10 魔の森
魔の森という巨大な森林地帯がある。
その地帯は人間以外の種族が多く暮らしている魔王領に含まれる。
人間領に住む人間たちにとってはほとんど縁のない場所なのだが、武者修行にはもってこいの場所だ。
リアムの住む場所からは近くにある人間領の森を抜けると入ることができる。
そんな立地なので教会の周りは危険地帯と言われているのだが、テレサとリアムが魔物を狩りまくっているので今ではずいぶんと平和になった。
「さて、準備はいいかしら、リアム」
「うん、テレサ」
出発は早朝の明るくなり始めた時間帯。
決められた時間に庭にテレサと出発だ。
装備は背中に背負っているがほとんどは俺の銃だ。
テレサにも持ってもらっている。
なるべく光で作った魔力回路を利用しているためそこまでかさばらないが、まだ俺が持つには大きすぎるものもある。
他の装備に関しては充実したキャンプライフを送りたいわけではないので、荷物は最低限する。
食料に関しては栄養素が多い固形食を作れるのでかなりコンパクトになっている。
「ちょっと私もいるわよ」
COCOAが俺の懐から飛び出してむくれていた。
空を飛んでいるが制服姿なのでパンツが見えそうだ。
「わかってるよ。教会を離れるまでは隠れててね」
「はいはい」
一応テレサ以外には秘密なので教会内では自室以外は歩き回らないようにしてもらっている。
「かわいいし、便利そうね」
「まあね。今ではできることも増えたしね」
「リアムが作ったんでしょ、もっと増やせないの?」
「簡易的な偵察装置みたいのはいっぱい作ったよ。あんまり意思を持った奴がいっぱいいても疲れるから今のところはCOCOAみたいなのは彼女だけだね」
「なるほどね。さていきましょう」
「うん」
移送手段は徒歩だ。
テレサはクラス6だし、俺はクラス4の体術を使える。
COCOAは俺らより移動速度は速い。
荒野や森を行くので俺たちにとっては徒歩が一番効率がいいのだ。
***
途中で何匹か魔物を倒しながら2日かけて魔の森と呼ばれる地帯に着いた。
今までは移動し続けて今は夜だ。
今日はこのあたりで野宿をするとしよう。
かなり鬱屈とした森で、魔物もかなり多い。
まずは周辺の木や草を土魔法で更地にしてからそこに結界魔法を展開する。
物理と魔法の防御ができるものだ。
家を作りたいところだが、俺の【想像物】の魔力消費は質量に依存するので節約だ。
簡易的なテントを立てるだけにしておく。
結界魔法もあり、暖房設備を作り出せば暖かいので結構快適だ。
用意しておいた光の人工精霊も展開する。
ふわふわと飛んでいる光の塊のようなものだができることは多い。
昼間のように明るくするのはもちろん、敵感知や映像を送ることもできる。
「こんな快適だと、冒険って感じがしないわね」
「戦闘に関しては体術が重要だけど、かさばらずにいろんなことができる魔法は利便性はかなりいいね」
「でもさすがに森の中だとのんびりと寝ているのは難しいわね」
「いや、今回は大丈夫だよ」
今回一番大きな荷物だった大きなきな機関銃を2つ地面に設置する。
「この銃は光の精霊と連動して雑魚なら勝手に排除してくれるよ」
「す、すごいね..」
テレサは若干ひきつった表情をしていた。
2人は別々のテントに入って就寝の準備をする。
COCOAは俺と同じテントだ。
俺はレイにラブコールをして、システムの調子についてやたわいもない話を少々した。
通話はつけっぱなしにもできるのだが、結局雑談ばかりになってしまうので声を聴くのは球形のときだけにしている。
小一時間ほど話したあと、アイマスクをして眠りについた。
今回の目的はブラックドラゴンの討伐だ。
このあたりに縄張りを持つブラックドラゴンがいたのはいるのは前々から情報はあった。
特に人間のいる地帯に被害は出さなかったので放置されていた。
そいつを狩っても特に怒られることはないので今回殺すことにした。
俺の武器は魔物狩りにはとても有効だ。
テレサもいることだしそこまで危険を冒さなくても討伐できると踏んでいる。
結局夜が明けるまで何事もなく眠ることができた。
設置した機関銃は動いた形跡があるので魔物はいたらしい。
問題なくシステムが作動したようで何よりだ。
「今日はブラックドラゴンを探すんだったわね」
「うん。感知システムによると周辺10キロにはいないよだし、もっと奥に行ってみよう」
「わかったわ」
野宿したもの片付けて森を進んでいく。
10キロを感知できるシステムがあるので、そこに入った魔物は持ってきたライフルで迎撃する。
テレサが暇そうなので、強そうな魔物がいたらあえて狙撃せず、テレサに任せることにした。
流石は魔の森だけあって魔物はでかいし、強い。
魔力が濃い森では強力な個体が多く生まれる。
それでも今のところ俺たちがてこずる敵はいない。
半日ほど森を移動したところでブラックドラゴンを見つけた。
流石にこちらに気が付いている様子はない。
「ここからでも狙えるの?」
「10キロなら問題ない。ここから狙撃する」
ブラックドラゴンはドラゴンの中でも単体では最強種だ。
大きいものでは100メートルほどになる。
今回は50メートルほどであり、昔テレサが殺したころした奴と同じくらいの大きさだろう。
それでも討伐レベルはSランクでも中位レベルと言っていい。
ランクで言えばクラス6は必要だろう。
しかし、俺は超強力な魔弾を使える。
俺とレイの研究のおかげで銃の方もかなりのレベルだ。
実力差を無視して倒すことができると思う。
この距離の狙撃を可能にするのは、魔力のおかげだ。
魔力回路は魔弾や銃に緻密に刻まれており、レイの光の回路も補助してくれる。
ドラゴンの姿はここから目視できないが、光の精霊が投影している画面には映っている。
のんびりと崖の上にいて、景色でも見ているようだった。
位置情報システムで弾道も決まった。
この辺の計算はレイがしている。
俺は魔力を流し込んで引き金を引くだけに近いが、あまり気にないでおこう。
「ファイア」
引き金を引く。
音を消すシステムを使用しているので音は出ない。
弾丸はドラゴンに向かって一直線にとんでいく。
狙ったのは脳点だ。
なるべく一撃で仕留めたい。
ドラゴンはギリギリで回避しようと体を傾けかが遅すぎた。
頭は吹き飛んで地に付した。
「あっさりしたもんだな。いや、初撃が当たるのが一番確率が高いか」
「やったな。単体に絞った魔法としてはクラス7やクラス8にも届くかもしれない」
こうして見事、ドラゴン討伐をあっさりと成し遂げた。
しかし、これを期にある団体との敵対が始まるのだった。