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第一話:出来損ないで親不孝

 朝になった。

「ぅぅう、眠い……」

(ここから始まるんだ。僕が憧れてた英雄の伝説が!)


……


「え?」


「なんで……いや、なんで。僕は平均的に割り振ったはずだ。なのになんで……移動速度以外、全部ゼロ……」


(聞いたことがある。悪い子にはある特定の項目以外は、すべて0に神が書き換えてしまうって……)

「僕、なにもわるいことしてない! 神様! 僕はなにもしてない。ただ、この世界に貢献する英雄になりたかっただけ! 本当に何もしてない……ぁああ」


「どうした! ユウマ!」

「お父さん……?」

「どうしたんだ!」


(涙止まれ! 止まれ!)

「ううん、なんでもないよ」

「……虫か? どうしたんだ。そんなに泣いて。入るぞ?」

「だめ! 今は一人にしてよ!」

「……」


(もしかしたら、僕はなにか悪いことをしてしまったのかもしれない)

「ごめんなさぃ、神様……ごめんなさい……」


ドアの後ろには、不敵な笑みを浮かべるアキトの姿があった。





 「朝食の時間よ。ユウマ!」

「う、うん。そろそろいく」

ユウマはお父さんの寝室から出て、ゆっくりと重くてだるい足を進めていった。


「お父さんにはなんて言おう……」


「ユウマ! 朝からそんなだらけてちゃいかんぞ! 結局、部屋には何がいたんだ? 虫か? お化けか?」

「う、うん、そんなところ……」

「昨日はあんなにウキウキしてたじゃない!」


すると父さんはなにか思い出したかのように、勢いよく立ち上がった。

「ぁあ! そうだユウマ。今日、試しに行こう! 魔物を狩りだ!」

「ぇ?」

「まだ天から与えられた能力と才能を今日発揮してみないか!」

「ぇぇ?」

「なんだよそんなに怯えて……」

「いや、僕はその……」

「アナタ、そんなに急かすこと、ないじゃない」

「そうか?」


コンコンとリビングのドアを叩く音がした。

「朝食できたんだろ? 入っていい?」

「アキト! ようやくか!」

「うん。ちょっとね、そろそろ顔を出さなきゃなってな」

「お兄ちゃん!」

「ああ、ユウマ、久しぶり」


僕はお兄ちゃんの顔を見て驚いた。そこには、引きこもっていた人とは思えない、活気がある表情をしていた。

「ユウマと父さん、さっきの話、聞いてたよ。今すぐ試しに行ったらいいじゃないか! ほら、ユウマだって早く試したいって感じでうずうずしてるんだろ? な?」

「え、あ、ああ。……うん」

「そうだったのかユウマ! じゃあすぐに出発しよう!」

「……」






 「ここだユウマ!」

お父さんは暗くて、どこまで続くのかわからない洞窟を指さした。

「こ、この洞窟が?」

「ああそうだ! この洞窟深くに魔物が湧くんだ!」

「本で読んだことがあるよ父さん。たしか、洞窟は迷路みたいになってて、その奥深くにボスがいるって」

「やっぱり物知りだなユウマは。まあ今日は浅いところまでもぐってみるか」

「そう、だね」

するとお兄ちゃんは僕の頭を優しくなでた。

「俺は楽しみだ。優秀な弟、ユウマの力を示せるなんて」

「……うん」

(僕は期待を破ってしまうのかな……悔しい……)


「ここが洞窟の中? くらい……っヒぇ……」

「コウモリだ。これくらいで怖がってたら、世界を救うにも、救えないぞ!」

お父さんは腰を抜かした僕に手を差し伸べた。

「う、うん……」


洞窟の中はとても広く、足場はゴツゴツしていて、とても歩きにくかった。


「そろそろ魔物が……おっいたぞ! スライムだ」

「……この水色で、透き通ってるのが、スライム? 本で見たのと全然違う」

「ユウマ、こいつを倒せ」

「どうやって」

「斬るんだ。これを使え」

「いや、僕には無理ーー」

「大丈夫。お前には才能がある」

父さんは僕の背中を優しく押した。

「お兄ちゃん……」

お兄ちゃんはとても嬉しそうな表情をしていた。


「……」

剣を持ち直し、振りかざす。


「!!」


っ!?


スライムは素早く洞窟の奥深くに逃げてしまった。

(これ、僕のステータス? 自分の体が、全然動かない……剣もすっごい重いし)

「父さんごめーー」

「これくらいは普通できるはずだ。アキトだって……」

「お父さん?」

お父さんは、ブツブツと一人言を漏らしていた。


「いや、なんでもない。もう少し奥へ行こう」


進んでいくと、紫色の鉱石がキラキラと輝いていた。


「きれい……」

「……」

「お父さん?」

「アキト、あのスライムを見本で倒しなさい」


「はい」

僕はお兄ちゃんに剣を渡した。お兄ちゃんの構えは12才とは思えないほど、綺麗だった。


一瞬……一瞬でスライムを剣で薙ぎ払った。


「す、すごい!」

僕が必死に握っていた剣が、お兄ちゃんの手にかかれば、まるで紙をきるように軽々と扱われてる。

「さすがアキトだ。だが、これくらいはできてもらわなければ、平家の恥だ。できるよな。優秀なお前なら」

「う、うん」

僕はアキトからもらった剣を強く握った。そして真似するように剣を構える。


(もっとお兄ちゃんは腰を低くしてた……)


……!! 今だ!


僕の剣先はスライムを捉えた。


「!?」


しかし、スライムは俊敏な動きでまた奥へと潜ってしまった。


「ごめんなさいお父さん。次はもっと……」

「……帰るぞ。スライム一匹も無理か。お前に才能を感じていた俺がバカみたいだ」


今にも泣き出しそうなユウマに、アキトが励ますように言った。

「父さん。まだこいつは五才だ。まだまだ成長はする。だから、大丈夫だよ。ただ、今はできなかった

ってだけでさ」

「……ああ、そうかもな」

「お兄ちゃん」

僕は助け舟を差し伸べてくれたお兄ちゃんを見た。でもその目は笑っていた。不敵に。





 「ただいまー」

「アナタおかえり! どうだった。怪我はない? 大丈夫?」

「まあまあ、そこら辺は後で離すとして……ご飯! ご飯は!?」

「ええあるわよ。先に座っておいて……」

僕はお母さんのご飯へ逃げるように駆け足になった。

「待ってユウマ」

「なに? お母さん」

「……あなたの枕とシーツ、とっても濡れてたわよ?」

「……お父さんじゃない?」(泣いた時にできたからかな)

「……お父さんは普段、あそこで寝ないの」

「あーえっと、思い出した。昨日、とってもいやな夢を見たんだ。だからそれで……」

「へー。じゃあ、これも?」

「!?」

お母さんが後ろで隠し持っていたのは、僕のステータス項目だった。


「なんでそれを……」

「あんたのシーツを洗おうとしたら、枕の後ろに隠してあったのよね……」

「……」

「忌み子ね。アナタ……今すぐ来て。確認したいことがあるの」

お父さんはリビングから駆け込んできた。「どうした? なんかいやなことでも……!?」


「ユウマ。お前、これ書き直したのか?」

「いや、僕は書き直してなーー」

「ユウマ!!」

「……僕は、なにもしてないんだ……」

「ああ、そうか。悪魔か。なら教会につれていくぞ」

「なんで、なんで」

「大人しくしなさい!」

父さんは勢いよく僕の頬を叩いた。


「なんで、え?」

いつもしゃがんで、同じ目線で話してくれる父さんと母さんは、もういないことに気がついた。

「あんたには魔物の意思が取り付いてるのよ。その証拠にこの一点張りのようなステータス。だからそれを教会で取り除いてもらわなきゃ」

「ああそうだな。」


(お父さん、お母さん……そんな顔しないでよ。ゴミを見るような目で僕を……)


「教会で、何をするの?」

僕は涙絡みながら聞いた。


「死ぬんだ。時に死は、悪魔が取り付いた人間にとって神聖なものとなる。浄化されるのだ。そして、教会に行けば、来世で幸せな生活を送ることができる」

「……なんで僕は悪魔なんかに」

「悪いことしてたやつに、悪魔は取り付くんだ。そして、その印としてステータスを神はいじると言われている」

「……いやだ、いやだ! 僕は死にたくない。まだ五才。たくさんおもしろいこととか、これから体験するんだ。だから」

「いくぞ」

「嫌だ!」

僕はお父さんに掴まれていた手を叩き飛ばした。そして玄関を出て、全速力で走った。


「森だ。森なら暗くてわからないはず!」

後ろを見るとお父さんが追いかけてきていた。父の顔は、かつてユウマを誇らしげに見ていた面影はなく、ただただ怒りに歪んでいた。

そして到底、五才の僕との距離の差は少しずつ縮まっているはずだ。


いまだ!!


僕は森へと僕は飛び込んだ。そしてコケても森の奥深くへと走り続けた。


「僕は何もやってない。なにも、なにも……」

ひたすら走り続けた。つまづきながらも、体力が切れるまで走り続けた。

僕はいま来た道を振り返った。

(もう来てない。ここまで来たら、大丈夫だと思う……)


そして大きな木の根っこ付近に座った。


「はぁ、はぁ、はぁ。疲れた」


でも……冷静になってからわかった。

僕は神に、見放されたんだと。


目から大粒の涙が溢れ出る。それは頬をつたり、服へとこびりついた。


「……っ」

くやしい。くやしい。くやしい!

僕はなにも悪いことなんてしてない。本当に、信じてよぉ……


僕の前には、さっき来た暗い洞窟が広がっていた。

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