと言
いつもお読みいただきありがとうございます!
今回は極限の火星を舞台にした、短編のSFホラーをお届けします。
迫り来る不穏な空気とラストの展開を楽しんでいただけたら嬉しいです。ぜひ最後までお付き合いください!
小型艇は、砂嵐に遭遇し、砂埃が当たることによる酷い振動によって船内がの刻みに揺れていた。
ランチをここまで運んできたビークル(推進装置)は、遥か上空に待機したままだったが、いつ風に流されるかもわかったものでらなかった。
火星の表面はいつになく腫れているようだった。チュウ=寺本は、腕組みをした。
−70℃の大気は船内にも容赦なく影響を与えていた。まず、船内の気温は空調と防寒服の耐熱性能をかんあんしてもまだ、−20℃を下回るほだった。
チュウ=寺本船長は、着陸地点を探していた。レーダー技師のポール・マクシミリアンに、レーダー探知システムは任せきりであった。採光窓からは、地球の大気内よりも暗い太陽が覗いていた。
「……見えました! 視界開けます!」
ポールが叫んだ。レーダーのノイズが晴れ、採光窓の先には砂嵐を突いてそびえる、漆黒の巨大な建造物が現れていた。地球上のいかなる様式とも異なる、異形にして整然とした遺跡。
「信じられん。未確認の人工建造物か……」
寺本は生唾を飲み込み、操縦桿を握り直した。−20℃の冷気の中で、手のひらに嫌な汗が伝わる。ビークルから切り離されたランチの推進力では、この急降下を制御しきれない。半ば祈るような心地で、船体を遺跡の平坦な屋上へとしがみつかせるように着陸させた。
激しい衝撃とともに砂埃が舞い上がり、静寂が訪れる。船体を叩く砂粒の音だけが、不気味に響いていた。
「着陸成功だ。ポール、外気圧と大気成分をチェックしてくれ。それと……上空のビークルに現在地を通信だ」
返事がない。
「ポール?」
寺本が振り返ると、ポールは操作パネルに突っ伏したまま動かなくなっていた。防寒服の隙間から覗く首筋は紫黒色に変色し、凍りついている。
「おい、冗談だろ……!?」
駆け寄ろうとした寺本は、自分の足元に違和感を覚えた。船底の金属板が、かすかに、だが確実に「うごめいて」いる。
慌ててモニターへ目をやると、レーダー技師の席を示すセンサーは、ずっと前から「生体反応ゼロ」を示していた。ポールは船内に入った時点ですでに息絶えていたのだ。
では、さっきまで寺本の横でレーダーを操作し、声を発していたのは誰だったのか。
ミシ……ミシ……。
耳元で、凍りつくような冷たい吐息が聞こえた。
「船長、外気チェック……完了しましたよ」
背後から聞こえたのは、ポールの声だった。だがそれは、1つの声帯から出ているものではなかった。数百、数千の微小な何かが重なり合って作り出された、合成音のような不快な残響。
寺本が恐る恐る振り返ると、そこにあったのはポールの死体ではなかった。
ポールの防寒服を内側から突き破り、無数の黒い「砂粒」が、人間の形を模して蠢いていた。その砂の顔が、ニヤリと歪む。
「−70℃の大気は……船内にも……容赦なく……」
砂粒たちは、寺本の声を、ポールの声を、模倣しながら船内へ溢れ出していく。
火星の表面が「腫れている」ように見えたのは、砂嵐などではなかった。何億年もの間、飢えに耐えかねて蠢いていた、知性を持つ無数の微小病原体——その「群れ」そのものだったのだ。
寺本が悲鳴を上げる間もなく、黒い砂は彼の口と鼻から、身体の内側へと雪崩れ込んでいった。
◇
数分後。遥か上空に待機していたビークルの通信機が、ランチからのシグナルを受信した。
『こちらランチ。着陸成功。異常なし。……これより、ビークルへの帰還を開始する』
通信に応答した寺本の声は、どこか少しだけ、歪んでいた。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
迫り来る恐怖とラストの展開、いかがでしたでしょうか?
「面白かった」「ゾッとした」など、ぜひ感想や評価で教えていただけると嬉しいです!
次作もどうぞお楽しみに!




