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新たな輝き

事件から半年後、学院では年に一度の「パートナー・トーナメント」が開催された。


このトーナメントは、メイン系とサポート系がペアを組んで総合力を競う大会で、全国の魔法学院から選抜された精鋭たちが参加する。優勝ペアには王立魔法騎士団への推薦状と、高額の奨学金が授与される名誉ある大会だった。


当然のことながら、私とアリスのペアも学院代表として出場することになった。


「緊張しますね」


控室でアリスが呟いた。彼女ほどの実力者でも、全国大会となると緊張するものらしい。


「大丈夫」私は彼女の手を握った。「私たち、今まで一度も失敗したことないでしょう?」


アリスが微笑んだ。確かに、この半年間で私たちのペアが失敗した課題は一つもない。お互いの魔力を完全に理解し合い、息の合った連携を築き上げてきた。


しかし、今回の相手は手強かった。決勝戦まで勝ち進んできたのは、王都の名門セント・アーカディア魔法学院の3年生ペア、ヴィンセント・アッシュフォードとミリアム・グレイソンだった。


ヴィンセントは雷系魔法の天才として全国に名を知られ、ミリアムは王家の血を引くサポート魔法師として宮廷でも一目置かれている。年齢も実力も、明らかに私たちを上回っていた。


「正直に言うと」私はアリスに向き合った。「勝てる見込みは低いと思う」


「リーナさん?」


「でも、それでも構わない」私は続けた。「大切なのは、あなたが最高の力を発揮できること。結果がどうであれ、私はあなたを全力で支えるよ」


この言葉は、田中健太の記憶には絶対に言えなかったものだった。彼なら「絶対に勝つ」「1番を取る」という言葉しか口にしなかっただろう。


しかし今の私にとって、勝敗よりも大切なものがあった。アリスが持てる力を全て発揮し、満足できる戦いができること。それこそが真の目標だった。


アリスは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに決意に満ちた笑顔に変わった。


「違います、リーナさん」彼女が首を振った。「私たちが最高のペアになることが大切なんです。勝敗じゃなくて、二人で一つの完璧な魔法を作り上げること」


彼女の言葉に、私は深く感動した。アリスも私と同じ境地に達していたのだ。


決勝戦の会場は、王都の大闘技場だった。3万人の観客が見守る中、私たちは闘技場の中央に立った。

相手のヴィンセントとミリアムは、さすがに3年生らしい風格と実力を感じさせる。特にヴィンセントの纏う魔力は、これまで対戦してきたどの相手よりも強大だった。


「それでは、決勝戦を開始します!」


審判の声と共に、戦いが始まった。


ヴィンセントの雷魔法は圧倒的だった。空中に巨大な雷雲を生成し、そこから無数の雷撃を放ってくる。それをミリアムのサポート魔法が精密に制御し、まるで雷の嵐のような美しくも恐ろしい攻撃を繰り出してくる。


私たちは劣勢に回った。アリスの炎魔法も素晴らしいが、ヴィンセントの雷に比べると威力で劣る。私のサポート魔法でアリスの炎を増強しても、相手の攻撃を完全に相殺することはできない。


観客席からは、既に勝負が決まったかのような声が聞こえてくる。確かに、実力差は明らかだった。

しかし、私は諦めなかった。


田中健太の記憶なら、この時点で「やはり駄目だった」と絶望していたかもしれない。しかし今の私には、アリスがいる。彼女を最高の状態で輝かせるために、私はすべての力を注ぎ込んだ。


「アリス、信じて」


私は彼女の手を握った。二人の魔力が共鳴し、これまでにない深いレベルで同調していく。


「『グランド・エンハンス』!」


私が展開したのは、これまでで最大規模のサポート魔法だった。自分の全魔力をアリスに注ぎ込み、彼女の炎魔法を極限まで増強する。


アリスの炎が変化し始めた。普通の赤い炎から、オレンジ、黄色、そして白へと色を変え、さらに虹色の光を纏い始める。その美しさは、まるで天使の翼のようだった。


「これは...」


観客席がどよめいた。魔法の専門家たちも、これほど美しい炎魔法は見たことがないと驚嘆している。

アリスの虹色の炎が舞い踊り、ヴィンセントの雷雲を包み込んでいく。雷と炎が激しくぶつかり合い、闘技場全体が光に包まれた。


その瞬間、私は完全に理解した。勝敗など、もはやどうでもいい。この美しい魔法を、アリスと一緒に作り上げることができた。それだけで十分だった。


やがて光が収まると、ヴィンセントとミリアムが立っていた。彼らの連携も見事で、最後の最後で私たちの攻撃を防ぎ切ったのだ。


結果は——2位だった。


でも、私は初めて心から満足していた。


アリスが人生最高の魔法を放つ瞬間を支えることができた。彼女の虹色の炎は、会場にいた全ての人々の心に深い感動を与えた。それで十分だった。


表彰台で2位のメダルを受け取りながら、私は観客席を見回した。スタンディングオベーションで私たちを称える人々の姿が目に映る。


「リーナ」アリスが私の手を握った。

「私、あなたと組めて本当に幸せでした」


「私もよ」私は心から答えた。

「アリス、あなたの炎は世界一美しかった」


優勝したヴィンセントとミリアムも、私たちのところにやってきた。


「素晴らしい戦いでした」ヴィンセントが握手を求めてきた。「特に最後の虹色の炎は、生涯忘れることができないでしょう」


「あなたのサポート魔法も見事でした」ミリアムが私に言った。「同じサポート魔法師として、とても勉強になりました」


彼らの称賛に、私は素直に喜びを感じた。田中健太の記憶なら、負けた相手からの慰めの言葉など聞きたくなかっただろう。しかし今は違う。互いの健闘を称え合うことの素晴らしさを理解している。


大会後、私たちは学院に戻った。準優勝という結果に、学院全体が沸いていた。特に1年生ペアがここまで勝ち進むことは前例がなく、教授陣も驚嘆していた。


「フォレスト、ハートウィン、よくやったな」


グレイソン教授が珍しく笑顔を見せた。かつて私をサポート科に転科させた教授だが、今では私の能力を認めてくれている。


「君たちの今後が楽しみだ」


その夜、私は一人で学院の屋上に上がった。夜空には相変わらず一番星と二番星が輝いている。


田中健太は、いつも1番を目指して苦しんでいた。しかし今の私、リーナ・フォレストは違う。誰かを支え、誰かを輝かせることで、自分なりの1番を見つけることができた。


性別が変わり、世界が変わり、価値観も変わった。でも、そのすべてが私を今の私にしてくれた。


「永遠の2番手」——それは呪いではなく、祝福だったのだ。


卒業まであと2年。私はこの期間を使って、サポート魔法の技術をさらに磨いていくつもりだ。そして卒業後は——




「王立騎士団のサポート魔法師になろう」


私は空に向かって宣言した。騎士団長を支え、仲間を支え、国を支える。そんな未来に、心から期待を寄せている。


空に輝く二番星のように、一番星を支えながら、自分だけの光を放つ。それが、私の新しい生き方だった。

次はエピローグになります。

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