カナリアの歌う洞窟
「この洞窟の奥には女神がいて、未練を持って死んだヤツの輪廻を助けてくれるらしいよ」
「はっ、そりゃ良いな。俺たちがここで死んでも無事輪廻の輪へ行けるってわけか」
一呼吸で人を動けなくさせるような瘴気が所々から溢れる洞窟の中を慎重に足を進めながら剣士の男と魔法使いの女の二人組の探索者がそんなことを言う。
無駄話をしながらも二人の目は油断なく辺りに配られ、魔法使いの背丈ほどもある杖から放たれる光で照らされている洞窟内を慎重に歩いている。
そうしてしばらく歩くと、魔法使いが待ってと言って進行を止めた。そして荷物から地図を取り出すと現在の位置を確認する。
「やっぱりそうだ。ここから先は不定期に瘴気が出るエリア。カナリアを出して」
剣士は自分の荷物の脇に付いているカゴを取ると、そこにいる一匹のカナリアを取り出し、飛ばないように優しく羽を押さえた。
カナリアは剣士の手の中で一声ピィと鳴くと大人しくしている。
魔法使いは剣士の手にいるカナリアに顔を近づけると、鳥に言葉を伝えるための魔法を使いカナリアに話かけた。
「お願い、洞窟の奥へと飛んでいってそこで歌を歌ってくれない?」
魔法使いの言葉に返事をするようにカナリアはピィと鳴くと同時に剣士は手を離す。ピィ、ピィと歌うように鳴き続けながらカナリアは洞窟の奥へと飛んでいった。
しばらく待っても鳴き声が途切れないことを確認すると、二人はカナリアのあとを追ってさらに洞窟の奥へと足を進めていった。
『踊れや 踊れ 輪に戻るまで
歌えや 歌え 気の済むまで』
洞窟の最奥、瘴気を吸い倒れる二人の探索者を眺めながら女神は小さな声で、すべての命を慈しむように口ずさむ。その肩では、魂だけになったカナリアが楽しげな声でピィ、ピィと鳴き続けていた。
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