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プロローグ:【移動速度150】の誕生

 優秀な神童と称えられ、親の期待を一身に受けて育ったユウマ。彼は、ステータスを平等に割り振り、なんでもこなせる「完璧な英雄」になることを夢見ていた。しかし、兄のアキトは、そんな弟への嫉妬と劣等感から、夜中にユウマのステータスをこっそり書き換える。


アキトが書き変えたのは、たったひとつの項目。


【移動速度 150】

 六つのステータス項目が存在するこの世界で、人々は五歳の誕生日に、合計150ポイントを特別な紙に書き込んで才能を授かる。


「ユウマ。お前には才能がある。四才でこんなにもスラスラ喋れて、掛け算や割り算もお手の物。本当にありがとうなぁ。自慢の息子に育ってくれて」

「もう泣きそうじゃない。アナタったら」


 平家(たいらけ)に生まれたユウマは、家族に囲まれて祝福される存在だった。そして今晩は五歳の誕生日。教会からもらった赤くツヤツヤした色紙に、ステータスを割り振ってもらう日だ。


「ユウマ、ステータス数値、どう割り振るんだ?」

「……そうね、気になるわ」


期待に満ちた両親の視線の中、ユウマは迷いなく、きれいに6つの項目に25ポイントずつ割り振った。


【筋力25、体力25、知力25、魔力25、防御力25、移動速度25】


「おお、平均的に割り振ったのか! あえて平均的にすることで、お前の元の努力家が真の価値を見出すってことか」


父は深く頷き、ユウマを誇らしげに見た。ユウマは嬉しくなり、その喜びを兄にも伝えたくて、無邪気に兄の名を呼ぼうとした。


「お兄ちゃーー」


しかし、父に口を塞がれる。「……だめだ。今は何かに集中してるみたいだし、呼ぶもんじゃない」

ユウマはしょんぼりと俯いた。「うん……わかったよ、ごめんなさい」。


 その夜は、ご馳走と温かい笑顔に包まれて過ぎていった。しかし、食卓に兄の姿はなかった。父と母の会話の端々から、兄が何かに苛立ち、心を閉ざしていることを四才のユウマは感じていた。


「ユウマ、今日は早く寝るのよ!」

「うん!」

「俺は少し仕事しなきゃいけないから、早く寝てろよー」


ユウマは父さんのモノクロ寝室に入り、ベッドへダイブした。

「楽しみだなぁ」

ユウマは胸に教会からもらった赤い特別な色紙を胸に当てた。


「僕はだれよりもすごいヒーローになるんだ!」

ユウマはゆっくりと目を瞑った。そして深い眠りについた。


「…………」

ユウマが眠りについた後、兄のアキトが音もなく部屋に入ってきた。ロウソクの火が揺れる中、アキトは弟の布団の横に座り込む。


「……平均的、か。つまらないな」


アキトの視線の先には、ユウマが書いたステータス紙があった。


「なんでもできるヒーローにお前はなれる!」という父の言葉が、アキトの頭の中で響く。自分は、何度努力しても弟には勝てない。平凡な自分と、優秀な弟。比較されるたびに、心に刺さるトゲが大きくなっていった。


「……ぁずるい。ずるい」


それは、嫉妬からくる歪んだ感情なのか。それとも、自分と同じように平凡な場所へ引きずり降ろしたいという醜い感情か。アキト自身にも、その答えはわからなかった。


アキトは震える手で、ユウマが書いた数値を消していく。丁寧に、一つずつ。そして、空になった項目の一番下、**「移動速度」**の欄に、残りの150ポイントすべてを書き込んだ。


【筋力0、体力0、知力0、魔力0、防御力0、移動速度150】


「これで、お前は……ははっ」


アキトは紙を元の場所に戻すと、静かに部屋を出て行った。ユウマの英雄の夢は、兄の一瞬の悪意によって、形を変えられたのだった。

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