第1話 異世界転移
全人類に告ぐ。温かい目で見守ってくれ。
「ふわぁ…」
あー、今日も面倒だな。
俺はいつからこんなメンドクサガリになっちまったんだろうか。
まあ、それはこの世に生きる意味を見出せなくなったからだな。
…いや、正確に言うと、この世を早くオサラバしてでも会いたい人ができちまったからってことなんだろうけど。
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俺、セントはただの大学生。しかもオタクである。
勿論彼女がいるワケないし、そして何よりそんなのどうでもよくなるくらいに愛しい人がいる。
おもむろに取り出したケータイの壁紙にはその少女の姿が。
「ナツセ…」
その少女をナツセという。世間で流行っていたからってノリで始めたスマホ向けRPGである『リベラル・ファンタジー・アドベント』、略してRFAに出てくるヒロイン枠の剣士キャラだ。
黒髪ロングで黒目だし、現実で探せばいそうな見た目をしてるけど、どれだけ似ている見た目の人がいても俺は絶対付き合わない。
この娘は好きなことに一生懸命で、家族の前では優等生ぶっているが普段仲間たちと過ごしているときとのギャップが特に人気を出している。
俺もそのギャップに引き込まれて好きになった記憶があるが、今となってはそれはどうでもいい話か。
この前あった『RFA人気キャラ総選挙』でも見事2位のキャラに大差で1位を獲るレベルで人気なので、当然ナツセのグッズだけはどこを探しても無いし、あったとしてもぼったくりの類としか思えない値段で販売されている。
まあそんな彼女だが、俺は彼女に起因してこの世に生きる意味を見出せなくなっているのであるが、どうしたらいいものか…。
ナツセが隣にいないで、どうやる気を出せというのか。あの笑顔を無くして、誰の人生に生きた意味が残るだろうか。最近はそんなことを考えるようになってしまった。
そういうことでバイトもサボりがちになり、大学の講義に参加する回数も大幅に減り。昨日なんて、1日中ナツセとのデートを妄想してたら日付が変わっていたし。
だが、そんな俺を見てもナツセは良く思わないのは分かっている。というワケで今日からはちゃんと社会復帰しようと考えている。
起きたばっかりだがナツセの顔を見に行こうと思いながら、俺はケータイのRFAのアイコンを押し、アプリを開く。
その途端、俺は軽い眠気に抗えず、どうしてか意識が切れた。
どれくらい寝ただろうか。
なんだか温かい気がする。まるで、ナツセに膝枕してもらったらこんな感じなんだろうなと思えるような、優しい温かさ…って!?
「ヤバい!もう時間ない!」
…アレ?なんかおかしいな?
どうしてか俺は今、見たことある、ちょうどいいサイズの膨らみを見上げてる。
そして、実際にされたことがないから自身は持てないけど、この感覚は膝枕であると断言しても問題ないだろう。…そして、俺はもしかして・・・・・の可能性に思い至る。
しかも、その予感の答え合わせとでも言わんばかりの、あの愛しい声が。
「だ、大丈夫ですか?ケガはないですか?」
その声は、まさに…ナツセの声だったのである。
何度も直接この耳で近くで聴きたいと思っていた声が、俺だけに放たれる。
そういえば俺、昨日酒をそれなりに飲んで寝たっけ?それなら、こんな幸せな夢を見ることだって普通にあり得るだろう。
しかし、これはどう考えても夢と呼べるものではない。だって、ナツセは俺の頭を優しく撫でてくれているのだから。
俺、ちょっとヤバいです。急に異世界転移したかと思えば突如とつじょ推しに膝枕されているだけでは飽き足らず、頭まで撫でてもらって…。
「あ、あの…。だ、大丈夫です!」
…アレ?俺声少し高くなってないか?
言うなら、あのどこぞのチート剣士だの某【リトルルーキー】だのの声をやっている声優、某松岡さんの声に似ている…。というか同じな気がするんだが…。
というか、どうして俺は普通にナツセと会話できているんだろうか。まだこの世界の言葉なんて知らないし、ゲーム内で表記されていても読み解こうとすらしなかったから解るはずないんだが。
あと、どうしてこうなったのかは知らないけど、こんな素晴らしい世界に俺を連れてきてくださった神様マジでありがとうごさいます。
そんなことを思っていると。
「何も無くてよかったです。あなたはどこの人ですか?」
…そうか、俺、これからこの世界で生きるのか。
次回 第2話 推しと過ごす昼下がり①