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44.中二病でも一人旅がしたい 爆ぜろリアル編

43話の続きです!

私の名前は早乙女愛莉。『乙女神』、『落と女神』と呼ばれているけれど、私はそれらを近々引退する予定を立てている。数多の男達ではなく、1人の男を落とすために...。


その男の名は東山桂馬。彼は転校したての私のアプローチを悉く躱し、いや相手にすらしない究極無恋系。しかしその正体は2年前に私を卑劣な暴力団から救った『北中の鬼』こと『黄金の黒騎士』様だった。この南海高校での出会いはあの時の二の舞という最悪なものだった。


けれど、紆余曲折あって今は相手をいかに落として降参宣言させるかの勝負まで持ち込んでいる。私は期末テスト直前の、西宮さんと彼との集まりの時の記憶を思い起こす。


◇◇◇


私、西宮さん、そして桂馬くんの3人は期末テスト勉強の息抜きとして屋上へとやって来た。そして桂馬くんから話があると切り出し、次の宣言を口に出した。


「僕は、お前達の恋心を理解し、出来る限りは受け入れたいと思っている。」


衝撃的だった。そう、ほぼほぼ告白に近しい宣言を彼は私達相手に発したのだ。このことは私の隣にいる一姫も同様で、口元を手で隠し、いつもの余裕ある顔が慌てた人のものになっていた。


なんか見ていて面白かった!アハハ!


なんて西宮さん本人の前に言うと何してくるか分からないので黙っておいたが...。


「じゃあもしかしてこのまま...。」


「でも、やはりこの高校生活は将来への足掛かりとして、勉強に打ち込みたいという意志があるのは依然として変わってはいない。」


しかし彼はそのまま言葉を続ける。言うならば、私はぬか喜びをしていたのだ。『さっきまでの期待を返して』と文句を言おうとしたが、彼の真面目な顔に私はその言葉を飲み込んだ。


「今も正直に言って、いろいろと考えたいことがあるんだ。勉強をとっていくのか、恋愛をとっていくのか。それとも両方をとりにいくのか、はたまた西宮家の護衛部隊にそのまま入っていくのか。とにかくいろいろだ。それに決着をつけてからでも遅くはないと僕は思うんだ...。」


彼は、桂馬くんは悩んでいた。


私を救出した後に痛感し、一度は逃げ出してしまったズレに。『黄金の黒騎士』によるヒロイン救出という夢想、子供を憂う親の心情や世間に対する浅い知覚という自身の周囲を取り巻く環境(リアル)。この2端から来るあまりにも隔絶したギャップに対し、今度は立ち向かおうとしている。


私はこの時、どうしていただろうか?自分も『落と女神』という夢想を抱き、それに従って行動して現実を知らされた身だ。桂馬くんは2度も私を夢想ではなく現実の方を選ばせようとしてきたけれど、私が選んだのは夢想だった。


夢想を取って現実とのギャップにまた囚われてしまうかもしれない。だけど、現実ばかりに固執してしまうのも違うとも確信できる。


そもそも夢想を抱かなければ、私は甲状腺機能低下症に振り回されるだけの色褪せた人生を送っているとはっきり分かるから...。


だから私は彼の宣言に対抗する形で...次のように宣言をする。


「桂馬くん。今から君を『最後の標的(ラスト・ターゲット)』として...落としてみせる。桂馬くんがどんな思いを抱いているのかは痛いくらいに分かったわ。だからこそ、私はどんな手段を使ってでも、体を張ってでも、夢想を選び続ける大切さを示して、桂馬くんを現実という無数の分かれ道から恋愛への道へと進ませてみせる!!!」


◇◇◇


桂馬はんは悩んどった。ほんで隣におる転校生はんもうちと同様にかつてはおんなじようなことで...認めとうはあらへんけど。


うちは強大な力を持つお母様を夢想に抱いては足掻いとったな。それも思い出したら懐かしいこっちゃ。そやけど、生まれた自分の力はお母様の血ぃ引いてるとは思えへん程に年相応のものやった。


辛かったで。お母様を知ってる人たちから『失敗』、『劣化』ていかに酷評されて不幸な人物扱いされたことか...。ほんでもうちは抗うて剣を振るい続けていったけど、遂には夢想に追いつくことも叶わへんかった。


そないな時、桂馬はんが颯爽と現れてはサラリとうちに夢想と現実との差に対抗する術を教えてくれたやんな。


カッコよかったで、あの時の姿は。うちは絶対に桂馬はんはあの時の方がええ思てる。だって、あんさんはあの時一番キラキラしてましたさかい。


そやさかい桂馬はん。あんさんがそんなんで悩む姿は見ていられしまへん。もしそれ長う引きずり続けるのなら、うちは早うあんさんの現実方面での憂いを断ってあげまひょ。そのためには、次期当主としてうちの家の財力も惜しましまへん。


そやさかい、先ほど宣言した転校生はんに対抗する形で、桂馬はんにはこう宣言する。


「家の家訓に乗っ取って、桂馬はんは絶対にうちの婿にすんで。あんさんが夢想と現実の狭間で振り回されてることはよーく分かった。そやさかい、うちはどんなんがあっても、力ずくであっても、『黄金の黒騎士』っちゅう夢想の道を選ばすように一生かけて支えることここで誓いまひょ!!!」


◇◇◇


そう、これは戦い。恋に燃える私や西宮さん、恋よりもまだ勉強に持っていかれる桂馬くんとの一騎打ち。


最初の目標は、いかに桂馬くんの優先度合いを勉強から恋へとシフトチェンジさせるか。それをこの夏休みで新たに研究し尽くす!いままで培ってきた落とし神としての経験があれば、不可能ではない筈だから!!!


私はそう思い、西村に桂馬くんの足止めをお願いして昇降口で待機したのだが、すぐに西村から電話が来たので応答する。


「ええ!?桂馬くんが中二病を再発症して『黄金の黒騎士』に戻っているですって!?しかももの凄い勢いで学校を出ようとしているですって!?」


私はそれを聞き、あっけにとられた。

お読みいただいてありがとうございます。


ブクマやこの下の星でポイントをつけて応援していただけるととても嬉しいです。


どうぞ、よろしくお願いします!

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