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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ヒロインが絶対に負けない異世界ハーレム

※この作品はハーメルン、カクヨムでも投稿されています。

「ウェールスさん、待って!ハーレムを作るのは……!」


 僕の仲間にして婚約者のリアが、部屋の隅で縮こまっている栗毛の少女に目を向けた。


 少女の名はミーディ。獣人、無学、元奴隷、犯罪歴ありときたら、普通の人間なら関わりを避ける相手だろう。ただし。

 

「……構いませんが、恋人を増やすなら私よりも容姿と頭と性格が悪くて不器用で戦闘能力の低い女にしてください!あと、非処女で!」


「善処するけど、君より性格が悪い女性は多分無理だよ……」


 手入れの行き届いた銀髪を靡かせるリアは、普通とは程遠い感性の女性だった。


「と言うか、恋人を増やすのは良いんだ……」


「体質的に仕方ない部分もありますから、正妻の私に事前報告があれば許します。事後は駄目ですよ、事後は!」


「理解してくれて助かるよ」


 僕の体質に関する問題。僕は魔法を行使する為に必要なマナを生み出す素質が高い。……いや、高過ぎる。


 マナは万能のエネルギーなので、本来ならば歓迎される体質なのだが、僕の場合は違う。体内に溜まったマナの発散が日常的に使われる程度の魔法では追い付かないのだ。


 マナが過剰に蓄積されると、僕は正気を失ってしまう。それを防ぐ方法は1つ。


 この世で最も神に近く、代わりに最も燃費が悪いと謳われる【夜魔法】。


 その中でも特に異質な魔法──【夜権】を使って、マナの蓄積容量が大きい女性に譲渡するしかない。

 

 しかし、僕のマナ精製量は未だに成長を続けており、もはやリア1人の体では受け止める事が困難になっていた。


「正妻、正妻、正妻。事後、事後、事後」


「その異国語学習みたいな繰り返し、やめようか」


「ん、セイサイ」


「ほら、ミーディも真似しちゃった」


 彼女は正規の教育を受けていない為、複雑な言葉は扱えない。正妻という単語を知らなくてもおかしくないだろう。


「いーや、この女は確信犯ですよ、絶対!語学に疎いフリを続けて、徐々に既成事実を作り上げ、私から正妻の座を奪おうという意思が目の奥に宿っています!」


「ミーディの眼球から読み取れる情報量が多過ぎない?複眼でもそこまでの文字数は入らないよ」


「ん、私が、ウェールスの、セイサイ?」


「正妻をナメるなー!風魔法・微風!」


「あーーーーーー」


 容姿端麗、スタイル抜群、頭脳明晰、戦闘まで器用にこなせるリア。誰もが羨むハイスペック才女でありながら、どうしてそこまで他の女性を警戒するのか。


「と言うわけで、ミーディさんの言語教育は私が担当します。ウェールスさんと1対1の個人授業などさせませんよ!」


「それはありがたいけど、真面目にやってね?足の速いミーディには斥候として単独行動して貰う事も多くなるから」


「任せてください!次の目的地に辿り着くまでには、エルフの王族だろうとレスバで打ち負かせる怪物に仕上げておきます!」


「なにそれ、怖い」




 それから暫く、3人で親交を深めながら先へと進み、特に問題なく目的地に到着した。


 僕のマナを吸収できる相手が増えた事でリアも疲労せずに済み、結果的に移動速度は以前より格段に向上している。問題は。


「ん、効いてて草」


「こっ、この畜生風情が!調子に乗りおって!ワシを誰だと心得……ぐはぁっ!」


「おやー?獣人差別ですか?呆れましたね。今時流行りませんよ、差別なんて」


「トラブルの種も増えてるなぁ……!」


 女性陣に煽られながら、ワインになる前の葡萄もかくやと言うほど、丹念に全身を踏まれている貴族のおじさん。


 国際問題待ったなしの光景を見せられて、僕は溜め息を吐くしかない。


「ざーこ、ざーこ」


「貴様ら、ただで済むと思うなよ!ワシのバックにはあの魔王軍の……!ッ……!」


「はい、自白確認。拷問するまでもない馬鹿で肩透かしでしたね。せっかくなので、記念に爪1枚くらい剥がしておきます?ネイルアートの練習用として」


「猟奇的だなぁ。まあ、自白してくれて良かったよ。ここまでやって冤罪だったらどうしようかと……」


 僕の言葉に2人が頬を膨らませた。


「私の捜査に手抜かりがあるはずないでしょう!私の扱う風魔法は盗聴・変声・撹乱に優れた世界一高度な魔法なんですよ!」


「ん、ミーも世界一の俊足って呼ばれてる。速さこそが有能」


「ふっふっふー、最近は私に追い付かれ始めましたけどねー!」


「それは、風魔法で体を押し出してるだけ。短距離でしか使えない裏技」


「私が長距離走向けの魔法カスタムに成功した時、ミーディさんが果たしてどう言い訳するのか……今から楽しみですね!」


「は?言い訳じゃない、事実。初めはリアの方が全然遅かった癖に、生意気」


 2人が細腕をぐるぐる回してポコポコ殴り合う。と見せかけて、リアの左手だけが執拗にレバーブローを叩き込んでいた。君さぁ……。


 それにしても、随分と早く打ち解け始めている。ぶっちゃけ、僕とリアは人付き合いが苦手なので、もっと余所余所しい関係になると思っていた。


 なんなら、名家出身の僕達が各地を飛び回る権利を与えられた裏には、「ボッチを国内の要職に任命するのはちょっと……」という思惑があったのではないかと邪推している。


 もしくは、問題児過ぎるリアのやんわり国外追放に僕も巻き込まれたのかな。


 実家の連中は大嫌いなので清々したが、人格者の国王にまで暗に帰ってくるなと言われたのは結構キツかったよ。


「くっ、何故だ!何故、魔法が使えない!」


「やっぱり便利ですね。ミーディさんの消魔法」


「ん、リアの魔法に比べたら、この程度は発動前に打ち消せる」


 ミーディの魔法属性は特殊だ。魔法を消滅させる事に特化した魔法。


 持ち前の身体能力と組み合わせれば、魔王や配下の四天王にも通じる可能性がある。正直、そういう打算もあって騎士団に迎え入れた。


「魔法使いとして無名でありながら、その強さ……貴様ら、まさか!ニゲル王国のリベルタス特撃騎士団……!?」


「悪いけど」


 僕は背中に担いだロングソードを鞘ごと振り下ろして、おじさんを気絶させた。


「──なんて呼ばれてるかは知らないんだ。僕は友達が少なくてね」


 


 一仕事終えると、リアが何か言いたげな顔をしている。


「女は片っ端から口説き落としますけどね」


「冤罪だよ」


「はぁ……。予言しましょうか。この騎士団(ハーレム)は最低でも10人を超えます」


「えぇ……?いや、騎士団を名乗るからにはそれくらいいた方が自然だけど、僕達みたいなはぐれ者がそんなに集まるかな?」


「集まりますよ。書類審査と面接が必要ですね。まず、私が一次面接を行って、イエスマン以外は弾きます」


「最悪の職場だぁ……」


 僕の夜魔法よりもブラックだよ。


「自己アピールで潤滑油とか宣う輩も落とします!我がハーレムは即戦力を求めているので!」


「恋人候補を選別するのは気が引けるなぁ……。実家のお見合いを思い出して、微妙な気持ちになるんだけど」


「揉み合い!?」


「ごめん、ちょっと落ち着こうか」


 駄目だ。リアの思考がピンクモードになってる。桃リアだ。


 色違いバージョンとして、マジギレして破壊神と化した赤リアや、一周回って冷静になった青リアなどがある。


 そして、彼女はこれら全てを『女の子の日』の一言で強引に押し通していた。


 まあ、リアに女の子じゃない日はないので、嘘は言っていない。言っていないが……何だろう、このグレーゾーン詐欺感は。


「グレーゾーンならぬ、デリケートゾーン詐欺ですね!」


「リア、そうやって思った事をそのまま口に出すのは……」


 僕は跳び跳ねるリアの頭を押さえて言った。


「僕と一緒にいる時だけにしてね?」


 トラブルになるからね。本気で洒落にならない感じの。


「じゃあ、一生やめられませんね」


「僕のフォロー力も万能じゃないんだけどなぁ……」




 隣を歩くリアが僕の目に杖を向けてきた。


「風魔法・微風!」


 プシュッ。


「うわぁ!脈絡のない地味な嫌がらせ!」


 僕の目を乾燥させて何が楽しいんだろう。


「正統派ヒロインっぽい女が歩いていたので、貴方の視界から外そうかと」


「それで目の方を潰すのはどうかと思うな、僕は」


「ちっ、女の方を潰すべきでしたか……」


「発想が怖いよ」


 そんな馬鹿話をしていると、ミーディが上目遣いで僕の袖をぐいぐい引っ張った。彼女は何か言いたい時にこうする癖がある。


 最近はリアも対抗して引っ張ってくるので、袖が千切れないか心配だ。


「ん、そう言えば、リアは昔からこんなねじ曲がった性格?」


「いえ、初期リアは初心な小娘でしたよ。信じて送り出された学校で、ウェールスさん色に染め上げられました。およよ」


 初心……?


「君は最初からこんな感じだよ、リア。出会い頭に遺物で殺そうとしてきた事、忘れてないかな?」


 僕はリアの手に握られた豪奢な装飾の杖を指差す。


 遺物。それは自らマナを生み出す特別な魔法道具。彼女のような適合者が扱う事で、一国の切り札になるほどの奇跡を引き起こす。


 断じて、初対面の相手をボコる為に使ってはいけない。


「忘れてはいませんが、都合が悪くなりそうなので話を換えますね!」


「なるほど、僕には人権がないのか」


「良いじゃないですか、ウェールスさんの1人や2人。減るもんじゃあるまいし」


「ねえ、どこかで量産型ウェールスシリーズの研究とか進んでる……?」


 ミーディが尻尾を揺さぶって、僕の足をぺちぺち叩いた。


「ん、また2人の世界に入ってる」


「当然です!正妻ですから!」


「ごめん、ごめん、気を付けるよ」


 ああ、この騎士団は良いな。息が詰まりそうだった実家とは大違いだ。


 魔王軍との戦いは長丁場になりそうだが、僕達ならきっと戦争を終わらせられる。




 リアとミーディが行方不明になったのは、翌日の事だった。


「リア」


 状況を理解した僕は、とても冷静に。


 冷静に、冷静に、冷静に。


 普段は極限まで抑制している莫大なマナの全てを解放した。


『……』


 僕の正気が何かに塗り潰されていく。


 ──夜が、来る。




 リアは自分が嫌いだった。


 彼女の人生で一番の不幸は、王国が管理する遺物の杖に適合してしまった事だろう。


 最初はリアも喜んだ。握った瞬間から体の一部のように馴染んだ杖は、1人に1つ与えられる魔法属性の枠すら飛び越えて、様々な魔法を自分のものにできる。


 致命的な問題に気付いたのは、少し時間が経ってから。


 ──彼女は、本心を口に出さずにはいられない体質になっていたのだ。


 模範的な貴族令嬢として、建前の仮面を被って築いてきたリアの人間関係が崩壊するまでは、実にあっという間だった。


「イブツ、ユウカイ……。マオウサマ、ノ、メイレイ……」


 くぐもった声。幾重にも巻かれた襤褸布の隙間から、赤い瞳が見える。背中からは異形の翼が生えていた。


「四天王ですか。予想以上に魔王軍のフットワークが軽いですね」


 誘拐犯に火魔法をぶつけ、風魔法で華麗に着地したリアは油断なく構える。


「頼んでもいない足役をどうもありがとう。次からはもう少し縦揺れを軽減してください。……次があれば、の話ですが」


 この段階で四天王クラスとは、なかなか厳しい相手だ。足取りを残したつもりはなかったが、魔王は一枚上手だったらしい。


「その前衛的なファッション、ミステリアスだとか勘違いしちゃってます?普通にダサいので勉強し直した方が良いですよ」


 リアは遺物を所有する代償として、本心を吐き出す事をやめられない。だから、せめて敵への精神攻撃に使ってやろうと決めている。


「ユウカイ、シッパイ……。ヨクワカラナイ、カラ、コロス……」


「四天王の癖にマニュアル対応しかできないんですねー。学生気分ってヤツです?コネだけで出世すると後々困りますよ」


 彼女の舌が普段以上に回り、流れるように毒を吐き出す。これでも婚約者の前では加減しているのだ。


「……愛してますよ、ウェールスさん」


 全て言い切ってしまうと、一番恥ずかしくて一番大切な本心が溢れてしまうから。リアにはまだ、最愛の人にそれを伝える勇気がなかった。


 四天王との1対1で自分が死なないと思うほど、リアは楽観主義者ではない。告白を先延ばしにして、彼の優しさに甘え続けた事を少し後悔した。


「馬鹿みたいですね、私。だけど、ここで死んであげるわけにはいかないんですよ。全属性・飽和連鎖爆撃!綺麗な虹にしてあげます!」


 リアの杖が光る。あらゆる属性の魔法が混ざり合い、空間がひび割れて哭いた。


 虹色の幻想的な破壊の嵐が、四天王へと迫る。


 ──刹那。四天王が何かを盾にするように、自身の前へと突き出した。


「子供!?」


 リアは咄嗟に魔法の軌道を修正する。それは、致命的な隙だった。




「ミーディ!貴様、どうやって首輪を破壊した!?」


「ん、元々ゲスな人だったけど、私欲の為に魔王軍の四天王と手を組むとは見損なった」


 ミーディを拐ったのは、彼女の元奴隷主だ。名前は覚えていない。飼い主を自称していたので、心の中ではそう呼んでいる。

 

「ミーが奴隷時代に首輪を破壊しなかったのは、逃げても帰る場所がなかったから。ここで捕まってた方がマシだっただけ。でも、今は帰る場所がある」


 ミーディは短剣の切っ先を飼い主に向けた。


「リベルタス特撃騎士団の一員として、貴方を制圧する」

 

「……俺を倒しても無駄だ。四天王から標的にされた時点で、貴様らは終わっている」


「大丈夫。リアは絶対に負けない」


 奴隷時代はあんなに恐ろしく感じていた飼い主。だが、今は哀れにすら思えた。


「リアは勝つまで諦めないから」


「そんな意地に何の意味がある?どんな天才も負ければ終わり。戦場とはそういうものだ。……貴様のようにな」


「意味はある」


 ああ、本当に哀れだ。


「リアには守り神が付いてる。魔王よりもずっとおっかない、本物の神が」


 


 昔々、ニゲル王国の周りに広がる渓谷に、夜の神が住んでいました。


 神は魔法使いが束になっても敵わない力を持っており、そのせいで多くの人々に狙われていました。


 そんな人間達の欲深さに嫌気が差した神は、渓谷に閉じ籠っていたのです。


 ある日、渓谷の入り口に虹がかかりました。どうやら、1人の少女が魔法で虹を出しているようです。


『なんだ、アレは?』 


 その美しい虹が気になり、神は少女に近付きました。


『君は何故、そんな真似をしている?』


『それは……』


 少女はニヤリと笑いました。


『貴方を捕まえる為です!とりゃーっ!』


 少女は返り討ちに遭いました。


『えーん、えーん』


『僕の方が被害者なんだけど……』


 神が泣きじゃくる少女の話を聞くと、彼女は町で迫害を受けていたそうです。この時代のニゲル王国には銀髪の人間が珍しく、それ故に不吉の象徴とされていました。


 彼女が貴族の娘でなければ、処分されていたかもしれません。


 神も自身の悩みを打ち明けました。皆が神の力を利用しようとして嘘を吐く。普通に暮らしたいだけなのに、何が本当の事なのか分からなくなってしまった、と。


 少女は深く頷き、指を立てて提案しました。


『それなら、私が貴方を利用します。この国の守り神としての役割を与えましょう。代わりに、私の全てを偽りなく捧げる事を、この杖に誓います』


『僕の力を求める愚かな人間達を、君は止められると言うのか?』


『止められますよ』


 少女は胸を張って断言しました。


『私よりも性格の悪い人間がいると思いますか?』


『は、はは、それは確かに』


『直ぐに肯定されると、それはそれでムカつきますね』


『君は正直者だな』


 幾度もの対話の末。少女は夜の神に寄り添い、心の扉を開きました。


『1つだけ、条件がある』


 神は言いました。


『君に命の危機が訪れた時、何よりも優先して駆け付ける事を許してくれ』


 ──『夜と虹の神話』より抜粋。




 暗闇が広がる。幾つもの国々が【夜】に侵食されていた。


 ニゲル王国の王宮も例外ではない。

 

「誰だ?誰が刺激した?しかも、この規模は……あの時よりも格段に成長しているではないか!よもや我が国にまで【夜】が届こうとは!」


 国王は自身の失策を悔いた。魔王の討伐を目的として結成した少数精鋭のリベルタス特撃騎士団……というのは、あくまで対外用の口実。


 国王の真の目的は【夜の神】を自国から遠ざける事。それに尽きる。


 ウェールスの膨大なマナを利用しようと目論む貴族達や彼の実家の人間と違い、国王は御し切れない神に手を出すほど愚かではない。


「彼を御せるのはリア君だけだ。自由と理解者。彼は求めるものを既に手に入れている。……やはり、リア君に何かあったと考えるのが妥当か?何にせよ」


 国王は蒼白な顔で呟く。


「──神の降臨だ」

 



 リアは襤褸布を着た四天王に首を絞められていた。


「クチノワリニ、ヤサシイ、ニンゲンダナ……。コドモヲ、カバッテ、カチヲ、ステルトハ……」


「幻を見せる魔法ですか……。私とした事が、まんまとやられましたね……」


「ケイイ、ヲ、コメテ……。セメテ、ラクニ、コロシ……」


 フッと。深夜に蝋燭を吹き消したように、全ての光が消えた。


『リアに触るな、虫けら』


「けほっ、けほっ……」


 リアの咳き込む声が、離れた場所から聴こえる。そこで、四天王はようやく気が付いた。


 彼女を拘束していた腕が、根元からなくなっている。


「ウ、デガ……!?」


『──【千夜一夜】』


 全てを呑み込んで、夜が脈を打つ。


「……!ハダガ、イタム、ホドノ、マナ……!コレハ、マルデ、マオウサマノ……!!」


 四天王が最後まで言い切る事はなかった。ウェールスがここに来る道中で倒した配下と同じく、両者の間には隔絶した差がある。


 戦闘そのものが成り立たないほどに。


「あ、あああああああっ!」


 一方的な蹂躙を終えたウェールスは、意識から【夜】を追い出そうとして叫ぶ。


 リアを助ける。はっきりした目的を自らに課す事で辛うじて保っていた正気が、行き場を失って暴走し始めていた。


「光魔法・聖光。風魔法・纏風」


 一瞬だけ闇を押し退けられる程度の儚い光と、ウェールスのマナから身を守るには弱々し過ぎる風の鎧。リアはそれだけを頼りに彼に抱き付いた。


 自殺行為だ、とまともな魔法使いなら言うだろう。だが、リアに恐れはなかった。


 事実、マナの嵐に巻き込まれながらも、彼女の肌には傷1つない。


「戻ってきてください、ウェールスさん」


 唇が重なる。リアの体が溢れ出るマナを受け止め、不自然な【夜】を終わらせていく。


 口付けを終えて体を離すと、ウェールスが苦笑いしていた。


「ふふ、またウェールスさんの弱みを握ってしまいました」

 

「君は本当に性格が悪いなぁ」


 眠ってしまいたくなるような疲労感が襲ってくるが、互いの体を支えて持ち堪える。もう1人の仲間を探しに行かなくてはならない。


「それが唯一無二のチャームポイントです。この世に私よりも性格の悪い人間がいると思いますか?」


「はは、それは確かに」


「直ぐに肯定されると、それはそれでムカつきますねー!」


 2人は笑い合った。




 四天王の1人が討伐された。その報は瞬く間に全世界に拡散し、王国では連日会議が繰り広げられている。


 ……らしい。僕は知らないよ。国王から最低限の連絡が来ただけで、相変わらず政治の中枢からは除け者にされている。


 そう言えば、今回の国王からの手紙はいつもより誤字脱字が多かったな。文字も震えてたし。やっぱり、調子に乗った国内の馬鹿貴族共を押さえ込むのが大変なんだろう。


 そんなに忙しいなら、僕なんかにわざわざ手紙を送って来なくても構わないんだけど、地位に傲らない律儀な人だ。


 ああ、ちなみに、僕が今どうしているのかと言うと……。


「旦那様ぁ♡」


 金髪のエルフに抱き着かれていた。

 

「ちょっ、この流れは流石におかしくないですか、ウェールスさん!おまっ、お前っ!既婚者って話は何処に行ったんですか!?先立った旦那に悪い、みたいな人の心……いや、エルフの心とかないんですか!?」


「うるさいヒューマンですねぇ。私は新しい恋に生きる事に決めたんですぅ」


「この女……っ!あのですね、良い機会だから言っておきますけど!」 


 リアが両手で女性陣を勢い良く指差す。


「あくまで、貴女達は非正規のハーレムメンバー候補ですから!騎士団の仲間としては歓迎しますけど、その事を忘れないように!正妻の私に勝ちかねないスペックの間女とか、絶対に認めません!」


「あ、このワイン美味しいね」


「でしょぉ?」


「ちょっと!ウェールスさんも他人事じゃないですからね!」


 ビシッと僕にも矛先が向けられた。


「ハーレムを広げるのは構いませんが、恋人を増やすなら私よりも容姿と頭と性格が悪くて不器用で戦闘能力の低い女にしてください!あと、非処女で!」


「善処するけど、君より性格が悪い女性は多分無理だよ……」


 ──だから、僕には君しかいないんだ。

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