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2.黒いなさすが女神黒い

僕は西村に2人で例の転校生について情報を詳しく教えてもらっていた。


「そもそもなんでこの学校に転校するんだ?正直に言って、ここは乙浜とあまり違いはないぞ?」


「情報によれば女神の祖父が介護センターへと預けられ、そしてそれを機にこの町へと移り住んだとある。まあ、一番近い学校が乙浜から南海へと変わったからだと予測できよう。」


「お前はどこまで知っているんだよ?インターネットにしては詳しすぎるだろう。ストーカーでもしてんのか?」


「ちげーし。未練なんてないし。そもそもお前がインタ-ネットの情報網の規模が分かっていないだけだっしー。」


分かったからヘドバンと声色を高くするのをやめてくれ。果汁ではない代わりに雨水が飛び散るから。


ピチャッ!


そんな僕の思いも親友に届かず、飛び散った雨水が僕の机を濡らしていく。おい、ノートが濡れて駄目になるだろう。親友なら、僕が嫌いなことくらい分かっているはずだと思うけど。


「西村くぅぅぅぅぅぅぅんッ...」


「すんません。調子に乗ってマジすんません。」


西村は即座に申し訳ない顔をしての謝罪とともに、ハンカチで僕の机の上を拭いていった。確かに勉強については意気投合するし、これでも1年の付き合いだ。でも、去年にかなりの回数で面倒ごとに巻き込まれているんだ。その原因も大体は西村である。


チャイムが鳴り、西村が僕の机を拭き終わると人垣が崩れる音が聞こえる。


「席につけ、男子ども。」


担任の先生が僕以外の男子(西村も含む)に着席を促す。それだけでお祭り騒ぎは消え、今度は担任の先生の方へと耳を傾き始める。よほど、転校生のことが気になるだろう。女子はそんな男子達を見て呆れているけれど。


「急な話かもしれないが、転校生が来ることになった。しかもこのクラスにだ。」


「「「我が世の春が来たぁぁぁ!」」」


随分遅い春だ。もう4月は過ぎているのに。後、うるさい。


「静かに。では転校生、入ってきて。」


担任の先生の言葉とともに扉が開くと、そこから後光みたいに眩しい女子高校生が入室する。流れるようにたなびく黒髪にリスのような愛らしい表情。容姿もとびぬけていて淡麗な様を見ただけで充分に見せつけられる。これに文武両道なんてつくんだ。確かに女神と通称をつけられても不思議ではないだろう。


「乙浜高校から転校してきました。早乙女愛莉(さおとめあいり)です。至らない点もありますがその時はどうぞよろしくお願いいたします。」


小鳥のような可愛らしい声で自己紹介を行い、ヒマワリのような笑顔を向ける。たったそれだけでクラスは歓喜に包まれる。いや、クラスだけでなく隣のクラスまでもがそうなっていた。


(チョロいね、男子達は。...一人を除いて。)


一瞬、愛莉がスイセンのような笑顔に切り替わる。男子や女子はヒマワリに気を取られて気づいていないが、僕はハッキリとその笑顔を感じ取った。そしてさっきまでなかった警戒レベルを僕は引き上げていく。


彼女は女神様のように輝いているが、一方で心の奥に何かを隠している。白きその容姿も完璧なスペックも秘めた彼女の中に黒き何かを秘めている、と。


「ああ、眩しい。眩しいよ愛ちゃん。」


西村は駄目だ。完全にとろけてキモイ顔になってやがる。やっぱりお前、ストーカーしているだろ...。


「そんなわけねぇじゃん。」


西村は熱血顔でツッコミを入れてくる。いや、僕はまだなにも言っていない。そして声量を下げてくれ。


愛莉の自己紹介が終わると、男子による質問タイムが始まる。転校理由、好きなタイプ、嫌いなタイプなど私欲がほとんどな質問もそつなく愛莉は答えていく。回答の内容もその振る舞いも完璧で、それが好感度へと変換されていく様子が一目で分かる。隣のクラスからも参戦しているのは目をつぶるけれど。


(ウフフフフ。)


男子の好感度を順調に勝ち取っているからか、愛莉の笑顔がどんどん良くなっていく。皆はヒマワリを見て女神様と戯れているが、僕はヒマワリの陰に隠れているスイセンに気づいているからか反比例的に警戒レベルを上げている。


「質問したいのも山々かもしれないが、授業時間を変えるわけにもいかないからな。自己紹介時間はここまでだ。さて、愛莉さんの席だが」


「あの席にして下さい。」


担任の先生はキョロキョロと教室を見回すが、間髪入れずに女神様が座りたい席を指名した。男子達の羨望の眼差しが突き刺さり、後ろの席にいる西村はニコニコしている。


空席はこの教室内で3つ。廊下側、中央、そして窓側。彼女はそれらのうち、窓側を指さしていた。僕の左側には席がなく、変わりに窓がついている。そして隣は空席で、窓の反対側には無人の机が置いてある。


もうお気づきかもしれない。窓側の空席の場所は、僕こと東山桂馬の隣である。


「よろしくね。」(君が一番の難関かな?でもすぐに落としてあげるからね。)


僕の隣にある席から声がかかる。その声は幾万の男子を聞くだけで虜にするが、僕にはなぜか妖しい囁き声として耳に響いてしまう。


だが残念。もう一度言うかもしれないが、僕は高校時代を恋愛で過ごすつもりはない。あくまで高校は勉強をする場として僕は通しているのだ。もし僕が隣の女神様に落とされた場合、確実に高校時代が恋愛で塗りつぶされてしまうだろう。あの親の遺伝子をついでいるのだ。一度落とされたら二度と戻ってこれない危険性だってある。だからこそ、僕は誓う。


『女子に落とされることも恋愛感情を抱くこともなくこの南海高校を卒業するぞ!JOJOォ!』


と。

お読みいただいてありがとうございます。


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