42.5-9.お疲れ様パーティー終了!
42.5-8の続きです!
ふぃ~、歌い切った。カラオケを体験した僕は今、一曲歌い終わった時の達成感が心の中で芽吹いているのを知覚している。
ストレスの発散に、周りを気にすることなくこうやってため込んだものを口に出していく。その素晴らしさを知った僕は今、カラオケという娯楽の楽しさについて勉強することが出来た。
これならば、もう何時間でも歌えるんじゃないか...。
そう思い、観客席の方を見ると、全員もれなく気絶をしていた。
「な、なんじゃこりゃぁああああ!?」
西村は依然、上を向いたまま座って気絶。陽葵はなにかのダイニングメッセージを...。
『だからよぉ、止ま』
なに書いているんだよ、陽葵。『希望の花』という名の白い花でも咲かせるつもりか!
愛莉と一姫は...。た、立ったまま動かない。これは、直立不動の状態で気絶しているのか!というか、2人とも拳を天に向けて上げるな!ここは世紀末なんかじゃない!!
取りあえず、僕は適当に西村、陽葵、一姫、愛莉の順に布団に寝かせることにした。後、あのストップウォッチを回収しておくか...。
◇◇◇
「う、う~ん。」
知らない天井だ。隣には西宮さんが横になっているわね。どうやら私達、桂馬くんのカラオケの時から気を失っていたみたい。
「気がついたか?」
声のした方に目を向けるとそこには襖に背を預けている桂馬くんの姿があった。彼の姿に気づいた私は上体を起こして気絶後について問いただそうとしたが、不意にタオルのようなものがポトリと敷布団に落ち、そこから湿っていく。よく見たら、西宮さんの額にも同じタオルが乗っかっていた。
「...看病をしてくれたの?」
「ああ。西村と陽葵は別の部屋で寝かせて早乙女達と同様に、濡れたタオルを乗せておいた。」
彼はどうやら看病をしてくれたようだ。本来なら、逆に私が布団で寝ている桂馬君に色々なことをするつもりだったんだが...これはこれで...。
「それと今の時刻は深夜の3時だ。早乙女がこうして起き上がれたのなら、他の皆も直に目覚める筈だ。だから僕もそろそろ部屋に戻って寝ようと思っているんだが...。」
時刻?そうだ。肝心のゲームは!ゲームの行方はどうなったの?私は桂馬くんにそのことについて質問した。
「ゲ、ゲームはどうなったの?陽葵さんはそのことについてなんて言っていたの?」
「お、落ちつけ。まず肝心の修羅場時間?についてだが...。その前に...姫。目覚めているのはお見通しだ。さっきからズリズリと微妙に摩擦音が聞こえるぞ。」
「ちぇっ。やっぱし狐はごまかしても桂馬はんはごまかせへんかったどすなぁ。」
え?いつから起きて?え?全く気付かなかったんですけど...。
「西宮家にとって、寝たふりは不意討ちの基本どすえ。まぁ、あんさんはそないな基本の技すら見切れへんかったけど。」
そしてもう煽る必要なくない?もうゲームは終了しているんだよ?やっぱり私、このお嬢様苦手よ!
「話を戻すぞ。時刻も時刻だ。眠いし早く終わらせるぞ。」
すると彼は懐からあのストップウォッチを取り出した。そこには、『3:00:01』という数字が記されていた。
「ねぇ、桂馬くん。私の記憶が正しければ、その数値は最低でも『12:00:00』以上にならないと...。」
「まさかとは思うけど、もしかしてうち達が気絶してるあいさにリセットしたのでっしゃろか?」
「ご名答。流石にさ。『西宮家内にいる女子全員』をルール1の対象にするのは、僕に不得手だ。不平等とでも言っておこうか...。少なくともそんなルールで行われた試合は無効になるのでリセットしたというわけ。」
な、何それ!?こんなのあんまりだよ!?今日の私の努力が一瞬にして泡沫のように消え去るなんて...。
「「ズル!横暴!!意地悪!!!」」
「...なんでこういう時だけは息ぴったりなんだよ。まぁ、話を続けるぞ。」
ふんだ。なんか馬鹿らしくなってきた。もう今日のことなんか知らない...。
「本当はリセットしたままパーティーを!?もう姫は気づいたか...。呑み込みが早いことで。」
不貞寝を決め込もうとした私の側で、西宮さんが桂馬くんの右腕に抱き着いて布団へと引きずり込んだ。ちょっ、それは流石に見過ごせないよ!?桂馬くんも桂馬くんでどうして昨日のように嫌がらないの!?
「察しが悪おすなぁ!?なんで桂馬はんがストップウォッチをわざわざ『3:00:01』の状態にしたのかよう考えたらええのに。ま、鈍いなら鈍いで結構やさかい。このまま桂馬はんに罰ゲームをうち一人で執行するけどなぁ。」
もう情報が多いし、話が早く進んじゃっているから混乱しちゃっているわよ。
でも待って...。ストップウォッチが『0:00:00』にリセットしたままではなく、『3:00:01』まで進んでいる。それは、リセットした後で再び桂馬くんの手でストップウォッチのボタンを進ませたということだよね...。
ねぇ、桂馬くん。つまりは、そういうことだよね?キスまではいかなくとも、抱きつくところまでは...してもいいということだよね?もしこれが西宮さんのお付きの命だからとか、みたいなオチだったら今度こそ本当に不貞寝するわよ?
私はそう思い、ベットの中にいる桂馬くんへと抱きつき、彼の左手へと恋人繋ぎをした。ぴくっと一瞬なったけれど、彼は拒絶なんかせずむしろ握り返してくる。そんな彼の左手は先ほどとは違い、なんだか温かいものを帯びている。
「全く。僕に好意を抱く者というのはどうしてこう責めに特化したタイプしかいないのか?いや、責めに特化しすぎて2人ともキスマークまで残すしよ...。人にバレたらその、大変なことになるんだぞ...。いろいろと...。」
そんな桂馬くんの頬には微かに照れ特有のピンク色の赤面が浮かび、アタフタ顔へと変貌していた。
な、何その顔!?ズルいにも限度があるよ!!?
「えっへへへ~♪」
溶かされた人みたいに私はさらに密着度を上げる。嗚呼、もうこのまま寝ちゃおう...。こんなにも心地良い抱き枕が他にもあるだろか?それに...
これを第三者が見れば、誤解してあわよくば責任をなすりつけられるかもしれないし、ね?
◇◇◇
2人とも限界まで僕に抱きついて...。起こしに来る人に不祥事とかなんとか言われて誤解するかもしれない...。
でも『0:00:00』のままにすると、今度は2人とも暴走し、最悪は光の消えた瞳で朝まで愛を囁き合うなんてことも起こりかねない。だからこそ、日付が変わる瞬間にストップウォッチのスイッチを入れ、僕の方で譲歩できる範囲まで罰ゲームを設定したんだ。
いろいろと不純だが、一応ゲームの中では作戦を考えたり実行し続ける等の努力を彼女達はしてきている。それをドブにさらしていくのは流石に傷つくだろう...。
テスト勉強をしっかりとやって来たのに台風や吹雪でテストの日が延長したとか言われ、やったーという気持ちではなく、何故か白ける気持ちになる。あれと同じだ。
一姫の方は右腕で肩を抱き、愛莉の方は左手で絡め返す。それをするたびに密着度を上げにかかり、遂には足の方まで絡めにかかった...。
「...これで完全に逃げられなくなったな。」
「そうだね♪もう朝まではこのままでいくから...、変な気を起こさないように頑張ってね?」
こんな時にスイセンの花なんか咲かすなよ...。調子がよくなった途端にすぐ愛莉はこれなんだから...。
一姫の方は...え?なんで
縄であなたごと僕を縛っているのかな?これじゃあ物理的にもっと逃げられなくなるんだけど...。
「そらそうと桂馬はん。1つ大事なこと忘れてまへんか?」
なんで一姫はいきなり機嫌悪くなっているの?ほら、愛莉も困惑したような表情になっているんだけど...。
「わ、忘れている事って...。僕他にも何かしていましたっけ?」
「パーティーの始まる前。あの時、うちは言うた筈やで?陽葵とのやり取りについて話があるって?下手したらうちらよりも先にキスしそうになって...。あそこまで作戦の中には入ってへんかった筈なんやけど...。」
それって控室の時か?あれは動けない所を不意討ちされたからであって、僕に100%非のない事態で...。
「ウェへへへ...。忘れていたよ、桂馬くーん♪あれは罰ゲーム関連とはまた違うよね?」
ギュウウウッ!
いいい痛い痛い痛い。愛莉までいきなり締め技みたいに僕の左腕と左足をガッツリとホールドし始めたんですけど!?
「あ、あれは完全に僕に非なんてないぞ!それだけは断じて」
「問答無用♪」
「そやさかい桂馬はん。うちだけでなく、うちの部下まで毒牙にかけた責任は取らなあきまへんよ?早乙女はん、左側の方はよろしゅう。」
「任せて♪」
ちょっ...。さっきまでいい雰囲気だったのにここで壊していくアホがいるか!!!え?ちょっとなんで上着をめくっているの!?なんでいやらしい手つきで僕の足の太ももなんか撫でまわしているの!?ちょっ、まっ...。
「いける...。唇までは奪わへん。予定しとった罰ゲームを執行するだけやさかい。」
「どこまでなら許されるんだろう?ねぇ、試してみたいと思わない?け・い・ま・く・ん...。後、気絶させた分はここで返すから...。」
「今日の朝まで桂馬はんはそのまま天井を向いとってね?最初は痛いかもしれへんけど、だんだんと身をゆやなるようになっていくさかい。」
「えへへ♪忘れられない愛情の証、隠しきれないくらいにつけちゃうから♪」
分かった。僕が悪かった。悪かったら、せめて服で隠せる範囲の所まで...いやあああああ!!!
この5時間後、桂馬の体には桜吹雪の舞い散った跡がくっきりと残され、それはそれはさめざめと布団にくるまっている桂馬の姿が確認され、お疲れ様パーティーはこうして終了したのであった。
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これにて閑話終了です!次話から2章に入ります!




