41.絆鎖の救志師
40話の続きです!
西宮家のバスルームで一姫が襲撃され、都で大暴れした僕と一姫。謎の襲撃者(名前は後に納陀と判明)によりバスルームが破壊されたと聞き、僕はとっってもガクッと落ち込んでしまった。
その理由はただ1つ。僕がまだ風呂に入っていないからである。今日一日は緊張で冷や汗を掻き、先ほどの戦闘でその上に一汗掻いた。
この上なく風呂を欲する時に風呂に入れないと言われてブチ切れない人がいるだろうか?いや、絶対に存在しない。絶対になァァァ!!!
「私の風呂を崩壊させた責任。貴様はどう落とし前をつけてくれる?事と場合によっては」
「待って、桂馬はん。怒りのままに暴力を振るうたら、敵から何の情報も引き出せへんで4んでしまう!」
「ですが姫!この男は貴方の湯上り時を狙った凶悪犯ですよ!?それを平気な顔をして」
僕の言葉はそこで止まった。何故なら、一姫の顔が初対面時の澪五姫殿の般若顔だったからだ。今すぐに鉈でも引きずり、上から振りかぶろうとしそうな雰囲気が流れていた。
「いける。物理的な尋問よりももっと効率的な方法があるんどすえ、桂馬はん。...陽葵はん。後のことはよろしゅうおたのもうします。」
「承知いたしました。」
うぉおおお!?だから何処から出現するんだよ!?あんたの体の中にステルス迷彩機能でも搭載しているのか?スルーされて『アハッ♪』と笑う人とか、あんぱんあんぱんと連呼する密偵みたいに。
「一応聞いてもよろしいでしょうか?」
「何どす?」
「あの方はこれからどうされるんでしょうか?」
「えーとな。あの痴漢予備軍はこれから命を絶ちたい思うくらいの痛みと恐怖を...。」
「OK、ストップだ姫。これ以上発言したら、どこからか警告を受けてしまう...。」
あの襲撃犯に同情の念を抱いてしまいそうになるから、それ以上は言わないでくれ。僕はそんな話題から切り替えるために今の気持ちを伝える。
「私はこれからどこで体を洗えばいいんでしょう?西宮家の風呂が使えないとなると、最悪、月曜日の夜までこのままで...。」
「それについては心配無用どす。離れにある風呂を使うたらええんどすさかい。」
おお、そうか。じゃあ今すぐそこで体を洗って風呂に浸かろう。水は大量に飲みたいし、もう体中ベットべトだよ...。
◇◇◇
「で、なんでこうなるんだよぉぉぉ!?」
「あまり暴れへんどぉくれやすまし。ほれ、しっかり背中を向けな手元がすべってまうさかい。」
離れにある風呂。そこには本来あるはずのアレ、いわゆる男と女を仕切るための壁がね...
存在していなかったのだよ。だからおわかりいただけるだろうか?
「だからって、なんで混浴なんだよ!?入口の所では、『男湯』、『女湯』と暖簾があって分かれていたよな?」
「ほな、この状態で別々に入ってもええの?鎖をなんぼ長しても、入り口の所で引っかかって風呂まで辿り着けしまへんよ?」
「一人ずつ入れば問題は解決した筈ですよね?」
「乙女の体を殿方は汚れたままにしてええの?そらさすがに甲斐性なしどすえ。」
そう、僕と一姫は同じ風呂に入っているのだ。混浴と言うがな。
そして今はあの火傷の痕がくっきりと残る背中(33話参照)を一姫に洗われている。そして彼女の洗い方が丁寧でついつい背中を委ねてしまう。
「うちはこの傷が妬ましい思う。これ、あの狐を庇うた時にできた傷やろう?」
やっぱり知っていたか...。まぁ、愛莉についての情報なら完璧に把握している西村がここにいる以上、僕の背中のことは既に周知の事実となっていてもおかしくはないだろう。
「...何というか、こればかりは忘れたくても忘れられない傷というやつだな。皮肉にも、この傷があったからこそ、恥ずかしい黒歴史の生産工場を稼働停止することが出来たけれど。」
「残念ながら、うちはこの傷にええ気は起こらしまへん。あんさんが2年前、いいえ1年と10ヶ月前にこの傷を負うて病院に運び込まれた時はショックで気ぃ失いかけたし、それのせいでうちとの初めての出会いを忘れてまうし。」
「あはは...その節は申し訳」
「やっぱしいっぺん、あの狐を掻っ捌いとく必要がありそうやな...。でなかったらうちの気は収まらしまへんさかい。」
「おやめになって下さい。思い出したからこそ、あなたのことを姫と呼んでいるじゃないですか!」
アカン。一姫はこういうことを冗談抜きでやってのけるから怖いんだよ。背中を洗う手も段々荒っぽくなり、擦りつける手つきになったから摩擦でヒリヒリして痛くなり始めている。それほどまでに彼女は僕の背中の傷が嫌らしい。
「そう言うて、またうちのこと忘れて離れていかへん?もう大怪我でもしてうちを悲するような真似もしいひんと保証できる?うちは嫌や。うちの大事なものが他の人の手によって取られたり傷つけられたりして、手元から無うなってまうのがもう耐えられへん。耐えられへんのどすえぇぇぇぇ~!!!」
風呂場に響き渡る慟哭。決して少女の口から出してはいけない声を出して一姫は泣いていた。...これが一姫の心の本性。誰にも見せないようにするために鉄の華へと包み隠した儚き本懐。彼女はそれを前面に出して僕へと訴えかけてきたのだ。
ここまで心を曝け出すにはそれ相応の勇気と覚悟を要する。それを無下にする奴はまさに道から外れし行い...。
だからこそ、僕は彼女を助けた時にかけた言葉を再び使うことにした。
「過度な力を持つ者は、周りから異物扱いされて追いやられる運命に囚われる。私は自分自身を守るだけの普通の力を持つあなたが羨ましい。生まれや血筋で全てを決めつけようとするやつらが憎々しい。だからこそ、私はここで誓いましょう。そんな普通の力だけでは守れきれない者達を私が救っていくことを。個に見向きもしない愚か者を退治していくことを。あなたはただ、私が駆けつけてくるまで耐え忍んでいるだけでいいんですよ、姫様...。私はあなたが悲しまなくなるまで離れるつもりはない!!」
これは、一姫を救い出した時に彼女にかけたもの。澪五姫殿と比べられて心が諦観する程に焦燥しきっていた彼女を救い出した暁光の光である。
「ああ、ああ。ずっこい。ほんまにずっこいであんさんは。うちが欲しいものを、なんで張り裂けそな時だけに分け与えるんどすか!うう、うう、うぅぅぅ!!!」
一姫が差し込む光に縋るようにして僕の体を抱きしめる。本音を、志の全てを曝け出し切るとともに、僕達は確かに絆という鎖で繋がった気がした。
その証拠に、先ほどまで僕達を繋ぎとめていた手錠にピシリとひびが入り、僕が一姫からの抱擁を受け止めるとともに手錠は砕け散ったのだから...。
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