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特別警邏隊活動ノート  作者: 南山由真。
9/10

1-8

 真っ黒な大海に、うっすらと月が映っている。空から見下ろす景色は海一色で面白みもないが、しかしどこか幻想的な雰囲気があった。

 「どうだ、レイ。到着はいつだ?」

 セレの疑問に、レイは横を見ることなく返答する。

 「レベッカ港までに十分、その後北東に進む。おそらく敵船を目視するのに一時間はかからんやろ」

 「いずれにせよ不審船だ、捕縛しない理由にはならない。安全運転でな」

 「わかっとるわ」

 慣れた手つきでヘリを運転するレイ。その糸目で視界は十分であるのだろうか。

 闇はまだ深い。

 現在時刻は四時を回ろうとする頃合い。

 「ダイムは何をやっているんですか?」

 カルディが振り返ると、ヘリの扉のグリップタイプのドアノブに荒縄をぎゅうぎゅうに縛り付けていた。

 相当長い、ごつごつした縄。

 「これつかんで地上に降りるためのロープだ。あ、後でテメェら全員手袋しろよ! 手の皮剥がれるからな!」

 ダイムがごそごそと手袋を支給する。黒い、そして分厚い手袋だ。カーパスの分も渡す。

 「まぁ安心せいや。地面すれすれで飛んでやる」

 「広さはどれくらいでしたっけ」

 「相当広いはず。大型客船と聞いているからな」

 「うわぁ。それで突っ込むというのならば相当恐ろしいですね……」

 リュカがドン引く。確かにそれくらいの重量が港に突っ込めば相当のダメージを負うはずだ。

 「中に大量の燃料があればさらに二次被害が起こせまっせ。おっそろしいこと思いつくもんやな」

 レイの溜息をよそ目に振り返る。

 エモンは後ろで狙撃銃の手入れをしていた。

 SVLK-14S。ロシアで作られた、世界最長三キロの射程を誇るという狙撃銃。弾倉は一発であるが、それを覆いつくすほどの恐ろしい距離を弾丸が貫く。速度は秒速九百メートル毎秒であったはず。

 先ほどの狙撃を思い出す。

 素晴らしいのは銃だけではない。相手の弾丸を躱すためにひっきりなしに左右に動く車内で、的確に相手の眉間に弾丸をたたきこんでいたエモンの腕前も、十分戦力である。

 リュカが狙撃手として彼に師事する理由がわかる。

 恐ろしい男だ、とカルディはひそかに戦慄していた。

 「つーか三列目だけめっちゃせめぇんだけど!」

 手前には入り口側からダイム、イヴ、ヴォルフとすし詰め状態になっている。

 「しょうがないやろ、狭いんやから」

 「せめてもう一列席を設けてほしかったのだがなぁ」

 ヴォルフは05式短機関銃を大事そうに抱えながら白髪が混じり始めた眉を八の字にする。

 「すまないな、我慢してくれ。すぐに到着すると思うから」

 セレが申し訳なさそうに、しかしきっぱりとはねつける。イヴは左右を男に圧迫されている割には無表情で、どこか虚ろ気な瞳でどこかを見ている。

 「カルディも大丈夫か?」

 「は、はい!」

 勢いあまって声が大きくなり、隣のカーパスが声が大きいんだけど、と愚痴る。セレはくつくつと口に手を当てて上品に笑っている。

 「気を抜くなよ」

 「す、すみません」

 「いや、構わんさ。僕も前振りなく話しかけてしまったからな。カーパス、頼んだぞ」

 「わかってるよ」

 カーパスは無表情で頷く。

 「まぁでも今日わかってもらえた通り、うちの隊士達は優秀だ。かっこよかっただろう?」

 「はい。参考にさせていただきたい、と思いたいですが俺にはできそうになさそうなほどでした」

 レイの破天荒なドライブテクニックや、エモンの高精度な射撃、カーパスの冷静沈着な戦闘、他の隊士達もそれは化け物のような強さを持ち合わせている。

 レイも言っていたが、短機関銃は全弾発射して、一発当たればよいほうという精度であることが多い。それにあのように連射していればおのずと肩や腕にかかる負荷も大きくなり、さらに狙いがぶれる。

 けど、彼らはそんなことなく、冷静に戦闘を終了している。

 「だろだろ! やはり僕の部下たちは世界一だ。最強でありながらユーモアもあり、性格こそちょっと難があるけど皆決める時には決めてくれる! 今こそが現在最強レベルの実力、全盛期と評しても過言ではない!」

 「はい! それは本当に同意できます」

 クールなイメージであり、攻撃的なジト目にやや芝居がかかった態度が平常であったセレだが、驚くことに隊士達を褒めまくることにおいてはえげつなくしゃべる。

 「運転手のレイ、狙撃手のエモン、その配下のリュカ、老練なヴォルフ、組めばそのヴォルフに匹敵するダイムとイヴ、判断力に優れるカーパス、爆発や工作のプロフェショナルのアイリーン。そして君! いやーもう僕がいつ死んでも構わない最強最悪の天才たちなのだ!」

 「買いかぶりすぎだぜセレちゃん」

 ダイムがへらへらと反論、というか黙らせようとしたが、逆にセレは目を輝かせながら喋り続ける。

 「何を言っている、事実を述べているだけだ!」

 「セレ落ち着くんだぁ。そんなベラベラ喋ってると舌かむぜぇ」

 ヴォルフがたしなめると、セレは口をとがらせながらわかったよ、ヴォルフと言って静かになる。

 ……カーパスはセレが偽物の笑顔をしていると言っていた。確かにそういうときもあるし、一々態度とか言動が芝居がかっているという時もあった。

 けど隊士の自慢をしている彼女は、紛れもなく楽しそうで、根はいい人なんだろうなと想像つく。

 『僕に追従しろ、カルディオス・アウオーラ』

 数日前のドンパチの後に誘われた時のセリフを思い出す。

 セレはいつも輝いている。

 けど、その根源は、彼女の周囲にいる人に恵まれているからかもしれない。

 同時に底なしの信用を向けられている隊士達も、だからセレの仲間でいるのだろう。

 十字架のローターが旋回する轟音が鳴る中、隊士達はガヤガヤと話を続けていて、それはまるで戦地に赴くそれではなくて。

 普通はもうちょっと緊張感があふれるのではないかと思うのだけれど、そういうところも強いのだろうな、とカルディは思った。


 前触れもなく、カルディは大海の一角に異物があることに気づく。

 「隊長」

 「あぁ」

 カルディの呼びかけに、口調が再び絶対的な王のような口ぶりに変化するセレ。瞬間、ピリリとした空気があたりを支配する。

 「レイ」

 「間違いないみたいわ。レーダーも補足しておる。うちの国が管理しとるもんやないという結果も表示されておるで」

 レーダーチャートを見、レイが最終判断を下す。

 「いよいよか。最後に華咲かせてやるぜ、なぁイヴ!」

 ダイムが色めき立ち、05式短機関銃を膝に置き、縄がグリッドタイプのドアノブから外れないか、最終確認をしている。闇夜に彼の金髪はよく映える。

 「警邏隊メンバーに次ぐ。まずはレイ、船舶の上でヘリの高度をできるだけ落せ。ダイムは入り口を開けて射撃しろ。その後はダイムがおり、次はイヴが攻撃、イヴが下りたらヴォルフが撃つ、という風にローテを組んで降下しろ!」

 「あいあいさー!」

 レイがレバーを操作し、ゆっくりと高度を落とし始める。

 心拍数が高まっていく。

 最初の戦闘はほとんどカーパスがさばいていた。

 次の戦闘は待機していた。

 そして、今回。

 多分、これがカルディが経験する、久々の実戦。

 怖い? 怖い。勿論そうだ。ひょっとしたら死ぬかもしれない。カルディが生き延びても、今こうやって騒いでいる誰かが死ぬかもしれない。

 車上戦ではない、おそらく白兵戦になるだろう。

 一人二人、死ぬ可能性だって否定できない。

 ひょっとしたら全滅するかもしれない。

 カルディが気付かれないように深呼吸すると、やはり目ざとい、セレはカルディの動揺に気づいたらしかった。

 「怖いか?」

 笑顔。美しい顔にあるそれは、妖艶で、場違いながらも見とれてしまうほど、麗しい。

 「……誰かを失うのは、怖いです」

 思い出すのは、手の届かないところで失ってしまったバステスの姿。

 新しい場所がようやくできようとしていた今。

 この中の誰かが、いなくなってしまったら、俺はここにとどまり続けることができるのか。

 しかし、セレはさらに笑みを深めるだけだった。

 「大丈夫さ」

 彼女は全く心配していなさそうに肩を竦めた。

 「言ったはずだ、僕の部下は、えげつない程に優秀だ。これ程度で死ぬはずがない」

 その言葉は、未来が見えないであろうこの状況下、ひどくまっすぐで、確信めいた言葉で。

 「やがて君の考えは杞憂だったと気づく。まずは自分ができることをしろ。それが今、君が特別警邏隊にいるために必要なことだ」

 自分ができること。

 それは、生き残ること。

 そして、この場にいる全員が生還するために、新人ながら努力すること。

 ただの慰めの言葉かもしれない。

 しかし、自信満々な彼女の顔を見ていると、きっとそうなのだろうという気持ちになってくるのが、セレのカリスマ性なのだろうか。

 「別に君が心配する必要はないよ」

 徐々に船舶が近づいてくる中、いやに落ち着いているカーパスも同調した。

 「セレは仏みたい――とは程遠い人間だし、ぶっちゃけクズだと思うけど」

 「カーパスお前減給されたいのか?」

 「いやそれだけは勘弁してよ。しっかりと給料を払われてこちらは労働力を提供する。これが本来あるべき社会の姿であるんだよ。それを守らないのはどうかしていると思うし頭がおかしいと思うよ。……話を戻そう」

 その腕にはめられているのは黒い手袋。

 「セレは入隊させる人間は徹底的に選ぶ。それこそ、このような状況でも生き残れる人間を選定し続けている。それに適合する人間なら誰だって採用する。元テロリストも、首になった特殊工作員や通り魔、ついでに元軍人の司祭すらも」

 だから安心しなよとカーパスはそっぽを向きながら励まそうとしてくる。

 「大丈夫。僕らは絶対に死なないし、死なせるつもりはない。特別警邏隊を舐めるなよ」

 船はやがて大きくなっていく。相当立派な船だ。

 甲板には数人の人間が見回っている姿も見える。

 そんな中、少し空が白くなり始める。

 暁を越えたのだ。

 「……信じますよ」

 「見てればいいさ。僕らはただ机上の空論をしようというつもりは一切ないんだ。ただ見てろ。結果で証明して見せる」

 カーパスがにやりと笑った時には、既にヘリの高度は相当下がり、波しぶきすら観察できるほどであった。

 状況も大詰め。

 「カルディ」

 「はい」

 セレから渡されたのは、05式短機関銃。カルディの持ち分だ。

 「お前のものだ。弾倉もある。渡しておくぞ」

 ずっしりとした重さ。拳銃とは比べ物にならないほどのガタイと、重力。

 「……ありがとうございます」

 「もうすぐや」

 レイが慎重に操縦する。下がる高度。近づく船舶。

 なるほど、噂に違わず実物は相当巨大である。

 これを突っ込ませるとなるとそれは甚大な被害となりえるだろう。

 「全員準備! 降りられる体勢をとれ! 気を抜くな!」

 セレの喝が飛ぶ。イヴが光のない瞳で窓の外を見下ろす。

 近づいてくる距離。

 息の詰まる一瞬。

 行くしかないと腹をくくるカルディ。

 緊張が周囲を包み込む。

 これで、最後。

 全員そろって、生き残る。

 埒外になるローターの旋回音。

 プツン、と音が鳴る。

 セレがスピーカーの電源を入れ、口にマイクを近づけたのだ。

 『赤のメンバーに次ぐ。我々は特別警邏隊! 戦闘は本意ではない、おとなしく投降せよ! 繰り返す、我々は特別警邏隊! おとなしく投降せよ! そうすれば危害は加えない!』

 セレの凛とした声が絶海に反響する。

 その応酬は降参ではなく、銃声だった。

 かすかに響く銃撃音と、所々に現れる光線。

 銃撃だ。銃口がわずかに光っているのだ。

 「予想通りだ」

 セレがマイクを切り、ちらりとレイに目配せする。

 レイはさらに高度を落とす。

 まだだ、まだまだ。

 ゆっくりと、でも確実にヘリの高度は落ちていき、そして船の真横を狙って動く。

 弾丸がヘリのジュラルミンの扉に被弾する音がくぐもって聞こえるが、レイは至って冷静に舵を切る。

 銃撃している人間がはっきり見えるほどに、ヘリを接近させるレイ。

 「今や!」

 合図が早いか、ダイムがすぐにヘリの入り口を開け、05式短機関銃を船上に向けて発砲した。

 出会い頭に発砲していた一人が吹き飛ぶ。

 船の腹を通過したヘリは、さらに旋回し、真逆のほうへ回り込む。

 銃撃が客船のガラスを割り、地面を傷つけていく中、もう一人がばたりと倒れこむ。被弾したのだ。

 「あったんねぇなおい!」

 「飛距離がありすぎるからな」

 焦れるダイムにエモンは丁寧な回答をよこし、眼鏡を押し上げる。

 「もう一度旋回!」

 「了解!」

 ダイムが弾丸を打ち尽くすと、イヴがもう一丁をよこし、彼は再び銃撃を開始する。その間にイヴが弾丸を器用に込めていく。

 風圧がすごく、ガタガタと窓ガラスが振動する。

 殻になった弾倉がカラカラと海に落ちていく。

 「これ以上は無理や!」

 高度のことだろうが、もうすでに十分低い。

 「上出来だ! あと一回旋回したらヘリを船舶の上につけろ! 一気に降りて制圧しろ!」

 ダイムの銃撃がさらに二人の肉塊を作り、ヘリは一回船舶を離れた。距離を置いて突っ込むためだ。

 「後はお前らに任せるで!」

 「見てろって!」

 軽口をたたくダイムは尚銃撃を加え続ける。

 進軍するヘリは、ダイムの銃撃とともに船舶の上に到着する。

 「イヴ!」

 「ん」

 ダイムが荒縄を地面に垂らす。二十メートル以上ある縄だ。しかし、ギリギリ地面には届いていない。

 黒い手袋をつけた彼が、荒縄に抱き着き、一気に降りていく。

 カバーするようにイヴが銃撃を引き継ぐ。

 ダイムを狙った連中二人が速やかに肉塊に代わる。

 スムーズに降りるダイムはたった十数秒で地面に五点着地する。

 間髪入れずにイヴもおりていき、ヴォルフが引き金を引く。

 先ほども敵車両にいた敵兵二人を射殺した彼の腕前は相当であり、あっという間に五人ほどを葬り去る。

 「カルディオス」

 「はい。ヴォルフの次におります」

 二人が消え空いた後ろの座席に移動し、短機関銃を構える。

 いよいよ始まりだ、とカルディは覚悟を決め、ヴォルフが荒縄をつかんで降りていく後の攻撃を引き継いだ。


 好き勝手に暴れまわるダイムを横目に、イヴはAK-47を乱射するテロリストたちを正確に屠っていく。

 人型を銃口でなぞるように攻撃する。ダイムから教わった銃撃の心得を忠実に守りながら、あっという間に甲板を血と臓物の海に沈めていく。

 「よぉイヴ、大丈夫かぁ?」

 ヴォルフが降り、イヴの背中を守るように銃撃を開始する。ぶれない、鷹揚な語り口。歴戦の猛者である彼であるが、全く威圧が感じないというのもどういうことなのか。

 先ほどの騒ぎで集まってきた十数名のテロリストは、瞬く間に激減していく。

 「どけっつってんだよ!」

 一人さっさと甲板から姿を消すダイム。おそらく、操縦室へと向かったのだろう。

 「指揮は俺がとる、イヴはダイムの補佐をしろぉ、あいつは多分銃を即座に捨てちまうだろうからなぁ」

 「ん」

 激走しながら、正面に集まった二人をハチの巣にし、ダイムが入っていった通路に入る。

 後ろでは優男風の男が荒縄を伝って降りたのが見えた。名前は忘れた。しかしダイムがあんまりよく思っていない男だったことだけは覚えている。イヴの頭はいつだってダイムが中心だった。

 通路を左折すると、分かれ道に出る。数秒迷うが、すぐに右に向かう。

 血飛沫まみれの死体を避け、先に進む。

 先ほどから銃声が聞こえ、やがて絶叫や、カエルがつぶれたような奇声が聞こえるだけ。

 血だまりに足を取られないように走り、広々とした通路に出る。

 転がる、いくつかの死体。

 ……銃撃されたのではなく、いずれも頸動脈を鋭利なもので切断されている。

 「手あたり次第に走り回るのは、あいつらしいけど」

 ダイムはいつもそうだ。周りの迷惑を考えず一人で突っ走る。その天性の勘と戦闘スキルで何とか生き延びているが。

 「手を上げろ!」

 進もうとしたとき、後ろから声が聞こえる。

 振り返ると、肩からダラダラと血を流した男が機関銃をイヴに構えていた。

 「クソ、いったい何なんだ奴らは! 化け物が!」

 外で手ひどくやられたのだろうなと察し、イヴは短機関銃を地面に置き、降参の意を示す。

 「……知らない」

 「まぁいい。お前を人質にしちまえば奴らの猛攻もおさま――」

 る、までは続かない。

 その首に一本のナイフ――オンタリオ・オールドマリーンコンバットナイフが突き立てられていた。

 「おいおいおいおいおい、女の子に銃向けるとか、男としてどーなんだよボケ」

 軍用ナイフ。全長約307ミリメートルの小さなナイフを携えたダイムが、そのまま一気に首元を切り裂く。

 噴水の如く汚らしい血飛沫が壁にこびりつき、痙攣しながら男は倒れる。その背後には軽薄な笑みを浮かべ、真っ赤なワイシャツを身に着けたダイムが立ち尽くしていた。

 音もなく、真後ろから現れる姿はまるで暗殺者のようで、隊の中でも彼の戦闘力には一目置いていた。

 「ギャハハ! つーかテメェ来てたのか!」

 一般人が見れば失禁物の光景だが、あいにくイヴは見飽きている。特にノーリアクションを貫き、短機関銃を拾い上げる。

 「……しゃべらせてあげたら、よかったのに」

 「知るかよクソだりぃ。あ、おま、後ろ――」

 振り返りざまイヴが引き金を引くと、援軍らしき敵三人が地獄に輸送された。

 「相変わらず反射神経だな」

 ナイフを弄び獰猛な笑みを貼り付けるダイムに、イヴはポニーテールを揺らしどーもと返事する。

 「銃は?」

 先ほど特攻する際に持ち運んでいた短機関銃は姿を消している。

 「あ? かさばるから捨てた」

 「……また、エモンにキレられる」

 「あー……そういやそうだったわ。ったく、あいつ一丁失くしただけでガミガミガミガミうっせーんだよ」

 エモンは金の亡者であり、警邏隊の財布役である。紛失は会計を務めるエモンの管轄だが、何しろ金の亡者だから、購入させるのは面倒くさい。

 「銃、使ったら?」

 「あぁん? いやだね、あんな武器は」

 興味なさげにイヴが持つ短機関銃を一瞥し、ダイムは舌打ちする。

 「人を殺すのを武器に頼るなんざ失格だ。殺すというのは人の命を奪う行為だ。それをどうして道具に頼るんだよ。自分の手で、殺す。だからナイフだろうが。これじゃなきゃ殺したって感じがしなくて昂れねーんだよな」

 相変わらず元気に狂っている奴だ、とイヴは自分のことを棚に上げてあきれ返る。

 ダイムはサディストという訳ではないが、他者を殺傷するのに謎の制約を課している節がある。理由はわからない。出会った時からそうであったから、知る由もないし、知る理由もない。

 「ここから、どうする?」

 「運転席にいる連中をやっちまえばいいと思ってたんだが、よく考えたら場所わかんねーんだわ」

 「思慮が、浅い」

 「うっせーよ俺は頭いいほうじゃねーんだわぶっ殺すぞ」

 コンバットナイフを弄びながら、イヴの傍に来るダイム。血と臓物の濃厚な臭いに、ダイムの香りがする。

 「ま、手あたり次第進んでみりゃいいよな、なぁイヴ」

 「……敵を、一掃したら」

 ぞろぞろと現れる、テロリストの集団。数は十人ほどだろうか。鈍器を持つ者や、短機関銃を持つ者それぞれ多様。

 さてと、とダイムがイヴを背に一歩進み出る。

 その手には二本のコンバットナイフ。何人殺したのか、両方真っ赤に染まっている。瞳孔は開きっぱなしで、お世辞にも正義の味方とは言えない。いや、それは私も同様かとイヴも思いなおす。

 「援護しろよ、イヴ」

 「手早く、ね」

 ダイムが銃撃を始める連中にとびかかり、イヴは銃口を奴らに向けた。

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