4.勘違いしないでよね
西村を筆頭に僕に素晴らしい提案を授けようして女子達に鬼狩りされて数分後、チャイムが鳴って授業が開始した。男子連中は現在、女子達に成敗されて大人しくなっている。西村に一応声を掛けたが、『ごめん、俺よかれと思って』の一点張りだったため、自然治癒するまで放置することにしている。
僕と愛莉は教科書を開こうとするが、教科書の上にきめ細やかな手が置かれていた。僕はその手に触れないよう教科書を側面から開こうとする。しかし、愛莉の手に込めている力が強いのかなかなか開く気配がない。いや、力をより込めれば開かないこともないがその場合、教科書が破れたりする危険性も充分にあり得る。
「開けないの?」
愛莉が僕に話しかける。頬杖をつき、僕の反応を楽しんでいる。ハイ、確信犯。
「いや、ここは先に手をつけた方が開くべきだろう。」
「えー私、今日は何ページから始めるのか分からない。だから桂馬くんが開けて?」(側面から開けられないから表紙から開けないと駄目だよね?)
「先生は最初に28ページを開けてくださいと言っていたぞ?」
すると観念したのか、愛莉は教科書を28ページ目に開き始める。このターンは僕の勝ちのようだ。
「残念。さりげなく手と手を触れ合わせるチャンスだったのに。」(どこまで女子に興味ないんだよ。)
小声で愛莉は僕をからかい、微笑んだ。でもその微笑みの裏は逆に悔しがっていることだろう。細めた目からは恨めしそうな思念が飛び出し、僕をグサグサと突き刺してくる。正直これだけでボクノゴコロハボドボドダ!
そして僕は知らないかった。これが彼女に火をつけることとなるのを。
まず授業で板書をしている時、右肩から柔らかい感触が伝わってくるのだ。そして耐えられずに戦犯の方を向けば、肩の所にスルリと手を置いてソフトタッチしている愛莉がいる。これにより、甘酸っぱい匂いが包み込み、2人だけの世界を作り上げる。
「駄目だよー。しっかりと先生の言うことに耳を傾けないと。」(布越しだと物足りないでしょ?)
さっきの仕返しのつもりだろう、いや100%仕返しだ。現にソフトタッチするだけでなく、肩をもみもみして集中力を分散しにかかってきている。もっと構ってほしいと僕に促しにかかっているのだ。しかも布越しの感触に慣れてしまうと、
『直接触わられるとどうなってしまうのか?』
とか思ってしまうからなおのこと恐ろしい。注意しようと試みるとサッと手を引いて授業に集中し始めるし。
次に授業で先生の方に耳を傾けていると耳に息が吹きかけられる。当然戦犯は隣にいて、振り向くと右頬を指でツンツンされて強制的に前を向かせられる。本当は振り向いて一言物申したいのにそれが出来ないしもどかしい。吹きかけられた息からはまた別の爽やかな匂いがしてくる。
彼女は蜂蜜レモンの香りを身にまとい、ミントのブレスを吐く怪獣のようだ。
「なんのつもりだ?狙いはなんだ?」
振り抜けないので僕は前を向いたまま、戦犯である愛莉に詰問を開始する。表情は見えないが、絶対に悪い顔をしているのは嫌でも予想できる。
「えー何のことかなー?」(そんなの君を嫌でも私に意識させるために決まってるでしょ。分かっているくせに。)
「とぼけるな。こんなことを休み時間にやらない時点で確信犯だろ?意図的な行動なのは分かっている。」
そのまま無限ループに突入しそうなので、僕は暗に愛莉にやめさせるように目的を提示させる。でないと、授業に支障が生じてしまう。
「じゃあ交換条件。授業で手を引く代わりに今日の放課後に学校を案内して。」(そしてじわじわと追いつけた後に落とす!)
飲んではいけない。これが彼女の狙いであることは嫌でも分かっている。ここは触られたことすら感じない程の集中力で乗り切るしか...。
「首を縦に振らないともっとすごいことをしちゃうかもしれないよ?例えばこうとか。」
愛莉は肩を触っていた手をそのままYシャツの中へと侵入させようとした。こ、コイツはァグレートですよ!
「やめ、やめろ。分かった。分かったからその手をやめろ。なんだか不味いことになりそうで怖いから。」
「何が不味いの?」(肩ガッシリしてんじゃん。うわ、ヤッベ。肉体の部分は最高品質じゃん、コイツ。)
「全部がだ。とにかく放課後に学校の案内だな。忘れるなよ。」
僕の回答に満足した愛莉はそれ以降、手を引っ込めて授業を真面目に受け始めた。ふぃぃ、ようやく集中して授業が受けられる。集中できなかった分は挽回しないと。
「えい♪」(ヤ、ヤバい。コイツの手、野球でジャイロ投げそうじゃんハァハァ。って私は落とす側なんだからしっかりしろ。)
僕が油断する所を狙って愛莉がその左手を僕の右手へと重ねてきた。彼女の手はスベスベでもっちりとしていた。普通の男子だったら、この時点で撃沈するだろう。
「うおっ!」
あまりにも唐突だったため、思わず僕は大声をあげてしまい、先生に注意を受けてしまった。おかげで周りから笑われ、西村にどやされる羽目になってしまった。お前いつの間に回復したんだよ...。
自分でも信じられないくらいに顔に熱が集まる気配がする。だが断じて、これは隣の悪魔に誘惑されたわけでも落とされたわけでもない。授業を真面目に取り組むという自分の信念に背いてしまったという醜態に恥辱を感じたからこうなっただけだ。勘違いするんじゃないぞ。
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