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特別警邏隊活動ノート  作者: 南山由真。
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1-7


 ヘリポートが併設されている宿舎に、アイリーンを除く警邏隊が集まっていた。

 長机に着席する隊士達。いわゆるお誕生日席にはセレがいるわけで。

 「まずはねぎらいだ。皆々、お疲れ様」

 カルディは少し頷く。今日一日大変だった。入隊し、案内され、テロリストと戦闘し、カーチェイスした。さすがに疲労は隠せない。

 「金にならない挨拶はいらないだろう。次からどうする?」

 相変わらず手帳に金の勘定をしているのはエモンだ。

 「十分後に併設されている輸送用ヘリに乗り込み、テロリストが占拠した船舶を制圧する。船舶に乗り込むのはダイム、イヴ、カーパス、ヴォルフ、カルディの五名。下ではヴォルフが指揮を執る。エモンとリュカはヘリから狙撃、レイは運転、僕は全体的の総括を行うからな」

 「その船舶というのはどこからか盗まれたもんやったんか?」

 「問い合わせてみたのだが該当するところがなかった。おそらく外国の船ではないかと見立てている。『赤』のメンバーにガルバド王国以外の出身が混ざっていたはずだ、そこ経由だろう」

 「ですが、どうやってテログループの船舶と正規の船舶を見分けるんですか?」

  レベッカ港はガルバド王国有数のものである。流通業では欠かせないためひっきりなしに船舶が訪れるのだ。果たしてそれらとテロリストが乗った船と識別できるのか。

 「そこの点は心配いらない。他の警邏隊と連携を取っている。レベッカ港の北東から不審船が接近しているという情報が入ったばかりだ。現在は管制塔に連絡し、周辺に船舶を近づけないようにという指令を下している」

 特別警邏隊は五つ王国に点在している。

 セレ曰く「基本的に情報を融通しあうことも、五つに隊が分断されているメリットの一つだよ」とのことだった。それにしても、情報が早い。普通だったらあり得ないスピードだ。男から計画を打ち明けられてから数時間しかたっていないのに、そこまで判明しているとは。

 それだけ、他方の特別警邏隊の隊士が優秀であるという証なのだろう。

 「相変わらず気味のわりぃ情報網だよな。で、テロリスト連中はどうすんだよ? 全員やっちまえばいいのかオイ」

 「相手の戦意をなくすことが重要だ。その場合殺すというのも視野に入れるが、尋問のために数人生かせばいい」

 「だってよイヴ。しっかりと俺を補佐しろよ!」

 イヴが首肯する。感情の起伏は相変わらず乏しいな、とカルディも思う。

 「アルバートのご遺体って回収されましたか?」

 リュカの疑問にセレは頷く。

 「既に処理したらしい。アイリーンは既に警邏隊本部に戻っている」

 「羨ましいね。僕もさっさと寝たいし転がりたいし眠い」

 「もう少しで眠れるんだから頑張りなや。あと一息なんやから」

 レイがカーパスの肩に手を回す。カーパスは鼻を鳴らすが、その手を振りほどくことはしなかった。

 「で、僕らが撃破した連中はどうなったんだい? まさかトンネルにそのまま放置というわけじゃないよね」

 「既に僕の友人の総督が何とかしてくれるさ……さて、カルディ、君はカーパスの傍を離れないことを条件に突入組に振り分ける。はぐれないように気をつけろよ」

 「わかりました。……ご指導のほど、よろしくお願いします」

 「それくらい理解しているさ。僕を誰だと思っているのかな。それができないと思われてる時点で全く甚だ不快だよね」

 カーパスは相変わらず不遜な態度で返事する。

 「さて、ではニ十分後に乗り込みを開始する。自由時間は飯を食ったり武器の調整をしておくがいい」

 はい解散とセレが手拍子をし、つかの間の休息が始まった。

 気持ちよさそうに伸びをしたダイムは、横にいるイヴに「後で起こして」と頼み突っ伏し、エモンは金を数え始める。

 「飯って宿舎のどこにあるんだったっけ?」

 「カップ麺が売られている自動販売機があるやろ。ほな一緒に行こうやカルディも」

 「いいんですか?」

 カーパスとレイがカルディを誘う。レイは元から友好的であったが、当初はあまりよく思っていなかったという印象のカーパスも了承してくれたことに、少し嬉しくなる。

 「勿論やで! やっぱり皆で飯食うほうが楽しいやろし」

 「まぁただの足手まといではなさそうだし特別に相席することを許可してあげるよ」

 「まーカーパスが何か言うてるけどまあ気にすんなや」

 「いや僕はそんなツンデレじゃないからね本当に辞めてほしいんだけど!」

 「誰もツンデレとは言っとらんがな」

 理屈っぽくウダウダ喋るカーパスと友好的な態度を崩さないレイは意外と合うのかもしれない。

 三人連れ立って外に出、近くの自販機でカップ麺を購入する。カーパスは豚骨、レイは味噌、カルディは醤油だ。

 「あんたは相変わらず豚骨やなー」

 「ラーメンと言ったら豚骨だよね。もうこれが最強。別に他のラーメンを迫害するつもりは一切ないけれど、僕の中では豚骨こそが唯一無二なんだよ。そういうレイだって味噌じゃないか。趣向が変わらないのはお互い様だと思うんだけど」

 「ジャパニーズのハートやで! とエモンに言うたらガチギレされるがのー。カルディは醤油?」

 「はい。美味しいですよね。あ、勿論豚骨も味噌も愛してます!」

 「気遣いできるええ子やんか! カーパス、そういじめてやんなや。こういう子うちの隊に一人いてくれるってええもんやし」

 「僕はカルディオスの保護者じゃないんだけど。それくらいは理解してほしいものだね。面倒なことは苦手だしさっさと独り立ちしてほしいよ。あー怠い眠たい面倒くさい」

 お湯を入れ、三分間待つ。

 先ほどの会議室に入ると、エモンとリュカの二名が待機していた。ダイムとイヴも二人揃って寝付いている。帳簿を記入し予算を練るエモンがちらりとカルディらに視線をよこすが、再び帳簿に向き直る。

 「あ、皆来ましたよ、エモンさん。そろそろご飯食べません?」

 ひょいとエモンの顔を覗き込むリュカ。美しい顔立ち。女性のような美しい顔立ちの少年だと思っていたが、近くで見ると勘違いする人すら出るだろう。

 「金を数えている間に邪魔をするな」

 しかしエモンは舌打ち交じりにキレるだけだった。

 「エモン~リュカをいじめんといてや。こんな懐いとるんやから」

 「俺とこいつは仕事上のパートナーだ。馴れ合いではない」

 「それでも君のツレなんだろう。それくらいはしっかりとしてあげるべきなんじゃないの?」

 「まぁまぁ、僕らはこういう関係ですけど、意外と可愛いところあるんですよー」

 頬に手をあてにっこりと微笑むと、エモンがわずかに眉間に皺をよせ、瞳孔ががん開きになった鋭い目でリュカを見やった。

 「例えばですね、ラーメンを食べている時にですね――」

 「黙れリュカ。――殺すぞ」

 ピリリとした殺気に、危うくラーメンを落としそうになる。

 しかしカーパスらは一切気にしていないようだ。いや、慣れているだけなのだろう。

 三分が経ち、三人そろってズルズルラーメンをすする。

 「やっぱりうまいよね豚骨は。カップ麺は戦後最大の発明だと日本では言うらしいが本当にその通りだと思うよ」

 勢い良くラーメンをかっこんでいると、カルディの横にリュカが立った。

 「あの、カルディオス・アウオーラですよね?」

 「あ、はい」

 「ラーメン、一口いいですか?」

 「いいですよ」

 そう返事すれば、ちらりとカーパスとレイが互いに目配せしていた。

 疑問に思った瞬間、彼はありがとうございますと箸を取り(何故かマイ箸を持っていた)、一口をすする。

 「ん! 美味しい!」

 グーサインを作るリュカは殺気立った隊士達がほとんどの中で、アイリーンと同じくらい柔和である。

 「よかったですね」

 「リュカ」

 エモンが呼ぶ。いつものぎらついた目が、リュカを睨みつける。

 「ラーメンなら俺が買ってやる。はしたない真似をするな」

 パァァアと怒られているのにも関わらずに破顔するリュカ。

 「もー嫉妬深いんですから!」

 茶化すリュカにエモンがさらに不機嫌になる。

 「内臓売るぞ」

 「うーん。それは遠慮願いますね、エモンさん」

 スススーとエモンの傍に吸い寄せられるように向かい、肩をもみ始めるリュカ。

 「まぁ仲良くやるんやで、お二人はん」

 「仲良くじゃない。利害の一致だ。俺は金を稼いで、リュカは狙撃の腕を習う。それだけだ」

 「リュカは狙撃手になりたいんですか?」

 「そうなんですよ!」

 リュカが断言する。

 「エモンさんのようなめっちゃかっこいい狙撃手、憧れるじゃないですか!」

 「正直俺は勘弁だがな」

 帳簿をつけるのを終え、手帳を閉じ、背伸びするエモン。

 「またまたーまぁエモンさんが口下手なのは今に始まったことが無いけれど」

 「轢き殺されたいのか?」

 「貴方に轢き殺されるなら本望ですよー」

 「というかエモンはご飯食べないの? あぁそういえば君とリュカは狙撃専門だから動かないというのもあるのか。けどご飯は食べたほうがいいよ。おなかが減っては戦ができないというからね。君が倒れたら君の穴を埋められる人間がいないから面倒になるんだよね。朝と昼は何を食べていたの?」

 「……肉を食べた」

 「リュカ? 本当のところは何食べてた?」

 「ウィダー食べていらっしゃいましたよね? エモンさん」

 「貴様謀ったな」

 「結託していないですから。それよりラーメン買ってきますね。塩でいいでしたよね」

 「さっさと買ってこい」

 「はいはーい」

 実は警邏隊の中で最も高いメンタルティを持つのは彼かもしれないな、と鋭い眼光をものともしないリュカを見ながら、カルディは思った。 


 休憩時間が終わり、カルディらは外に出ていた。

 じっとりした湿った空気。

 レイが乗り込んだ直後、ヘリが駆動し始める。

 八人は楽々と乗れるであろう大型ヘリだ。席は二つが繋がり、縦に四セット。

 「はよ乗りや! 指示出してもらうからセレはワイの横、出口に近い三列目の席にはイヴとダイム座りな。スムーズに降下できるやろ。あ、狙撃組は一番後ろや!」

 「りょうかーい!」

 「あぁ」

 ダイムとエモンがそれぞれ返事する。

 「では作戦をもう一度整理する」

 セレが音頭を取る。

 「船舶の上に着いたらダイム、イヴ、カーパス、カルディ、ヴォルフの五名が降下し殲滅戦を起こせ。司令塔はヴォルフ。任せる。エモン、リュカ二名は補助狙撃、レイはエモンらに息を合わせヘリを操れ。くれぐれも撃墜されるなよ」

 「ワイはあんた専門の運転手やで?」

 運転手席に乗り込んだその糸目をカルディらに向ける。

 「舐めんなや」

 「信頼しているとも、レイ」

 セレが肩を揺すって笑う。そんな笑顔を浮かべるセレを、ヴォルフが神妙な表情でその様子を一瞥していた。

 「さーてと、さっさと乗り込め乗り込め」

 セレが助手席に乗り、カルディも乗り込む。

 横に座ったのはカーパス。

 他の隊士達も続々と乗り込む。空は闇夜のまま。満月だけが、ひどく明るく空を照らし出している。

 「知っているか、みんな」

 「はい?」

 リュカが相打ちを打つ。

 「夜の中で、暁が最も闇が深いというらしい」

 セレがノートパソコンを開き、電源をつける。

 「さて、最後の仕事だ。――健闘を、祈る」

 澄み渡ったセレの喝。

 「了解!」

 他のメンバー八人の声が合わさる。

 状況は、クライマックスに近い。

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